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生贄になった神

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第一章

                  生贄になった神
 世界は最初は霧だけだった、がだ。
 その霧からユミルという巨人が生まれた。ユミルは彼と共にかそのすぐ後に世に出た雌牛アウズンブラの乳を飲み生きた。
 この巨人から次第にだった、巨人が生まれ人が生まれた。そしてその巨人と言っていい者達の中にだった。
 オーディン、ヴィリ、ヴェーの三人がいた、彼等は巨人であったが。
 彼三兄弟でだ、こんなことを話しだした。
「我々はこのままいてもな」
「そうだな、何にもならない」
「ただ巨人でいるだけだ」
「しかしユミルは違う」
「ユミルは我等の長だ」
「特別な存在だ」
 このことにだ、三人は気付いていた。
「我々の祖だ」
「祖だからこそ最も尊い」
「巨人や人間の上に立っている」
「世界で一番素晴らしい存在だ」
 そうされているとされていた、そして。
 そのユミルを見てだ、オーディンは兄弟達に言った。
「一つ思うのだが」
「何だ?」
「兄弟よ、何を思う」
「ユミルが祖ならだ」
 それならばというのだ。
「そのユミルを殺せばどうなる」
「我等がな」
「祖となるな」
「この世界の主となる」
「そうなるからか」
「そうだ、ユミルをだ」
 こう弟達に言うのだった。
「殺してだ」
「我等が成り代わる」
「この世界の主にだな」
「ならないか」
 オーディンは小さな声でだ、弟達に囁くのだった。
「そうな」
「そうだな、このままユミルがいるとな」
「我々は一介の巨人のままだ」
「それが変わることはない」
「全くな」
「このままでいいのか」
 また言ったオーディンだった。
「巨人のままで」
「いや、そう言われるとな」
「やはりな」
「今以上になりたい」
「この世界を治められるのなら」
 それならばとだ、ヴィリもヴェーも言う。そしてだった。
 そのうえでだ、三人でユミルを殺して自分達がこの世界の主になることにした。だがここで一つの問題があった。
 ヴィリとヴェーはオーディンにだ、ユミルを殺すことは決めたがその殺し方について問うた。
「ユミルは我々の祖だ」
「その力はあまりにも強い」
「我等三人が正面から向かって勝てるか」
「それは出来るか」
「いや、出来ない」
 はっきりとだ、オーディンは弟達に答えた。
「ユミルは恐ろしいまでに強いからな」
「ではどうする」
「ユミルをどうして殺す」
「正面から三人がかりで倒せないのならだ」
「どうしてユミルを倒すのだ」
「決まっている、起きているうちに倒せないのならだ」
 それならばというのだ。
「寝ている時に倒すのだ」
「そうか、寝ている時にか」
「ユミルを三人がかりで襲ってか」
「そして倒す」
「そうするのか」
「寝ている間にユミルを我等三人で囲んでだ」
 酷薄な顔になりだ、オーディンは弟達に具体的な殺し方を話した。 
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