非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜
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第34話『切符』
前書き
さてさて、新ストーリーを始めましょう!
とは言え、前半は部活戦争の振り返りですけども。
体育祭の日から休日を挟んだ平日。
既に授業を終えた俺は、魔術室に来ていた。
そこに揃うは魔術部全員。車座になって座っている。
そして、難しそうな顔をしていた部長が徐に口を開いた。
満面の…笑みと共に。
「部活戦争、優勝だぁー!!」
「「「おおぉぉっ!!」」」
急に魔術室を包む大声。
全員が全員歓喜の声を上げ、自分の部活の功績に喜ぶ。
「あんたらテンションおかしいわよ…」
しかしその最中、呆れた様な表情で横槍を入れたのは副部長。ため息をついて、憐れむ目でこちらを見渡す。
「何言ってんだ! 優勝だぞ? 超大金ゲットだ!!」
部長がハイテンションで吠える。
俺も少なからず、そのテンションには共感できた。
詳しい額はよくわからないが・・・体育祭が終わると部費という名の大金が魔術部にもたらされた。
あくまで部費であり、私用で使うのは厳禁だが、お金が貰えたという状況だけで、俺はつい頬を綻ばせてしまう。
「それにしても部長、そんなにはしゃいで身体は大丈夫なんですか?」
歓喜の声から一転、俺はそんな話題を振る。
金銭面で喜ぶのは結構だが、健康面が心配なのだ。
まぁ、人を心配できるほど俺の怪我が軽い訳では無いのだけども。
「問題ナッシングだぜ! もうピンピンだよ!」
肩を振り回して元気をアピールする部長。
「やっぱ痛い」などという様子も見せないため、ホントに平気なのだろう。
すると元気アピールを止めて、部長が一言言った。
「にしても、起きたら辻が横に居てビックリしたぜ。まさか看病してくれてたり? 普通に寝てたけど」
「……!!」
部長の唐突な発言を聞いて、誰もがその言葉の中心人物を注視した。それはもちろん、副部長のことである。
俺や暁君は知っていたけども、二年生の先輩方の反応はやけに初々しい。
もしや、と俺が思った瞬間、先輩方が一斉に口を開いた。
「え、それ『看病してた』で間違いないっすよ!?」
「看病とか、優しいとこあるじゃないですか、副部長!」
「しかも寝てたって…進展ですか?!」
「うわ、やべぇ!!」
その声を聞くや否や、超スピードでスッと目を逸らした副部長。
知らないフリのつもりかわからないが、どう考えても無理がある。
先輩方はその様子を見て、無言を肯定と判断し・・・
「「マジかよ」」
全員で驚きの声を上げていた。
一方部長は、どういう意図で話が進んでいるのかわからないのか首を傾げており、それと対照的に副部長は、二年生の話を聞いてから、横顔からでもわかるくらい頬が真っ赤になっていた。
なんか可哀想だから、話逸らそうかな。
「そういえば、部長と茜原さんの勝負ってあの後どうなったんですか?」
俺はもう1つ気になっていた事を訊く。
それは部活戦争の結末であり、部長が勝ったということ以外は未だに微塵も知らないのだ。
だが、部長は頭を掻くとスパッと言った。
「俺もあまり覚えちゃいねぇんだ。何つーか…最後に、奴の首を掴んで電流を流したってことだけは覚えてんだけど」
「あ、なるほど…」
部長は申し訳ないといった感じだったが、俺はその解答で充分だった。
確か茜原さんは、ゴム手袋やら白衣やらで全身を装備していた。それは部長の電撃対策であり、効果もバッチリである。
だが、そんなフル装備には弱点が有った。即ち…首元。そこだけはオープンになっていた気がする。
そして部長は本能的にそこを狙った。何も覚えてない以上、確証がないけども。
なるほど、そういう流れだったのか・・・
「そんな話どうでもいいっすよ。それより部長、“体育祭の日の雨”って不思議じゃなかったっすか?」
話題が急にガラッと変わる。
それを行なった張本人、暁君は、部活戦争の話に興味を微塵も示さず、ただただ自分の疑問をぶつけていた。
その不意な疑問に、部長は素早く反応する。
「あぁ、俺もそう思う。確かにあの雨は急に降ったからな」
「ですよね」
部長が頷くと、暁君が頷き返す。
2人で共感したようだ。
・・・話の変化が早くて頭が追いつかないんだが。
えっと…体育祭の雨ってことは、あの大雨のことか。体育祭を中止にさせる程の。
う~ん…言われてみれば確かにおかしい。
あの日の天気予報を見た訳ではないから断定はできないが、少なくとも午前中は雲一つ無い快晴だったはずだ。
遠い所に巨大な雨雲があった訳でもない。
だったら、あの雨はどこから来たのだろうか。
「なんでも、低気圧が急に発生したとか。それで雨雲が急速に発達して…だとよ」
「でもそれだと、気圧が急に変化したってことっすよね? そんな事態がどうしてあの日に・・・」
「気流やら風やら操れれば、それは可能なんだろうよ・・・って、あれ?」
「「風を操る?」」
部長と暁君が議論する中、最後の問いには俺の声も被っていた。
おい、だったらあの雨って・・・
「つまりあの雨は、三浦が引き起こしたってことなのかしら?」
いつの間にか復活した副部長が、簡潔にまとめた。
全員がその言葉を聞いて、唖然とする。
ゴクリと唾を飲み込む音。それと同時に、俺の方を向く皆の目線。
そして俺自身、口を開けて固まっていた。
「この仮説が正しかったら、三浦って天気を操れることになるぞ」
「それって、『天変地異も思いのまま!』って感じかしら」
「もはや兵器じゃないっすか、その力」
様々な意見が飛び交う中、俺の思考はある所に飛んでいた。
俺のせいで体育祭が中止になったのか、と。
部長の仮説はきっと正しい。でないと、急に低気圧やらが現れるなんておかしいのだ。
つまり俺のせいで、生徒全員の思い出になるであろう体育祭が・・・無くなったのだ。
「あ、あぁ…」
そう考え始めると、俺はいよいよ自己嫌悪に陥る。
俺のせいで俺のせいで俺のせいで──
「おい三浦、そんな暗い顔すんな。別にお前が悪い訳じゃない。不可抗力ってやつだよ」
俺の心が一瞬戻った気がした。
なおも言葉は続く。
「そうよ。魔術を使ってこその魔術部なんだから、そんな異常気象なんかドーンと受け止めなさい」
「ったく、俺より先に妙に凄い力手に入れやがって。俺も何か会得してやる…!」
俺は目を見開き、困惑する。
本来であれば、責められても何も言えない立場だというのに、なぜ、彼らは俺を庇おうとするんだ?
彼らの表情に陰りはない。本心から言っているようだった。
何で?
そんな俺の疑問は、部長の言葉によって打ち砕かれた。
「お前は仲間だ。どんな行いだって正当化してやるよ」
その言葉は、俺を安心させるには十分だった。
感謝してもしきれない寛大さ。俺はそれに救われたのだ。
「迷惑かけて、すいません」
俺の口から出たのは、そんな謝罪。
もっとも、悲しんだ表情ではなく、笑みと共にだ。
*
「ところで部長、何に使うんですか?!」
脈絡を考えない俺の質問。この質問もまた、話題を急変化させていた。
しかし今回に至っては、その変化先が全くもって明快でない。それは皆が『?』を浮かべていることから、容易に想像できる。
俺はそれに気づき、訂正するように二の句を継いだ。
「あ、部費のことです」
その言葉で誰もが理解した。
そして部費の主である部長を、全員が見据える。
すると注目された人物は、軽口を叩く様に言った。
「俺が欲しいって言ってたヤツの話だろ?」
誰もがその言葉に頷き、続きを聞きたいと言わんばかりに部長を見つめる。
部長はその様子を一通り眺めると、表情を変えずに言った。
「実はそれ、もう手に入れちゃった」
「「へ??」」
全員のマヌケな声が重なる。
間違い無い。この人は今言外に「部費を使った」と言った。
…ほぼ私用で。
「部長、一体何に使ったんですか?!」
「そうよあんた、相談もなしに!」
俺と副部長の糾弾。さすがにその剣幕には、部長もタジタジだった。
「いやいやいや、心配することじゃねぇよ。ちゃんと魔術関係だからさ」
「だから、それは何ですか?」
「お前もうちょっとタメさせろよ…。──まぁいい、実物が有るから直接見せてやる」
部長は制服のズボンのポケットをまさぐる。
俺たちは、それを待ちきれないといった様子で注視した。
そして部長がついに取り出す──
「石ですね、はい」
部長が取り出した物の存在を知るや否や、誰の言葉よりも早く俺の言葉が部長を射抜く。
しかし部長はそれに怯まず、言葉を返した。
「残念、違うんだな~。これは、見た目はただの石っころだけども、実際はちゃんとした“魔石”なんだぜ?」
「ん?」
不意に出てきた新出単語。俺はそれが理解できなかった。さながら、初めて聞いた英単語を理解できないかのように。
部長が取り出したのは、石と形容して差し支えない一品であり、特別凄い物には見えなかった。
部長の右手にスッポリ収まるサイズのそれと、ただの石との違いを言えば、“青く発光していたこと”と、“細い正八面体を象っていたこと”だろう。
だがそれ以外は特に変わり無し。「綺麗な石」といえば誤魔化せるレベルだ。
そんな物体を不思議そうに見る、俺を含む部員全員を見渡し、部長は“魔石”の説明を始めた。
「この魔石は『夢渡石』という名でな。簡単に言えば、"夢から異世界にワープできる"んだ」
「「んん??」」
部長の説明に、さすがに全員が首をかしげる。
一方部長はその反応が面白いのか、ニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「え、じゃあそれを使えば夢の世界に行けるってこと?!」
「ちっちっち、夢の世界じゃなくて異世界。完全に別の次元に行けるんだ」
そのことを聞いた途端、皆の目の色が変わる。部長のドヤ顔を見て、誰もが「これはヤバい」を思ったのだ。
「詳しい説明は後でするけども・・・驚いたか?」
「いやいや、驚かない訳がないでしょ!」
「どうやったらそんなモン手に入るんすか!?」
「あんた一体何者よ?!」
「魔術部の部長様ですぜ」
ギャーギャーと喚く魔術部部員一同。
それを制止する者など居らず、逆に全員で騒音を掻き立てていた。
そして様々な言葉が渦巻く中、1人の質問が場を治めた。
「いくら貢いだんですか?」
騒音が、打って変わって静寂に。
誰もがその質問に賛同し、石を買った張本人を見る。
その人物は「あ」と思い出したように一言洩らし、今までの満悦顔を消すと、バツが悪そうに顔を伏せた。
俺はその行動に疑問を抱き、先輩方も「部長?」などと声を掛ける。
部長は、そんな皆の反応を見て決心したように言った。
「実は…貰った部費の半分以上使った・・・」
「「え?!」」
部長以外の全員の驚きの声が重なる。
俺は魔石と部長を交互に見て、また口をあんぐり開けて固まった。
確か優勝賞金は1億円だから・・・つまり、この石っころに、数千万円の値があるということになる。
「どういう理屈ですかそれ?!」
「そもそもどこで買ったのよ?!」
「すまん…それは内緒だ」
唇を噛み、悔しそうに言った部長。だがどう見ても、それは演技だった。
「…策士かよ」とボソッと呟く暁君が横目に見える。
すると、部長は「それはさておき」と前置きすると、真剣な顔で言った。いや、さておいていいほど軽い話題じゃなかったのだけども。
「この際だから単刀直入に言う。この魔石を、俺じゃない誰かに保管して欲しい」
「「……」」
沈黙が流れる。
たぶん全員、今の言葉の“裏”を探っているからだろう。
あまりに直球な発言。引っ掛け問題では、と必死に頭を働かせる数学の時間の感覚だ。
だがその言葉に大した裏が無いことは、直後の副部長の発言によって証明された。
「あんたって物持ちが悪いもんね」
「恥ずかしながら、な」
「「……」」
再度沈黙。今度は呆れの表情が、全員から見て取れた。
「誰かに保管して欲しい」といった意味。つまり、「自分じゃ保管できない」と遠回しに言っていたのだ。
そして部長は一息つくと、全員に聞こえるようハッキリと言った。
「三浦、任されてくれないか?」
「え?」
部長は、俺の目を真っ直ぐ見据えていた。
*
時刻は午後9時。
ベッドに胡座をかいて座る俺は、目の前の不思議な石に対して唸っていた。
「これで…異世界に…」
常人では理解に苦しむ説明・・・いや、「アニメの観すぎだ」と切り捨てられるような説明を、あの後部長に散々受けた俺。
だが、元々魔術という不可思議な物を持つ俺からすれば、その説明は「魔術」の一言で方が付くものだった。
『これを枕の下に入れて寝る。そうすればやることはおしまい。後は異世界を堪能するだけだ。お前に所持を頼む以上、使うのはお前の意思でいい。早速、今日から使ってみたらどうだ?』
頭の中を流れるのは部長の言葉。
彼は魔石を俺に託した。要するに、それを俺は自由に使って良い。
まぁ、実験台という可能性も否めないけど・・・
「ええい、ままよ!」
勢いで、枕の下に魔石をぶち込む。
そのまま俺は寝転がり、電気を消して眠りにつこうとする。
──眠れないけどね。
気分は遠足前の子供。
「危険かも」という考えも有るが、それに勝る程の期待が頭を埋め尽くす。
よし、こうなったらお決まりパターン・・・
「羊が1匹…羊が2匹…羊が3匹…羊が・・・」
俺は寝れない時のお決まり文句をブツブツと呟き始める。
すると、次第に数がわからなくなっていくのがわかった。
そしてある瞬間、目を瞑っていて真っ暗なはずの視界が、
──突如として眩い光に包まれた。
後書き
前半の端折った感は、目を瞑って戴けると嬉しいです。
さてさてさーて! 次回より新ストーリー『異世界転移編』をやって行きます!!
わぁ楽しみだ!・・・って、え? 何で急にそんなのをって?
・・・べ、別に異世界アニメに影響を受けた訳じゃ無いんだからね!()
──さて、ツンデレ発言は置いといて。
皆さんの中には、もしかしたら気付いた方も居るかと思いますので、先に言っときます。
今回のストーリー・・・晴登以外の現実世界キャラがほとんど出ません。
ファーーー!!!(泣)
…ま、まぁ良いさ。異世界とか何でも有りだし? 何でもできちゃうし? 現実無視できちゃうし?
取り敢えず突飛な物語にしたいです! はっちゃけて頑張るぜ!!
*追伸
何とか今日に更新できて良かった~。
実は今日は自分の誕生日なんです。ハッピーバースデェイ!イェー!!・・・・寂しい(泣)
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