モンスターハンター 〜故郷なきクルセイダー〜
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第3話 不思議なハンター
「あんた達か!? 最近この村にやって来たっていう、上位ハンター二人組ってのは! もう村中で噂になってるぜ!」
「……?」
集会所を去り、村の市場で明日に備えての買い出しに出ていたクサンテ達を、一人のハンターが呼び止めていた。
艶やかな黒髪と黒い瞳を持つ、その若いハンターは……能天気な声を上げて、まじまじとクサンテ達を見つめている。
「いやー、上位ハンターが来るなんてすげぇな! おいらもこないだ、先輩方に助けて貰って上位に上がったクチなんだけどよ! やっぱ実力でのし上がったハンターって、オーラからして違うんだな! 一目で分かったよ!」
「……何なのよ。あなた」
顔立ちこそ整ってはいるが、見るからに頭が悪そうな振る舞いを目の当たりにして、クサンテは不機嫌さを露わにする。そんな彼女と若いハンターを間引くように、デンホルムが割って入った。
「下がらぬか下郎! このお方をクサンテ・ユベルブ様と心得ての狼藉か!」
「ろ、狼藉ってそんな……。ああでも、名乗ってなかったなそういえば。おいらはアダイト・クロスター! 最近、この村を拠点にするようになったハンターだ!」
「貴様の名などどうでもよいわ! 貴様のような下賤の者が、気安くクサンテ様に話し掛けるなど……!」
「いいわ、デンホルム。下がりなさい」
「ク、クサンテ様! しかし……!」
「ハンターの世界は実力が全て。曲がりなりにも、この男も上位ハンターなら私達とは同格ということよ。話し掛ける権利ならある」
そんな彼を制するクサンテは、品定めするようにアダイトと名乗るハンターを見遣る。そして――深くため息をついた。
「……けど。寄生はほどほどにしておきなさい。その装備で上位ハンターを名乗られては、私達の位が下がるわ」
呆れた声色で、彼女がそう呟いた理由は――アダイトの装備にあった。
ハンターシリーズ一式に、ハンターナイフ。明らかに、上位ハンターが使う装備ではない。仮に洒落で付けているにしても、上位ハンターとしての自覚が無さ過ぎる。
こんな男が自分達と同格とは思えないし思いたくない。それが、クサンテのアダイトに対する第一印象だった。
「そ、そんなぁ。ほら、おいらいっぱい閃光玉とか投げるし! 罠とかいっぱい張るし! 大タル爆弾も持ってるし! 絶対役に立つからさ、明日のクエスト連れてってよ!」
「聞いてたのね……存在感が希薄過ぎて気づかなかったわ。残念だけど、あなたのような下賤の者に構っている暇はないの。寄生なら他を当たりなさい」
「聞いての通りだ。下がれ下郎、貴様が来ても要らぬ犠牲が出るのみだ!」
「あいたっ!? 突き飛ばすこたぁないじゃない!」
クサンテ達は興味を失ったように、アダイトの前から立ち去っていく。去り際にデンホルムが突き放すように彼の肩を押し――黒髪のハンターは尻餅をついてしまった。
それに構うことなく、二人はそのまま去ってしまった。近寄りがたい雰囲気を放つ彼らを見る村人達は、怯えるように道を開けて行く。
「参ったなぁ、もう……」
そんな彼らの背を見送り、アダイトは埃を払いながら立ち上がる。苦笑いを浮かべる彼の瞳は、出来の悪い妹を見守る兄のような色を湛えていた。
――その後。昼食を摂るため、近場の寂れた料亭に訪れたクサンテ達は。
「よう、上位ハンターさん達。ここ、いいかい?」
「あなた達は……」
集会所にいた下位ハンター達に、声を掛けられていた。自分達以外に客がおらず、ガラガラであるにも拘らず――自分達が許可するより先に向かいの席に腰掛ける彼らに、デンホルムが兜の奥で眉を吊り上げる。
「貴様ら! 下位の末端の分際で、クサンテ様になんたる無礼を……!」
「まーまー、落ち着いてくれよ。俺達は別に変なことは企んでねぇ。さっきはやらしー目で見て悪かったよ。あんたみたいなべっぴん、ここらじゃ死んでもお目にかかれねぇからよ」
「……」
白旗を振るようにひらひらと手を振り、無抵抗の意を示す男達。彼らの様子から危険はないと判断したのか、クサンテは無言のままデンホルムを片手で制した。
(この連中の近くに居たくないから、わざわざ集会所からも離れて、こんな潰れかけの料亭に来たっていうのに……)
――内心で、これ以上ないほどのため息をつきながら。
一方。そんな彼女の制止を受けて渋々と引き下がる巨漢を見遣り、男達は再び口を開く。
「実を言うとよ。最近この辺りを荒らし回ってるドスファンゴには俺達も困ってたところなんだ。下位の俺達じゃ受注すら出来ねぇし、最近やっと上位ハンターが村に来た――と思ったら、あんなヤツだし。あんた達みたいなマトモなハンターが来てくれて、心底ホッとしてんのよ」
「……」
「つーわけだからさ。前祝いってことで、一杯奢らせてもらいたいのさ。偉大なる先人への礼節――ってところでよ」
「……そう。ま、いいわ。そこまで言うなら、有り難く頂いておくわ」
「ひ、姫様! よろしいのですか……!?」
「構わないわ。怪しいことがあれば――その場で叩き斬るまでよ」
あくまで冷ややかな表情は崩さず、クサンテはそう言ってのけた。そんな彼女に気を良くしたのか、男達は上機嫌に次々と料理を注文していく。
やがて、クサンテ達が囲むテーブルの上に、大量の馳走が乗せられた。
(……変なことをしてる気配はなかった。なら、問題はなさそうね)
その間、男達の細かな仕草にまで注目していた彼女だったが、彼らに怪しい部分が見られなかったことから、問題はないと判断していた。
そして、クサンテとデンホルムの前にビールが差し出される。
「そんじゃあ、明日の勝利を祝って! かんぱぁーいッ!」
音頭を取る男のタイミングに合わせ、全員がビールを手にする。先に男達がビールをグイッと飲む様を見届けてから、クサンテとデンホルムは互いを見合わせ――コップに口をつけた。
――その瞬間。
「うっ……ぐ!?」
「がッ……!?」
突如、全身に痺れるような電流が迸り――クサンテとデンホルムは、椅子から倒れてしまった。そんな自分達を、ニヤニヤと厭らしく見下ろす男達に、クサンテは驚愕の表情を浮かべる。
「お粗末さまぁ。どうよ? 麻痺薬入りビールの味は?」
(そんな……! 怪しい兆候なんてなかったはずなのに……!)
言葉を発することもできず、身じろぎすることしか出来ない美少女。その年不相応に成熟した肢体に、男達は隠していた邪気を解き放つが如く、舌なめずりをする。
「しっかしたまらねぇなぁ。あんたみたいな上玉が、こんなヘンピなとこに来るとは思っても見なかったぜ。とんだ収穫だ」
「若い娘って言っても、ここらじゃ芋臭ぇ田舎娘しか見つかりっこなかったのによ。こりゃあ、高く売れるなんてものじゃねぇ」
「仲間達も大喜びだろうぜ。――俺達も、お零れに預かれるかもなぁ?」
お零れという言葉に反応し、厨房の方からも下卑た笑い声が響いて来る。その現象が――この事態の裏を如実に物語っていた。
(まさか! 料亭そのものがグルだったというの!?)
(おのれこやつらッ……!)
「さぁて……今夜はお楽しみだぜ、お姫様?」
そして、その男の言葉を最後に――クサンテ達は布で目隠しをされ。
目の前が――暗黒に包まれた。
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