ラブライブ! コネクション!!
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Track 3 STOMP:DASH!!
活動報告15 みゅーじっく ・ すたーと! 1 『ファーストライブ』
「…………」
「…………」
私は無言でジッとお姉ちゃんの顔を見つめていた。だけど、お姉ちゃんが表情を変える気配はない。
お姉ちゃんも、表情を変えずに無言で私達を見つめている。
ううん。睨んでいるって言った方が的確なのかも知れない。だけど、睨んでいるなんて思いたくなかった。
だから――見つめている。
そんなお姉ちゃんと私達の間に、見えない不穏な空気が流れ始める。
不穏な空気を感じ取っていたのだろう。お姉ちゃんと私達のことを、周りの人達は固唾を飲んで見守っていた――と思っていたのに、何故か絵里さんだけは唖然とした表情を浮かべているのだった。
お姉ちゃんと絵里さんの心意は全然わからない。でも、お姉ちゃんが言った――
「それで、この先どうするつもりなの?」と言う、言葉の意味は理解できていた。
お姉ちゃんは「この先も自分達だけでライブを続けるつもりなの?」と言いたかったのだろう。
正直に言って今の現状は、お世辞にもスクールアイドルとして、良い結果だとは言えない。
だって、拍手をしてくれた人達を、ライブの為に集まってきてくれた人たちを、私達の力で集めた訳じゃないんだから。
そう、絵里さんは亜里沙の為に来たんだろう。希さんとにこ先輩も後輩だから来てくれたんだと思う。
そして、ツバサさん達に関してはお姉ちゃんが呼んでくれた。
つまり、私達が何かを頑張った訳ではないんだ。
だから、自分達で集められなかった時点で私達は完敗なんだよね。
完敗からのスタート――それはお姉ちゃん達も通ってきた道。
だけど、お姉ちゃん達と私達では言葉の意味が違うのだと思う。
お姉ちゃん達は少なくとも花陽さん達、絵里さん達を、自分達だけの力で集めていた。
そして、そもそも選択肢が自分達だけで進み続けるしかなかったのだった。
私達は誰も集められなかった。だけど、選択肢が他にもあったんだ――そう、お姉ちゃん達と一緒にライブをすると言う選択肢が。
現実を知っているから。こうなるって予測していたから。
自分達とは状況が違うのだから、何も茨の道を選ばなくても良いだろう。
そう思って、お姉ちゃんが好意で差し伸べてくれた手を、私が自分で振り払ったんだ。
だから、お姉ちゃんは怒っていたのかも知れない。
みんなの手前、応援していると言っただけ。
内心では、あの時から私達を応援していなかったんじゃないか?
そして予想通りの結末を迎えたことで私達の選択は無意味だったと、間違いだったと。そのことを突きつける為に来たのだと、そんな風に思っていたのだった。だけど――
「――ッ」
「…………」
私は自分の進んだ結末が間違っているとは思っていない。
確かに、私達は誰も集められなかった。そして、お世辞にも素晴らしいなんて言えないパフォーマンスしか見せられなかった。
だから、お姉ちゃんが愛想を尽かしたとしても反論はできないけど。
それでも、私達で頑張ってきたことに後悔はない。
そして、これからも私達で頑張っていくこと。その決意は揺るがなかった。
だって、こんなに清々しいんだもん!
みんなの想いが、心の中に埋め尽くされているんだもん!
初めて浴びたスポットライトが、凄く気持ち良かったんだもん!
私達のライブに対しての、拍手と笑顔が凄く嬉しかったんだもん!
だけど、今感じている気持ちは、決してお姉ちゃん達が与えてくれたものなんかじゃない。
私と亜里沙と涼風の3人で勝ち得た気持ちなんだ。私達だけで頑張った結末なんだ。
そう、私は自分の進んだ結末を決して間違えたとは思っていない。そして、これからだって決して変わらないんだと思う。
私は亜里沙と涼風――3人の力で、みんなの想いを受け止めたい!
3人の力で、みんなに想いを伝えたい!
そう考えているから、お姉ちゃんを真っ直ぐに見つめていた。
お姉ちゃんは無言で私達を見つめているだけだった。だから――
「続けます」
「「――ッ!」」
「…………」
素直な気持ちをお姉ちゃんに――ううん。私はこの時、目の前のお姉ちゃんは『私のお姉ちゃん』じゃないんだと感じていた。
あっ、そうか。だから初めて見た表情だったのかも知れないね。
私達は今日初めてステージに上がったんだから。
今私の目の前で対峙しているのは、スクールアイドルの先輩としての高坂 穂乃果さんなんだ。
もしくは、学院の生徒会長としての高坂 穂乃果先輩なんだろう。
身内びいきは願い下げ! なんて言っていたのに、1番身内を意識していたのは私だったんだね?
今の私達は音ノ木坂学院の講堂。ライブをする為のステージに立っている。
つまり、今の私達はスクールアイドルであり、音ノ木坂の生徒なんだ。
同じ立場として、彼女はスクールアイドルを愛する者。学院を愛する者として対峙しているんだと思う。
だから目の前にいるのは私のお姉ちゃんなんかじゃない。高坂 穂乃果さんなんだと感じていたのだった。
今、穂乃果さんから「この先、どうするつもりなの?」と聞かれたんだ。
それはスクールアイドルの先輩として、学院の生徒会長として――音ノ木坂学院のスクールアイドルとして結果を出せなかった私達への問いなんだと感じていた。
だから後輩である私の素直な気持ちを、穂乃果さんへと伝えたのだった。
私の言葉に驚く亜里沙と涼風。そんな私達を一瞥した穂乃果さんは――
「なぜ?」
冷ややかな表情のまま疑問を投げかけると、誰もいない周囲を見渡して――
「これ以上続けても意味があるとは思えないんだけど?」
そう私の言葉を切り捨てるように言い放つ。
続ける意味――それは音ノ木坂にお姉ちゃん達がいる以上、私達だけで頑張っても意味はないと言うことだろう。
実際にそうなのかも知れない。それはチラシ配りの時に実感していたこと。
同じ学院にトップと無名のアイドルがいたら、当然トップを応援するだろうと思う。
つまり2年生の花陽さん達が卒業するまで――少なくとも、私達が3年になるまでは無理なのかも知れない。
とは言え、それは私達だけで活動をすれば? って話なんだろうね。
無難に穂乃果さん達と、一緒に活動をするのが良いことなのは理解している。でも――
私は、それを認めない。それは私の目指した場所なんかじゃない。
それは私達が憧れて近づきたい輝きなんかじゃないんだから。
それに、私はもう後悔しかけていたんだ。自分の勝手な諦めで、みんなに何も返せないと言う後悔を。
もしも、このまま穂乃果さん達と一緒の活動を選んだら――
私達だけで頑張ったライブに拍手をしてくれた絵里さん達、ツバサさん達、ミキ達。
そして応援しているクラスメート達。ことりさん達。そして応援してくれているみんなに、本当に何も返せなくなる。
だから、私達はこれからも続ける! 自分達だけで、みんなへと返していくんだ!
そんな風に思っていた私だけど、自分の心の1番シンプルで、1番強い想いを穂乃果さんへと言い放つ。
「――やりたいからですっ!」
「…………」
うん。もちろん、みんなへ想いを伝えたいとか、何かを返したいと言う気持ちはあるんだけどね?
でも、やっぱり自分自身がスクールアイドルを――自分達だけのスクールアイドルを進み続けたいって想いが1番強かったんだよね。
それが私達の憧れて、目指して、近づきたいって思っているスクールアイドル μ's を突き動かしていた原動力なんだと思っているから。
私の言い放った言葉を無言で受け止める穂乃果さん。だから、私は素直な気持ちを繋げるのだった。
「今日初めてステージに立って、眺めているだけだったスポットライトの光を浴びながら歌って踊って……私、今……もっともっと歌って踊りたいって思っています。きっと、亜里沙と……涼風も……」
「「…………」」
同じ気持ちでいてくれていると確認するように、2人の方へと振り向いた。2人は笑顔で頷いてくれていた。
その笑顔に笑顔を返した私は、再び穂乃果さんへと向き直ると――
「ステージの上から見た景色は、下から見る景色と全然違って凄くドキドキしました……こんな気持ち、初めてなんです。でも、そう感じているのは……たぶん自分達だけで頑張ってきたからなんだと思います。辛いことや苦しいこともありましたけど……自分達だけで、やって良かったって、本気で思えたんです! 今はこの気持ちを大事にしたい……このまま私達だけで活動しても、誰も見向きもしてくれないかも知れない。無名の私達では、応援なんて誰もしてくれないかも知れない。でも、私達だけで一生懸命頑張って……私達だけで、とにかく頑張って届けたい。今私達がココにいる、この想いを! いつか――」
ありのままの気持ちを、穂乃果さんへと紡いだ。そして、私は一瞬だけステージの上から客席を見据えて――
「いつか私達――必ずココを満員にしてみせます!」
穂乃果さんの方へ向き直ると、声高らかに宣言するのだった。
私達のライブは今日始まったばかり。今は誰も見に来てくれないのかも知れないけど。
それでも、この講堂を私達のライブで満員にしてみたいと願っている。あの――
講堂全体が沢山の色の光で包まれていた、お姉ちゃん達のライブのように。
♪♪♪
「…………」
「…………」
「――ッ」
声高らかに宣言した私は、ジッと穂乃果さんを見据える。そんな私をジッと見据え返している穂乃果さん。
数秒ほどジッと私達を見据えていた穂乃果さんの口が開き始めていた。
私は覚悟を決めた。私達の決意は変わらない。
例え仲違いをしたとしても、自分の選んだ道なんだから。
どんなに否定的な言葉を浴びせられても私の答えは変わらないんだ。
そんな決意を持って穂乃果さんを見つめていた。なのに――
「……そっか? うん。その夢、絶対に諦めちゃダメだよ? ファイトだよ! ……うん、ファイトだよ!」
それまでの冷ややかな表情から一変して、満面の笑みを浮かべた穂乃果さん――
ううん、今目の前にいるのは私の良く知っている『私のお姉ちゃん』だ。
そんなお姉ちゃんが、私達に向かってエールを送ってくれていたのだった。
突然のお姉ちゃんの態度の変化に、戸惑いを隠せないでいる私達の目の前で――
「――ねぇ? ちょっと……」
絵里さんが何とも言えない表情を浮かべながら、お姉ちゃんに声をかけていた。
「あっ、絵里ちゃん……希ちゃんとにこちゃんも! それに、ツバサさん、英玲奈さん、あんじゅさん。わざわざ、ありがとうございます!」
絵里さんの声に反応したお姉ちゃんは、満面の笑みを浮かべて、その場にいた人達にお礼を述べる。
そんなお姉ちゃんに、複雑な表情を浮かべている絵里さんは言葉を繋げたのだった。
「ねぇ、穂乃果? まさかとは思うんだけど――」
「うん。そのまさかだよ? あっ、似てた?」
「やっぱり……と言うよりも、私ってそんなイメージだったの?」
「うーん。自分では似ていたと思うんだけどなぁ……」
「いやいや、穂乃果ちゃんの場合……言ってみれば、愛のムチやからねぇ。えりちみたいに全面否定オーラを醸し出せておらんから、及第点ってところなんやない?」
「……ねぇ、希? まさかとは思うんだけど――」
「うん。そのまさかやね? あの時のえりちは、本当に穂乃果ちゃん達をやめさせようとしていたんやし? 真実やと思うけどなぁ? せやから、穂乃果ちゃん以上に冷たくて怖いってイメージやったね?」
「そ、そんなに!?」
「そうね? 確かにあの時のあんたは鬼気迫るイメージだったわねぇ。だからなんじゃない? 花陽と凛があんたを苦手だったのって?」
「……2人とも、そんな風には見えなかったけど?」
「いや、メンバーに入る前の話よ? まぁ、あたしもあの頃はあんたと同じような感じだったし、他人の事は言えないんだけどね?」
「…………」
「……何よ、希? 人の顔を不思議そうに見て……何か文句あんの?」
「いや? えりちと、にこっちが同じって言うとるから……えりちは確かに怖かったけど、にこっちは可愛いってイメージしかないんやけど?」
「うぐぐ……人を子供扱いしないでよ!」
「あぁれぇ? ウチは別に子供なんて言うとらんけどぉ?」
「希……あんたねぇ?」
こんな風に、何時の間にか周囲に流れていた不穏な空気は姿を消して、他愛のない会話が繰り広げられていたのだった。
正直、その時の私には理解できない会話だったんだけどね?
例の如く、あとからお姉ちゃんが教えてくれたのだった。
どうやらお姉ちゃんが取った不自然な言動は、去年自分達がファーストライブを終えた直後に絵里さんから受けた言動だったらしい。それを真似して私達へ言ったんだって。でも、それは――
お姉ちゃんが絵里さんの取った言動も含めて、自分達のファーストライブだと思っているからなのだと言う。
ただ普通に、花陽さん達に見てもらって拍手を送られたこと。そして、ライブの充実感と満足感だけでは、今の自分達までには成長することはなかったんじゃないか?
お姉ちゃんはそう感じているらしい。
否定的な意見を突きつけられたから『自分達の本当の気持ち』に向き合えた。
壁にぶつかったから『何があっても進み続ける』決意を持てたのだと話してくれた。
私はその話を聞いて、自分がライブ中に感じていたことを思い出して、納得していたのだった。
確かに、そうなのかも。
もしも、あのまま絵里さん達の拍手を受けてライブが終わったのなら――まぁ、嬉しい気持ちが溢れていたんだろうけどね?
でも、それだけだったんだと思う。
だって、あくまでもライブ自体には満足出来たと思っていたし、それに対する拍手を送られていたのだから。
そう、自分達は満足をするだけで終わっていたんだろう。
もちろん反省はするとは思うよ? パフォーマンスの出来だとか、お客さんを呼べなかったこととか。
だけど、自分の気持ちには向き合うことはなかったと思うし、改めて決意を持つこともなかったような気がする。
否定的な意見が出ないなら、わざわざ自分を追い込まないじゃん?
このまま続けても良いのかとか、何の為に続けるのか、なんてね?
私は別に、そんなに強くはないんだから。
でもね? それではダメなんだと思うんだ?
私達は、私達だけのライブをしたいと願っていた。それが辛い結果になることを知っていても、それはお姉ちゃん達が通った道だから望んだこと。
だけどさ? 真似をするだけじゃ意味はないんだよ。
ただ完敗からのスタートをするだけじゃダメだったんだよね?
ううん。違うのかも知れない。
希さんが言った『完敗』と言うのは、別にお客さんが来なかったことだけを指した言葉じゃなかったのだと思う。
彼女が言った完敗は、たぶん――
絵里さんから突きつけられた、否定的な言葉まで含めて言ったのだろうから。
だって、自分達の想いが伝わっていないってことを意味するのだから。
そして、それだけ否定的な言葉を突きつけられても、諦めずに前へ進み続けようとしたから『完敗からのスタート』なんだって思うのだった。
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