ラブライブ! コネクション!!
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Track 1 両手を広げて
活動日誌5 すすめ→とぅもろう! 1
無事に入部届を受理してもらえた私達はホッと胸をなでおろす。
その瞬間に手の平の冷たさを感じた――どうやら無意識に緊張をしていたらしい。
それまで感じていなかったけど、緊張が解けたせいか、途端に汗をかいていたことに気づく。
私と亜里沙は慌ててスカートのポケットに手を入れて、ハンカチを取り出して手を拭いた。
そんな私達を何も言わずに微笑みを浮かべて見つめている花陽さん達。
私達は少し恥ずかしくなって、ハンカチをしまいながら俯いてしまったのだった。
「……さてと――私は少し席をはずすわね?」
そんな私達を見つめていた真姫さんは、そう言いながら立ち上がり、扉の方へと歩きだした。
「うん。いってらっしゃい」
「わかったニャ!」
「「…………」」
「…………」
「「――! …………」」
花陽さんと凛さんは、真姫さんの後ろ姿にそう告げる。
真姫さんは花陽さん達の声には反応しなかったけど、声がしない私と亜里沙に気づいて振り返る。
私達は慌てて無言で一礼をした。そんな私達に微笑みを向けると、真姫さんは部室を出て行ったのだった。
「……緊張した?」
真姫さんの出て行くのを眺めていた私達の耳に、優しくて――とても心地よい声が聞こえてきた。
声のする方へ顔を向けると――
テーブルに両肘をついて指を絡め、その指で出来た山の頂に――顎を乗せて、少し小首を傾けて笑顔を浮かべる花陽さんの姿があった。
私達はそんな可愛らしい姿の花陽さんに一瞬見惚れていたのだけど、部長であり先輩である花陽さんに聞かれていたんだって気づいて――
「「ぁ……ぁぃ……」」
2人同時に答える。
とても、か細く――聞き取りにくい声で肯定したのだった。
「……そっか? 緊張するよね?」
情けない声を発してしまった私達は顔を赤らめて俯く。
花陽さんは、そんな私達に微笑みながら普通に会話を繋いでくれたのだった。
♪♪♪
「……そう言えば、かよちんが μ's に入ろうとした時……凛と真姫ちゃんで引っ張っていったんだけど、その時のかよちん……すっごく緊張していたニャ」
「えっ!? ……だって、緊張するよ……私じゃ無理だって思っていたし」
「でぇもっ! そんな緊張していた……あの! かよちんが今じゃ部長さんニャ! 後輩を心配できるくらいに成長したニャ! すごいニャ!」
「それを言ったら、凛ちゃんだって……すっかり女の子らしくなってるよ? 前から可愛かったけど……もっと可愛くなったでしょ? 最初は女の子らしいのは似合わないって……それに、リーダーだって無理だって言っていたよ?」
「……凛、そんなこと言ってた?」
「凛ちゃん……」
「冗談ニャ!」
「「……クスッ」」
花陽さんの言葉を隣で聞いていた凛さんは、突然 μ's に入ろうとしていた時の花陽さんの話を始める。それに呼応するように、今度は花陽さんが言い返していた。
2人のやり取りを見ていた私達は思わず笑みを溢していた。
そんな私達を見て――
「……やっと、笑ってくれたね?」
「良かったニャ」
2人はそんな風に、優しく微笑みながら声をかけてくれたのだった。
確かに部室に来てから緊張はしていたけど、まったく笑っていなかった訳じゃない。
だけど、それは造られた笑顔――でもないけど、やはり緊張が下地にある笑顔だったのだろう。
でも今は、緊張から解放されて普通に笑えていたんだと思う。
彼女達はスクールアイドルだ。
去年1年間でたくさんの笑顔を見てきた。たくさんの表情を見てきたんだ。だから、私達の笑顔の違いに気づいたんだろう。
それを気づいたから、こんなやり取りを始めたのかも知れない。
自分達も通ってきた道。
きっと自分達もお姉ちゃん達から――先輩から、こんな風に手を差しのべられたんだろう。とても暖かな思いやりと言う手を。
これは緊張が解けたから気づけたことかも知れないんだけれど?
いつの間にか、凛さんの一人称が変わっていることに気づいた。
どうやら、先輩らしく振舞おうと自分のことを私と呼んでいたらしい。だけど花陽さんとの会話になって、普段の呼び方に戻ったみたい。
まぁ、語尾は最初から変わっていないんだけど? 凛さんも緊張が解けたのかな? って感じたのだった。なんてね。
だけど別に凛さんの語尾はテンプレートではないらしい。
あの語尾は自分が自然体でいられて――なおかつ、気分が高揚している時に無意識に出てしまうものらしい。そんな話を花陽さんに教えてもらった。
これも凛さんの横顔なのかな? そんなことを考えて嬉しくなったのだった。
♪♪♪
緊張が解けた私達は、真姫さんの戻りを待ちながら、花陽さん達の会話を微笑みながら聞いていた。
とは言え、会話に参加する訳ではなく――ただ、2人の会話を聞いて頷いているだけだった。
別にまだ緊張しているからとか、会話に入れないからとかではなく――も、もちろん、話がしたくないからじゃないんだよ? どちらかと言えば会話に参加したかったし。
でも、それが出来ない状況に私と亜里沙は陥っていたのだった。
そんな感じで花陽さん達が会話を続けていると――
「……今、戻ったわ」
扉が開き、真姫さんが戻ってきたのだった。
中に入ってきた真姫さんの右手には、出て行く時にはなかったビニール袋がある。
もちろん他人の持ち物を私が疑問に思うのは失礼なんだけど、どうしても中身が気になってしまった。
そんな感じで、真姫さんのビニール袋を眺めている私の目の前に――
「……はい、コレ飲んで? 好みは知らないから、適当に買ってきたけど……喉を潤すと良いわ?」
そんな言葉を添えて、ビニール袋の中から取り出された紙パックのジュースが置かれたのだった。
私と亜里沙は驚いて真姫さんの顔を見上げる。真姫さんは全員にジュースを渡して席に座るのだった。
「ありがとっ」
「ありがとニャ!」
花陽さん達は特に驚く様子もなく、普通にお礼を述べてジュースを飲み始めていた。つまりは買ってくることを知っていたのだろう。
私と亜里沙は真姫さんに無言で頭を下げて、ジュースを飲み始めて少し飲み終えてから――
「「……ありがとうございます」」
そう、伝えるのだった。
私達は緊張のあまり喉がカラカラになっていた。だから、返事もままならない状態で会話にも参加できなかったのだった。
かと言って、説明して退出しようにも声がまともに出ないから出られなかった。さすがに勝手に飛び出す訳にもいかないじゃん?
そんな感じに困っていた時に差し出されたジュースだったのだ。
こんなにタイミング良く出てくると言うことは――
何かのついでとかじゃなくて、ジュースを買いに行くのが目的だったのだろう。
時間的に考えて、ついでに買ったにしては早い――まぁ、学院にある全ての自販機の位置まで把握していない。いや、学院に何台あるのかさえ知らないけどね?
私の知っている自販機なら? って話なんだけど。
だから、私達が喉がカラカラなのは、3人とも知っていたんじゃないかなって思った。
それで真姫さんは代表してジュースを買いに行った。
私達の曖昧な返答や無言の対応を何も言わずにいてくれた。真姫さんがジュースを買ってくるのを知っていたから――
気づいていても何も言わなかった。そんな感じなのだろう。
自分達も経験してきたから。
自分達も緊張していたから。
そんな風に考えていた私に――
「……まぁ、お礼は穂乃果に言ってあげてね?」
真姫さんは微笑んで伝える。
なんで、お姉ちゃん? 私の疑問の表情に苦笑いを浮かべながら、真姫さんは教えてくれるのだった。
実は――
今日の1時間目の休み時間に、真姫さん達の教室にお姉ちゃんが現れたそうだ。
お姉ちゃんは真姫さんを呼び出してもらうと、突然彼女に小銭を手渡した。
何がなんだか理解できないでいる真姫さんに向かって――
「今日、放課後に雪穂と亜里沙ちゃん来るでしょ? きっと緊張して喉が渇くだろうから、これでジュース買ってあげて? もちろん、真姫ちゃん達の分もあるから飲んで良いよ?」
そんなことをお願いしてきたらしい。だから頼まれた真姫さんが買ってきたのだった。
自分達は生徒会の仕事があるから、たぶん遅くなるだろう。
それに、その場にいなくても2年生がしっかりやってくれるだろうから。自分達はジュースを買って渡すことはないだろうから。
だから事前に真姫さんに頼んでいたのだと言う。
だけど、この話には続きがある。
お姉ちゃんは、真姫さんに小銭を手渡した時――
「ちなみに、これは私のお金だって言わなくて良いからね? 真姫ちゃん達からってことにしておいて?」
そう言っていたそうだ。
それは――
あくまでも、真姫さん達に花を持たせる為。2年生を立てて言った言葉なのだろう。
だけど真姫さんは私達に全てを伝えた。もちろん、意地悪で暴露した訳ではない。
そもそも、自分達もジュースを買うつもりではいたらしい――緊張をするしないは関係なく、歓迎すると言う理由で。
それに、さ?
たぶん真姫さんの方がお姉ちゃんよりも財布の中の在籍人数は多いんじゃない? あと、役職も!
きっと、お姉ちゃんが奢らなくても真姫さんは困らないんだろう。だけどお金を受け取った。
それはお姉ちゃんを立ててくれたから――先輩を立てたからなんだと思う。
そして――
私達に伝えたのもお姉ちゃんを立てたからなんだろう。自分達ではなく、お姉ちゃんの功績だと知ってもらう為に。
私はそんな見えない思いやりを感じながら――互いが互いを思いやって私達へ与えてくれた気持ちを汲んで、ジュースを美味しく飲んでいた。
だって、今の私には返せるものがないから。
それにお姉ちゃんも真姫さんも、別に私達に何も求めていないんだろう。
お姉ちゃん達から真姫さん達へ――真姫さん達から私達へ。
そんな風に受け継いだ思いやり。
だから、私達は次に来る子達へ――緊張していても、いなくても。
不安を和らげてあげられるように接する。
それが、私達が返せるものなんだと思う。
私はジュースを飲みながら、お姉ちゃんと真姫さん達に心の中で感謝していたのだった。
まぁ、話を聞いたんだし、真姫さんからも「お礼を言って」と言われたんだから――
それから数分後にお姉ちゃんが来た時に、キチンとお礼を伝えておいたんだけどね。
そんな私たちのお礼を聞いたお姉ちゃんは――真姫さんと、じゃれ合っていた。
いや、一応怒っている体ではあったのかも知れないけど、周りのみんなは普段通りのお姉ちゃん達のじゃれ合いだと感じていたのだった。
♪♪♪
「さてと。……だいぶ、落ち着いたみたいだし……隣の部屋も紹介するね?」
「「は、はい!」」
ジュースを飲み終えて一息ついた私と亜里沙を見て、続き部屋を紹介しようと花陽さんは声をかけると立ち上がり、続き部屋の扉の前まで歩いていった。
私と亜里沙も返事をしながら立ち上がると花陽さんの後ろをついていく。その後ろから凛さんと真姫さんがついてきたのだった。
まぁ、歩いて数歩の距離だから変な書き方なのかな?
花陽さんは扉を開けて中に入っていった。私達もそれに倣い、続き部屋の中へと歩いていく。
中へ入った私達の目の前には――いや、普通の空きスペースなんだけどね?
そんな空間が広がっていたのだった。
奥の方には衣装ケースらしきものがある。
私と亜里沙が釘付けになっているのに気づいた花陽さんは、ケースを開けて衣装を見せてくれた。
スクールアイドル μ's のステージ衣装。当然ライブや動画で何十回も見てきた衣装。
だけど――
こうして衣装として見るのは初めてだった。
いつもお姉ちゃん達が着ているのを見ていたから――誰も袖を通していない状態で見るのは、とても新鮮な気がした。
これもスクールアイドル μ's の横顔なのだろう。
そんな風に思える一瞬であると同時に――きっと誰よりも、お姉ちゃん達を見てきた存在なんだと感じていた。
当然主役はお姉ちゃん達なんだとは思う。だけど、この衣装達だって立派な主役なんだって思う。だから、衣装達にだって衣装達だけで輝ける場所があっても良いと思うのだった。
去年の文化祭はお姉ちゃん達にとって大事な時だった。それに、あの頃は応援する人達が多かったんだと思う。
だけど今は、応援する人達と同じくらいに彼女達に憧れている人がいるんだと思う。
だから――
今年の文化祭には彼女達の――スクールアイドル μ's の衣装展をアイドル研究部として開きたい! そんな願望を持ちつつ衣装を眺めていたのだった。
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