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魔法少女リリカルなのはINNOCENT ~漆黒の剣士~

作者:月神
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第33話 「王さまと一緒に」

 ブレイブデュエル正式稼働後初の大型イベント《ブレイブグランプリ》の開催は日に日に近づいてきている。まだ時間的には余裕があるけど、優勝候補はデュエリストの筆頭であるシュテル達のチーム《ダークマテリアルズ》だろう。
 私達もアミタさん達との特訓のおかげで力量は付いてきてる。でも私達は常に全力全開でデュエルに臨んでる。多分はたから見た場合、シュテル達みたいに余力があるわけじゃない。ヴィータちゃんが率いる八神堂の人達も強者揃いだし……今のままじゃきっと優勝には届かない。

「うーん……どうやったら今よりももっと上手くなれるかな」

 私のアバターカードはシュテルと同じセイクリッドタイプ。他のアバターよりも火力と防御力に優れてる。そこを活かせるように日々デュエルに励んではいるけど……最近は伸び悩んでるというか、みんなと比べるとあまり成長出来てない気がする。
 フェイトちゃんやアリシアちゃんは前々から頼りになる存在だったし、私よりも経験があるから実力が上でも不思議じゃない。でもアリサちゃんやすずかちゃんとは同じ日に始めた。だけどここ最近のふたりの成長は……特にアリサちゃんの成長の速さはタイプの違う私から見ても目を見張るものがあるんだよね。
 聞いた話じゃ頼れる先輩に面倒を見てもらってるってことだけど……それって絶対ショウさんのことだよね。私達の周りでアリサちゃんと同じフェンサータイプってショウさんくらいだし。それにショウさんの実力なら的確なアドバイスをしてくれるだろうからアリサちゃんの成長速度も納得できる。

「…………何かもやもやする」

 チームメイトとしてアリサちゃんの実力が上がるのは喜ばしいことだ。
 でも……その何ていうか……アリサちゃんだけずるくないかな。私だってショウさんとデュエルしたいし、手取り足取り教えてもらいたいのに。
 ――って別に手取り足取りといっても別に変な意味じゃないからね。そそその丁寧に教えてもらいたいって意味であって直に触れ合いながらみたいなことでは全くなく……!

「……何を百面相しとるのだ?」
「にゃッ!?」

 聞こえた声に反射的に反応すると、そこにはどことなく呆れた顔をしたディアーチェの姿があった。日頃は制服姿を見ることが多いけれど、今日の服装は落ち着いた感じの私服だ。だけど今の私はそんなことを気にしている暇はなく……

「デデディアーチェ、いつからそこに!?」
「今しがただが……何をそんなに慌てておるのだ? 顔が赤いようだがもしや熱でも……」
「ううん、大丈夫! 大丈夫だから心配しないで!」

 ショウさんとあんなことやこんなことをしたいな、みたいに考えてたとか言ったら絶対にディアーチェから真昼間から何を考えておるのだ! って怒られる。というか、それ以前に恥ずかしすぎてそんなこと言えるわけがない。

「なら良いが……本当に大丈夫なのだな?」
「う、うん」
「そうか、ならばこれ以上は何も言わぬことにしよう。だが今後外出中に体調が悪くなったなら迷わず周りを頼るのだぞ。貴様が倒れた方が周囲の者は心配するのだからな」

 私達と比べると尊大な口調で話すディアーチェが王さまといった愛称で呼ばれて慕われるのは、きっと今みたいに周囲のことを気遣うからなんだろう。
 素直じゃなさそうな一面があるように思えるけど、こういうときはアリサちゃんと違ってすんなりと言えるんだ。アリサちゃんだったら別にあんたのためじゃないんだから、とか顔を赤らめながら言いそうだし。

「今度は何を笑っているのだ?」
「ううん、別に何でもないよ。ディアーチェは優しいなって思っただけで」
「な、何を言っているのだ貴様は。別に我は優しくなどしておらぬ。優しいというのは貴様のことをいつも心配しておるくろひよこのような者のことを言うのだ!」

 くろひよこって確かフェイトちゃんのことだよね。確かにフェイトちゃんはいつも自分よりも周りを気遣うから優しい。
 でもディアーチェも優しいと思うんだけどな。アミタさん達との特訓だってディアーチェがお膳立てしてくれたからスムーズに進んだようなものだし。けどこれ以上言うと怒りそうだからやめておこう。

「確かにそうかも……そういえば、ディアーチェがひとりって珍しいね。何か用事でもあるの?」
「いや別に用事と呼べるようなものはない。今日は単純にひとりの時間を過ごしておるだけだ。同じ場所に住んでおったり、同じ学び舎に通ってはおるが、我らにもそれぞれの付き合いや趣味といったものはあるからな」
「そっか、それもそうだね」
「貴様こそ何をしておるのだ? そちらも珍しくひとりのようだが」
「まあ……簡単に言えばディアーチェと同じかな。アリサちゃんやすずかちゃんは習い事があったりするし、フェイトちゃん達はお店の手伝いがあったりするから。だから私は翠屋に行ってまったりと過ごしながら今日の予定を考えようかなって」

 自分の家で考えてもいいけど、家に居るとお兄ちゃんやお姉ちゃんが剣の修行をしないかって誘ってきたりする。昔から度々教わってきたから嫌ではないけど、今は迫りつつあるブレイブグランプリのことを優先して考えたいのが素直な気持ちだ。
 とはいえ、翠屋が忙しそうなら手伝おうかなとは思うけど。翠屋の手伝いをするのは嫌いじゃないし、翠屋の娘でもあるしね。今はまだはっきりとは分からないけど、将来的に翠屋を継ぐことは十分にありそうだから手伝いをしてて損はないから。

「貴様も翠屋へ行くのか。ならば我と同じだな」
「え……ディアーチェも?」
「その意外そうな反応は何だ? 我とて喫茶店のひとつやふたつ行くことはある。まあ行くとしても翠屋ばかりだがな。桃子殿の作るお菓子はこの街でも別格の美味さ故……」

 そういう風に言ってもらえるのは娘として嬉しく思うけど、他にも美味しいお店はたくさんあると思うんだけどな。まあディアーチェはグランツ研究所の台所を任せられてるし、それに見合った腕前があるから味覚も私より優れてるのかもしれないけど。

「じゃあ一緒に行かない?」
「貴様とか?」
「だってあんまりディアーチェとこうして話したことってないし、せっかくの機会だから色々と話してみたいんだけど……ダメかな?」
「む……まあ目的地も一緒だからな。別に構わん…………こやつ、シュテルとはあまり似ておらぬと思っておったが、頼みごとをする時の目遣いは似ておるのだな」
「何かブツブツ言ってるみたいだけど?」
「気にするな。ひとりで過ごそうと思っておった心を切り替えておっただけだ。他意はない」

 ディアーチェの場合、別に自己暗示みたいなことしなくても気持ちは切り替える気がするけど……本人が他意はないって言ってるんだから信じるべきだよね。陰口を叩くようなことをした覚えはないし、ディアーチェは陰口を叩くような性格でもないんだから。
 そう思った私はそれ以上ツッコむことはせず、ディアーチェと一緒に歩き始めた。制服姿ばかり見てきたので私服姿のディアーチェはやっぱり新鮮に思う。でも何ていうか、はやてちゃんが着てそうな服だから見慣れてると言えば見慣れているような……。性格はともかく、ふたりって見た目はそっくりだよね。

「先ほどから何やらこちらを見ているようだが、我の顔に何か付いておるのか?」
「う、ううん……制服着てる印象が強かったからちょっと」
「ふむ。別に制服でも良かったのだが……まあ偶にはな」
「偶にって……学校がない日は制服は着なくてもいいと思うんだけどなぁ。ディアーチェだって可愛い服着たいと思うでしょ?」
「べ、別に可愛くなくても……まあ周囲の目を気にしないわけでもないが。とはいえ……私服で街をうろついて小鴉にでも会おうものなら」

 目に見て分かるほどげんなりするディアーチェを見ていると、彼女の考えていることが嫌でも想像できてしまう。
 はやてちゃんって私とかにはそうでもないけど、一部の人にはお茶目な一面を出すよね。具体的に言えば、ディアーチェとか……あとはショウさん。……前から交流があるのは分かるけど、あの距離感で話すのは女の子としてどうなのかな。兄妹みたいなものだって考えれば納得できなくもないけど、はやてちゃんを見ている限りお兄ちゃんとして見てる気はあまりしないし。

「あはは……はやてちゃんもディアーチェともっと仲良くなりたいんだと思うよ」
「それは分かっておる……が、あやつの接し方は過程を飛ばし過ぎであろう。この国には親しき仲にも礼儀ありという言葉があるのだから、もう少し段階を踏んで距離を詰めるべきなのだ」
「言うとおりだとは思うけど……」

 はやてちゃんも八神堂の店長をしているとはいえ、年齢的には私とそう変わらないんだよね。
 だから誰かに甘えたいとか、スキンシップを取りたいという気持ちは分かるわけで……私も割とみんなとの距離感近い気がするし。まあはやてちゃんみたいに突発的に抱き着いたりはしないけど。
 このままディアーチェの愚痴を聞いてあげてもいいけど、せっかく一緒に居るんだからもっと別なことを聞きたいな。例えばブレイブデュエルのこととか……あとはショウさんのこととか。昔から付き合いがあるらしいし……よし、それとなく話を逸らして行こう。

「えっと……聞いてて思ったけど、ディアーチェって私よりも日本語にうるさいというか詳しそうだよね。私とか親しき中にも礼儀ありって言葉は知ってても、すんなりと口から出てくることはあまりなさそうだし」
「我もあまり使おうとは思わんがな。四字熟語やことわざを頻繁に使って話す者を好む者はそうはおらんだろうし。まあ貴様よりも日本語に詳しいのは認めるがな。飛び級しておるとはいえ、我は中学生だ。小学生の貴様より詳しくなければ笑われてしまう」

 確かに小学生よりも勉強ができない中学生というのは一般的にはいないだろう。ただ年々勉強する範囲とか変わってるらしいし、一部分なら話は違ってくるのかも。
 ただ……たとえディアーチェと同じ学年だったとしてもテストで勝てる気はしないかな。理系はともかく文系はあまり得意じゃないし。

「それもそうだね……でも確かディアーチェとかシュテル達って留学生なんだよね? 会った時から今の感じだったから疑問に思わなかったけど、改めて考えると日本語上手だよね」
「まあ我やシュテル達は幼い頃はショウの叔母君……レーネ殿というのだが、その方に色々と教わって育ったからな。今ではないに等しいが……あの頃はレーネ殿が空いておらぬ時はショウにもあれこれと聞いたものだ。最も聞いておったのはシュテルだったような気がするが……何だその顔は?」
「え、いや……その、ちょっと羨ましいなと思って。お母さんから聞いた話なんだけど、私も小さい頃にショウさんとかショウさんのご両親に会ってたらしいんだけど、そのときの記憶が全くなくて」
「それは無理もない話であろう。我とて覚えておるのは物心をついてからのことだけだ。それよりも前に会ったと聞いたことはあるが我の記憶にはない。ショウならば覚えておるかもしれんが……物心をつく前の話なぞ聞いても恥ずかしい思いをするだろう。聞こうとは思わん」

 た、確かにお母さんから聞いた話だと私はショウさんのお、お嫁さんになるとか言ってたらしいし……ショウさんとの年齢差を考えると、下手したらまだオムツとかしてる時の私を見られてる可能性もあるんだよね。そのときの話なんて聞いたらその場に留まっていられる自信ないよ。

「うん……とは言っても個人的に気になりもするんだけどね。ショウさんとはなんだかんだで顔を合わせる機会もあるわけだし。昔の話をされたときに分からないのもね……どうせ話すのなら楽しく話したいし。それに……みんなの居る前でお母さんとかから突然バラされると慌てそうだから」
「ふむ、一理ありはするが……それにしても、貴様は……その、なんだ」
「何?」
「い、いや……別に何でもない。気にするな」
「えー、そういう風に言われると逆に気になっちゃうよ」

 これがショウさんに絡んでる時のシュテルやはやてちゃんだったら……触らぬ神に祟りなしということで気にしないでおく。
 でもディアーチェって一部を除けば割と何でも言いそうな感じがするし、言い淀まれると気になるのは当然だよね。言い淀むってことは人を喜ばせるような言葉ではない可能性もあるけど……

「えぇい、なぜ抱き着いてくるのだ。我はちびひよこやくろひよこではないぞ!」
「にゃはは……ごめん、つい」
「つい、ではない。まったく……人懐っこいことは悪いことではないが、もう少し相手を選ばぬか。……もしや貴様、異性にもそのような振る舞いをしておるのではなかろうな?」
「し、してないよ! シュテルやはやてちゃんみたいにショウさんに抱き着いたりできないもん。……恥ずかしいし」

 その……してみたくないのかと言われたらしてみたいとは思っちゃうけど。シュテルやはやてちゃん達が抱き着いてるところを見たら何ていうかもやっとした感じがしたり、羨ましいみたいな気持ちが芽生えなくもないけど。
 でもショウさんとは顔を合わせるだけで緊張するときはするし、優しくされたりすると顔が凄く熱くなるのが現状。触れ合ったりしたら……考えただけで恥ずかしくて死にそうだよ。嬉しくもあるけど。

「……誰もショウとは言っておらんのだが?」
「え、いや、その……!?」
「貴様……前々から思っておったが、ショウのことをす、すすす……好いておるのか?」
「なななな何言ってるの!? べ、別にショウさんのことをそんな風に思ってなんか……ブレイブデュエルを教えてくれた人だから身近な人ではあるし、好きかと言われたら好きではあるけど。そういうディアーチェだってショウさんのこと好きなんじゃないの?」
「なっ――貴様の方こそ何を言っておるのだ!? 別に我はショウをそのような目で見ておらぬ。昔から付き合いがあるが故に親しいのは認めるが、断じて勘繰られるような仲ではない」

 いやいや、勘繰られる仲だと思うんだけど。割かし言動にショウさんのこと分かってますよ感があったりするし。まあ昔から付き合いがあるから性格を分かってるだけかもしれないけど……どうでもいい相手のことを考えて顔を赤くしたりするかな。

「何だその疑っておるような目は。仮に、仮にだがもし貴様の思うようなことが現実であったとしても貴様には関係のない話であろう。別にショウのことをどうとも思ってないと言ったのだからな!」
「それは……! ……そうだけど。…………ねぇディアーチェ、これ以上この話をしたところでお互い得はしないし、翠屋も見えてきたから別のことを話そうよ」
「うむ……せっかくシュテルや小鴉らがおらんのだ。ゆっくりとした時を過ごすとしよう」


 
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