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フリージングFINALアンリミテッド

作者:gomachan
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UNLIMITED02――虚空の狭間にて――

2065年・日本・???】



「はっきり言って、この人邪魔。アオイ博士」

いきなり存在否定の言葉を発した一人の女性がそう言った。
夢か幻かのハザマにて、意識が覚醒したばかりの獅子王凱の聴覚情報に飛び込んできた。
ポニーテールにて長い黒髪を束ねている彼女の視線が痛い。確か、イ=スナとか呼ばれてたな。姓からして韓国の人かな?

「今更になって、「GGGが帰ってきた」なんて言えるわけない……が」

「60年前に地球圏を追放した組織が、実は生きていました。GGGを廃止した今の時代に……です」


二人の人物が何やら言い合っている。たぶん俺の事だろうか。―GGGが帰ってきた―ことに都合が悪い言い方だ。
視界が徐々にはっきりと見えてきた。焦点でハッキリと捉える。そこには薄暗い照明天井が広がっており、まるで囚人施設のように見えるのだった。
本当に地球に帰って来られたのだろうか?

「……ぐっ!これは」

電流が走るような痛みに突然仰け反り、凱はわが身を驚いた様子で振り返る。
手足に繋がれた合金製のチェーン。かろうじて上半身を動かせるものの、今の凱の自由は無骨な拘束具によって奪われていたのだ。
置かれた状況に理解を求め、凱の思考は1つの事に集中する

「ここはどこだ!?」

鉄格子の向こう側に立っている両者の女性と壮年の人物に問いかける。半ば凱は取り乱したように、固唾をのんで鉄格子の向こう側を見据える。
太陽の届かぬ、鉄に囲まれた世界。敷かれているのは簡易寝具のベッドのみ。通路灯のわずかな明かりだけが、この場にいる人間を照らすだけだった。
いつの間にか、服装は病棟患者用の簡易白衣に着替えられていた。ここに担ぎこまれた際、誰かの手によって養生されたのだろうか。
重圧を含んだ口調で、壮年の男性が口を開く。

「君を擁護するための特別な施設……とでも言っておこう。獅子王凱君」

「……俺を……知っている?あんたは一体誰だ?」

「私はアオイ=源吾。隣にいる彼女は秘書のイ=スナ。そして……」

ジャラリと、源吾と名乗った人物は懐から何かを取り出す。

「……それは!」

アオイ博士が見せたのはひし形の物質だった。緑を基本とした特殊な色合いは、凱の興味を大いに引いた。

「正式名称―Sprit・Transfer・Infinity・Generator・Material・Acieration。君にわかりやすく言えば、この時代のGストーンの代用品(リペアキット)ともいうべき物質だ」

「Gストーンの……変わりだって」

S・T・I・G・M・A――異世界物質による連結促進装置。その英単語の頭文字をそれぞれつづって……

「せい……こ……ん?」

かすかに噤んだ凱に、アオイ博士は小さくうなずいた。まるでご名答と言わんばかりに。

「それよりも……俺を縛り付けるこの鎖は一体何なんですか?」

子供のように凱はおいすがる仕草で目の前の人物に問う。アオイ博士は険しい表情で答える。
どうしてこんな無骨なものを縛り付けられているのか理解できない。あえて理解できることと言えば、危険物と同じ扱いをされている事実だけということだった。

「君にこんなことをしてすまないと思っている。こうでもしないと接触する許可が下りないのだから」

「どうして……」

「いろいろ聞きたい顔をしているが、まずは順序を追って説明しよう。君が……君の仲間たちが置かれている現状についても含めてね」

仲間の安否について聞いたとき、ベッドから飛び跳ねる勢いで上半身を起こそうとした。

「私たちが木星付近で獅子王君らGGGを発見した時、クルー全員冷凍保存されていたよ。おそらく、不測の事態に際して延命するための処置だったと思う」
心身ともに消耗しきった凱にとって、それはあまりにも衝撃なものだった。

「今君たちの仲間は解凍作業されているはずだ。ただ、意識を取り戻すにはしばらくの時間を有するかもしれない」

安心していいのか、疑っていいのか、どちらかわからない。ただ、今の凱にできるのは、アオイ博士の言葉を信じることだけだった。

「君がどうしたらいいのか分からないように、我々もまた君の処遇……いや、君たちの存在をどう認識したらいいのか分からないのだ」

「お……俺たちの……存在を?」

たどたどしく凱は聞き返し、アオイ博士は小さくコクリとうなずいた。
そしてアオイ博士から直接語られる経緯。おおよそのことを聞いているうちに、いくつか理解したことがある。
原種大戦終結より、凱のいた時代より60年が経過している――
そしてまた、機界文明に替わる新たな天敵が活動を開始したことを――

――異次元体 N・O・V・A――

自走式爆弾の二つ名をもつノヴァ。ゾンダーをZの使者と表現するなら、ノヴァはNの訪問者となる。この異次元体の発する特殊な素粒子が判明したことで、かつてのEIナンバーの性質「素粒子ZO」を乗っ取って「N1」と命名し、出現した順に異次元体の認定ナンバーが呼称されるようになった。
ノヴァの生態調査を進めていくにつれて、いくつかの結果が修得できた。驚くべきは、性質のほかにその特性も含まれていた。
コアを有していたゾンダーと同じように、ノヴァもまた活動源となるコアを有している事実が判明した。
ただ、アオイ博士はそのことに一つの危惧をいだいているらしい。

原種大戦をリアルタイムで生きていた幼少の頃のアオイ博士の記憶には、ある台詞が鮮明に蘇る。

――それを壊しちゃ……ダメェェェ――

原種大戦当時、民間協力者の「天海護」の力を借りてゾンダーを元に戻すことができる現象「浄解」によって、ゾンダーの正体は人間という事実が明かされた。もっとも、護の浄解がなければ、かつてガオガイガー搭乗者の獅子王凱はそのままコアを握りつぶしていただろう。
つまり、獅子王凱は人殺しを強行しようとしていたことと同じ意味を持つことになる。
もし、それがゾンダーではなくノヴァのコアを浄解したら……あるいは――。
そして現在、ノヴァクラッシュという大災害を前にして、人類が絶滅に瀕しようとしている。

「我々もまだゾンダーやノヴァに関してわからないことだらけだが……とりあえずしなければいけないことは、君の意思を聞くことだと思う」

「俺の……意志?」

うまく答えられそうにない凱を見て、スナが再度アオイ博士の問いを簡単に解釈する。

「要するに、あなたの意思次第で、私たちの運命が左右されるということよ。あなたが決めてくれないと、私たちの今後の行動が決められなくなるの」

「さっき俺のことを邪魔だといったのは、人類側の都合そのものだったということか」

「君は――理想世界を先導する超越者――の力を持った者の一人だ。獅子王君という存在を受け入れるには、今の世界と人類はあまりにも幼すぎる」

現在の激動時代、宇宙防衛勇者隊にとって代わり、シュバリエという地球圏防衛組織が世界を牛耳っているという。
もし、凱をはじめとするGGGの面々が帰ってきたとなれば、確立されつつある対異次元体システムが機能マヒする恐れがある。
保身に走るものたちが、過去の勇者たちの存在を秘匿し、あげくは闇に葬ろうとするかもしれない。
だが、それはいつの時代でも、そういう人はどこの組織にも、必ず存在するといってもいい。

「君の勇気(いし)が鍵なのだ。閉ざされた人類の未来の扉を開けるための「勝利の鍵」の……な」

「……」

アオイ博士の言葉に、凱は黙って聞いていた。

「木星の最深部に異次元体の真実がある。天海護君がそう言っていた」「護が!!」

そして、凱の顔が一瞬で青ざめた。
護の名前を聞いた瞬間、凱は心臓が跳ね上がるような錯覚に襲われた。アオイ博士の言い方からすれば、護は生きていた可能性がある。ただ、それは過去形のものかもしれないと思えるし、何とも言えない気持ちになる。

「先日私たちも「プラズマ兵装に担う観測実験」の為、木星に赴いていたのだ。実際は「知られざる異次元体」の監視中、偶然君たちGGGを見つけたというわけだ」

――知られざる異次元体――

重圧含めたその名詞を、アオイ博士はそれ以上深く語らなかった。そして……

「木星の最深部を詳しく調べるには地球各地で発生しているノヴァクラッシュの早期終結が必須となる。ノヴァとの抗争に打ち勝つには、飛躍的手段「勇者王ガオガイガー」の力が必要になる」
過去の守護神――勇者王ガオガイガーを飛躍的手段と表現したことには理由があった。
現在、対異次元体迎撃システムとして・Project・Anti・Nova・Direct・Operation・Round・Allister、通称「PANDORA-パンドラ」が確立されている。生身の人間をベースにした
兵士増強計画はノヴァに唯一対抗できる存在として世間に歓喜される形となったが、やはり抱え続ける不安要素もあった。
想像を超えるポテンシャルを得られたが、聖痕という未知のテクノロジーを受け入れるだけの人間は、そうそう都合よく生まれるものではないらしい。
自然発生に頼る分、兵士(パンドラ)の徴兵率は極端に低く、その数字はいまだ2ケタの数字を行ったり来たりを繰り返すばかり。それに反比例して、ノヴァクラッシュ発生時の消耗率は二ケタをゆうに上回る。
聖痕そのものはノヴァと同じDNAデータを用いているため、パンドラそのものがノヴァへ変貌して人類へ矛先を向けられるのではないか?切れ味が良すぎる諸刃の剣ではないかという疑問視する声も少なからず上がっている。

「……すぐに……答えなきゃいけないんですか?」

普段の凱ならば、GGG設立理念に従って、胸に秘めた勇気ある誓いを謳いあげるはずだ。

――GGG憲章第5条12項-GGG隊員は、常に人類の未来を考えなければならない――

だが、置かれた現象とその処遇、世界がGGGを望まないかぎり、自分の出る幕ではないのかと感じ取り、返事をためらったのだ。

「……正直言って、俺の置かれている現状を理解するだけで精一杯です。いきなり世界をどうのこうのとか言われても実感わきません」

これが今の凱の精一杯の感想だった。ゾンダーはともかく、唐突に見たことのない異次元体やらノヴァやらパンドラと言われても実感がわかないのが現実だからだ。

「でも、もしこの世界に生きる人たちが助けを求めるなら……俺は護ります。たとえどんな脅威が来ようとも、平和な未来の先に立ちふさがる壁があるのなら――」

「…………」

アオイ博士は、ただ黙って凱の言葉を聞いていた。まるで、――それでこそ勇者たる凱だ――と思わんばかりに。

「それを聞けただけで安心したよ。やはり我々の運命を左右するのは君の意志だろう。流石は勇者」

勇者。既に凱の記憶にとっては聞きなれた言葉だ。それ故に心に占め付けるものがある。俺は勇者でなければならないと。
当時の原種大戦において勇者王へと融合昇華(ファイナルフュージョン)できる凱は、まさに人類にとっての最後の希望だった。純粋な地球人では太刀打ちできないゾンダーへ対抗できる唯一の存在として、常に臨戦態勢を整えなければならなかった。サイボーグとしての「最強と最弱」が重ね合わさったアンバランスな状態で戦い続けていた。
つまり、凱の敗北は人類の敗北を意味するのだった。その時からだろう。いつしか凱に「負けない」「負けられない」という不屈の精神が宿ったのは――
暗い表情のままの凱を察してか、アオイ博士は優しく諭した。

「そう、確かに君は勇者だ。でも……人間ではない、というわけではないのだよ」

凱は思いきり気づかされた。あまりの言葉に、とっさに凱はアオイ博士に顔を上げて向き直った。

「確かに勇気を持つことは大切だと私も思います。ですが、心を縛るものではないのですよ。私だって兵士(パンドラ)の前に人間ですもの」

今度はスナに言われた。その時、改めて勇者の意味を理解された。
アオイ博士とスナとの心の触れ合いが、凱の凍てついた心を氷解させる。瞼の裏が急に熱くなり、思わず目を閉じたくなる。

「スナ。獅子王君の世話は私が責任を持つ」

「アオイ博士、まさか」

「ああ、紹介するよ。獅子王君の身柄を預かるイーストゼネティックスを」

果たして、アオイ博士の思惑はいかなるものか、緑の髪の少女との邂逅は果たして?――

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