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ブルカ

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第五章

「それで着飾った」
「そうしてですね」
「花嫁になります」
「晴れの服ですね」
「一生の、これで娘が幸せにならないと」
 その場合はというと。
「旦那を叩きのめしてやりますよ」
「叩きのめして、ですか」
「そうです、絶対にですよ」
「幸せに、ですね」
「ならないといけないですからね」
「娘さんを大事に思われてますね」
「勿論ですよ」
 言うまでもないという返事だった。
「大事な娘ですから」
「そうですよね」
「息子達も大事ですが娘達も大事です」
 見れば花嫁の周りには三人程小さな女の子達がいる、そしてそのうえで花嫁に対してお姉ちゃんおめでとうと言っている。
「どの娘も幸せにならないと」
「いけないですか」
「そう思っています」
 男は娘を見ながら笑顔であった、だが。
 それと共に涙も流してだ、こう言うのだった。
「絶対にですよ」
「そうですよね、幸せにならないと」
 フセインは男に同意して言った。
「いけないですね」
「そう思いますよね」
「誰もが」
「そう、ですから」
「娘さんもですね」
「幸せに、アッラーの加護があらんことを」
 こう言って娘を泣き笑いしつつ見るのだった、式は幸せを願う門出に相応しく見事なものだった。そしてその式の後で。
 二人は彼等の拠点である街に戻った、それからだった。
 ピエールはしみじみとしてだ、フセインに言った。
「いい式だったね」
「全くですね」
「僕はあの式を忘れないよ」
「僕もですよ」
 フセインは笑顔でピエールに答えた、自分と同じ笑顔になっている彼に。
「素晴らしい式でしたから」
「是非ね」
「はい、忘れません」
「そして今思うことは」
 ピエールは暖かい笑顔で語った。
「このパレスチナも他の地域もね」
「全ての人達がですね」
「ああしてね」
「幸せに、ですね」
「なることを願うよ」
 まさにというのだ。
「心からね」
「そうですね、そうなればいいですね」
「早くね」
「我が国も落ち着いて」
 フセインはパレスチナ人として言った。
「そうなって欲しいですね」
「まだ時間がかかるだろうけれど」
「必ず平和になって」
「誰もがいつもああしてね」
「幸せになって欲しいですね」
「ではこれからも」
 ピエールは笑顔のまま言った。
「少しでもね」
「人を助ける為に」
「頑張っていこう」
「そして皆がああなる日を迎えましょう」
 こう話してだ、二人は国境なき医師団のメンバーとして働くのだった。まだ物騒なパレスチナにおいて平和と幸せが訪れる日を待ちながら。


ブルカ   完


                        2016・9・29 
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