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ラブライブ! コネクション!!

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Track 1 両手を広げて
  活動日誌0 ミュージック・スタート! 2

 私達が正面を向き直ると、進行は既に来賓(らいひん)の方の祝辞が終わりを迎えていた。

「ありがとうございました。続きまして、本校生徒会長より挨拶がございます」

 来賓の方が席に戻ると、司会が次の進行を告げる。鳴り響く拍手の中、スポットライトに照らされながら1人の生徒が壇上に歩いてくる。
 それまでの挨拶の際の登壇とは違い、拍手の中に感嘆(かんたん)の声が混ざる。
 私は何故か胸に暖かいものがこみ上げてきた。この感嘆の声こそが、彼女の歩んだ道のり。叶えたかった物語の本当に望んだものだったのだから。
 とは言え、彼女は別に感嘆そのものが欲しかった訳じゃない。
 ただ――彼女の目の前に広がる光景が見たかっただけなんだと思う。
 それが今、壇上に立つ国立音ノ木坂学院の生徒会長(・・・・)
 そして、国立音ノ木坂学院スクールアイドル μ's のリーダー(・・・・)
 私の自慢のお姉ちゃん、高坂 穂乃果の叶えた物語なんだと思う。

 ふいに壇上のお姉ちゃんを見つめる。
 ただの挨拶。ただの生徒会長としての挨拶だって理解しているのに。
 スポットライトに照らされたお姉ちゃんは綺麗(きれい)に見えたし、大人びているようにも感じていた。
 実はこの光景を目にするのは2度目なんだけど――あの時には感じなかった何か(・・)が確かに今のお姉ちゃんには感じられていた。
 最上級生になったから? 自分が正式な音ノ木坂の生徒になって見ているから?
 ううん、そう言うのじゃないと思う。
 たぶん1度目の時と今――その間にお姉ちゃんに起こった出来事がお姉ちゃんを成長させたんじゃないかな?
 なんか私(えら)そうだけど、素直にそう思うんだから良いよね?

「…………」
「…………」
「…………」
「…………クスッ」
「…………クスッ」
「…………。……皆さん、こんにちは! 生徒会長の高坂 穂乃果です!」

 私は壇上に立つお姉ちゃんを見て、ほんの少しだけ寂しくなった。
 いつの間にか、お姉ちゃんは皆の高坂 穂乃果(・・・・・・・)になっていた。
 お姉ちゃんの居場所は私の隣じゃない。あのスポットライトに照らされた場所が、お姉ちゃんの居場所。
 もう手の届かない存在になっちゃったんじゃないか? 私には、もう追いつくことさえ出来ないんじゃないか?
 ――そんな感情が心の奥を(おお)っていた。

 そう思いながら壇上のお姉ちゃんを見つめていた私を、お姉ちゃんが見つめ返してきた。
 マンモス校ほどの密度はないものの、それなりに密度を保った会場。同じ制服に身を包んだ新入生の中に埋もれている私。
 学院生徒会長として、学院の入学式の挨拶に立っているのに誰もが知っている皆の高坂 穂乃果(・・・・・・・)が、この瞬間は私だけを見つめている。
 きっと、今の私は悲しい顔でもしていたのかな? 
 大丈夫? って聞こえてきそうな、お姉ちゃんとしての顔。
 その瞬間だけ。ほんの一瞬だけかも知れない。
 私には壇上に立つ皆の高坂 穂乃果(・・・・・・・)が、目の前にいる私だけのお姉ちゃん(・・・・・・・・・)に感じられた。
 その瞬間に私の心の奥を覆っていた悲しみと言う名の雪は――お姉ちゃんの存在と言う名の太陽に照らされて溶けていくのだった。なんてね。
 
 そんな雪解けの心を持て余すように、ただ呆然(ぼうぜん)とお姉ちゃんを見つめていた私。
 私の心の中はわからなくても、表情の変化でお姉ちゃんは理解してくれたのかな?
 心配そうに見つめていた表情が(やわ)らいで、微笑みを咲かせる。私には、その笑顔だけで十分だった。
 だって私には、その笑顔が――
「さぁ、雪穂! 私達はココにいるよ! 待ってるからね? ファイトだよ!」
 って、言っている気がしたから。

 もう大丈夫!
 もう迷わない!
 お姉ちゃんはお姉ちゃん。
 私は私でお姉ちゃんの妹――ただ、それだけだったんだ。
 完全に溶け切った心の中に芽生(めば)えた暖かな感情。私は、その感情をお姉ちゃんに向けて表現したんだ。
 そう――
 お姉ちゃんが求めた物語の先にあったもの。今の私のせいいっぱいの笑顔と言う名の答えを。

 お姉ちゃんは私の笑顔を見つめると一瞬だけ納得したかのように目を閉じて、生徒会長としての――
 皆の高坂 穂乃果(・・・・・・・)としての顔に戻って言葉を紡ぎ始めた。
 それからは私を見つめることはなかったんだけど、それで良いんだと思う。
 だって――私は私なんだから。不安になっているくらいなら、私が飛び込めば良いんだ! あの光輝く場所へ。お姉ちゃんが見ている場所へ。

 私は、お姉ちゃんの挨拶を聞きながら先ほどの脳内で響いた掛け声を思い出す。
 そうだ、私には亜里沙がいる。お姉ちゃんだっている。
 なにより、私達のミュージックは今始まろうとしているんだ。
 この祖母や母が通っていた――
 そして、お姉ちゃんが通う国立音ノ木坂学院で!

 私達のミュージックが――
 私達の物語が――
 私達の叶える未来が――。
 
 だからもう一度。
 今度は私の方から亜里沙にピースを差し出す。
 亜里沙は私の表情を見つめて微笑むと、ゆっくりピースを並べた。
 式の間中、気にしてくれていたんだろうな? 口に出さなくてもわかる。
 ありがとう、もう大丈夫だから――そんな感謝の意味をこめて、最高の笑顔を亜里沙に見せる。
 そして、2人同時に指先を見つめて――

「……ミュージックゥー スタートォー!!」
「「!?」」

 私達の脳内に響いたはずの掛け声が何故か鼓膜(こまく)から聞こえてきた。
 思わず壇上を見つめると、お姉ちゃんが天高くピースサインを掲げていた。
 会場内には笑い声が溢れている。壇上袖(ぶたいそで)では頭を抱える海未さんと、それをなだめることりさん。
 どうやら、お姉ちゃんの突発的な行動だったんだろう。
 ううん――突発的な行動なんかじゃない。そして前言撤回(ぜんげんてっかい)
 お姉ちゃんはずっと私を気にしていたんだね?
 だから私達を応援する為に掛け声をかけてくれたんだね?

 その証拠に(かか)げた腕を水平まで下ろして満面の笑みでピースサインを私達に見せているお姉ちゃん。
 本当に、もぉ――お姉ちゃんには敵わないな?
 私はお姉ちゃんに向かって、そんな意味合いの苦笑いを返すのだった。 

♪♪♪

 こうして、私の音ノ木坂の学院生活は暖かさと希望に満ち溢れた空間の中、始まるのだった。
 まだ先のことなんて何も見えてこない――当たり前だ、今日入学したんだから。
 だけど――
 3年後の卒業式。
 この制服を身に包んで校門を最後に通る時に、やりきったって。駆け抜けたって。
 亜里沙に、両親に――そして、大好きなお姉ちゃんに!
 胸をはって笑顔で答えられるように。
 私、高坂 雪穂は学院生活を全力で楽しむ!
 そんな決意を胸に秘めながら、この学院を眺めているのだった。 
 

 
後書き
Comments 海未

雪穂さん、そして亜里沙さん。まずは入学おめでとうございます。
本来ならば穂乃果が書くべきところなのでしょうが、当の本人が――
「えー? 悪いこと書かれていたらショックだもん! だ、大丈夫……こうやって海未ちゃんの背中を透視して見ているから」
などと訳のわからないことを言って、背中にしがみついているので私が代わりに読ませていただきました。
ですが、ここまでストレートに表現されてしまうと私が読んでも良いのかと言う気にもなりますね? 恥ずかし過ぎます。
いえ、良い意味ですが。
いつか穂乃果にも、この日誌を読んでもらえると良いですね?

ちなみに、雪穂さんが疑問に思っていた点なのですが。
あれは、聞かれる直前に同じようなことをメンバーで話し合っていたからなんです。
だから、まさか他の人からも聞かれるなんて?
そう言う意味の驚きと含み笑いだったのですよ。
とにかく、これからの学院生活を全力で楽しむこと。
微力ながら手助けできればと思っています。
頑張ってくださいね。 
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