真田十勇士
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巻ノ六十 伊達政宗その一
巻ノ六十 伊達政宗
秀吉はこの日も上機嫌だった、だがこの日はまた別だった。
秀長は共に朝食を摂る時からだ、兄を窘めていた。
「兄上、お顔がです」
「緩んでおるか」
「はい」
こう言うのだった、共に麦飯を食いながら。
「今日は特に」
「楽しみで仕方なくてのう」
「伊達政宗に会うからですか」
「そうじゃ」
まさにという返事だった。
「一体どういう者かとな」
「会うのが楽しみで、ですか」
「うむ、そうじゃ」
仕方ないというのだ。
「うきうきしておるのじゃ」
「それでもです」
「顔がか」
「全く、緩むにも程がありますぞ」
「安心せよ、その時になればな」
「引き締まるのですな」
「そうじゃ」
笑ったまま言うのだった。
「そうなるからな」
「それがしの心配は無用ですか」
「左様、御主は見ておれ」
「そう言われますとです」
秀長は兄の言葉に一呼吸置いてから答えた。
「それがしも兄上を知っております故」
「ならばじゃな」
「はい、これ以上は言いませぬ」
こう兄に言った。
「兄上ならばです」
「何だかんだでそう言ってくれるのう」
「長い付き合いですので」
秀長もここで笑った、彼の笑みは優しい微笑みだった。
「ですから」
「わしをわかってくれているからじゃな」
「左様です、では」
「うむ、ここは任せてもらうぞ」
「さすれば」
「さて、その伊達政宗じゃがな」
母が漬けてくれた漬けものをおかずに食べつつだ、秀吉は秀長に話した。
「ここでわしの膝を屈してもな」
「それでもですな」
「それで心から屈したかというと」
「違いますな」
「あの者はそうした者ではない」
それはもうわかっているという返事だった。
「そんなやわな者ではない」
「左様ですな」
「すぐに心からなびかぬわ」
「今日だけではですな」
「それこそ何年かかってもな」
「そう簡単にはですな」
「心服する者ではない」
政宗の本質をだ、秀吉はもう見抜いていた。彼がどれだけ野心の大きな者であるかはわかっているのだ。
「到底な」
「ですな、これからも隙あらばですな」
「天下を狙う」
「兄上の天下を」
「そうした者じゃ、そしてじゃ」
さらに言う秀吉だった。
「今の考えだがな」
「この関東のこともですな」
「奥羽のこともじゃ」
そちらもというのだ。
「考えておる」
「戦の後のこともですな」
「戦が終わって万事解決ではない」
むしろだった。
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