おたく☆まっしぐら 2016年の秋葉原
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行こうよ まぶしいオタクの世界
前書き
今回はデート回にしたかったが、果たして……
本郷は期待に胸いっぱい。欲望に満ち溢れていた。
今日は新作フィギュアの発売日。はちきれんばかりのおっぱいが目当てだ。
最近ではエロマンガのフィギュア化も行われている。
明「この作者の造詣は実にすばらしい」
評論家ばりの目利きをするが、本郷くんの目はそれこそバイヤー並みの目をもつ。
コ○ブキヤに並びながら開店時間を待つ。明け方といえど発売を待つ漢たちが地面に座っている。
オタクA「ことねちゃんペロペロペロペロ!!!」
オタクB「ああああああ、ふぁっくしてぇぇぇぇぇぇ」
オタクC「修羅ぱんつ! 修羅パンツ!」
頭にコスプレのパンツを被り、傘を二本わしづかみにして踊りを舞う集団だ。
明「実に! アキバだ!」
本郷これを快活に笑う。
明「かかかっ!」
開店時間。
店内に目の血走る漢たちが雪崩を打って入ってくる。
オタクA「いやああああああああ!!!」
オタクB「ふぁぁあああああああく!!」
オタクC「衝動を……おさえきれないっ!」
雄たけびを上げる集団をよそに、本郷はなんなくゲット。
時代は変わった。限定といえども売り切れるなんてことはめったにない。
明「これはこれで面白くないな……」
限定につられるというのは日本人らしいが、入手が難しいものほど手に入れたくなるのが心情。
???「お目当てのものは手に入りましたか?」
本郷は不意に声をかけられる。
振り向くと和泉 くるみの姿がそこにあった。メガネ姿に制服という。しかも清楚な様子なので場違い感さえあった。
明「お前は……インフルエンスの……」
くるみ「お久しぶりです。本郷さん」
明「和泉 くるみか」
くるみ「覚えててくれたんですね」
笑みを浮かべて本郷の顔を覗き込む。
明「ちぃ……面妖な」
くるみ「ひどいっ……」
目に涙を溜める姿に本郷はたじろがない!
明「ちらっと目薬見えたぞ」
くるみ「ばれちゃいましたか。それより、なにしてるんですか?」
明「この、魔法少女ことねちゃん 陵辱シーンのフィギュアを買っていた」
本郷は惜しげもなく彼女の目の前にパッケージを差し出す。
くるみ「ひぇ……」
明「なんだ? 触手くらいアキバにいれば余裕だろう」
くるみ「わたしは、オタクじゃないですから……」
明「な、なんだと……」
和泉のその言葉に本郷はたじろいでしまう。
明「じゃあ、なんで秋葉原にいるんだ!」
くるみ「近くの本屋で売ってない本も買えるので」
彼女はゆるめに下げたリュックからいくつかのマンガを取り出す。
明「ああ、web漫画のコミックか」
くるみ「こういうの近所の本屋さんだと置いてなくて」
明「そうだな。ここはアキバ、何でもそろうからな」
不敵に笑みを浮かべる本郷に、彼女は近づいていく。
くるみ「ぴたり」
明「うぉっ!」
本郷はバックステップで距離をとる。
くるみ「なんで逃げるんですか」
明「俺の……ATフィールド(心の距離)に近づくんじゃない」
くるみ「彼女でもいるんですか?」
本郷は少し逡巡する。
明「彼女どころか親しき連中は遠いところだ」
生きているかどうかも分からない。
くるみ「それじゃあ、本郷さん」
本郷の手を握り、和泉はひっぱっていく。
明「なにをする! 離せ!」
くるみ「離しません。あなたの居たアキバとここは全然違いますから」
女子高生に連れられるまさにデートといったところか。
本郷は隣に立ちながら彼女に付き従う(掴まれてるか、脅されている)
くるみ「ゲバブ~! おいしい」
明「ああ、うまいな」
くるみ「かれーらいす~美味ぃー」
明「ああ、うまいな」
くるみ「ラーメンっ! 博多の味だよ!」
明「ああ、うまいな」
くるみ「カンダ食堂! 作りおきなのにおいしい!」
明「ああ、ってなお前! どんだけ食うんだよ!」
本郷も満腹はすでに通り越していた。
くるみ「ごめんなさい。秋葉原はおいしい店がいっぱいあるから」
明「アキバはオタクの街なんだがな……」
くるみ「それはもう古いんじゃないかな」
明「それはなぜだ?」
くるみ「オタクって変わっていきましたから、秋葉原の今は進んでいます」
彼女の言葉に本郷は足を止める。
中央通りドンキの前。
往来の真ん中で止まると多くの人が苛立ちつつも避けていく。
明「オタクはオタクだろう」
くるみ「すでにそれは過去のもの。もうみんなタダの趣味になってるんです」
明「ライトオタクより性質がわるいな」
くるみ「とはいえ今では二次元を嗜まない人を探すほうが難しい時代になりました」
明「オタクが普遍化したということだろう? 喜ばしいことだ」
くるみ「それは非現実をなくすにはもっとも効果的なこと。オタクやクリエイターたちから想像の力を奪うことになりました」
明「どういうことだ。オタクは妄想あってのものだろう?」
くるみ「もう古いんです。そしてもう遅いんです」
明「遅い……」
彼女は本郷に近づく。
くるみ「名残惜しいですが、わたしもそろそろ帰らないと」
明「待て! 肝心なことが」
くるみ「なんなら身体でお相手しましょうか?」
和泉は制服の首元から胸元を露出させる。
明「卑怯な……」
くるみ「またデートしましょう! じゃあね、本郷さん」
駆け出していく彼女はまたたくまに雑踏にまぎれていった。
明「オタクが……オタクじゃなくなる」
この言葉は本郷の中にしこりとなって残り続けた。
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