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真田十勇士

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巻ノ六十 伊達政宗その十二

「そうではないのか」
「いや、それはです」
「まさかと思いますが」
「それはです」
「幾ら何でもです」
「しかしです」
「お二人のことがありますから」
 彼等もだ、お互いにだった。
 顔を見合わせてだ、それぞれだった。
 猜疑の顔で見合いだ、こう言い合った。
「御主大丈夫か」
「貴殿こそ」
「内通しておらぬな」
「関白殿と」
「まさかと思うが」
「いや、まさかではないやもな」
「父上、これでは話になりませぬ」
 氏直は家臣達が互いに言い合い状況を見てだ、氏政にすぐに言った。
「ですから」
「この場はじゃな」
「話を終わりにしましょう」
「わかった、ではな」
 氏政もそうするしかないと思った、それでだった。
 この場はお開きとした、しかし。
 二人の内通の話に小田原城は秀吉の読み通り大いに揺れ動いてだった、お互いにそれこそ親兄弟の間で疑い合い言い合う状況になっていた、そして。
 無駄に神経をすり減らしていった、兵が城門の方に来ればだ。
 すぐにだ、別の兵がその彼にこう言った。
「御主門を開けるつもりか」
「何故そうなる」
「知れたこと、関白に内通してじゃ」 
 そしてというのだ。
「門を開き敵を城の中に入れるのではないのか」
「馬鹿を言え、何故わしがそうする」
「内通してじゃ」
 秀吉にというのだ。
「それでじゃ」
「御主わしを疑っておるのか」
「違うか」
「だから馬鹿を言えと言ったのだ」
 それこそというのだ。
「わしはそんなことをせんわ」
「絶対にか」
「そうじゃ、絶対にじゃ」
「そう言って松田様と大道寺様は裏切ったぞ」
「わしをお二人と一緒にするな」
「そう言えるのは何故じゃ」
「わしが裏切らぬからじゃ」
 こう無意味に言い合いだ、そしてだった。
 彼等は内心疑い合った。それが城のあちこちで起こっていた。こうしたことが。
 その状況を見てだ、氏直は彼の家臣達に暗い顔で言った。
「これではじゃ」
「はい、最早ですな」
「どうにもなりませぬな」
「城は守れませぬ」
「どう考えましても」
「人の心がこうまで乱れては」
 そうした状況になったからというのだ。 
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