ラブライブ! コネクション!!
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Track 1 両手を広げて
活動日誌4 リッスン とぅー ・ マイ はーと! 1
私達はアイドル研究部の部室前まで来ていた――と言うか、お姉ちゃんに教わっていなかったら素通りしていたかも?
だって学院の一角にある普通の部屋――まぁ、普通なのは学院なんだから仕方ないんだけど?
入り口の扉。
カーテンで覆われて中が見えなくなっているガラス部分の左下に――本当に小さい張り紙で『アイドル研究部』って書いてあるだけなんだもん!
先代の部長である矢澤 にこ先輩――
にこ先輩が――えっ? にこ・先・輩!!
――が、アイドル研究部を設立した頃から変わっていないらしい。
まぁ、別に部室が目立っていても仕方ないんだけどね? だけど、わかりやすくしておいて欲しかったなって思いながら、私達は苦笑いを浮かべるのだった。
私達は目配せをすると、私が代表でノックをする。すると中から――
「……はいニャー! いっまっ、開けるニャー?」
「……ちょっ、ちょっと待ちなさいよ!」
そんな甲高くて元気な声と共に、慌しい足音が近づいてくる。
その足音の持ち主を制止しようと、別の声が部室の中から聞こえてきた。だけど足音は止まることなく近づいて――
「――おっまたせニャー!」
そんな声と共に部室の扉が勢いよく開かれて、中から――
スクールアイドル μ's の現リーダーの星空 凛先輩――凛さんが現れた。
そんな凛さんの後方を――凛さんの突進を食い止めるべく、右手をのばして捕まえようとしていた真姫さんが追いかけてきていたのだった。
「あー、雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんだぁ! ……どうしたの? 何かご用か――イタッ!?」
「どうしたのじゃないでしょ? まったく……まぁ、中に入って?」
「「失礼します!」」
「いったいニャー! 真姫ちゃんがぶったぁー」
「ぶってはいないわよ? チョップしただけじゃない……」
「チョップもぶってるニャー!」
「あー、はいはい……」
私達に気づいた凛さんは、不思議そうな顔を浮かべて部室に来た理由を訊ねようとしていたんだけど――そんな凛さんの後頭部に真姫さんの水平チョップがクリーンヒットした。
真姫さんは呆れた顔と言葉を凛さんに向けると、私達の方へ向き直り、微笑みを浮かべて部室の中へ招き入れてくれた。
私達が中へ入っていく途中、凛さんは後頭部に両手を当てて、涙目になりながら真姫さんに抗議していた。ところが真姫さんは一切相手にせず、軽く聞き流して部室の中央にある椅子に座るのだった。
「……とりあえず、座ったら?」
「「あっ、はい! …………」」
「……あぁ、特に決まった席はないから適当で良いわよ? ……まぁ、そっち側に座ってもらえると話しやすいけどね?」
席に座った真姫さんは、私達に席に座るように促してくれた。
私達は返事をして座ろうとしたんだけど、どこに座れば良いのか迷っていた。
――だって、3人が卒業したとは言え6人はまだ在籍しているんだし。ずっとこの部室が活動拠点になっている訳だから定位置ってあるのかな? って。
そんな風に悩んでいた私達に気づいて、真姫さんはフォローを入れてくれたのだった。
「じゃあ、私は……ここ、座るニャー!」
「あんたはココッ! ……本気で言ってるの?」
「えっ? ……あはははははは……はは」
私達は真姫さんの薦めで真姫さんの向かいの席――入り口から入って右側の椅子に座る。
それを見ていた凛さんは私達の席の隣に座ろうとしたのだけど、真姫さんが自分の隣の席をバンバン叩いて誘導していた。
呆れ顔で訊ねる真姫さんの顔を見た凛さんは一瞬驚くんだけど、何かを思い出したかのように苦笑いと乾いた笑いを奏でながら、スーッと私達から遠ざかり何事もなかったかのように真姫さんの隣に座るのだった。
♪♪♪
今、私達のいるアイドル研究部の部室。正確には彼女達の実績が認められて、隣の続き部屋に練習スペースが設けられている。そんな練習スペースの続き教室。
たぶん元々は特別教室――音楽室とか理科室とか美術室。そんな感じの教室だったんじゃないかな?
あっ、音ノ木坂って言うくらいだし第2音楽室だったりして? まぁ、知らないんだけど? そんな造りの教室に思えた。
そして私達の今いる教室。アイドル研究部の部室は、さしずめ準備室って感じに思えたのだった。
とは言っても、天気の良い日は屋上や校庭や校外で練習をしているらしいんだよね。
だから基本、続き教室は彼女達の衣裳部屋兼フリースペースとして使われているのだった。
そんなアイドル研究部の部室――今、私達がいる方の教室。
入り口側から対極する壁側。つまり奥にある窓へと向かい、中央にテーブルと椅子が並べられている。そして窓際にはパソコンが置かれた机がある。
更に、入り口を入って右側の、ちょうど私達が座っている後ろの壁には大きな棚が設置されている。
その中にはアイドル研究部らしく、アイドルに関する資料が並べられていた。
もちろん、学院の部活動だから学院からの資料や書類も並べられている。それでも3つある大きな棚の内、かなりの割合を占めるのがアイドルの資料なのだと言う。
とは言っても、棚にある物はアイドル研究部の物ではなく――ほどんどが部長の私物らしい。
先代の部長である、にこ先輩が元々アイドル研究部に貸し出していたと言う――職権乱用と言われかねない言い訳で置いていた私物を卒業と共に整理した為、次の部長へ自分の私物を貸し出すように命じていったみたい。
ただ、棚や壁に貼られているアイドルのポスターや、とある品物に関しては先代の部長の寄付らしいのだけれどね?
まぁ、実はこの話――棚の中身が部長の私物って話。
今から数分後に生徒会の仕事を終えて部室へ来た、お姉ちゃん達から聞いた話だったんだけど。
当然、私と亜里沙はとても驚いた。
だって、大きいんだよ? 部室の右の壁を! かなり占拠しているくらいの!!
3つ全部ではないと言っても、そんな大きな収納たっぷりな棚の中の物が私物って!?
話を聞いた時に、私と亜里沙は驚きと羨望の眼差しでアイドル研究部の部長。小泉 花陽先輩――花陽さんを眺めていた。
「あっ……いや、ほら……私はただアイドルが好きなだけで……そんなに凄くは……それに、にこちゃんの頃はもっと凄かったから……」
すると彼女は恥ずかしそうにそんなことを俯きながら呟いていた。
いやいやいや、これは驚くレベルですって! 普通に小さなアイドルショップとか開けそうだし。
だけど、このレベルで、もっと凄いって言わせるにこ先輩の私物って?
花陽さんの言葉を聞いて、改めてマジマジと眺めてみると――確かに右の壁の大半を占拠している大きさの棚には、多少の隙間が存在していた。
いや、本当に多少だよ? それこそ敢えて空間を作っています! って感じの隙間だもん。
お姉ちゃんの本棚より密集――いや、容量はあるのに入れていないだけなんだけどさ? お姉ちゃんの場合。
とにかく、凄かったの一言に尽きる光景なんだと思う。だけど今の光景より凄いってことは、完全に棚を埋め尽くしていたってこと?
どんだけ凄かったんだろうって気になってしまったのだった。
「そうだよぉー、かよちんは凄いニャー! だって……ほら!」
そんな私達に、凛さんは得意げな表情で答えると指を棚の方へ指して――
「幻のブルーレイBOXを持っているニャー!」
棚に置かれている、ブルーレイBOXを教えてくれた。だけど――
「あれはねー? とっても、凄いんニャー! えっと……でん……でん……でんぐり返し?」
「なに言っているのよ? ……電光石火じゃない?」
「2人とも違うよぉ。花陽ちゃんに失礼だよ? 確かぁ……伝道師?」
「皆さん、いい加減にしてください……伝達事項です!」
「そんなにフザケていると、本当に怒られるよぉ? ……電撃G――」
「「「「わーーーーーーっ」」」」
――いや、本当に怒られるよ? お姉ちゃんが! 色んな意味で。
そんな5人のやり取りを俯きながら小刻みに体を震わせて聞いていた花陽さんは、突然その場に立ち上がると――
「みなさん、そこに座ってください!」
――いえ、花陽さん? みんな既に座っておりますが?
「いいですか!? 新入部員もいることですし! もう1度説明させてもらいますとね! この……ブルーレイBOXは! 伝説のアイドル伝説と言って、それこそ各プロダクションやら学校やらが総力をあげて結集した! いわば、アイドルの玉手箱なんです! 前に発売されたDVD BOXなんて……通販、オークションともに瞬殺! 選ばれた勇者のみが持つことを許された代物なんです! ……まぁ、そんな勇者が間近にいたのは驚きでしたが……それも3つも……ですが! そんな私達の熱い要望に応えて! ブルーレイ版として発売されたのが、この! 伝説のアイドル伝説ブルーレイBOXなんです! そう、まさに! 伝説のアイドル伝説の伝説の伝承! 略して……伝・伝・伝・伝なんです!!」
それまでの花陽さんの雰囲気が何かのスイッチが入ったかのように豹変して――ブルーレイBOXを手に取り、これだけの長台詞を1文字も噛まずに捲くし立てるように言い切った。
それは、もう――こうやって、私が活動日誌に一字一句漏らさずに書けるほどのインパクトと聞き取りやすい声で。
そんな花陽さんの気迫に唖然としている私達とは対象に、お姉ちゃん達は満面の笑みを浮かべながら彼女の話に耳を傾けていたのだった。
花陽さんは大のアイドル好きらしかった。
ううん――アイドルに情熱と愛情を注いでいる。それこそ先代部長のにこ先輩に匹敵するくらいに。
だからこそ、にこ先輩は花陽さんに部を託したんだろう。
だけど、花陽さんは普段はとてもおとなしい、とても引っ込み思案なところがある。
もちろん入ったばかりの頃よりは格段に成長してはいるけど――それでも控え目なところは変わっていない。
だから、会話の最初のように俯きながら呟くことが多いのだと言う。
でも、私と亜里沙はこれからはアイドル研究部の一員。花陽さんの後輩として一緒に活動していくことになる。
だから、私達には花陽さんの横顔――アイドルについて語る花陽さんの部分も知っていてほしい。そんな気持ちからの誘導だったらしい。
当然、お姉ちゃん達は伝説のアイドル伝説のタイトルは知っている。そして、花陽さんもお姉ちゃん達の意図には気づいていたみたい。
だから長台詞を言い切ったあと、一呼吸をして少し微笑みながら口だけを動かして――
「ありがとう」
と伝えていた。
私はお姉ちゃん達の微笑みと、とても満足そうに輝いた表情を浮かべる花陽さんを眺めて、見えない絆を感じていたのだった。
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