ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~
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帰郷-リターンマイカントゥリー-part4/盗まれた友達
突如現れた、紳士服に身をまとう謎の色白の男。
名刺には『怪獣バイヤー・チャリジャ』と記されている。ムサシたちは、この男がどう考えてもよからぬ目的で近づいてきた宇宙人であることを察した。
「行きなりの来訪の無礼、どうかお許しを。しかし今回あなた方にどうしても頼みたいことがございまして」
「頼みたいこと?」
アヤノが視線を鋭くする。
次にチャリジャが言い放った発言で、それは確信に変わった。
「私は、今紹介した通り、怪獣を売って商売しているのですよ。ですが最近は古い商品ばかり溜まりこんで商売がはかどらなくてね。なにせ私が出会うお客様方はレイオニクスブームで、強くて新しい商品を好みますから」
「レイオニクスブーム?何が言いたいんだ」
敢えてムサシはそのように問う。それを聞いて、チャリジャはくく、と君の悪い笑みを浮かべる。
「もうお察しがついているのでしょう?
この星の怪獣を、私に売っていただけませぬか?勿論、高値で買い取りますよ?」
「ふざけるな!」
ムサシはチャリジャの要求に即答した。怪獣を大切に思う彼にとって、そのようなお願いが聞けるはずもない。
「怪獣が商品だと?高値で売るだと?命をなんだと思っているんだ!」
「おやおや、あなたも怪獣に強い愛着を持ってるようですから聞いてもらえるかと思ったんですが…」
「あなたね、うちの旦那をバカにしないでもらえる?お金なんかで、私たちの大切な友達を差し出せるわけないでしょ!」
「そうだそうだ!」
アヤノやソラもチャリジャに対して怒りを露にする。かつて地球でも、この男は、ムサシや自分の最も嫌う行為で稼いでいる。命を軽んじる行為を平気でやるこいつには我慢ならない。ましてや、この星の怪獣たちは苦楽を共にしてきた仲間だ。
「全く理解できませんね。怪獣は言い換えれば図体の大きな獣。言葉も通じず、我々のような知性もないくせに、本当にわかりあっていると?」
しかし、チャリジャはムサシたちの考えを嘲笑う。怪獣を完全に商品以下の存在とみなしている。ムサシにとってこれほど許しがたい奴は数えるほどしかいない。
「あなたとて本当は信じていないでしょう?地球では人類にとって怪獣は邪魔だからこの星に移したのでは?」
「邪魔なものか…!僕は怪獣たちの意思を尊重した上で、彼らをこの星に連れてきたんだ。それに信じてないなんてお前が決めることじゃない!」
その言葉に嘘はない。怪獣もまた意思を持つ生き物だ。縄張りから勝手に連れ出せるなんて傲慢だし、できるにしても簡単なことじゃない。
「まぁ、あなたの青臭い理想などどうでもよろしい。私がほしいのは…この星の怪獣たちですよ。地球では10年近く息を潜めながら怪獣を集めていましたが、そろそろ向こうは底をつく頃ですからね」
「何!?それじゃまさか…」
さっきのアヤノの話や、かつての同僚から度々話にあった、怪獣が失踪するという情報。その犯人もまたこいつなのか!なおさらムサシはこいつを放っておくわけにいかなくなった。
「では、『処分品』の相手でもしてもらいましょうか。いくら使えない怪獣でも、その程度で倒れるようでは商品にもなりませんからね」
しかし、すかさずチャリジャが指をパチンと鳴らすと、彼の姿は再び煙となって消失した。
「き、消えた…!?」
驚く三人だが、そんな間さえも与えようともしない意図でもあるかのように、自宅に大地震でも起きたかのような大きな揺れが発生した。
「外に出よう!」
二人は我が子を連れて一度外に出る。
外は、さっきまでのどかで豊かな自然が広がっていたというのに、あちこちで火の手が上がり、煙が立ち上っていた。
「な、なんだよこれ!」
ムサシは思わず声を上げた。何が起きた?まさか、怪獣たちをあのチャリジャという宇宙人が!?
その時、空からいくつかの巨大な影が降りてきて、ジュランで生きている怪獣たちの目の前に姿を現した。その影の正体は、黄金のボディを持った巨大なロボットだった。ロボットは手に装備されていたレーザー砲で、周囲の自然地帯と攻撃し始めた。それも一体だけではない。そのロボットとは別に、黒銀色の戦車のようなロボットも進行し上半身を、180度回転を繰り返しながら、ボディに付いた砲口から何発もの火炎弾を乱射した。
怪獣たちが、リドリアスが率先して、口から炎を吐いたり体当たりをしたりと、そのロボットたちに攻撃を加える。怪獣たちの攻撃はウルトラマンさえも怯ませる強力な一撃が多いが、それでもロボットたちは痛みを感じることなく攻撃を続け、ジュランの美しい自然を荒らしていく。その攻撃で、怪獣たちも何とか善戦しているが、怪獣たちは激しい攻撃に耐え切れなくなっていく。
もしや、あのロボットたちが、チャリジャの行っていた処分品というものか?そんなぞんざいな呼び方の割りに、あれだけの火力を持ち合わせているのか。
このまま放っておくわけにいかない!
「アヤノ、ソラをつれて避難シェルターに急いで!僕が様子を見に行く!」
手に、自作の特殊な銃を担ぐムサシ。
「ムサシ、でも!」「お父さん!」
「このまま怪獣たちが危険な目にあうのを黙っていられない!」
一人危険に飛び込もうとするムサシに、アヤノとソラが無茶だと声を上げる。一人で行くには無謀な状況だ。
すると、さらなる異常の変化が起こる。ムサシたちの道を阻もうとするかのように、巨大な影が現れる。
「な、こいつは…ヘルズキング!!」
そのロボットは、かつてムサシが戦った侵略者『潜入宇宙人 ベリル星人』の侵略ロボット、『侵略変形メカ ヘルズキング』だった。こんなものまでチャリジャは持ってきたのか!
ヘルズキングは、ムサシたちに向けて手をかざし、攻撃を仕掛けようとした。万事休す。
だがその時、空から二つの彗星のごとき光が飛来した。
「デヤアアアア!!」
その光はムサシに攻撃を仕掛けようとしたヘルズキングをぶっ飛ばした。
「!」
顔を上げたムサシは今の声で、自分の窮地を救った、目の前に降り立った光の巨人が誰なのかすぐに理解した。
「コスモス!」
かつて何度も自分と一心同体となり、共に戦ってきた青き慈愛の戦士『ウルトラマンコスモス』である。
『ムサシ、大丈夫か?』
コスモスがムサシに無事かどうかを尋ねてきた。
「大丈夫だよ、コスモス。また助けられたね。でもここからは…」
そう言って、ムサシは胸ポケットから、青く輝く不思議な石を取り出す。
コスモスが、少年だった自分にくれた『輝石』。自分とコスモスを今でも繋ぐ絆だ。それを見てコスモスはムサシの思いを察して頷く。ムサシも頷き返し、輝石を掲げた。すると、ムサシの体が光に包まれ、コスモスのカラータイマーに吸い込まれていった。
再び、コスモスとムサシは一心同体となったのだ。
コスモスは飛来直後の、青紫・銀の二色の宇宙戦闘形態『スペースコロナモード』から、太陽の赤き輝きを放つ姿『コロナモード』にモードチェンジ、ヘルズキングに向かっていった。
コスモスは、長きにわたってムサシと共に戦ってきたことがあるだけあり、ヘルズキングの攻撃をものともしなかった。ヘルズキングが放ってくるエネルギー弾を、まるで音速の世界に飛び込んだような目にも止まらない速さで弾き返し、逆に弾かれたエネルギー弾はヘルズキングのボディに直撃する。そこからはずっとコスモスのターンと言えた。太陽の力でヘルズキングを殴り、投げ飛ばしたりと圧倒していく。
コスモスの登場は、ムサシだけでなく、怪獣たちさえも奮い立たせた。苦戦状態の怪獣たちは、コスモスに負けまいと、襲ってくるロボットたちを精一杯押し返していく。
その中でもコスモスと同じくらいの圧倒的パワーでロボットたちを押し退ける者がいた。かつてはコスモスの宿敵であり、今はジュランの守護者であるカオスヘッダーである。
カオスヘッダーは黄金の輝きを放ちながら、自分や仲間たちに一斉に迫るロボットたちを、コスモスから学習した華麗な動きで動きで翻弄した。
「凄い…これがお父さんが言ってた、コスモスの力!」
初めてコスモスの戦いを見たソラは父から聞いていた以上の無敵の力を奮うコスモスに、高揚した。
「頑張れウルトラマン、みんなああ!」
気がつくと母と共にコスモスや怪獣たちを応援していた。その応援を背に受けて力を皆切らせながら、ヘルズキングに向け、コスモスは必殺光線を放った。
〈ブレージングウェーブ!〉
「ハアアア…デアア!」
ヘルズキングに、コスモスの光線が直撃、ヘルズキングはダウンし、機能停止したのか動かなくなった。
「やった!」
「お父さーーん!」
以前にも増してさらに強くなったコスモスとムサシ。一つになった二人を見て、アヤノとソラが笑顔を浮かべた。そんな二人に向け、コスモスは深く頷いた。
だが、コスモスたちは油断していた。今回の黒幕であるチャリジャが、すでにコスモスたちが守ろうとしていた怪獣たちに魔の手を伸ばしていたことを。
「今だ」
遠くから、自分が差し向けたヘルズキングたちと戦っているコスモスや怪獣たちを見ながらチャリジャが、いつの間にか自分の隣に立つ怪人に言う。
その怪人は一枚の赤い布を取り出すと、それを空に向けて放り出す。すると、その赤い布は空を覆い尽くすほどの大きさに拡大した。
「!」
空を見上げたコスモスや怪獣たちは、空を覆いだしたその巨大な赤い布に危機感を覚えた。まずい、すぐに消さなければ。リドリアスら遠距離攻撃が可能な怪獣たちが赤い布に向けて一斉に攻撃を仕掛けようとして、コスモスも必殺光線を放とうとした。
しかし、その時だった。
「グォ!?」
コスモスは背後から何者かに捕まってしまう。振り返ると、倒したはずのヘルズキングがコスモスを捕まえていたのだ。てっきり倒したとばかり思っていたその思い込みが、油断を生んでしまった。ヘルズキングは、邪魔と言わんばかりにコスモスを赤い布の範囲外へ投げ飛ばした。
「コスモス!」
カオスヘッダーはそれを見てコスモスを助けに向かおうとしたが、そんな彼に一発のレーザーが突き刺さった。
「グガア!!」
たった一発の光弾。それだけならカオスヘッダーほどの猛者に大したダメージは与えられないはずだ。だが、このときのカオスヘッダーは、予想以上にダメージを受けていた。
「何…!?」
予想外のダメージで、カオスヘッダーは動けなくなる。
「ほほぉ、さすがに弱点なだけあってなかなか効いたようですな」
カオスヘッダーはその声の方に視線を向ける。目の前で、空中に浮いた状態のチャリジャが笑いながら立っていた。手には、一発の変わった銃が握られている。
「貴様…今のは…まさか…!」
今自分を襲った弾丸は、間違いなくチャリジャが撃ったものだ。だが、たかが一発の銃弾で自分がここまで大きなダメージを受ける理由。カオスヘッダーは、嫌な予感をよぎらせた。
「そう、あなたの苦手とする『ソアック鉱石』を内蔵した特殊弾ですよ。あなたほどの魔物を相手にするなら当然でしょう?ちなみに結構な量のソアック鉱石を凝縮してますからしばらくは動けませんよ」
ソアック鉱石とは、『コスモスペース』の月で発見された特殊な鉱石である。その鉱石が放つ光はカオスヘッダーにとって毒であり、コスモスたちとカオスヘッダーが対立しあっていた頃は、カオスヘッダーとの戦いにおいて切り札になったことがある。それが逆に、善なる存在となったカオスヘッダーを殺す魔の一撃となるとは、あまりにも皮肉なことだった。
「そのまま大人しくしてもらいましょうか。あなたは私の知る限りでは最強クラスの怪獣。これ以上傷物にしてはお値段が低くなってしまいますからね」
チャリジャはそういうと、動けなくなったカオスヘッダーの前から一度退いた。
怪獣たちの方も、ロボットたちが怪獣たちに向け一体に一発ずつエネルギー弾を当てた。すると、怪獣たちは瞬時に身体中が光の網に包まれ、身動きがとれなくなってしまった。
その直後、赤い布は止めを刺すかのように覆い被さった。
風が吹くと、赤い布が空に舞い上がり、元の小さな布になる。
コスモスは、布が吹き飛んだ跡を見て驚愕する。
赤い布が消えた場所から、怪獣たちが…
その土地もろとも姿を消されてしまっていたのだ!
「リドリアス! みんな!」
思わずムサシの声でコスモスは怪獣たちの名を呼び掛けるが、返ってくる鳴き声はない。あるのは、工事現場跡地のように、四角状に穴がくりぬかれた大地だけ。
「そんな…みんな消えちゃった」
思わぬ最悪の結果に、アヤノが呆然と声を漏らした。
「ハッハッハ、怪獣たちは確かにいただきましたよ。ウルトラマンコスモス」
すると、コスモスたちの前の空中に、再びチャリジャが姿を見せる。だがチャリジャだけでなく、もう一人奇怪な姿をした怪人も同伴している。
「チャリジャ、これでよかったのだな。約束の報奨金をくれるんだろうな?」
怪人は、突如自分の手の中に、小さなケースを取り出してそれをチャリジャに手渡す。
「ええ、ありがとうございます。『怪宇宙人ヒマラ』。あなたを雇って正解でしたよ。おかげでジュランの怪獣を手に入れることができました。
ここまでやってくれたんです。当然約束は守りますよ。あなたの宇宙船を直すための修理費でしたね」
チャリジャは横に立っているヒマラという怪人からケースを受け取り、彼に向けてニヤッと笑った。このケースの中に、自分が欲しがっていた遊星ジュランの怪獣たちがぎっしり詰まっている。売ればきっと自分の商売が長いこと繁盛するに違いないと見た。
これが奴の狙いだったのだと理解した。チャリジャは最初から、あのヒマラという怪人に怪獣たちを一気に盗ませる気でいた。そのために、自分にとって商品にならなくなったとみなしたロボットたちを怪獣たちに、おとりとして差し向けていたのだ。
「待て!怪獣たちを返せ!」
コスモス=ムサシが声を荒げながらチャリジャたちに向かって叫ぶ。だが、それをチャリジャたちが聞きいれるはずもない。自分たちを守らせるために、ヘルズキングなどのロボット怪獣=処分品たちが壁となって立ちはだかる。
「ではごきげんよう…ウルトラマンコスモス。あなたから頂いた怪獣は大切に使わせてあげますよ。消費者の方々のためにね!」
すると、チャリジャの背後から巨大な宇宙船が現れる。チャリジャとヒマラは共に白い煙と化して宇宙船に乗り込む。コスモスは当然食い止めようとしたが、ヘルズキングたちがいっせいにコスモスを押さえつける。その間に、チャリジャたちを乗せた宇宙船は、宇宙の大海原へ飛び立ってしまった。
「みんな!!」
手を伸ばすコスモスだが、届くはずもなかった。一点の星となるくらい小さくなった宇宙船を見届けるしかできなかった。消えた宇宙船に届かない手を引っ込めた後、コスモスはすさまじく悔しげに地面を殴った。
なぜだ!なぜこうなってしまう!
せっかく夢を…コスモスとの約束を叶えたというのに!
「必ず取り戻して見せる…みんな、待っていてくれ!」
それからムサシは、ジュランで起きたこと地球に伝えることをアヤノに託した。その後は、すぐに宇宙へ飛び立ってチャリジャたちを追い始めた。
あらゆる星や世界を飛び続け、チャリジャたちの足取りを掴みながら、彼はたどり着いた。
M78世界の宇宙にある惑星エスメラルダの…『ハルケギニア大陸』へ。
「この星に来る直前で、やっと奴の宇宙船を見つけ出して、今度こそ捕まえようと思っていたんだけど、宇宙のあちこちを飛び回っていたせいでエネルギーが切れてしまって…結局取り逃がしてしまった。そこをカトレアさんのお陰で保護してもらったんだ。ピグモンと出会ったのも、その時なんだ」
「そんなことがあったんですか…」
サイトは、ムサシから聞いた…彼がこの世界に来るまでの経緯を聞いて、彼の無念を感じた。そして、ボーグ星人たちを相手にしたときのように、自分の中に彼の夢を壊したチャリジャたちへの義憤が募った。
地球でも密猟者や闇商売の話を雑学的に聞いたことがあるが、ムサシのような正しい人間の心を個人的な商売のためにここまで傷つけるなんて…!
「サイト君、君は今まで戦ってきた相手で、今の話にあったチャリジャと会ったことはあるかな?」
「いや、チャリジャって奴とは会ったことは…」
できれば直接会って今までの悪事を後悔させてやりたいが、あいにくサイトもゼロもチャリジャとは会ったことがなかった。
いや…そう言えばチャリジャ…リッシュモンが起こした事件直後の情報整理の際に、確かジュリオがリッシュモンと接触したアルビオン側のエイリアンに、そんな名前の奴がいるとアンリエッタに報告していたのを聞いたことがある。
だとすると、アルビオン…いや、レコンキスタがやたら怪獣を保有しているのは、そいつが一因か!
「春野さん、知り合いに知ってる奴がいます。もしかしたら、ジュランを襲った奴と同じ奴かもしれません」
「本当かい!?」
サイトはそこから、前回のリッシュモンが起こした事件のこと、その事件で恐らくムサシが探しているチャリジャが関わっているのではと告げた。
「なんてことだ…やはり既に怪獣たちは…」
チャリジャがこの世界でもまた、怪獣たちに望まぬ戦いを強いる商売を行っていることにムサシは怒りを覚える。
ふと、サイトはムサシから話を聞いて、あることに気が付く。
「…待てよ。そうなると、俺たちが倒してきた怪獣たちの中に…」
嫌な予感を感じた。チャリジャによって別の世界から怪獣が密輸され続けている。奴の商品から漏れ出た奴の中にいるジュランの怪獣を、自分がウルトラマンゼロとして倒してしまった可能性が考えられた。
「すみません、俺…そんな事情があったのに…もしかしたら…」
もしかしたらと思い、サイトはムサシに謝った。
「サイト君、謝ることはないよ。君にとってもウルトラマンとしての戦いは命がけだ。敵を倒さないと生き残れないこともあったかもしれないし、まだ君が僕の知り合いの怪獣たちを倒したとは限らないだろ?
それに、僕のことを気にするあまり君が戦いで死ぬようなことになったら、それこそ僕が君に対して申し訳なくなってしまう」
サイトの謝罪に対して、ムサシは首を横に振った。
「それで、チャリジャは確かにレコンキスタっていう組織に身を隠しているんだね?」
「そうだと思いたいけど、知り合いの話だとあの事件以来姿は見つからなかったって言ってました。すいません…」
どこまでその知り合い…ジュリオ・チェザーレが本気なのかはわからない。正直奴は自分のことに関しては特に何かを隠しているような節がある。今のところは手を組んでいる間柄だが、サイトは個人的にもそうだし、ジュリオのことをあまり信用できなかった。
「そっか…いや、それについても謝ることはないよ。今僕の事情を知らせたばかりじゃないか」
「あの、春野さん」
サイトは、たった今浮かんだある提案をムサシに持ちかけてみた。
「俺たちと来ませんか?一緒に来れば、春野さんが助けたい怪獣たちを確認できます」
自分たちの相手は怪獣が多い。だが彼らもまた生きている。コスモスに怪獣を殺すことなく鎮める力があるのなら、無理に命を奪うことがないほうが倫理的に一番いいはずだ。
「そうだね…そうしたいけど、今の僕たちでできることはごく限られたものしかないよ」
「何言ってるんです。あなただって、俺たちと同じウルトラマンじゃ…」
しかし予想外なことにムサシは首を横に振った。その理由を問おうとすると、さっきまで口数を増やす気配がなかったコスモスの声が聞こえてきた。
『残念ながら、今の私に君たちと共に戦う力はほとんどない』
『どういうことだ?コスモス』
ゼロがサイトに代わって尋ねる。
『本来私とムサシは別次元の宇宙からやってきた身だ。次元の壁を超えるには膨大なエネルギーが必要になる。この宇宙でようやくチャリジャを見つけたときも、奴が逃げる際に放った刺客との戦いになった。次元を超えた上に、その戦いで変身に必要なエネルギーを消費しすぎて、回復もままならないのだ。
今も、変身できるかどうか…』
その話はゼロも知っている。本来自分たちウルトラマンでさえも、次元を超えることは決して簡単なことではない。場合によっては、光の国全戦士のエネルギーを使うことで一人を送り込むことがやっと、ということもあるという話も聞いたことがあった。コスモスとムサシは怪獣たちを取り戻すために、たった一人でこの次元にやってきたのだ。無理を押した旅だったに違いない。
「だから、たとえ僕の知る怪獣たちが現れても、今の僕たちでは彼らを静めることも連れて帰ることもできないんだ」
「そんな…俺は…いや、ゼロはそもそもコスモスのような、怪獣を殺さずに鎮める技なんて持ってないのに…」
ムサシは今、エネルギー不足でコスモスに変身することが難しいなんて。
侵略者はきっとムサシたちから盗まれた怪獣たちを使ってくるに違いない。しかし自分たちは、自分の身を守るためにも、自分たちが守るべき人たちのためにも、ムサシとは旧知の仲である方の怪獣たちを倒さなければならなくなってしまうかもしれないではないか。
これでは、また…『失う』ことに、『奪う』ことになるのではないのか?ミシェルを失ったときの喪失感とショックが、足を止めないと決めたはずのサイトの心に再び影を忍ばせる。
「俺、今まで皆を守るために、怪獣とか星人を相手に戦ってきました。でも、考えてみれば…それだけ多くの敵を殺してきたってことです。
それでも俺、敵として対峙した人の中に、助けたかった人がいたんです。でも、俺に力が足りなかったばっかりに…その人は…」
敵でありながら、サイトが助けたかったと思えた人。それは紛れもなくミシェルだった。かつては由緒ある貴族で何不自由なく幸せに生きていたというミシェル。だがリッシュモンという財力と権力におぼれた外道に全てを奪われ、あまつさえ事実を知らない彼女は騙されて部下に引き込まれ、汚い仕事を押し付けた果てに捨て駒として命を奪われた。リッシュモンも許せないが、何よりサイトはそんな彼女を救えなかった自分が許せなかった。コスモスのような、優しさを強さに変えた力を持っていなかった。正直、相手を殺さずに戦いを終わらせることができるコスモスの力に、妬みを感じていた。
コスモスのような優しさを力にする能力があれば、アルビオン王党派の人々ややミシェルの二の舞を起こさずにすむのでは…?そんな期待がよぎった。
すると、ムサシは話を聞いた後に、再び口を開いた。
「…僕らも同じようなことがあったよ。助けたかった怪獣がいたんだけど、助けられなかった…」
「!?…春野さんたちにも、ですか?」
「僕だって失敗することもあるさ。けど、そうだね…あの失敗は、今でも僕の心から消え去ることがない」
「あの失敗?」
「ああ、あれは…」
ムサシはさらに自らの過去についての話をした。
それはTEAM EYESに所属していた頃のことだ。かつて組織が保護に失敗した怪獣『毒ガス怪獣エリガル』を、ムサシを含めたEYESの手で今度こそ保護するための任務があった。
当時敵だった頃のカオスヘッダーに憑依されて暴走していたエリガルを、ムサシはコスモスに変身することで浄化し大人しくさせようとした。しかし、カオスヘッダーが進化した影響でうまくいかず、やむを得ずコロナモードの強力なパワーでカオスヘッダーを切り離したが、救われたはずのエリガルは耐え切れずその場で死亡してしまった。この悲劇的な結果しか残せなかった戦いは、今でもムサシの心に忌まわしい記憶として、後の教訓として焼き付いている。
「サイト君、君は僕らなら、相手を殺すことなく全てを救えると思ったかもしれないけど、そんなことはないよ。僕らにもできないことなんて、自分が思っている以上にまだまだたくさんあるんだ。
それに、浄化の力を持つことだけが、怪獣を殺すことなく戦いを済ませる方法じゃないんだよ」
「え?」
「本来、異なる生物だろうが、同じ人間だろうが…僕たちは相手とつながりを持つためには、特殊な能力とか力の強さじゃない。じゃあ、何だと思う?」
「それは…」
さっきまでの話の流れから見て、相手を殺さずに救うことで、戦いを穏便に済ませる方法は、コスモスが持つような浄化の能力だとばかり思わされる。だがゼロには、自分たちにはそれはない。力で相手をねじ伏せる手段しか持っていないのだ。だが、ムサシは言った。
相手を殺さずに救うのは、能力とかそういうものではない、と。
「…『心』だよ」
「心…?」
『そのとおりだ。サイト、そしてゼロ』
すると、今度はコスモスの声が二人の耳に聞こえてきた。
『私は確かに浄化の力を持つが、限界がある。それにたとえ怪獣を浄化・沈静することができたとしても、いずれ怪獣も人も心や感情に揺さぶられ再び暴れてしまうこともある。
相手を殺さずに救うために必要なもの、それは…ムサシの言う通り「心」なのだ。
私はカオスヘッダーとの戦いを通して、それをムサシから教わった』
「サイト君、思い出してみてくれ。君は確かに救えなかった人がいるけど、君の心で救われた人もまたいるはずだ。その時の君は、私のような心を救う光線技があるから助けようと思ったのかい?」
「そ、それは…!」
そんなことあるわけがない。何事も動機がなければ…助けたいという気持ちがなければ、たとえ自分に相手を殺さず鎮める力があっても、使う気にもならないはずだ。少なくとも自分がこれまで戦ってきたのは、誰かを守りたいという気持ちが…幼い頃の自分と同じ痛みを仲間やたくさんの人たちに味あわせたくないという思いからだ。
「君がもし相手を手にかけずに戦いを終わらせたい気持ちが本物なら、君が自らの手でその答えを見つけないといけないんだ」
「俺自らの答えで…?」
そんなこと言われても、自信がない。自分は確かに足を止めてはならない。でも、多くの人たちという「大」を守ることができても、みすみす死なせたミシェルのような…どうしても守りたい「小」を守れるのだろうか。
「さあ、もう夜も遅い。そろそろ部屋に戻らないと」
「あ、はい。お時間取らせてすみません」
そうだ。思えばもう真夜中だ。ムサシたちのためにも、これ以上時間を取らせてしまうのはよくない。
「いいさ、僕も君と話したかったからね。さ。おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
ムサシとの会話を終え、サイトはムサシの部屋を後にした。
『ムサシ…』
サイトが去ってすぐに閉ざされた扉を、サイトの背を見送るように見つめ続けているムサシに、コスモスが話しかけてくる。サイトのことを気にしているのだろうと、ムサシは察した。
「大丈夫ですよ、コスモス。彼ならきっと強くなる。僕らと同じ…ウルトラマンだから」
『あぁ、そうだな』
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