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真田十勇士

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巻ノ六十二 小田原開城その五

「何も守るものがない」
「城を築いてもじゃな」
「只の平城にしかなりませぬ」
「守りにくいな」
「あの辺りは守るに適しておりませぬ」
 江戸、あの地はというのだ。
「鎌倉や小田原とそこが違います」
「鎌倉は守りやすい」
 秀吉も鎌倉のことは知っている、三方を山に囲まれ残る一方は海だ。だから鎌倉幕府もここに拠点を置いたのだ。
「あそこは実にな」
「はい、そして小田原はです」
「見ての通りじゃ」
 その小田原城、他ならぬ彼等が囲んでいる城を見ての言葉だ。
「これ程大きな城はない」
「ここに徳川殿が入られますと」
「思っただけでも厄介じゃな」
「この城は大坂城に負けておりませぬ」
 そこまでの城だというのだ。
「間違いなく東国一の城です」
「若し徳川殿にそのまま関東に入られよと言えば」
「この城に入るとです」
「考えた方がよいな」
「はい」
 まさにというのだ。
「そして守りを固められ」
「そのうえでな」
「政を行われます」
「確かな拠点があれば政は実に楽じゃ」
 充分に守ることが出来る城に入ったうえでというのだ。
「特に守りが既に固められていれば」
「我等もそうですし」
「大坂から天下を治めておる」
「これ程有り難いことはありませぬ」
「だからじゃな」
「はい、徳川殿の拠点を江戸に定められれば」
「竹千代殿はかなり苦労をする」
 秀吉はそこも見越している、そのうえで秀長と共に考えているのだ。
「関東は治めれば豊かになるがな」
「川が多くしかも平地が多いです」
「田畑も町もよいものが出来る」
「水や土の質は上方程よくないですが」
 しかしそれでもとだ、秀長も言う。
「開けていますので」
「治めればな」
「かなり豊かになります」
「そうじゃな」
 秀吉も言う。
「関東はな、そうした地じゃ」
「しかしかつての北条家の土地ですし」
「反発も多くな」
「それを収めるのも厄介で」
「江戸城をどうするか」
「そこに横槍を入れ続ければ」
 秀長は家康に介入を続けることも提案した。
「それでさらにです」
「竹千代殿は動けなくなる」
「そこに会津にです」
「目付としてじゃな」
「忠三郎殿を入れれば」
「万全じゃな」
「越後にも上杉家がおります」
 この家もというのだ、関東の側にいるというのだ。
「徳川家は何重にも動けなくし」
「竹千代殿には主に大坂にいてもらう」
「そこまですればです」
「あの御仁もそうそう無体は出来ぬか」
「そしてあの方は非常に律儀な方で」
「約束は守るな」
「約束を破るということがわかっておられます」
 性格的にもそうだがそうした場合どうなるかもわかっている、家康はそこまでわかっている賢明な者なのだ。
 それでだ、秀長も言うのだ。 
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