色を無くしたこの世界で
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ハジマリ編
第11話 VSジャッジメント――覚醒するソウル
『さぁ! テンマーズのキックオフで試合再開ですっ!』
ホイッスルの音と共に、キモロからパスを受けたフェイが上がっていく。
が、すかさずジャッジメントの選手がディフェンスに入る。
「行かせません!」
「っ……天馬っ!」
進行方向を阻まれたフェイは、後方の天馬にパスを出す。
パスを受け取り、前へと進む天馬の目に、先ほど自分からボールを奪った男が映った。
男は天馬からボールを奪わんと、こちらに向かって走ってきている。
「行かせないっ」
「っ……」
さっきと全く同じ状況に、天馬の頭に嫌なビジョンが浮かぶ。
ボールを奪われ、点を決められるビジョンが。
天馬の中で様々な気持ちが乱雑する。
恐怖。
不安。
緊張。
焦り。
自然と息が荒くなり、動機がする。
――でも、だからこそ……
「負けられないっ……!!」
「!」
瞬間、天馬の周りに柔らかい風が吹き始める。
「そよかぜステップS!」
「な……っ!?」
周りに吹いた風を纏い、天馬は身軽なステップで相手を抜き去る。
「よしっ!」
「くそ……っ!」
『松風選手、得意の《そよかぜステップ》でデルタ選手を抜き去ったー! そしてそのままゴール前で待つフェイ選手にパスだぁー!』
天馬からのパスを受け取ったフェイはオレンジ色のオーラを発すると、その姿を青い髪と褐色色の肌を持つ少年へと変化させた。
「来い」
「いくよっ!」
シュート体勢に入ったフェイの背後には、白と青の胴体を持つ巨大な恐竜が出現し、大きな唸り声をあげフェイのシュートと共にゴールへと食らい付いていく。
「真・王者の牙ッ!!」
『ミキシトランスをしたフェイ選手の必殺技が炸裂っ!! アビス選手に向かっていきますっ!!』
「いっけぇー!!」
青い牙の形のオーラを纏ったシュートが、ジャッジメントのゴールに向かって突き進む。
フェイのシュートは前見た時よりもかなり威力が増している。
「これなら……」と思ったのもつかの間。
アビスと呼ばれた女性ゴールキーパーは退屈そうに息を吐きだし、言い放つ。
「なんだ。こんなモンか……」
「!」
「見せてあげるね。僕達、『Blood irregular(ブラッドイレギュラー)』の力」
そう笑うとアビスは両手をXの形にクロスさせ、シュートに向かって駆けだす。
「ゴッドハンドX!!」
アビスは赤いイナズマを帯びた巨大な手を発動させると、そのままフェイのシュートを抑え込む。
最初の内は勢いがあったシュートも段々とそれを失い、ついには完全に停止してしまった。
『アビス選手! フェイ選手の強力なシュート《王者の牙》を難なく止めてしまったぁ!! テンマーズ、同点ならず!』
「くそっ!」
悔しがるフェイを嘲るように笑うと、アビスは中盤のデルタにロングパスを放った。
そこを見逃さず、天馬はブロックへと入る。
(よしっ。ここは《スパイラルドロー》で……)
「先ほどの様に行くと思うなよ」
「!」
まるで天馬の心を見透かしたかの様に囁いた直後、デルタは黒い光に全身を包み込む。
光が弾け、そこから姿を現したのは一匹の巨大な《黒い豹》だった。
「!? ソウルまで……?!」
ソウルを発動したデルタは、脅威的なスピードで天馬を――そしてブロックに入った他のメンバーを切り裂くように突破していく。
『ソウル《クロヒョウ》を発動したデルタ選手! 凄まじいスピードでテンマーズ陣内へ切り込んでいきますっ!!』
「くそっ…! 早すぎてデュプリの操作が追い付かないっ……!」
「こんな攻撃くらいでバテちゃうなんて……しょせん、そこが君達"人間"の限界って事だったんだよ」
焦りの表情を見せながらそう言葉を発するフェイを、カオスは馬鹿にする様に笑っている。
――? “人間”……?
不意に天馬の中である疑問が浮かんだ。
――もしかして、カオスは“人間”では無いのか……?
今までのカオスの発言や行動を振り返ってみると、明らかに常人とは考えられない様なシロモノばかりだ。
特にジャッジメントのメンバーを生み出した時の行動。
アレほどの怪我と出血をしながら、今彼はピンピンしている。
――でも…人では無いとしたら一体何だ……?
「カオス様っ!」
「!」
そんな事を考え始めた所で、天馬は我に返る。
目の前ではパスを受け取ったカオスが猛スピードでゴールに向かって走っていた。
――マズイ……っ
咄嗟に守備に回ろうと走り出す、が。
「カオス様の邪魔はさせない」
「! っ……」
目の前に現れた二人の選手に行く手を阻まれ、身動きが取れない。
こうしている間にも、カオスはどんどんゴールへと近づいていく。
デュプリ達も必死にカオスを止めようと動くが、次々に吹き飛ばされ倒れてしまっている。
グラウンドの反対方向を見ると、フェイも同じ様に二人の選手にマークされてしまい、動けないでいた。
「くそっ……!」
どうにか、抜け出せないモノかと動いて見るが、二人の選手がピッタリと張り付き、一瞬の隙も見せない。
ふと、天馬の視界にカオスの前に立ちふさがるアステリの姿が映った。
アステリはカオスからボールを奪おうと食らい付くが、実力の違いからか簡単に吹き飛ばされ、突破されてしまう。
自然とアステリの身体に、吹き飛ばされた時に負ったであろう傷が増えていく。
――このままじゃ…っ
焦りの色を見せる天馬に、目の前で彼の行く手を阻む男が話しかけてきた。
「松風天馬」
「!」
「お気づきですか……? アナタ方のチームの"弱点"」
「弱点……?」
突然何を言い出すのかと思っていると、男は「えぇ」と暗い口調で続ける。
「アナタのチームのほとんどは、あの兎の少年の分身でなりたっている。分身自体は対した力は持っていないので、アナタと兎の少年さえ抑えてしまえば無力も同然。あの裏切り者に関しては例外も良い所。いくら基礎が出来ていても、技を持っていなければ話にならない」
そう語る男は、光の入っていない瞳で天馬を捕らえると「そうでしょ?」と不気味な笑みを浮かべた。
そんな彼を強い眼差し睨みつけると、天馬は「違う」とハッキリ口にした。
天馬の発言が意外だったのか、そもそも反論してくるとは思っていなかったのか、彼ともう一人の選手が目を丸くして天馬の方を見る。
「そんなの全然弱点なんかじゃない! デュプリ達だってアステリだって、皆それぞれの強さを持ってるんだ! 技がなくたって、化身が使えなくたって関係無い! 最後まで諦めないで食らい付いて行くのが、俺達の強さだ!」
天馬の言葉に圧倒されたのか、二人は押し黙ってしまった。
瞬間、アレほど徹底していたマークにも隙が生まれる。
その隙を天馬は見逃さなかった。
(今だっ……!)
「!?」
二人の間を走り抜け、カオスの元へと急ぐ。
『松風選手! ジャッジメントの二人がかりのディフェンスから脱出! カオス選手の元へと走っていきます!』
「へぇ……ファントムとリグレットのマークから逃げれたのか……でも、少し遅かったね」
「!!」
すでにゴール前まで来ていたカオスはそう笑うと、シュート体勢に入ろうとする。
全速力で走ってもこの距離では間に会いそうもない。
DFのデュプリ達もカオスによって倒され、ゴールキーパーと一対一の状況。
――マズイッ……このままじゃ…っ
「そんな事……させないっ…!!」
苦しそうな声と共にカオスの目の前に現れたのは……
「! アステリ!」
その声にカオスは呆れた様に「また君か」と呟くと、機嫌が悪そうにアステリを睨みつける。
「いくら何でも往生際が悪すぎない? いい加減諦めて負けを認めてよ」
「ボクも……天馬達の仲間なんだ。だから、絶対諦めない」
アステリはそう、強い口調で言い放つ。
それに対し、カオスの表情がどんどん険しくなって行く。
「へぇ……じゃあ、見せてもらおうかな。君達の“強さ”ってヤツ!!」
そう叫ぶとカオスは再び天高く飛び上がり、周囲に赤黒いオーラを発生させる。
オーラを吸収したボールは歪に膨れ上がり変形する。
カオスはそんなボールを前に、蹴り落そうと片足を上げて構える。
『カオス選手、またもや必殺技の体勢に! テンマーズ、またしても大ピンチっ!』
「行くぞ。インフェルn……」
その時。
「止めてみせるっ!!」
「!」
アステリはカオスと同じ様に――いや、それよりも高く飛び上がると、全身を水色の光に包み込む。
すると、先ほどまでとは違う、白い羽根に大きな翼、黄色いクチバシをたずさえた、巨大な《白鳥》へと姿を変えた。
「なっ……!?」
「あれって……!」
『なんとアステリ選手! こんな土壇場でソウルを発動! 美しい《白鳥》へと変身だぁぁ!!』
その場にいた全員が驚きの声をあげる。
白鳥へと姿を変えたアステリは、その大きな翼を羽ばたかせると、周りに激しい風を巻き起こす。
風は小さな竜巻の様に変化すると、カオスに衝突し、その体を吹き飛ばした。
「ッ……ぐっ!!」
「! カオス様っ」
「! チャンス!」
「!」
突然のソウル発動に、フェイをマークしていたジャッジメントの選手達にも隙が生まれた。
フェイがそこを見逃すはずも無く、二人のマークを離れ、前線へと上がる。
「アステリ、パスだっ!」
「うんっ! フェイっ!」
ソウルを解除したアステリは空中でフェイにパスを出す。
突然現れた反撃のチャンスに天馬も攻め上がろうとする。
その時。ふと、今まで悔しそうな顔をしていたカオスが胸を抑えてしゃがみこんだのが見えた。
カオスの異変に傍にいたデルタが駆け寄る。
「っ……くそ……」
「大丈夫ですか…? カオス様」
「あぁ……大丈夫……。まだ……平気だ…」
(? ……なんだ……?)
後書き
《ソウル:白鳥》
アステリのソウル。
水色の瞳に白く大きな翼を持った白鳥へと変身する。
持前の巨大な翼を羽ばたかせ出来た暴風で、敵を吹き飛ばす。
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