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FGOで学園恋愛ゲーム

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二十二話:ライフゲーム


「この! そんなところでボサッと止まってんじゃないわよ! 賠償金はあんたが払うべきよ!」
『文句を言っても、ぶつかってきたのはそっち。さあ、おじぎをするのだ、ポッター!』
「くっ、これが現実なら車ごと焼き払ってあげるのに…!」
『リアル人生ゲームは勘弁』

 わいわいがやがやと、人生ゲームを囲む、ぐだ男達。
 ジャンヌ・オルタ、清姫、ブリュンヒルデ、ジークフリート、そしてぐだ男の五人だ。
 五人は宿題をやるために、ぐだ男の部屋に集まったはずなのだが、現状はこの様である。
 友達と集まれば遊んでしまうのが学生の(さが)である。

「それでは、俺のターンだな。……1か。しかし、また資金は増えたようだ」
『さすが、黄金律。でも、一番遅れているね』
「どうにも、俺はこういったゲームではあまりいい目が出ないらしい」

 五人の中では最も遅れているものの、止まるマスのほとんどが、お金の増えるマスのジークフリート。
 ついているのか、ついていないのか、非常に判断のしづらい状況である。

『……それにしても、ボードゲームにして本当に良かった』
「あんた、今、なんか言った?」
『気にするようなことは言ってないよ』

 疑問符を浮かべるジャンヌ・オルタを残して、ぐだ男は数時間前を回想する。
 初めは、大乱闘コロッセウムというゲームをしていた。
 だが、個性ある友人達は簡単に問題を起こしていったのだ。

【なによこれ!? 防御力高過ぎ! バグじゃないの!?】
【悪竜の鎧が強すぎてすまない。これでも、竜殺しの大英雄の力のほんの一端なのだが……】
【竜の血を浴びてあれほどの力……つまり、私も竜になれば】
【ああ、シグルド……勇ましい姿、でも殺さなきゃ。愛さなきゃ…殺さなきゃ……】

 圧倒的な力を見せつける大英雄ジークフリート。
 そのあまりの強さに、一方的な戦いになってしまったり。

【ヒャッハー! キングボンビーをくらえ!】
【ちょっ、ふざけてんじゃないわよ! ぐだ男のくせに!!】
【リアルファイトは危険だ。すぐにやめるべきだと、俺は思うぞ】

 最下位争いで、醜いボンビーの押し付け合いを行った、ぐだ男とジャンヌ・オルタ。
 結果的にリアルファイトが勃発し、オルタのコブラツイストが炸裂した。
 もっとも、ぐだ男からすれば、柔肌を堪能できたご褒美だったのだが。

【お姉様、ババ抜きはやめて、そろそろ別のゲームでもやりませんか?】
【嫌よ! 絶対に勝つまでやめないわよ!!】
【負けず嫌いって厄介……】

 ババ抜きでは、ジャンヌ・オルタがもろに表情に出すせい、で負け続けるという事態になる。
 それでも、負けず嫌いの彼女は諦めずに挑戦し続け、時間だけが過ぎていく。
 途中で、ぐだ男がわざと負けてあげようとしても、問題が起きる。

【旦那様……今、嘘をつこうとしていませんでしたか?】
【清姫さんとダウトをしても、勝てそうにありませんね】

 噓つきは絶対に許さない少女、清姫の妨害にあい、真剣勝負を挑まざるを得なくなるのだ。
 もし、彼女とダウトをしたのならば、彼女以外の参加者は全員焼き殺されていくだろう。

『ボードゲームなら嘘もないし、運次第だから誰でも勝てるチャンスはある』

 そのような試練の果てにたどり着いたのがボードゲーム。
 反則を自ら侵さない限りは、まず嘘つきにならず、公平に遊べるゲーム。
 まさに、この面子でやるのにピッタリのゲームなのだ。

「では、私の番ですね。どうやら、ここで結婚のようですね。
 ―――あ、ご、誤解しないでくださいね、旦那様。あくまでもゲームの中です!
 決して、決して! 浮気ではございません!!」
『うん、分かってるよ。だから、俺のキャラが結婚しても怒らないでね』

 誤解されたらどうしようと、焦りながら必死に弁解する清姫。
 彼女のそんな姿に、ぐだ男は思わず可愛らしいと思いながら返答する。
 ちゃっかりと、自分に危害が加わることの無いように誘導しながら。

「はい。お相手はゲーム上の私だと思っていますので問題ありません」
『そっか、そっか…そっか……』

 しかしながら、ぐだ男の小細工など、視界にも入らないかのように、踏みつぶされてしまう。
 前世、現世、来世、そしてゲームの世界でも彼女は離れない。
 愛に不可能はないのである。

「次は私の番ですね。……私も結婚ですか」
「ええ、そうね。だから、ナチュラルに女を乗せようとするんじゃないわよ。あんたも女でしょうが」

 結婚マスに止まり、流れるような仕草で、女性を隣の席に乗せようとするブリュンヒルデ。
 それに対し、ジャンヌ・オルタは、まさか自分のつもりかと、恐れながらツッコミを入れる。

「望まぬ結婚は嫌です。はい、旦那が薬で記憶を奪われて、寝取られるなんて最悪です」
「そ、そうね。そんなことする奴は縊り殺さないといけないわね」
「ええ。ですから、絶対に奪われないように、ゲーム内でも死守していようと思います」
「結局、旦那なら男でしょう。屁理屈言ってないで男の方を乗せなさいよ」

 どことなく暗い話になりながらも、最後にはツッコミが入る会話。
 せっかく遊んでいるのだから、楽しいのが一番なのだ。

『さて、やっと俺のターンか。一気に行くぞ』

 気合を入れてルーレットを回す、ぐだ男。
 現在は金額的には3位だが、ここからの追い上げも十分に可能だ。

『よし、9だ。なになに……“妖怪に襲われ、鐘の中に隠れた。ルーレットを回して奇数が出ないとスタートから。”……なんだ、このマス?』
「鐘の中に囚われるなんて……私が居れば鐘を溶かして差し上げますのに」
『どう考えても、それって蒸し焼き案件だよね?』

 謎のマスに止まり、冷や汗を流すぐだ男に、清姫がニッコリと笑いかける。
 非常に可憐な笑みなのだが、ぐだ男には何故かその姿が蛇に見えるのだった。

『とにかく、奇数を出さないと……』
「大丈夫です。偶数でも、私はどこまでもついていきます」

 清姫の応援を受けながらルーレットを回す。
 誰もが固唾をのみ、その結末を見守る。


『……4だ。 “残念! 鐘の隙間から服の裾がはみ出していた。来世(スタート)からやり直そう』


 現実は非常だった。妖怪に襲われたぐだ男は、スタートからやり直すことになってしまった。

「あははは! いい気味ね。私の車にぶつかるから、そんなことになるのよ」
『いや、俺はぶつかられた方なんだけど……』
「うるさいわね。いいから、一人みじめにスタートからやり直しなさい」

 腹を抱えて笑うジャンヌ・オルタに、ムッとなって言い返すが、結果は変わらない。
 しぶしぶとスタートから始めることにする。
 そんなところで、部屋の扉がノックされる。

『はい、どうぞ』
「お邪魔するわね」

 中に入ってきたのは、輝く銀の髪に赤い瞳を持つ美しい女性、アイリスフィールだった。
 手には、お菓子とお茶が入ったおぼんが握られていた。

『あれ、アイリさん? 来ていたんですか』
「今日は、一緒にご飯を食べようって、切嗣から聞いてなかった?」
『そう言えば……』

 衛宮家は両親が不在のぐだ男に、家族ぐるみで世話を焼いてくれているのだ。
 時折、こうして衛宮家の夕飯にお呼ばれすることがあるのだ。

「よかったら、皆さんもどうかしら? 腕によりをかけて料理を作るわよ―――私が(・・)
『……Pardon?』

 ニコニコとしながら告げられた爆弾発言に、ぐだ男は顔を真っ青にする。
 アイリスフィールは、今は一主婦として人生を満喫しているが、元は超がつくお嬢様である。
 お城に住み、メイド達に世話をされて育てられてきた。
 そんな人間が料理ができるだろうか。いや、できない。

「私が作るのよ。いつもは子供達にやってもらっているんだけど、たまには、お母さんらしいところを見せないと」
『そ、そのままでも、十分、母親らしいと思いますヨ』
「ダメよ。こういうのは行動で示すものだって、切嗣も言ってたわ」

 既に、やる気満々なアイリスフィール。
 ぐだ男は避けられない運命を悟り、友人達だけでも逃がそうと目配せをする。
 それを受けて、ジークフリートが小さく頷く。

「お言葉は嬉しいのだが、家族の団欒を邪魔するわけにもいかないだろう」
「あら、別に遠慮しなくてもいいのよ。食事はみんなで楽しくね」

 ロシアンルーレットという意味でなら、楽しくなるかもしれないと、ぐだ男は考えるが口には出さない。

「ですが、これだけの人数が増えると大変ではありませんか? お義母様(おかあさま)
「そう言われると……一人だと大変かもしれないわね」
「でしたら、義娘(わたし)がお手伝いします」

 所々で、不穏な言葉が混ざっている清姫であるが、起死回生の一手を繰り出してみせる。
 そう、手伝いながらであれば、最悪の結果は免れるかもしれないのだ。
 もっとも、本人からすれば、ただ単にアピールの場だと思っているだけだが。

「いいのかしら?」
「ええ、何もしないというのも心苦しいので」
「それなら、手伝ってもらおうかしら。ふふふ、楽しみね」

 にこやかに会話を交わす二人の姿にぐだ男は胸を撫で下ろす。
 何とか死傷者が出ずに済みそうだと。





『マモレナカッタ……』

 目の前で、ブクブクと不気味な泡を立てる料理を見て、ぐだ男は肩を落とす。
 メインに置かれているこれ以外の料理はまともだ。
 他のものは、清姫とエミヤが作り上げたので、美味しそうに見えるためにギャップが激しい。

『清姫、エミヤ……これは一体?』
「……ええ、嘘はありませんでした。正直だけで作られた料理です、これは」
「私も何とか止めようとしたのだが……自分一人で作るといって聞かなくてな」

 どうしたものかと三人で頭を抱える。
 口に含んだ瞬間に、舌が物理的に溶けてしまいそうな、シチューのような何か。
 小5のイリヤやクロは勿論、女性陣に食べさせていいものではない。

『……男だけで完食しよう』
「ああ、それ以外になかろうよ。女性を危険にさらすわけにはいかん」
「このようなことになるのなら、悪竜の血で背中と言わず、胃も強化しておくべきだったな……」
『そう言えば、ジャンヌ・オルタってファブニールを飼ってたよね……』
「ちょっ! ポチをどうするつもりよ! やめなさいよ、目が冗談に見えないんだけど!?」

 今からでも、竜の血を飲めば、この局面を切り抜けられるかもしれないと考える、ぐだ男。
 しかし、当然のことながらジャンヌ・オルタに猛反対され、すんでのところで踏み止まる。

「……思いついたよ。この料理を穏便かつ、最小の犠牲で処理する方法をね」
「おとーさん? なんだか目が怖いんだけど……」

 そんな絶体絶命の状況の中、一家の大黒柱は重い口を開く。
 イリヤが、普段と様子の違う切嗣の様子に驚いているが、彼は気にすることなく言葉を続けた。


「―――スケープゴートだ。男性陣の中から一人を囮にする」
『げ、外道だ…!』


 至極真面目な顔で放たれた言葉は、1を切り捨てて、2を取る正義であった。
 確かに分散させるよりも、一人が食べた方が確実性は増すだろう。
 全滅の危険性を背負うよりも、一人の犠牲を許容する。
 それが正義という集団秩序なのだ。

「フ……それならば、私が行こう。なに、体の頑丈さには自信があってね」
「いや、それならば俺が行くべきだ。俺は生まれてこの方、大病を患ったことがない」
「気にすることはない。囮役のような地味な仕事は、君には向かないだろうよ」
「誰かのためになれるのならば戸惑う理由はない。この心臓を捧げるのも厭わない」

 何故か、率先して犠牲になろうとしている、エミヤとジークフリート。
 声が似ているせいか、それとも内なる正義の味方になりたいという願望がそうさせているのか、それは誰にもわからない。
 だが、二人の口論は発案者の鶴の一声によってさえぎられる。



「いや―――囮役はもちろん僕が行く…。君達はこれからの世界を守っていく、正義の意志達だ」



 切嗣は恐れから声を震わせることもなく、淡々と言い切る。
 そして、制止も聞かずにアイリの料理の器を自分のもとに寄せる。

「親父…!」
『まさか、初めからそのつもりで……』
「あなたは……なぜ、そこまで…」

 動揺し、声を上げるぐだ男達に向き直り、切嗣は穏やかな笑みを見せる。

「僕はね、正義の味方に…なりたかったんだ」
「しかし、その願いは……」
「うん。正義の味方は期間限定で、大人になると名乗るのが難しくなるんだ」

 かつて、世界平和という馬鹿げた理想を掲げた男がいた。
 しかし、理想は呪いに変わり、男をむしばんだ。
 だが、男は一人の女に世界を超えた先でも愛されていた。

「だから、正義の味方になれるのなら、僕は喜んでこの料理を食べるよ」
「爺さん、あんたは……」
「それに、僕がアイリの手料理を他の人に渡すわけがないだろう?」

 故に、全身全霊の愛でもって、返さなければならない。
 キザな笑みを浮かべ、切嗣はスプーンを手に取り、深呼吸を行う。
 そこへ、後片付けを終えたアイリがやってくる。

「あら、あなた。私の料理を独り占めにしてるの?」
「うん。みんなにわがままを聞いてもらってね。やっぱり、奥さんの手料理は僕だけのものにしたいからね」
「もう、切嗣ったらぁ」

 歯の浮くようなセリフを並べ、アイリのご機嫌をとる、切嗣。
 彼の姿からは、特別なものは何も感じられない。
 それは、死線を何度も潜り抜けてきた、歴戦の戦士故に醸し出せる凄みでもある。

「それじゃあ、いただきます」
「はい。お味の方はどうかしら?」

 周りの者たちは、いただきますをしても、食事に手をつけずに切嗣を見つめ続ける。
 それを意識することもなく、切嗣は食べていいようには見えない物体を口に運んでいく。
 口内を形容しがたい味と、触感が蹂躙するが、おくびにも出さない。

「……うん。美味しいよ」
「よかったぁー。ちょっと失敗しちゃったからどうかなと思ったんだけど、お口にあったなら嬉しいわ」

 どこがちょっとだと全員が、無言でツッコミを入れている間にも切嗣は食べ進めていく。
 まるで、一度手を止めてしまえば、二度と進まないとでもいうように。
 鬼気迫る気迫で、スプーンを動かし続ける。

「ふう……ご馳走様。アイリ、悪いけどお茶を持ってきてくれないかい?」
「はい、お茶ね。えーと、どこにあったかしら」

 そして、あっという間に完食してしまう。
 だが、体に残ったダメージは本物であった。
 アイリの姿が見えなくなったところで力なく崩れ落ちる。

「おとーさん! しっかりして!!」
「そうよ、こんなところで倒れてどうするのよ!」
「ああ……イリヤ、クロ……僕は…正義の味方に…なれたかな…?」

 駆け寄ってくる娘二人に、微笑みかけながら切嗣は小さく問いかける。
 自分は子供の頃に憧れていた存在になれたのかと。

「うん…! うん…ッ! おとーさんは正義の味方になれたよ…ッ」
「そうよ…本物の…私たちの正義の味方よ…ッ!」

 娘たちの言葉に満足げな表情を浮かべ、衛宮切嗣は声をはき出す。

「ああ―――安心した」
 
 その言葉を最後に、衛宮切嗣は安らかに瞳を閉じるのだった。
 娘たちからの心の籠った言葉と、小さな安らぎをしっかりと胸に抱きながら。


 ――ケリィはさ、どんな大人になったの?――

 ――僕はね、正義の味方になれたんだ――





「いや、これ食事よね? なんでこんなことになってんのよ? というか、最近こんなのばっか……まともに食事がしたいわ……」

 事態に困惑したジャンヌ・オルタの心の叫びは、誰にも届くことなく消えていったのだった。

 
 

 
後書き
ここまで書いておいてなんですけど、士郎も実装されるかもしれないんでエミヤ=士郎ではないです。

衛宮アチャ太郎がエミヤの本名です(真顔) 
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