仮面ライダーAP
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第一章 鉄仮面の彦星
第6話 仮面の戦士
怪人はアウラに覆い被さらんと、駆け出した。そんな悍ましい怪物の猛威に怯むことなく、アウラは持ち込んでいた煙幕で姿をくらます。
だが、エチレングリコール怪人は諦めることなく、彼女を探し回る。びちゃりびちゃりという音が、ますます激しくなっていった。
やがて煙幕を抜け出し、獣欲に爛れた瞳でアウラを見据え、執拗に付け狙うエチレングリコール怪人。
「ふふふ、くはははは!」
「くッ……!」
狂うように笑いながら、あっさりと彼女に追いついてしまった彼は――彼女の柔肌を手に入れようと、その手をゆらりと伸ばし……。
「はああっ!」
「ぐおっ――ぁあぁぁあッ!?」
突如、コンクリートの壁をぶちやぶり現れた――もう一人の異形の者に、跳ね飛ばされてしまった。
白く輝くバイクの体当たりを受けたエチレングリコール怪人は、その身を激しく吹き飛ばされていく。
「ぐぬぅッ!?」
自らを覆う粘液を撒き散らしながら、彼の体はぐちゃりとコンクリートの床にたたき付けられてしまう。
粘液の存在が多少は衝撃を緩和したようだが、それだけでダメージが無くなるわけではない。
痛む箇所を押さえながら、粘液を纏う怪人は、颯爽と現れ、自らを襲った人物を睨み据える。同時に、アウラは自分を救った仮面の戦士に目を奪われていた。
「遂に現れたな……!」
「あ……あな、たは……!」
純白のオフロードバイク。
赤と黒の配色を持つ、シャープなスタイル。
左足に伸びる真紅のライン。
金色に煌めく大きな複眼。
バックルに納められた、一つのワインボトル。
そして――胸と複眼に輝く「G」の意匠。
シェードが最も恐れ、最も危惧すべき戦士――「仮面ライダーG」。その凛々しくも雄々しい姿が日の光を後光にして、まばゆい輝きを放つ。
「あの事件から7年。よくもこれまでのうのうと生きて来たものだ! 我々の相手をしながら……」
息を荒立てるエチレングリコール怪人を尻目に、Gは悠然とバイクを降りる。
――そこには、確かな歴戦の貫禄があった。
静かな足取りで、ある程度の距離まで近づくと、彼はようやく重い口を開く。
「どこまでも生きていけるさ。この世界を守ると、約束したのだから。彼らと――彼女と」
孤独な愛の戦士の脳裏に、7年前の戦いが蘇る。
テレビ局での、かつての恋人だった日向恵理との運命の再会。
思い出のワイン。洗脳からの解放。
彼女を守る決意。裏切り者の烙印。
隊長格の織田大道との死闘。
そして、10人の仮面ライダーとの出会いと、激励。
あれから7年間。洗脳されていた時の犯行声明が原因で社会からも迫害された彼は、たった独りでシェードの刺客と戦い続けていた。
――恐れはなかった。
愛する者を守る事、それだけがGを戦いへと突き動かしていたからだ。
「人間社会は改造人間を受け入れない。そして我々は裏切り者を受け入れない! 貴様の行く末に、安住の地などないのだ!」
「安住の地なら、ある。彼女という、安住の地が」
Gは語る口を止めることなく、拳を握り締める。これから始まる戦いに、己を奮い立たせるために。
「その安住の地を守る為に、僕は貴様達に立ち向かって来た。これまでも――これからも」
Gはエチレングリコール怪人と真っ向から向き合い、握り締めた拳を構える。しかし、怪人に怯みは無い。
「馬鹿め! 私の体は猛毒の粘液で満たされている! さっきはバイクでの追突だったから通じなかっただけ……直に触れれば貴様とて!」
「なら――触れなければいいんだろう?」
言うが早いか、Gの胸のプロテクターから、同じ形の物体が現れた。
それは彼の右手に渡り、掌中に収まると同時に、先端にソムリエナイフを思わせる刃が出現した。
「し、しまっ――!」
まばゆく閃くGの剣が、凄まじい勢いでエチレングリコール怪人に向かって行く。一切の隙を与えない、電光石火の連続攻撃。
7年間に渡る実戦経験の賜物である、その剣技を前に――怪人は防戦を強いられた。
「うっ、ぐうっ!」
後ずさりするしかない。怪人に焦燥が走る。
反撃しようと踏み込めば、間違いなくそこから生まれる僅かな隙を狙われ、切り裂かれてしまうだろう。
防御するために突き出した彼の両腕からは、激しく火花が飛び散り続けていた。
一方で、Gも攻撃を緩めるつもりは全くなく、流麗かつ素早い剣捌きでエチレングリコール怪人を圧倒する。
「――ハッ!」
そして、連続攻撃の末に繰り出された、大きく振りかぶった一撃。
「グギャアァアッ!」
それを浴びた怪人は、容赦なく吹き飛び、再び地を転げ回った。毒性の粘液を撒き散らし、怪人は二度に渡って襲い来る痛みにのたうちまわる。
鮮やかな身のこなしで武器を操るGとは対照的だ。
「これ以上は無駄な事。早々に諦め、降伏することだ。幸い、ここに改造人間を人間に戻せる姫君もいる」
「――!? ど、どうして私のことを……!」
「シェードのヨーロッパ支部と戦っている最中、奴らの情報網から君のことを偶然知ったんだ。……まさか、日本に来ているとは思わなかったが」
「……」
「――さあ。貴様も改造人間としての役目を捨て、人間に立ち戻れ。僕も、不要な争いはしたくない」
先刻の滑らかな動きからは想像のつかないような毅然な姿勢で、Gは怪人に降伏を勧告する。だが、エチレングリコール怪人は降参の意を示さない。
痛みに苦しみながらも、Gの威圧に屈する様子が見られないのだ。
「……流石だ。7年間に渡り、我々を翻弄し続けて来ただけの事はある」
ひび割れたコンクリート壁に寄り掛かりながら、粘液を纏う怪人は立ち上がる。
「だが――その7年間という月日は、我々に貴様の様々なデータを残していったのだ」
「僕の……データだと?」
自分の情報が話に関わっていると知り、Gはマスク越しに顔をしかめる。
「そうだ! 我が食前酒計画の真髄、心行くまで堪能していただく。行け、APソルジャー!」
その時。
Gは己の背後に凍てつくような殺気を感じた。
「っ!」
後ろにいる――敵が!
咄嗟の判断で水平に身をかわす。
すると、さっきまで彼が立っていた場所に、謎の五人衆が舞い降りて来た。
「メインディッシュは、最後まで取っておくもの。まずは前置きから楽しんでいただかなくてはな!」
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