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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第32話『凶気の科学者』


副部長を優しく抱きかかえ、今しがた高らかに叫んだ部長。
その双眸は目の前の人物を見据え続けている。

一方見据えられている人物は、露骨に嫌悪感丸出しの表情をしていた。


「何で邪魔するの?」


静かに、それでいて重みのある声。
俺が少しの間で聞いた彼女の声の中では、最も低い。背筋を冷や汗が垂れる。


「こいつは仲間、そして守るのが俺、ってだけだ」


部長はそう答えながらチラリと副部長を見て、再び前を向き直す。
その顔にはいつもの笑顔が浮かんでおらず、ただただ鋭い視線を相手に向けていた。


「友情、みたいなものかしら? 生憎私の“仲間”とやらは全員やられたけど」


その声の主はぐるっと周りを見渡すと、ため息をつく。
俺も同じ景色を見たのだが、驚きを隠せなかった。


俺が先程理科室から消えて、今に至るまで10分は過ぎている。
部長が4人倒すのには十分な時間だと思っていた反面、科学部は他の部活とは違って易々とは突破できないのではと、後ろ向きな考えが俺には有った。
そしてその解答は、半分正解、半分不正解といったところか。

俺が再び理科室へ来た時、科学部は部長を除き全てが倒れていた。その時点で既に少しビックリしたが、何よりも部屋の中央に、戦闘用ロボットが立っていたのが驚きだった。
副部長はそれを容赦なく斬り捨てたが、きっと彼女──茜原さんが怒っているのはそれが理由だろう。
戦闘用ロボットを作るのにどれだけの時間と労力と費用が掛かるかは、俺には想像つかない。
だからこそ、それを破壊された茜原さんは、激昂して副部長の首を絞めたのだ。これはお互いに非があるように思える。


・・・と、俺がここまで理解したのは冒頭と同時である。
そして、これを知った俺の考えは一つに固まった。


「部長、俺も戦います」


入口から部長の隣へと歩み寄る俺。部長が驚いた顔をしてこっちを見てたが、納得したのか声を掛けてきた。


「ようやく行動か。正直助かるぜ。アイツと一対一じゃ勝ち目がないんでな」

「え?」


衝撃の発言をした部長に、俺は拍子抜けした表情を見せる。
それを見た部長は「ははっ」と軽く笑った。そして俺に茜原さんについて軽く教えてきた。

もちろん、その内容には唖然とする以外ないだろう。部長が敵わないのも納得がいってしまう。俺なんか足元にも及ばないだろう。
これを聞いて少し戦うのを後悔したのは、ここだけの話だ。


「そ、それ勝機あるんですか…?」

「2人でも厳しいってのが現状だ」

「えぇ…」


思わず情けない声を洩らしたのは俺。
だが部長はその気持ちが理解できるのか、俺を咎めることはしなかった。


「まぁ何だ…お前は俺が守ってやるからよ、心配すんな」


部長がこちらを見て笑いかけてくる。その表情には曇りなど無く、清々しいくらいだった。
今までに見たことが無いくらい爽やかな・・・それでいて安心できる笑顔。これを見てしまったら、「あぁ、やっぱり部長なんだ」と思わざるを得ない。カッコいいな──



「にしても、こいつ邪魔だ。ちょっとそこに投げていいかな?」

「俺の感動返して下さい! ぶった斬りますよ!」

「え、お前が斬んの!?」


“こいつ”というのは、部長が抱える副部長の事。顔色は悪く、危険そうな状態であるのは目に見える。
つまり、そんな人を邪険に扱うような今の部長の発言は、俺の感動を一瞬で霧散させ、逆にイラつかせたのは言うまでもない。
そして、さっきまでの部長の評価の全てがドン底になった瞬間でもあった。


「あ~そう怒んな。どこかで休ませたいって意味だから…」

「素だと思いました」

「俺を何だと思ってんだ」


口で辛辣な言葉を放つ中、俺は心の中では安堵していた。
俺は魔術部。そんな思想が頭をよぎったのだ。
今こうして部長と話していると、どうもそれを感じてしまう。
やっぱりここが、俺の居場所なんだなって…。



「…お楽しみ中悪いけど、いない者扱いされると余計に腹立つわ」

「おいおい、別に忘れちゃいねぇぜ? 俺はただ、後輩の緊張をほぐしていただけだ」


俺が思い耽る中、茜原さんは唐突に呟いた。
それに反応したのは部長。彼はしっかりと相手に言い返す。
それで茜原さんの機嫌が更に悪くなったのは、見て取れてしまったのだが。


「その後輩も、今にその女みたいにしてもいいのよ?」

「まだ首を絞め足りないってか? サディストも大概にしろよ」


そして始まる言葉の戦い。
だが、これをただの口喧嘩と見ることは、俺にはできなかった。

部長は静かに、副部長を理科室の隅に寝かせた。被害が届かないようにする為だろう。

部長の隣に立った時点でわかっていた。
彼が静かに怒りを感じており、俺にはその気持ちを誤魔化そうとしているのを。
この口論の終わりが来るのは、そう遠くない。


「つくづくイラつかせてくれるわね。昔はもうちょっと善人だったと思うけど?」

「過去は過去だ。まぁ俺からしても、お前はもうちょい大人しかった気がするけどよ」


この言葉が、戦いの火蓋が落とされる引き金となったのは、俺にも伝わった。
二人の足が、同時に、強く踏み出される。

部長の拳が茜原さんへと向かう。躊躇は感じられない。性別なんてお構いなしに・・・本気だ。


「遅い」


だがその拳を茜原さんは容易く避ける。
そして仕返しとばかりに、拳が部長の脇腹を捉えた。


「がっ…」


部長の悲痛な声が洩れる。
しかしその体を倒すことはしなかった。
今しがた殴り掛かったバランスの悪い体勢でありながら、両足でしっかりと踏み留まる。

・・・本当ならば、今の一撃で部長は勝てていた。相手が触れた瞬間に電気を流せばいいのだから。
でもそれは、茜原さんの拳を纏うゴム手袋によって、叶わないのであった。


「落ち着く暇はないのよ」


そう呟き、二度目の拳を放つ茜原さん。
これには流石に部長も反応、腕で防いだ。

まぁ、攻撃を受けた部長が少し退けぞったのは、彼女の力 故にだろう。なんてパワーだ。
攻撃を防いだ腕は役目を切り替え、退けぞる部長のバランス取りに専念する。


「残念」


だが、その隙を見逃さなかった茜原さんのストレートな腹蹴り。
防ぐことを放棄していた部長にとって、それは大ダメージを負う一撃となった。


「がはっ…!」


サッカーボールの様に軽く蹴飛ばされる部長。その躯は俺の横を通り抜け、壁へと激突する。
さっき聞いた音よりも、更に重い音が響いた。


「部長!」

「……大丈夫、まだやれる」


俺が声を掛けるも、部長は何事も無かったかのように立ち上がる。

…いや、腹を抑えていた。やはり深刻なダメージになってしまったらしい。額に汗を浮かべ、かなり辛そうである。
だが彼は、口角を下げることはしていなかった。


「三浦、お前は切り札だ。まだ手を出すな」


部長は俺に笑いかける。尤も、“笑う”というより“苦笑”に見えたが。

彼は前へ向き直り、再び一歩を踏み出す。先程と何ら変わりない光景だ。
部長が殴りかかり、茜原さんが避け、そして返り討ち。
ビデオを繰り返し再生するかの様に、それは淡々と行われていた。


──俺が切り札。
いや違う、そんなんじゃない。そもそも、俺で茜原さんに太刀打ちできるとは思えない。

…部長は必死に俺を守っている。

それ以外の理由では、俺は自分を納得させることができない。
現にこうして傍観していることが、理由の裏付けとなった。

先程示した「部長と共に戦う」という意志。
なのに、こうして後ろで出番を待つ。どう考えてもおかしい。
部長は俺に手を出させようとしてないのだ。少なくとも、自分が倒れるまでは。
いくら「一緒に戦いたい」と言っても、彼は口で了承するだけで、心からそれを肯定する事は無いだろう。

せっかく隣に立てたのに。

俺の決断はどこへ行ってしまったのか。
俺は部長と“一緒に”戦いたい。

仲間を守るのが部長の役目。

なら、それをサポートするのが『仲間』なはずだ。
部長が俺の参戦の隙を与えないなら、俺はそれを自分で作る。
守られるだけじゃダメなんだ。

俺も、戦うんだ・・・!



「もう終わり、かしら」



不意に響いた寂しげな声。
そして、床に人影が倒れるのが見えた。

俺が考えている間に、事態は進展していたのだ。


「部長!」


悲鳴にも似た叫び声を俺は上げた。
俺の眼前、いつの間にかコンクリート製の床にうつ伏せに倒れる部長。まだ微かに動きは見せているが、起き上がれるとは到底思えなかった。

再決意の矢先でこんな事態…。

俺の中の何かが、プツリと切れた。


「……っ!!」


拳に風を纏わせ、必死の形相で標的を見る。
その形相の中、瞳には涙が浮かんでいた。


「次は貴方ね」


茜原さんはあくまで冷静に、俺を見て静かに言った。
その声とほぼ同時…俺の拳は茜原さんへと向かう。
それは強風の如き音を立て、風圧もかなりのものだったはずだ。


「いっ…!」


けれども、容易くその手首を掴まれて風の威力は死滅する。
しかも女子とは思えない握力で絞められ、俺は悲痛な声を洩らした。


「貴方も面白い物を魅せてくれるわね。雷の次は・・・空気の流れを操る、風ってとこかしら」


余裕…というか、好奇の目で物を言う茜原さん。
その目には、俺の風は実験材料としか見られていないようだ。


「くそっ…!」


このままやられてたまるかと、突き出した拳とは反対側の足で蹴りを試みる。


「おっと」


俺は女子だろうが、躊躇なく顔を狙った。
それなのにその足首も、強力な握力を前に為す術を無くす。


「がぁ…っ!」

「貴方も大したことないのね。残念だわ」


俺が未だに苦痛に顔を歪める中、茜原さんは切り捨てるように言う。
その言葉は即ち・・・俺の終わりを意味していた。


俺の足を持っていた手が離れる。
急に足を離されたことでバランスを崩しそうになるも、その心配は一瞬で消え去った。

急に無重力の中に浮く感覚を得る。
視界が回転し、あらゆる向きが見えた。
直感で、背負い投げをされたのだと察した。

俺が今浮いているのだとするならば、この後に起こるのは・・・衝撃。

そう思った時には、俺の体はコンクリートの床へと思い切り叩き付けられていた。

背中から落ちたとはいえ、並の衝撃では無い。肺の空気が全て口から出ていき、骨ごと臓器が圧迫された。
声にならない苦痛な悲鳴。身体中が痺れ、あらゆる器官が脳からの指令を拒んでいる。
視界が眩み、意識も朦朧とし始めた。


「ぶ…ちょ…」


薄れゆく意識の中、最期に洩らしたのはそんな掠れた言葉だった。
茜原さんの反応は…わからない。
視覚だけでなく、聴覚もボンヤリとしてきたらしい。次第に何も聴こえなくなっていった。ただ・・・



──俺の意識が途切れる瞬間、ある人物の叫び声だけはしっかりと聴こえた。







「あぁぁぁ!!!」


無我夢中で走った。後先も何も考えず、本能で。その本能はあることによって突き動かされていた。

誰かが俺を呼んだ。

それだけだ。
大したことでもないのに、いつでも起こるようなことなのに・・・聞き逃せなかった。

いつも俺を慕っていた声。その声と先程の声は酷似していた。
でも、先程の声に俺の知っていた元気は残っていなかった。

それを悟った瞬間、俺は使命感と焦燥感に駆られ、起き上がる動作と走る動作を同時に行うほど、必死に声の元へ走った。

その先に見えたもの…倒れている人物と立っている人物。
俺の視線は迷うことなく、倒れた者を見て直立する、片方の者へ向いた。

『逆襲』

その言葉が脳裏に浮かんだ瞬間、或いは立っている人物が振り向いた瞬間、


俺の手は・・・その人物の首を捕らえていた。

 
 

 
後書き
いつの間にか『部活戦争』が、ただの『戦争』へと移り変わった気がします。
だって考えてみて下さい。たかが競技で、こんなにやる気になりますかねぇ…?? 気にしたら負けですか…?

…まぁ良いでしょう。細かい事は「二次創作だから」と吹っ切るのが、ベストな対応ですし。
部活戦争もほぼ終わったんで、気に病む必要は無いでしょう!ね!(共感求む)

なので、次回からは気楽にストーリーを書いていきます。更新間隔は2週間以内が目標です。
これからも宜しくお願いします!! 
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