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東方叶夢録

作者:くしゅん
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幻想郷について

 
前書き
今回もよろしくお願いします。更新速度はだいたい1週間に1回くらいになりそうです。 

 
「よし、今日の授業はここまで。皆、気をつけて帰るんだぞ」
「はーい!」
「せんせーさよーならー!」
「ああ、また明日」
時刻は昼過ぎ。寺子屋の教師こと上白沢慧音は本日の授業を終え教え子を帰したところだった。
全員が出ていったことを確認して先程行ったテストの採点をしようとしたところで扉を叩く音がした。
「ん?忘れ物か?」
教え子の忘れ物と慧音は思ったがそうならノックはしないだろうと思い直し扉に向かう。
「どなたかな?…おや、君は」
そこにいたのは昨日茶屋で出会った外来人の少年だった。
「こんにちは、慧音さん」
「こんにちは、叶夢。何か用か?」
「はい、少し調べたいことがあるので。寺子屋なら資料があるかなーと思いまして」
「ほう、わかった。とりあえず入るといい」
入るよう促すと叶夢はお邪魔します、と言い扉をくぐる。
「それで、何を調べたいんだ?」
「幻想郷の地図です」
「地図?確かにあるが何に使うんだ?」
「それはですね、今朝霊夢さんが……」

《回想》
朝。叶夢は朝食を済ませ手持ち無沙汰になっていたので霊夢に何かする事は無いかと尋ねることにした。
「霊夢さん、何かすること無いですか?」
「んー、無いわね」
「え」
昨日は荷物持ちの後神社の掃除+釜でのご飯の炊き方を叩き込まれたのだ。てっきり今日も掃除しろとか言われるのかと思っていた叶夢は少し面を食らった。
「えーと。掃除とかは」
「掃除なんて3日に1回でいいわよ。買出しも昨日済ませたし今日明日はのんびりしてなさい」
「えぇ…」
叶夢にとって博麗神社にはあまり暇を潰せるものがなかった。
「何か……何でもいいんでないですかね」
「それじゃお茶でも入れてもらおうかな。やり方わかる?」
「わかりません!」
叶夢はその後嬉々としてお茶の入れ方を教わった。だがそれも昼頃には覚えてしまい昼食後はまた暇になっていた。
「霊夢さん、何かすることありませんか」
「無いってば…そんなに暇なら人里にでも行ってきたら?あんた記憶力良いみたいだし道覚えてるでしょ?」
「あー、そういえば昨日慧音さんに寺子屋に遊びに来てもいいって言われましたし…行ってきます」
即決だった。
「そうだ。暇なら幻想郷の地図でも調べてみたら?」
「地図?」
「そう、あんたにはこの神社は暇そうだし知ってる場所を増やして遊びに行けば暇も紛れるんじゃない?」
「いいですね、それ」
霊夢の意見は叶夢にとって魅力的なものだった。人里はもちろんだが叶夢は先日話した妖怪達とも関わってみたいと思っていたのだ。
「それじゃさっそく行ってきます」
「あ、ちょっと待ちなさい」
叶夢が外に出ようとしたら霊夢が呼び止めた。そして棚を漁り何かを取り出した。
「はいこれ、一応持っていきなさい」
「お札、ですか?」
霊夢が渡してきたのは数枚のお札だった。
「昨日みたいに襲われたら大変でしょ?弱い奴なら退治、多少強くても足止めにはなるわ」
「ありがとうございます」
お礼を言って札をポケットにしまう。少し懸念していたルーミアのような存在に対策が出来たのは叶夢に安心感をもたらした。
「ま、あんま遅くならないのよ。夜は強めのが活発になるし」
「了解です、日が昇ってるうちに帰ります」
「ん、いってら」

《回想終了》
「こんな感じでして」
「なるほどな、確かにこれから幻想郷で暮らす以上幻想郷を知るのは必要だろう。持ってくるから少し待っててくれ」
そう言って慧音は奥の部屋に入っていった。叶夢はただ待つのも暇なので寺子屋を観察して現代の学校との違いを探した。
「ふむ…全体的に木製で机が横長で椅子がないってくらいですかねぇ。そんなに変わらないんですね」
寺子屋とは学校の元になったものなので 基本的な構造は変わらないのである。そうしているうちに慧音が戻ってきた。
「お待たせ、少し古いものだがあまり変わっていないはずだ」
「ありがとうございます。もう一つお願いがあるんですけど」
「うん?ああ、紙と鉛筆だな。そこに置いてあるから好きに使うといい」
「重ね重ねありがとうございます」
叶夢はそう言って地図を眺めた。全体図から人里の内部地図、森の地図などそれぞれ古風な地図だが何がどこにあるのかはわかった。
「これが博麗神社っと…」
全体図の地図を模写しつつその地の名前を書き込んでいく。
「……一応聞いておくが君は今書いているところに全て行くつもりか?」
「そのつもりですけど…」
「ふむ…少し忠告してもいいかな?」
「何でしょう」
慧音は真剣な面持ちで叶夢の書いた地図の1部にバツを付けた。
「いいか、このバツ印をつけたところは人間が行くところじゃない。命が惜しくば行かないことだ」
「それは…怖いですね」
「ただの脅しじゃなくて本気の忠告だ。決して行くな」
「……」
慧音は本気で叶夢の心配をしていることがわかった。いったい何があるのかという好奇心はあるがそこまで言われると行かない方が良いように思える。
「わかりました、絶対行きません。けど、何があるか教えてくれませんか?」
「ああわかった。まずこの紅魔館だが……」

「今日はありがとうございました」
「いや、私も楽しかったよ。生徒達よりも真剣に聞いてくれるしな」
夕方になり地図も書き終え叶夢は帰ることにした。
「それでは、さようなら。また来てもいいですか?」
「ああ、いつでも来てくれ。私でよければ力になろう」
そう言って2人は別れた。
叶夢が歩いていると人里の人たちから視線を感じた。
「……?」
その視線は特に観察する様子もなく敵意があるわけでもない。チラッと見てすぐに視線を外す感じの視線を人里中から感じた。

「慧音さーん」
「ん?文か」
叶夢と別れた後すぐに新聞記者の天狗が訪れた。
「どうぞ、夕刊になります」
「ありがとう」
「今回は新たな外来人の方について特集してるので興味があれば博麗神社へどうぞ。それでは!」
そう言って飛び去った。
「博麗神社…?」
慧音は叶夢が人里に住んでいるものと思っていたので何故博麗神社に行くのかが分からなかった。そして記事を読んで初めて知るのだった。

「うーん…」
叶夢は帰りながら悩んでいた。慧音に行くなと言われたところについてだ。慧音には言ってなかったが自分には謎の危機回避能力があるのだ。ならば行っても大丈夫ではないかと。
「霊夢さんに相談ですかねぇ」
そう思いつつ彼は夕焼けが落ちる森の中を歩いていった。

「ただいま戻りましたー」
「おかえりー」
「おかえりー」
「おかえりー」
「え?」
三度返事が返ってきたことに叶夢は驚く。ここには霊夢しか住んでいないはずだが。1人は霊夢の声だったがもう2人は分からなかった。
居間に入るとそこには霊夢の他に2人の人影があった。
1人はややメルヘンな衣装に身を包み全体的に白黒の少女。
もう1人は小さな体に大きな角を生やした少女。
「あ、前話した…伊吹萃香、ですよね」
「お、覚えてるとは感心だね。邪魔してるよ」
以前と同じように気さくに話しかけてきた。前と同じように手に持った紐のついた瓢箪を口に傾けている。鬼である彼女に酒を飲むのに時間も場所も関係ないのだ。
「んじゃ私は覚えてるかー?」
次に白黒の少女。が、叶夢はこの時彼女が何者かを知らなかった。
「えっと、すいません…」
「ありゃ残念。まあそんなに話してないし仕方ないか。私は霧雨魔理沙だ。よろしくな」
あまり残念そうな素振りは見せずニカッと笑いながら握手を求めてくる。
「冬宮叶夢です。よろしく、魔理沙さん」
握手に応じ自己紹介を返す。この時叶夢は幻想郷にいくらか慣れて名前で呼ぶようになっていた。
「ふむ……」
が、何故か魔理沙が握手した手を離さない。そのまま指や手をにぎにぎと弄っている。
「えーと、どうしました?」
「ああすまん、男の手を握ったのなんて久々でな。こーりんともまた違う感触なんだなと思ってたんだ」
そう言って魔理沙は手を離した。叶夢も少女と手をつなぐ事は数える程しかなかったので魔理沙の手の感触は新鮮なものであった。
「なーにいちゃついてんのよ」
ここで今まで黙っていた霊夢がつっこんできた。
「スキンシップは悪いことじゃないぜ?それに叶夢も別に悪い気分じゃないだろ?」
「まあ、そうですけど」
実際悪くないどころか嬉しいとも思っていた叶夢だったがそのまま言うのも恥ずかしいので濁すことにした。

「霊夢さん、ちょっと相談が」
「ん?何よ」
魔理沙から開放された後に今日書いた地図やら情報を再確認を終えたので叶夢は先程考えていたことについて相談することにした。
「紅魔館ってところについてなんですけど…」
「紅魔館?」
少し霊夢の顔が渋くなる。やはり危険な場所なのだろうか。
「紅魔館がどうしたの?まさか行きたいとか言うわけじゃないわよね」
「えっと…そのまさかでして…」
「却下」
即答だった。
「そんなに危険なんですか?」
「一般人には極めて危険ね。あんたに死なれちゃ困るしダメよ」
「そうですか…」
そこまで言われると叶夢も流石に諦めざるを得ない思った。では紅魔館がダメならどこに行こうかと考えていると魔理沙が割り込んできた。
「なんだ叶夢。紅魔館に行きたいのか?」
「行ってみたくはあるんですけど慧音さんにも危険って言われましたし…」
「ふむふむ、じゃあ行こうか」
「はい?」
文脈が繋がってない気がした。
「他人にダメだと言われても人間の好奇心は抑えれないものだぜ。ちょうど私も本を借りたいと思っててな、ついでに連れてってやるよ」
「待ちなさい魔理沙。私がさせないわ」
霊夢が割り込んできて叶夢を行かせまいとする。
(これが本当に俺の身の心配なら踏みとどまるんですけどねー…実質お金のためですからねー)
行きたいと思う気持ちに連れて行ってやるという言葉がヒットして叶夢はもう行く気になっていた。心の中で霊夢に言い訳しつつ叶夢は部屋を飛び出した。
「あっ、ちょ!待ちなさい!」
「はははっ!やっぱ好奇心には勝てないな!叶夢、外で待ってろ!萃香、霊夢を抑えててくれ」
「りょうかーい」
霊夢を羽交い締めする萃香。鬼の力には抗えず霊夢は尻餅をつく。
「萃香、離しなさい!何であんたまでそっちの味方なのよ!」
「こっちのが面白そうだからだ。叶夢には危機回避能力があるんだろ?魔理沙もついてるし大丈夫だって」
「あのメイドとか妹にかかったらそんなもの無いのと同じよ!」
霊夢は暴れるが力では鬼の萃香には勝てない。が、部屋の中なので弾幕を放つわけにもいかず暴れるしかなかった。
「じゃあなー」
その間に魔理沙は箒を持って出ていった。
「いってらー」
「待てこらー!」

「よっ、お待たせ」
「魔理沙さん、ありがとうございます」
「ん?」
何についてお礼を言われたかわからないという顔をする魔理沙。
「慧音さんと霊夢さんに止められて諦めそうになってましたけど、魔理沙さんは俺を連れてってくれるって言ってくれました。その事でお礼が言いたくて」
叶夢がそう言うと魔理沙はきょとんとした顔になってその後破顔した。
「いいんだよ、私も用事があるって言ったろ?そのついでだよ。それに慧音は頭固いし、霊夢も金が関わると心配性だからな」
「あはは…」
帰ったら何言われるだろうと少し不安になったがここまで来たからには行くしかないという気持ちになっていた。
「さ、乗れよ。私の相棒に」
そう言いながら魔理沙は自分の箒に跨った。
「箒…ですか?」
「おう、安心しろ。落ちないように速度は落としてやるから」
「何か魔女みたいですね」
「言ってなかったか?私は普通の魔法使いだ。箒に乗るくらい普通だぜ?」
「初耳ですよ…」
それっぽい容姿をしていると思っていたがまさか本物とは知らなかった。
「落ちません…よね」
「大丈夫だよ、早く乗れ。霊夢が来ちまうぞ」
叶夢は自分がこんな箒に跨って空を飛ぶという姿が想像出来なかった。だが方法がそれしかないのなら仕方ないと割り切り叶夢は魔理沙の後ろに跨った。
「よし、しっかり捕まってろよ。それと変なとこ触ったら金とるからな」
「触りませんよ…」
自分より少し小さい肩に掴まる。そうすると徐々に箒は浮かび上がった。
「うわ、わ」
足がとてつもない浮遊感に襲われる。不思議とバランスは取られており落ちる気配はない。
「んじゃ紅魔館に向けて出発!」
魔理沙がそう言うと箒は徐々に速度を上げて進み始めた。

「はーなーせー!」
「やれやれ、もう諦めなよ、霊夢」 
 

 
後書き
次回は紅魔館回になります。門番は殆ど登場しません(無慈悲) 
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