Lv.9999億の骸骨(勘違い物)・ω・`)ノ
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Lv27「不死王の世界征服⑩~反乱終了のお知らせ①~」
王国貴族サムソンは、男であり、医者であり、処刑人だ。
人を生かし、人を殺す。この二つの職業を兼業するのは矛盾しているかもしれない。
だが、解剖しても何処からも文句が出ない、採れたてピチピチの死体が手に入る環境は、医者としては嬉しい事だ。
医者の仕事は、人間の身体を治す事であり、当然、人体構造を詳しく把握している必要がある。
サムソン家は実に四代もの間、罪人を処刑し、その死体を解剖したおかげで、医療の技術が向上し、とても裕福に暮らす事が出来た。
優れた医療技術は、莫大な大金を産む。名医の社会的ステータスは異常なほど高い。
だが、処刑人の世間一般のイメージは最悪だ。
処刑に賛成する人間ですら、処刑人を見るだけで侮蔑し、エゴ剥き出しに嫌そうな顔をしてくる。
社会的地位があっても、こんなのは最低な気分だ。結婚相手を見つけても、相手の家が騒いで苦労する。
死体はもう見慣れたから、名誉で晴れ晴れしい仕事がしたい。
だから、サムソンは、人間王国で起きた大反乱に参加する事にした。
処刑人の家系から逃れ、名誉ある表舞台に立つために――反ワルキュラ貴族連合軍に参加したのだ。
反乱軍の本拠地は、オレルアン公爵領にある大都市アングレーム。その郊外に、各地から集まった貧乏な身なりの兵士が、新しい時代と新しい国……もとい、高い報酬をくれるかな?と目を輝かせている。その数はざっと30万。ウジ虫のような雑多な集まりだ。
壮年のオレルアン公爵は、兵士達の前方にある壇上に立ち、承認要求を満たすためか、先ほどから何度も演説を繰り返している。
「諸君っ!吾輩はオレルアン公爵である!
愚妹なる王を廃しっ!王国に新しい時代を齎す者だ!」
「「公爵閣下万歳ー!」」
「「新しい王様万歳ー!」」
公爵、貴族の頂点に立つ家柄を意味する。
時と場合によっては、王位を目指す事すら可能な事から、しばしば王家とも対立してきた。
だから、サムソンには分かる。
青い髪のオレルアン公爵。見た目はとっても男らしいジェントルマンだが――かなり無能な人物なのではなかろうかと。
(この人、行動が行き当たりばったりなんだよな……。
周到な準備なんか、絶対してない気がするから怖い……)
公爵は、常に行き当たりバッタリな行動をしてきた。
王家と対立しては、王権を揺るがす侮辱行為を繰り返し、革命思想を持っている若者たちを見かけたら、屋敷に集めて仲良く交遊会してテロ騒ぎ。
前者は、お前が王様になった時、王権の価値が低下したら旨味がないだろ。
後者は、お前が王様になった後、その若者達が反乱起こすけどいいの?
そう、サムソンは判断して不安になっていた。
正直、無能公爵の能力で、悪の帝王が率いるアンデット軍団に勝てる気がしない。
こちらの武器は、帝国製のプログラミング魔法、軍から持ってきた古いマスケット銃、旧式の大砲であり、空を飛ぶ化け物を倒す手段がない。
特に帝国製のプログラミング魔法は論外だ。
遠い相手を吹き飛ばす魔法があったりするが、帝国に多額のアヘン紙幣を納めて、様々な規約を結んで契約しないと、使えない仕様になっている。
帝国軍への攻撃は――即契約打ち切りを意味するだろう。
(俺……医者として頑張るんだ……。
戦場から離れた野戦病院で、医療行為に従事していたら、向こうも襲ってこないだろ……。
確か、そういうルールが帝国にはあったような……)
サムソンは、ここに来るまでに考えていた華々しい未来とは、正反対の事を考えていた。
帝国は大量の属国を統治している。
なら、人間を皆殺しとか、そういう展開にはならないだろうと楽観した。
問題なのは――自分達の盟主が、オレルアン公爵な事だ。
「諸君らも知っているであろう!
今の王国は、人類を裏切った宰相コルベールによって支配されている!
こんな事が許されるであろうか!」
「「許されないぞー!」」
「「裏切者に地獄をー!」」
幸い、士気だけは高い。
空飛ぶアンデットを倒す手段はないのに、無駄に士気が高いから、ひょっとしたら公爵は秘策を持っているのかもしれない……という展開だったら嬉しいなぁと、サムソンは遠い目で東の空を見た。
そんなものがあったら、目立ちたがりな公爵の性格の事だから、とっくの昔に見せているはずだ。
「そうだ!絶対に許せない!
生者を裏切り、死者に与する事はっ!
人民と神の両方を裏切っている!
あやつは死後、永遠の地獄へと落ちるであろう!」
「「おお!すごいぞ!他の貴族や軍隊の皆がどんどん集まってる!」」
「「これがオレルアン公のカリスマか!」 」
その兵士達の叫び声で、サムソンは唐突に不安になった。
この都市に、膨大な兵士が集まるという状況そのものがありえない。
そういう常識が頭の中で重たげに訴えかけてくる。
まるで――追い込んだ鹿を狩る狩猟みたいだ。
効率よく刈り取るために、ここに誘い込まれているとしか思えない。
「今日は人類の真・独立記念日となるであろう!」
「「万歳ー!」」
「「オレルアン公万歳ー!」」
~~~~~~~
言いたい事を全て終えたオレルアン公爵の演説が終り、貴族一人一人のアピールタイムとなった。
壇上へと次々と血気盛んな貴族が登って、演説をやっている間に、サムソンはオレルアン公爵へと近づく。
貴族の取り巻きに囲まれたオレルアン公爵は、今が人生の全盛期だという事を信じて疑わない顔をしていた。
これが演技だとしたら、大したものだなとサムソンは微笑む。
「おお!
お主はサムソン卿ではないか!」
どうやら、オレルアン公爵はサムソンの顔を覚えていたようだ。
サムソン家は処刑というイベントを担当し、医者としても活躍しているから、嫌でも目立ってしまっている。
一瞬、嫌そうな顔で、サムソンを見つめてきたオレルアン公爵の目が忘れられない。
でも、今はそんな事よりも――これが悪の帝王の巧妙なる罠かもしれない事を、進言すべきだとサムソンは思い、実行する。
「あ、はい、医者のサムソンです、オレルアン卿」
「どうしたサムソン卿?
不安そうにして居られるが?」
「オ、オレルアン卿。
お、俺、いや、私が、ここに来る最中に、とんでもない事に気づいたんです。
アンデットどもが……なぜ、私たちの合流を妨害しないんです?
空飛ぶ化物が投げてくるのは、食料っぽいですし……」
「わははははは!
我らの威容に恐れを成したのであろう!
見よ!この軍勢をっ!
30万……いや60万はいるぞ!
これだけの大軍が集うたのは、王国の長い歴史でも初めての事だそうだ!」
いつも、これだ。
オレルアン公爵は、その場で行き当たりバッタリの気分屋だ。
全く先の事を予想してないからこそ、こんなにお気楽なのだ。
サムソンはこの反乱軍に参加した事を後悔し始めた。
幾ら数を集めても、空にいる敵に攻撃が届かなければ意味などないというのに――突如、空から青い色が消えた。
先ほどまで、眩しいほど輝いていた太陽も消え去る。
場は真っ暗闇の空間に包まれた。
昼なのに、夜。いや、夜なら月や星が輝いているから、夜より遥かに暗い。まるで完全封鎖された地下世界に来訪したような気分だ。
こんな場所に一日でも滞在したら、絶対に精神が崩壊する。
このような所業ができる化物を、サムソンも、この場にいる人間も、一人しか思いつかない。
「悪の帝王ワルキュラっ……!」
「大魔王ワルキュラっ……!」
「死の支配者ワルキュラっ……!」
「太陽を手下にしているワルキュラっ……!」
神にも等しい超越者に、喧嘩を売っている。
そんな事実を、今更ながらにサムソンは実感してしまった。
今まで噂でしか聞いた事がないような信じられない大惨劇。
人間ですらも、嘘だと信じ込まないと生活できない圧倒的な大虐殺がこれから始まるんだと、サムソンは実感し、そして恐怖した。
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ワルキュラ「帝国で寛ぎながら、サム・レイ発射準備ー」
皇后「あ、空が暗くなった……」
「信頼する重臣にも、情報を秘匿して行動しないと対策される」 軍事
http://suliruku.blogspot.jp/2016/07/blog-post_8.html
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