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衛宮士郎の新たなる道

作者:昼猫
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第14話 一夜明けて

 
前書き
 想像以上に長文になりました。何時もの倍、2週間分に相当(私個人のペース的に)しますね。
 一万字越えです。 

 
 夜が明けてからの朝方の各テレビ局のニュース番組や各新聞社の新聞では、昨夜に起きた川神市と冬木市の異常を伝えていた。

 『謎の集団催眠』『川神院も遂に堕ちたか!?』『異常に慣れている現地住民の落ち着き方が逆に不気味』『九鬼財閥極東本部はどう動く!?』

 などと言う見出しが載っている。
 それを何時もの時間通りに朝食を取っている士郎達が見ていた。

 「川神院も遂に地に落ちたか!?とは、このテレビ局は随分と言い度胸してる。なあ、若?」
 「そうですね。視聴率狙いとは言え、後が怖そうだと思わないんでしょうか?」
 「あのニュース番組のプロデューサーは元々、反川神院派の人間だ。このところはダメージを与えられそうな情報が無かったから最近は大人しくしていただけで、今回の様な事があればと虎視眈々としていただけなんだよ。父親も大物政治家だしな」

 皮肉気味に冬馬達に説明しているが、士郎は関東圏以外の事も既に把握していた。
 今のところ国内で騒ぎになっているのは関東圏のみであり、海外では報道もされていなかった。
 しかも意外と思えることが2つあり、世界のトップリーダーを自称するアメリカが何も言ってこない事と、顔が見えないので言いたい放題のネット内でもあまり取り立てされていないのだ。
 詰まる所――――。

 (これは隠蔽工作による情報操作だ)

 確かに藤村組も自分達に火の粉がかからないようにと、事前にマークしていた各テレビ局の上層部の幹部数人に釘を刺すなどしている。
 だがこんなにも早い段階で段取れるのはあくまでも関東圏内のみであり、それ以外は厳しいのが現状で、出来ない事も無いが時間がかかる。
 ――――では何所が?と思う。
 ロンドンにあった魔術協会総本部の時計塔を即座に消去する。
 あそこは既に一世紀以前に解体されている。潰したのは聖堂教会だが、当時の聖堂教会の主は西欧財閥の盟主の一族であるハーウェイ家だ。
 だが未だ残党がいるのではないかと士郎は疑っている。だとしても情報操作できる余裕などは無いだろう。
 ――――では時計塔を潰した西欧財閥の盟主、ハーウェイ家が?
 西欧財閥については情報をあまり持っていないので判らない。
 ――――では同格の財閥である九鬼か?
 可能性としてはあるだろう。九鬼従者部隊の永久欠番に序列一・二・三位の4人は魔術の事を知り得る者達だ。
 そして彼らはこの地で武士道プランなるものを発動させたがっている。
 ならばこの地の安定を図ろうとしてもおかしくは無い。
 しかし確信できるだけの情報も無い上、その様な危険な橋を渡るとも思えないので保留。
 後、士郎の心当たりと言うか予想し得るのは一つだけしかない。

 (切嗣(爺さん)が言っていたマスターピースだけだな)

 しかしどれだけ推測を重ねてもあまり意味は無い。
 そうして再びテレビに眼を向けた。

 (新聞もそうだが、何所も葵紋病院から重病患者の少女の1人の行方が消失した事についてやっていないな)

 昨夜のあの後、シーマに遅れて士郎も病院に忍び込んで魔力の発生地を探った所、天谷ヒカルと言う処女の病室からだと言う事が判明したのだ。
 しかも本人は病室から出てはいけないと言うのに、行方知れずとなっていた。
 しかし各メディアでは彼女について一切触れられていない。
 もしこれが故意だとするのなら、情報操作をしたのは騒動を起こしてこの町を害する敵なのかもしれないと、士郎は改めて認識した。

 『・・・・・・・・・・・・』

 騒動が起きた現地に住んでいるからとは言え、爽やかな朝からテレビなどを真剣な顔で見る士郎の横顔をティーネとリズは何とも言えない面持ちで見ていた。


 -Interlude-


 同じ頃、川神に近いある水上にてステルスを掛けた状態で待機している物体がある。
 その中には昨夜葵紋病院から消えた天谷ヒカルと彼女に召喚されたサーヴァントに復讐者(アヴェンジャー)と呼ばれた男、そしてこの物体――――船の開発者であるサーヴァントの計1人と3体が居た。
 ただし、ヒカルは未だ眠っている。
 そんな彼女の近くに呼び出されたサーヴァントは、仮面の奥の自分の(まなこ)でじっとヒカルを見続けている。
 何故そのように近づいているかと言えば、この船の主であるサーヴァント――――騎兵(ライダー)から説明と助言を受けたからである。

 「・・・・・・・・・・・・」

 だがそれだけでは無かった。
 興味――――と言うよりも疑問があるのだ。この少女は自分を怖がらないだろうか?自分を前にして拒まないだろうか?と言う不安も。
 それを遠巻きで見ているのは残った2人である。

 「まあ、当然の反応ですね。彼は生前、死ぬまで怪物の役割を押し付けられてその通りに生きていましたから。どう対応すればいいのか困惑しているのでしょう」
 「所為自由の刑・・・・・・と言う奴か」
 「貴方は自由を謳歌しすぎでは?」
 「如何いう意味だ?」

 明らかな含みのある言動にライダーを睨み付ける。

 「昨夜の件です。派手にやり過ぎでは?」
 「それは貴様だろう?」
 「貴方があそこまで周囲を気にせず魔力をまき散らすから、私が出張らなければならなくなったのですよ?」
 「市を二つも巻き込む必要が合ったようには思えなかったが?」
 「魔術師とサーヴァントがこの町には居たんですから。自分たちの領土を荒らされて黙っている訳がないでしょう?それにこちらは足止めもしたのですから、感謝されこそすれ、抗議を受ける謂れはありませんね」

 ライダーの言葉にアヴェンジャーは舌打ちをする。

 「フン、それにしても貴様が世界規模の情報操作ができるとは聞いていなかったが?」
 「ええ、私も伝えた覚えはありませんね。必要を感じませんでしたから」
 「・・・・・・・・・貴様本当に騎兵(ライダー)か?情報操作にこの船の発明、それにオートマタの群れの操作にしろ、魔術師(キャスター)にしか思えない所業だが?」
 「我がことながらそれについては同意します。マスターも何故私をライダークラスに当て嵌めたのか、理解しかねていますから」

 肩を竦めるライダーにアヴェンジャーは食えない奴だと感じた。
 理解しかねると本人は口にしたが、理由についてライダー(コイツ)が理解していないとは到底思えないからだ。
 そしてコイツがキャスターでは無くライダーに当て嵌められたのは、恐らく大きな理由があるとアヴェンジャーは踏んでいる。
 自分のマスターはこのライダーを客分(ゲスト)扱いとして迎え入れて利用している様だが、アヴェンジャーには利用されている様にしか思えなかった。
 確かにこのライダーの知識と技術力は今の自分たちにとって必要不可欠である事は認めるが、他の勢力以上にコイツに油断も隙も見せるべきでは無いとアヴェンジャーは感じた。

 「ああ、そう言えば言うまでも無いでしょうが、それでも言っておきます」
 「何だ?」
 「恐らく今回の騒動に貴方達が関わっていると嗅ぎつかれているでしょうから、貴方の嫌いな“彼ら”が恐らく来ますよ」

 ライダーの言葉に本日二度目の舌打ちをするアヴェンジャー。
 余程気にくわないのか、本日最高に嫌そうに顔を顰める。

 そんな彼らと自分の近くの計3体に気にせず、ヒカルは眠り続けている。
 ヒカルは夢を見ている。
 それは生まれた直後、自身を生んだ母親を死に追いやり、その怒りと自身の醜さから実の父親に「お前は怪物だ」と教え込まれて迷宮に押し込められた悲しい怪物の生前の記憶。
 怪物は迷宮の中で腹を空かすと、本人は知らないが生贄と言う形で父親から「それがお前の餌だ」と言い含められて、怯えて逃げる幼気な子供たちを痛めつけては喰い、痛めつけては喰う事を迷宮内で延々と繰り返していた。
 そんな非情ともいえる父親が唯一怪物に与えたのは“名前”だった。
 この怪物の俗称はミノタウロスだが、与えられたその真名は――――。


 -Interlude-


 ほぼ同時刻。
 マスターピースの現代表、トワイス・H・ピースマンと言えば、執務室で厳しい顔をしていた。
 西日本にあるマスターピース日本支部からの報告書を呼んで、今の険しい顔つきになっているのだ。

 「・・・・・・・・・・・・」

 マスターピースは世界平和を謳いながらも、人類の黄金期を齎す為に裏ではテロ組織や紛争をコントロールしているのだが、どうしても手が出せずに管理しようがない裏社会に潜む勢力が2つあるのだ。
 理由は複数あるが、その中でも一番の理由が両方とも本拠地についての情報が全く掴めていない点にあった。
 そして、その内の一つの一部が日本の川神市付近で騒動を起こしたであろうと言う報告書を読んでいたのだ。
 それに対して直にそれが確定情報かと確認させていると共に、今回の騒動の隠隠蔽工作に移る――――移ろうとしたが、自分の与り知らぬ何処かが既に情報操作による隠蔽工作を全世界レベルで展開させていた。
 世界を又に駆ける二大財閥では無い事は確認しているし、川神院はその手の事に疎いので論外。
 一応身内であるマスターピース創設者(グランドマスター)ならばそれも可能だが、自分達は頼んだ覚えも無い上、頼まない限り《H》も自主的には動ないだろうと確信している。
 では何所の誰がと言う疑問が付きずに不気味であると言えた。
 何所までも不明のままだが、取りあえず害は起きていないのでそれは置いておき、問題に戻る。
 その問題の勢力の騒動中、霊基盤が反応している事からサーヴァントを呼び出し使っていることは想像に難くは無い。
 であるならば、サーヴァントにはサーヴァントを当てる鉄則に従って、この本部からもサーヴァントとそれを従わせるマスターを派遣するしかない。
 しかし動かせるペアは今は全員で払っており、一番早く帰還できる者達でも明朝までかかる。
 立場上自分が動くワケにもいかないし、ドクターライトニングを向かわせる訳にもいかない。
 ラミーとも連絡が付かず、勿論グランドマスターから預かっている“2人”も動かす訳にはいかない。
 そこで如何したモノかと思案していると、プライベートチャンネルのアラームが鳴る。
 このタイミングで誰だ?と訝しみながら相手の名前を見ると、随分と暫くぶりの名前を見た。
 だが油断できる相手でもないのだが、このタイミングを恐らく狙って連絡を取ったと言う事に相応の意味があるのだろうと、トワイスは連絡を繋げて開いた。

 「久しぶりだな最上幽斎」
 『うん、久しぶり』

 画面上に出てきたのは灰色の髪をした男性で、やり手の企業家の最上幽斎。
 約二十年前にその手腕を買われて、九鬼財閥にスカウトされた傑物。
 トワイスとは九鬼にスカウトされる以前からそれなりの親交を持っていたが、お互いに立ち場上忙しくて、ここ十年ほどは連絡すらも取っていなかった。

 「思い出話に花を咲かせたいところだが、生憎と忙しくてな。出来ればすぐに本題に入って欲しい。私に何か用があるのだろう?」
 『勿論判っているとも。昨夜の川神での騒動の件で、私なら君の力になれると思ってね』
 「・・・・・・・・・具体的には?」

 画面越しの男とは化かし合いをしても時間の無駄と理解しているので、トワイスははぐらかすような言い回しを寄して訊ねた。

 『もしかしたら初めて知るかもしれないが、僕の家も実は魔術師の家系でね。後これは偶然なんだけど、君をマスターピースに引き込んだ御方に十数年前サーヴァントを呼び出し従える権利を貰ったのさ』
 「っ!?」

 トワイスは幽斎の説明に二重の意味で驚く。何方も初耳だからだ。
 そして証拠と言わんばかりに右腕の背広とワイシャツを肘までまくり、腕に刻まれた令呪を見せつける。

 『これで信じて貰えたかい?』
 「・・・・・・・・・サーヴァントを従える事にはな。しかし自分が魔術師だと名乗り出るのは相応のリスクにもなる筈・・・・・・・・・目的は何だ?」
 『もちろん君を含めた世界を愛しているが故の行動―――と言いたいところだが、今回は取引したくてね』
 「取引?」
 『武士道プランに勝手に乗っかり、私が秘密裏に《暁光計画》を立てた事は知り得ているだろ?』

 これは既に武士道プランすらもトワイスが把握していることが前提となっている話。
 勿論トワイスは両方とも知っているが、情報源は幽斎本人では無く、別人。
 そして幽斎の情報は単なる推測である。マスターピースが使者を使って川神鉄心に手紙を送った内容を勝手に想像して推察したのだ。
 だが画面越しの反応とは言え、結果正しかった事を確信する。決して表情には出さずに悟られないようにするが。

 「――――つまり口止めか?」
 『うん。何れ明かす気はあるが、今はまだその時じゃないからね』
 「了解した。だが、口約で信じられないと言うのであれば、使者を送るが?」
 『いや、この通話記録だけで構わないよ。それじゃあ、また』

 終始笑顔のまま画面内の最上幽斎の顔が消える。
 これで取りあえずはと有象無象なら楽観視するところだがトワイスは違う。
 直に携帯機器を耳に当て、コズモルインに所属する百足に連絡を取る。

 「――――私だが、黒子は戻っているか?」
 『まだですねぇ。予定通り帰還は二日後になると思いますよ。――――これはもしかしなくても、川神の騒ぎの件ですかい?』
 「理解しているのなら話は速い。帰還していなくとも、連絡が取れ次第私に繋げてくれ」
 『了解』

 百足に言伝を預けて通信を切る。
 そこで力を抜いて、漸く一息淹れられると思いコーヒーを口に運ぶ。
 そしていつもと変わらぬ天井を見て、思う。

 (何時もであればこの非常時に“彼”に頼むところだが“彼”も今は出払っている)

 それは立場上マスターピース本部を動けない自分の代わりに世界中を飛び回り俗事を代わりに熟してくれている副代表の事だ。
 本来であれば副代表の特性上において本部から動かない方が良いのだが、人類を正しい時代へ修正させるための責任感からトワイスの代理として、世界中を回っている。
 そしてそれは今こうして物思いに耽っている最中にもである。


 -Interlude-


 ここはヨーロッパの某国の式典会場。
 そこには世界各国の出席していた重鎮達が用意されていたパーティー会場で、表面上にこやかに交流していた。
 その会場の一角に周囲の注目を集める二組(と言うか、その内の2人)がいた。
 一組は、九鬼財閥鉄鋼部門統括を任されている九鬼家長女の九鬼揚羽と、専属従者の武田小十郎である。そしてもう一組が西欧財閥の盟主のハーウェイ家現当主の実子であり、次期当主のレオナルド・ビスタリオ・ハーウェイとハーウェイ家お抱えの護衛の1人だ。

 「初めまして、ハーウェイ家次期当主殿。私は鉄鋼部門の統括を任されている九鬼揚羽です。お好きにお呼び下さい」
 「では九鬼揚羽殿と。私の事も気軽にレオとでもお呼び下さい」

 一見にこやかに自分に挨拶してくるハーウェイ家次期当主のレオに、正直不気味さと恐ろしさを感じる。
 王は様々に高いステータスとカリスマ、そして敗北という経験をして初めて完成するのだが、この少年のPD上敗北はしていない筈だが不思議な事に既に至っている存在感を思わせるのだ。
 その上で自分を前にして威風堂々している現実に、いずれ自分が九鬼財閥を継ぐことが有れば自分はこの未来の少年王に勝てるのかと、顔には出さないが僅かな不安が生まれていた。
 そしてそんな九鬼揚羽を前に一切しり込みせずに堂々としているレオは、本来であれば(・・・・・・)一度も敗北していないので王として完成などしていない。この世界では。
 レオは一度死んでいて転生者であり、以前の世界でも同一人物だった。
 その世界では『月の聖杯戦争』に参加した事で結果的に死ぬことになった。
 それからその時の多くの経験を引き継いで、この世界でまた西欧財閥の盟主ハーウェイ家次期当主のレオナルド・ビスタリオ・ハーウェイをやり直す事に相成ったのだ。
 しかも引き継いだのは王としての完成された精神だけでなく、無邪気と言う名の暴走感もである。

 (英雄さんのお姉さん・・・。ボクのタイプとは違うけど、組み伏せて屈服させてみたら楽しいだろうなぁ)

 レオのこの顔に似合わない恋愛観や性格はこれでも発展途上。もしこれで悪影響のある地にでも足を踏み出せば、神代・西暦以降でも類を見ない王が誕生する恐れが在る。
 しかしレオのこの無邪気さを知る者は西欧財閥全体は勿論、本家のハーウェイ家の誰も知り得ない事。単に今は曝け出してもいいと言える相手が身近に居ないと言うだけなのだ。
 以前の世界とは違い、ユリウスが身近にいないのもある。西欧財閥にいるが、為すべきことが違い過ぎて基本的に会う事が無いのだ。
 そんなレオの妄想の中で組み伏せられかかっている当の本人はそうとは知らず、話題を切り出す。

 「確かレオナルド殿は、我が愚弟とは既に何度もお会いした事があると窺いましたが?」
 「ええ。英雄さんは大変雄々しく、僅かな時間を共にして大変有意義な時間を過ごさせて頂きました」
 「それは重畳。我が愚弟がお役に立てたのならさ――――」
 「堅苦しいな、揚羽。幾ら人目があるからってよ、もう少し気を緩ませられねえのか?」

 そこへ、何故か九鬼帝が乱入してきた。

 「ち、父上!?何故ここに!」

 それは驚くだろう。
 この式典には九鬼の代表として揚羽が来たのに、総裁である帝が居るのだから。
 因みに今回の護衛は序列11位のチェ・ドミンゲス。
 理由は違うが、妻の九鬼局と同じように毎回護衛の執事を変えているのだ。

 「いやな、この式典に出席しているある1人に急に会いたくなってな。睡眠時間削って急いでやって来たんだが――――久しぶりだなレオナルド君よっ!」

 マスコミの様な取材陣が居ない場であるとは言え、社会的地位がトップクラスの九鬼帝としてはTPOにそぐわない言動である。
 しかし帝の態と崩した態度と口調は世界中の著名人や重鎮たちの中でも有名で、周囲の紳士淑女(外面)は呆れる事はあっても心の中で嘲笑する者は一応1人もいなかった。
 そして当の軽口?を叩かれたレオ本人も、苦笑はしても怒る事も不快な態度を露骨に見せる事も無かった。勿論慣れているからでは無く、歳不相応な程の器量の大きさ故だ。

 「帝さんは相変わらずですね」
 「まあ、これが俺のスタイルなんでな。それで英雄からどんな話を聞いてたんだよ?」
 「聞いたのは幾つもありますが、ボクが興味を惹かれているのは川神学園についてです。かなり独特で賑やかな学園と聞きましたよ」
 「まあ、あそこは俺も好きだぜ。年がら年中祭りみたいに退屈が無いって聞いてるからな」
 「ふむ。やはり興味深いですね」
 『噂には聞いていたが相当なのだな、これだけの面々が話すの内容に出て来る川神学園とは』
 「っ!?」
 「おや?」
 「やっとお出ましか!」

 会場は出席者たちの交流の場で悪い言い方として、多くの人の声と言う音が重なり少しばかり騒がしかった。
 そんな中でもよく通る声の主が現れた途端、あれだけ会場中が出席者たちの会話で埋め尽くされていたにも拘らず、一瞬で静寂となった。
 誰もが意図した事では無い。彼らは自然に声の主に対して畏敬の念を感じたのだ。
 そして声の主が歩けば、その人の歩みの邪魔をしまいと、自然と道が出来上がる。
 その道を当然のように歩いてレオたちに近づいてくるのは、帝の目的の人物にしてマスターピースの副代表フロガ・K・エレンホス。
 代表のトワイスとは違い、屈強な体を持ち存在密度すらも濃い傑物。
 そして九鬼帝やレオナルドよりも遥かに上回る圧倒的なカリスマ性。それは主義者・人種・立場・老若男女関係なく羨望を集めるほどの者であり、まるで始めから人間じゃない様な(・・・・・・・・・・・・)存在である。
 であれば、現代社会でも一、二を争うほどの英雄と言われる九鬼帝に好かれるのも無理らしからぬことと言えた。

 「ずいぶん焦らした登場だが、狙ってたのか?」

 相変わらずばを弁えない帝のため口だが、今度ばかりは許容できない者たちが怒声を飛ばす。

 「九鬼財閥の総裁だからと言って失礼でしょう!」
 「この方を何方と心得るのか!」

 他にも似たような抗議の声が上がるが、彼らは全員マスターピースの身内で無ければ協力者ですらない。
 すべてはフロガの規格外すぎる圧倒的カリスマ性ゆえだ。
 しかしフロガ自身が彼らを諫める。

 「いいのですよ皆さん。彼の気の置けないこの距離感は寧ろ心地いのですから」
 『・・・・・・・・・・・・っっ!』

 フロガの言葉に今度は嫉妬される帝。
 フロガの人を惹きつける魅力がそれほどと言う事だ。
 その反応にフロガ本人、そして帝も苦笑する。
 何度も見てきた光景だからだ。

 「相変わらず罪作りだなフロガ」
 「意図した事ではないが認めよう。しかし貴殿には言われたくないな。確か正妻が存命であるにも拘らず不倫して、子を成して上で自分の下に置いているとか?他にも似た疑惑があると聞いたが?」

 互いに含みや皮肉を混ぜ入れた舌戦に突入する。
 それを傍から聞いているレオは、今まで何度もフロガと会った事がある事と月の聖杯戦争の経験から、今日までの自分の中で抱いていた疑惑が確信に変わりつつあった。
 マスターピースの副代表は人間では無く――――。

 「貴殿との話は一度置いておこう。失礼いたしましたがお久しぶりですな、レオナルド殿」
 「ええ、半年ぶり程でしょうか。見ない間にまたカリスマ性に磨きがかかったのでは?」

 考えに没している最中に声を掛けられようと慌てる事など無い。
 レオは既に、王としては完成しているのだから。
 ――――ただ言うなれば、無邪気と言う名の暴走はおまけの類。付属品。一種のアタッチメント。DLCで100円から200円程度で落とせるものみたいなものだ。
 話は逸れたが、無邪気と言う名の暴走性が現れない限り、レオは何時何時(いつなんどき)も冷静?に対応できる。

 「恐れ入ります。ですがそれはレオナルド殿もでありましょう?貴方は多くの者を率いて統べる王として器が既に完成しているように思えます。であれば、それほどの器にカリスマ性がさらに磨きがかかるのはおかしくはありません。いや、いずれ貴方は私や帝をも上回る王になれると愚考しますよ?」
 「過分な賞賛、身に余るばかりですエレンホス副代表」

 2人は選んでいる言葉こそ固いが、それは社交辞令や建前では無く本心からであった。
 そんな2人――――と言うより、フロガ・K・エレンホスのカリスマ性や存在感に全く動じず、一歩も引かず、対応するレオに揚羽は心の中でさらに震え上がった。
 マスターピースの副代表のカリスマ性と存在感は、傑物に対する意味で目が肥えていると自覚していた揚羽からしても衝撃的だった。
 そんな衝撃を感じた自分とは違い、いとも容易く普通に応対し続けるレオに戦慄しても仕方がないと言えた。
 そう、動揺している時に、今度は揚羽に向いて来た。

 「お父上からお噂を聞いてはいましたが、御息女の揚羽殿とこうしてお目にかかれて大変光栄ですよ」
 「いえ、その様な・・・」
 「オイオイ、俺の娘を苛めてやんなよ。分かっててやってんだろ?」
 「その様な気は無かったのだが―――それにしても貴殿は何故ここに居る?九鬼財閥の代表として揚羽殿が推参したのではないのか?」
 「お前にちょい、聞きたい事があってな」
 「内容にもよるな」

 帝が直接会って聞きたい事となると、それは余程の重要案件だ。
 それに対するフロガの言葉は当然の対応である。

 「なら勝手に言わせてもらうぜ?月初めに川神学園の学長、川神鉄心に手紙送ったろ?あれは如何言ったもんなんか差し支えなければ教えてくれねぇか?」
 「悪いが応える事は出来んな。――――ああ、教えられないと言う意味じゃない。私はその内容を知らないのだ」
 「・・・・・・・・・副代表の立場で知らねえだと?あり得ねえだろ」
 「そんな事はなかろう。どの様な組織と言えど、長とその次に位置する者が情報を共有していない事など、珍しくもあるまい」
 「それはその両者が裏で暗闘なり、権力闘争してる場合とかにもよるだろうが。それとも何か?マスターピースも実は一枚岩では無いってか?」

 若干揶揄って来る帝に内心で苦笑する。

 「いや、基本一枚岩だ。それに現代表は聡明な方。何れ時が来れば私にも教えるだろう」
 「そん時まで待つってか?相変わらず巨山の様にずっしりとした態度が好きな奴だ」

 そんな重鎮だらけの式典会場を囲む様に警護している軍人の一部が女性であり、それはドイツが誇る猟犬部隊だった。
 猟犬部隊は故意か偶然か全員が女性である。
 そして猟犬部隊の主軸メンバーからは、今回の参加は3人のみだ。
 勿論クリスの護衛であるマルギッテと有給休暇を取っているフィーネとリザを除いた3人である。
 その3人は現在小休憩中で、テルマにいたっては鎧―――と言うかパワードスーツ?から抜け出た上で真剣な話し合いをしている。

 「副長達と連絡が取れないですって!?」
 「うん。二日おきに連絡するって聞いたんだけど、全然来なくて・・・。もしかしたら副長もリザも日本観光に夢中になってるんじゃないかって、コジーに言われたんだけど・・・」
 「よくよく考えれば、あの真面目な副長が連絡を怠るなんて有りえないもんなー」

 呑気そうに答えるコジマだが、これでも一応真剣だ。呑気そうに見えるのは単に、生来から来る天真爛漫さ故だ。
 勿論その事を知っている2人は、そこに対し何も指摘する事は無い。

 「だからね、テル。これ以上中将に黙っているのは良くないと思うんだけど・・・」
 「・・・・・・・・・・・・そうね。帰還してからフランク中将のお耳に入れて指示を仰ぎましょう」
 「うん」
 「承知!」

 取りあえず話はまとまったので解散していく3人。
 そこに1人残ったテルは怒りに打ち震えていた。

 (元はと言えば、分を弁えずに隊長を下したアイツがこのような事態を招いたのだ!)

 血が出るほどした唇を噛むテルマ。

 (おのれっ!エミヤシロウッッッ!!!)

 完全な逆恨みである。 
 

 
後書き
 ライダーでありながらクラススキルの騎乗がEとは如何なモノか?
 まあ、自分で考えたんですけどね。
 船、機械任せの自動操縦なんで、クラススキルの高さとか関係ありません(笑

 副代表のイメージはTOX2のラスボスでもあるビズリー・カルシ・バクーみたいな感じです。
 屈強なキャラクターを考えた時に真っ先に思い浮かんだのがビズリーでした。
 勿論副代表はビズリーではありません。 
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