(仮称)カンピオーネ!~一番最初の神殺し~
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第1話
大陸が蠢いている――――否。正確には、老山龍の如く山ほどある大きさの獣が二匹と、何処ぞの鎮西の主こと乙事主サイズの獣が複数匹、そして某突撃隊長ことドスファンゴサイズの獣が無数に犇めいている故に、大陸が蠢いている様に見えているだけだ。
デヴォン島。カナダのクイーンエリザベス諸島に存在する世界最大の無人島である。
そこに向かい合い、互いを威嚇する様に低い唸り声を掛け合っている魔獣の群れが二つと、二つの群れに神威や敵意をぶつける複数人の人影。魔緒『まつろわぬトゥルッフ・トゥルウィス』率いる七匹の子供と、猪の長『まつろわぬエスキスエルウィン』率いる無数の群れ。
どちらもアーサー王物語に出てくる猪型の魔物である。
それを遥か上空より見つめる一対の金の瞳。その瞳の持ち主――名はズェピア・グライガンツ・フォン・スカーレット。ズェピアがデヴォン島に訪れ、上空から無数の猪を見つめている理由はただ一つ。依頼を受けたから猪を討伐に来たのである。
ズェピアの眼下に広がるは、大小様々な猪の大群。『まつろわぬトゥルッフ・トゥルウィス』と『まつろわぬエスキスエルウィン』の大きさは先記の通り山並み。両猪とも、全高1000mは軽く越している。
『まつろわぬトゥルッフ・トゥルウィス』側の子猪の大きさは、『まつろわぬトゥルッフ・トゥルウィス』と比べればそれほど大きくはないように感じられる。七匹全て大体200m前後くらいである。
『まつろわぬエスキスエルウィン』側の猪の大きさは、最大で50m程度、最小で8m程である。
何故イギリスはブリテンの伝承に残る魔獣がカナダはデヴォン島に居るのか。その理由は簡単。
日本人の《正史編纂委員会》《撃剣会》、ローマの《雌狼》《蒼穹の鷲》、トリノの《老貴婦人》、フィレンツェの《百合の都》、パルマの《楯》、ミラノの《赤銅黒十字》《青銅黒十字》、ロンドンの《賢人議会》、コーンウォールの《王立工廠》の十大裏組織が半月もの時間を掛け、死に物狂いで相当に広くて人間の住んでいないデヴォン島に押し込めたのである。
その間の犠牲者は死者こそ居ないものの、重軽傷者や精神疲労で倒れた者の数は万を軽く突破していた。それもその筈。道中で《王立工廠》と《賢人議会》、《赤銅黒十字》と《青銅黒十字》の四組織が何度も小競り合いを起こし、その度に周りが巻き込まれつつ押さえ込むを繰り返しつつ神獣の大群の相手をし、道中各国の首脳陣に交渉をして許可無しの領土領海に入る事が出来るようにしと、割と魔獣より味方の方が敵に見える状態で約5800kmの距離をほぼ不眠不休で半月掛けて移動したのだ。寧ろ全員がぶっ倒れた状態にならずに済んで良かった状態である。
では何故《王立工廠》が居ながら、当代に於ける五番目のカンピオーネ、アレクサンドル・ガスコインが居らず、代わりにズェピアが居るのか?
別にアレクサンドルとて最初から居なかった訳では無い。端的に言えば挑んで速攻で負けて吹っ飛ばされたのである。
雷は二頭の巨大猪には大した効果を得られず、迷宮に押し込めても猪が大き過ぎる所為で直ぐにぶち破られ、黒球は猪よりも小さい所為で大した足止めも出来ずに弾け飛び、数の暴力によって直ぐに顔を見られ、復讐フィールドを出現させる一瞬の隙を突かれて突進突き上げで遥か彼方へとブッ飛ばされた。
それを間近で見ていたのが先に挙げた十の魔導組織。其処から彼等彼女等の行動は早かった。
五人目が五分と持たずに一蹴された事から六人目と七人目では敵わぬと踏み、かと言って問題児過ぎる第二世代の三人に頼むと被害が大きくなる。それ以前に二人目は魔獣には興が向かないと断られ、三人目はまず依頼を出す事自体が困難。四人目に至っては所在から不明である。それ故に、最古参の一人目に白羽の矢が立ち、手が空いている者全員でズェピアへの依頼番号を調べ、特定し次第依頼をした次第である。
その依頼を受け、それを了承してズェピアは此処に居る。理由は幾つかあるが、大半を占めるのが『暇だったから』である。
『……ふむ。取り敢えず周囲の島に被害が行かなければ良いらしいが……カンピオーネに依頼しておいてその条件は無理があるだろうに。それも相手が相手だし、致し方なし』
何が致し方なしなのかは置いておくが、この時点でデヴォン島の半壊は免れぬ事象として確定してしまったのである。
『――で、猪共をゴキブリと勘違いして反射的に星降らせてしまった訳だが……』
そう言って空を見上げるズェピア。視線の先に映るのは、彼方より迫り来る星。数は百。その一発一発に込められている魔力量は、一流の呪術師百万人分の魔力を全員が死ぬ迄搾り取って漸く一発分と言った所。他のカンピオーネが同じモノを作ろうとすれば、恐らく五発も作れば呪力がスッカラカンになるだろう。
『……流石にコレは地に落ちれば地球が壊れるなぁ……流石にやり過ぎか……』
言うや否や、虚空に手を伸ばすズェピア。そして魔力、呪力、気の三つを練り上げて言霊を紡ぐ。
『我が武力。天上天下に於いて無双。如何なる生命、如何なる事象。我が無慈悲なる一撃を耐える事叶わず。――――――軍神五兵』
そして言霊を紡ぎ終えたズェピアの右手に、2m程の大きさの方天画戟の様な得物が握られていた。
ズェピアはソレを慣れた手つきで一頻り振り回し、砲のような形状へと分解・再構築していく。
『――――――必中無弓』
そして、砲のような形状へと再構築された方天画戟を空へと向け、某宇宙戦艦の波動砲じみた青白いゴン太のビームを発射。そしてそのビームが地球に向かって堕ちゆく流星を飲み込んだ。
暫くしてビームを発射し終わり、その余波が収まると、空にあった百の流星は一つ余さず欠片も残さず消え失せていた。
『これで良し。後は猪共の鏖殺か。……数も多い事だし、一掃するか』
そう言うとズェピアは方天画戟を虚空へと消し、呪力を練り上げ言霊を紡ぐ。
『―――ケララー・ケマドー・ヴァタヴォー・ハマイム・ベキルボー・ヴェハシェメン・ベアツモタヴ
されば6足6節6羽の眷属、海の砂より多く天の星すら暴食する悪なる虫ども。汝が王たる我が呼びかけに応じ此処に集え。そして全ての血と虐の許に、神の名までも我が思いのままとならん』
このタイミングで自身らの体内に呪力の塊が生み出されている事に気が付いた猪達。
『―――喰らい、貪り、埋め尽くせ』
争いを止め、呪力を送り込んだ主を探す猪達。そして、猪達が呪力を送り込んだ主――ズェピアを発見した時には、時既に時間切れ。
『―――来たれゴグマゴォオグッ!』
猪達が最期に見たのは、金の髪を靡かせる魔王でも、雷風荒れ狂う空でもなく――
――自身の体内より、肉を食い破って溢れ出る無数の蝗の大群であった。
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