魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第3章:再会、繋がる絆
第64話「休む暇はなくて」
前書き
アースラが偽物に色々妨害されてますが、優輝もその気になれば可能です。
優輝だとデバイスが必須ですが、偽物はジュエルシードで補っています。
=out side=
「っ...!通信、回復しました!」
「よし、急いで繋げ!状況を把握するんだ!」
偽物によって通信が切断されたアースラでは、ようやく繋げられるようになったと同時に、急いで状況がどうなっているか把握しようとしていた。
「(転移も通信もできなかった...こんな事ができるのは...!)」
クロノはそんな中、誰が妨害を行ったのか推測していた。
通信や転移の妨害...つまり、システムに干渉したという事。
それができるのは、内部の者かハッキングなどに長けている者。
「(...優輝はこういう何かしらを弄るような事を得意としていた。....まさか....。)」
優輝は複雑な術式などをよく組み立てたりしており、システム面には強かった。
その事から、クロノは優輝の仕業ではないかと勘繰る。
「(いや...今は現在の状況が優先だ...!)」
「映像、映します!」
思考を切り替え、映し出された映像を見る。
「...戦闘は...終わっているのか?」
映像には、倉庫が映し出されており、なのはが気絶して他の皆がそれを介抱していた。
「.....ユーノはどこだ?」
「...いませんね...。」
「とにかく、事情を聞こう。」
そういって、クロノは繋げられるようになった通信から、連絡を入れた。
『皆、状況はどうなった?』
「クロノ!通信が回復したんだな?」
『なんとかな。』
繋がらなかった通信が繋がった事に、少し喜ぶ神夜。
『....戦闘は終わっているんだな?』
「...ああ。結果はなのはが気絶、ユーノが志導と椿を連れて移動した。」
『ユーノが?どういうことだ?』
神夜は戦闘がどんな感じだったかを話す。
「...で、なのはがやられた所でユーノがバインドを利用して転移魔法で移動したんだ。」
『...ユーノの奴....。』
なぜ、ユーノがそういう行動を起こしたのか、クロノは考える。
『(...椿の相手をしていたのはなのはとフェイトとアルフ。そのうちなのはとアルフがやられた所を見るに、自分を犠牲にして戦闘を終わらせたと思うのが妥当だが...。)』
おそらくそうではない、とクロノは思った。
ユーノは無限書庫の司書を務めれる程頭が良く、マルチタスクも使える。
そんなユーノが、ただ転移魔法で隔離するだけとは思えない。
むしろ、強力な防御魔法やバインドで援護した方が効率は良かったとも思える。
その事からクロノは今考えた理由は違うと判断した。
「こうしてる間にもユーノが...クロノ!」
『っ、あ、ああ。エイミィ!』
とりあえず、転移の反応を追おうと、エイミィに呼びかける。
『....ダメ。何かに妨害されて、痕跡が途絶えてる!』
『...だ、そうだ。すぐに追いかけるのは無理だな...。』
「そんな....!」
無情な状況に、ユーノを助けられないのかと神夜は嘆く。
『(痕跡が途絶えている...という事は、結界か?アースラの追跡を遮断する程の結界を張れるのは...優輝...いや、霊力による結界であるならば椿や葵でも行ける...。)』
その間にも、クロノは痕跡を遮断された理由を考察する。
『(...とにかく、霊力による結界ならば、僕らでは追跡できないな。)...とりあえず、一端アースラに戻ってきてくれ。』
「...わかった。」
神夜達はクロノの指示に従い、一端アースラに戻って態勢を整える事にした。
=優輝side=
「―――....と、言う訳だ。」
ユーノに事のあらましを伝え終わる。
「ちょ、ちょっと待って!整理するから...。」
「...まぁ、いきなり言われても混乱するわね。」
ユーノは少し考え込み、僕らが話したことを整理する。
「僕らが会った優輝はジュエルシードが優輝の“負の感情”とリンカーコアを吸って優輝そのものを霊力以外コピーした存在...。当然、優輝の強さをそのままコピーしていて、さっきの戦闘で通信を妨害したのも偽物...なんだよね?」
「ああ。」
結構事細かに伝えたのを、簡略化した感じでユーノは言う。
「優輝達も偽物によって通信関連が一切使えない状態で...それでもジュエルシードを集めている。....その、“聖奈司”という人物を救うため...。」
「その通りだ。....記憶に違和感はないか?」
経緯のついでに、ユーノに司さんの事も言っておいた。
覚えてないとはいえ、言っておいた方がいいしな。...思い出すかもしれないし。
「...名前だけじゃあ、無理かな...?優輝が言うに、その子は天巫女で、ジュエルシードを使って自分の存在を抹消したんだよね?」
「そうだよ。...で、そのデバイスであるシュラインがジュエルシードに人格を移して転移してきた。...シュラインのおかげで僕らも思い出せたからね。」
「そっか...。」
それからまたユーノは考え込む。
「...ダメだよ。思い出せない。その子は僕らとどういう関係だったんだい?」
「そうだな...。僕と同い年で、細かい所から大きな所まで、色々助けになってたよ。常に一歩引いた感じでそこにいて、でも何かと気に掛ける優しい子って感じだね。」
...まるで前世と変わらない。そんな人物だ。司さんは。
そう人物像を伝えると、何か引っかかったようだ。
「....違和感はあるかな。...覚えていないようで、でも心当たりはある。」
「今はそれで充分だよ。」
正直、司さんを覚えているかどうかは今は重要じゃない。
別に覚えてなくても助けるという事には変わりないしね。
「...それより、そっちでも葵の行方は把握していないんだな?」
「...うん。...と言うより、昼に会うまで優輝達の行方も把握していなかったよ。」
「そうか...。」
こうなると、ますます葵の生存に希望が持てなくなったんだが...。
「....とりあえずユーノ、アースラと連絡を取って連れて行ってくれないか?」
「いいよ。ちょっと待ってね...。」
僕らは連絡ができず、アースラの座標もわからず、おまけに魔力も使えないため転移ができないが、ユーノならできるため、連絡などを任せる。
これで勘違いがなくなり、協力もできるだろう...。
...しかし、その考えはユーノの言葉によって破られた。
「....通信が繋がらない....。」
「なにっ!?」
「何かに妨害されているんだ!」
どういう事かと、周りを見渡す。
ユーノが偽物に何かされた訳じゃない。何かしらの外的要因が...!
〈...マスター!結界が...!〉
「っ...そういう事か...!」
僕はともかく、ユーノすら気づかない内に結界が張られていた。
「ユーノ!」
「え、っ!?」
ギィイイン!
ユーノに向けて飛んできた剣を、咄嗟に庇って弾く。
「来るぞ!ユーノ、一番強力な防御魔法を!!」
「わ、わかった!」
―――“Sphere Protection”
ユーノに呼びかけ、僕らに強力な球状の防御魔法を張ってもらう。
...その瞬間、僕らを剣群が襲った。
「っ...!長くは持たない...!」
「少し防げれば充分!椿、不意打ちは頼んだ!」
「任せなさい!」
剣を二振り構え、ユーノの防御が破られた瞬間、二人の前に躍り出る。
「はぁああああああっ!!」
ギギギギギギギギィイン!!
霊力による身体強化にものを言わせ、全て剣群を防ぎきる。
「っ、そこよ!」
「はっ!」
キィン!ギィイン!
椿が矢を放ち、そこへ僕も追撃するように剣を振るう。
矢は弾かれたが、剣を防がせる事ができ、相手の姿が現れる。
「っ...!偽物...!」
「やっぱりな...!」
当然の如く、その相手は僕の偽物だった。
...ご丁寧に、魔力結晶の技術までコピーしていたらしい。
さっきの大量の剣群はその魔力結晶を使っており、だからユーノの強力な防御魔法でも長く持たずに破られてしまったのだ。
「ちっ...やっぱりユーノを味方につけたか...。」
「...そっちこそ、予想していたか。」
多分、ユーノが転移を使った時点でわかっていたのだろう。
通信は妨害できても転移は妨害できていなかったからな。
「...葵はどうした。」
「葵?...ああ、それなら昨日の晩に...言わなくてもわかるだろ?」
「「っ....!」」
ギギギギィン!
その言葉と共に椿の矢と僕の二刀流で一気に攻める。
しかし、それは同じく二刀流と剣群によって相殺された。
「水も日光も弱点でないとはいえ、銀は普通に弱点だったからねぇ...。」
「くそっ...!」
偽物の口ぶりから察するに、葵が殺された可能性が高い。
...いや、待てよ...?
「(...ブラフの可能性もある...?)」
先程僕らの事情を説明する際に、ユーノからも少し話を聞いた。
その話では、偽物は僕と対立させるように偽の情報を話したらしい。
...だから、今回も僕らの冷静さを欠かせるためのブラフかもしれない。
「(...どの道、こいつを倒す事には変わりないけどな...!)」
「...っと。」
剣と剣がぶつかり合う。
リンカーコアの損傷はそのままだが、一昨日と違ってリンカーコアを吸われた時の痛みは残っていない。よって、導王流でのぶつかり合いは、互角だ。
...いや、霊力を扱っている分、こちらの方が僅かに上だ。
尤も、それは空が飛べないという部分で相殺されているが。
「ユーノ!!創造魔法による不意打ちには気を付けろ!決して気を抜くなよ!」
「っ、分かった!」
アリシアと違って、ユーノは魔法が使える。
防御に集中させれば、いくら偽物とて早々手を出せない...!
「人の心配をしている暇はあるのか?」
「さぁ、どうだろう...なっ!」
―――導王流“流撃衝波”
「っ...!
剣による攻撃を受け流し、その勢いを利用して強烈な一閃を放つ。
...が、それは寸での所で回避された。
「...ふむ、早計だったか?」
「僕らの回復力を侮ったな...!」
霊脈の力を借りなければ、未だに傷は残っていただろう。
だけど、それがない今なら椿と二人掛かりなら...!
「はぁあああああああ!!」
「っ、くっ...!」
導王流は同じ導王流で相殺し、剣群は椿に撃ち落としてもらう。
単純な役割分担だが、僅かにこちらが押している....!
「っぁ...はぁっ!」
―――導王流弐ノ型“流貫”
「ぐっ....!」
苦し紛れな...しかし剣をすり抜けるように突きが迫る。
その技が放たれた瞬間、御札から大剣を取り出したので、ギリギリ防ぐ事に成功する。
...代わりに、その大剣は一撃で折れたけど。
「椿っ!」
「ええ。....躱してみなさい。」
―――“弓技・瞬矢”
突きによって僕は間合いが離され、間髪入れず三連の高速な矢が偽物に迫る。
導王流といえど、高速な連携攻撃を対処するには気力が必要だ。
「おまけだ...!遠慮なく受け取れ!」
だが、それだけでは偽物には足りない。
なので、さらに僕は御札を投げつけ、相殺に使おうとしていた剣群を落とす。
さらに拘束の術式を込めた御札で拘束を試みる。
「(瞬矢を凌いでも拘束が迫る。どう足掻いても隙はできる。...そこを叩く!)」
そこまでしても偽物は倒せない。だけど隙を作る事ができる。
なら、そこを叩けば今度こそ...!
「ちっ、くっ....!」
「す、凄い...。」
予想通り、拘束に成功し、その連携にユーノが感嘆の声を漏らす。
霊力による拘束なので、魔力しか持たない偽物には有効なはず...!
今なら...!
「はぁっ!」
「っ、まだだ!」
拘束されながらも、剣群を放ってくる。
それに対して、僕は....。
「なにっ!?」
「弾けろ!」
―――“霊撃”
突破するのではなく、“道”を拓くように霊撃で相殺する。
そう、トドメを刺すのは僕ではなく椿...!
「くそっ...!」
「させるかよ!」
咄嗟に拘束を無理矢理破ろうとする所に、さらに御札を投げつけ、拘束を強化する。
さぁ、後はトドメを刺すだけ....!
「これで終わり...よ....?」
「.....え....?」
―――...その瞬間、“ドスリ”と、鈍い音が響いた。
「....くく....!」
「....なん...で...?」
暗く嗤う偽物を気にする暇もなく、椿の腹を貫いた“レイピア”に目が釘付けになった。
椿も、背後から刺した人物に対して、信じられない声を上げる。
「油断したねー、かやちゃん、優ちゃん。」
「....あお、い.....!?」
...そう、その人物とは、葵だった。
「オリジナル達の連携、予想していなかったとでも?」
「っ、しまっ...!」
―――ギィイイン!
そちらに気を取られていたため、拘束が破られ、反撃の一撃を受ける。
辛うじて御札から取り出した剣で受け止めたが、大きく吹き飛ばされる。
「っ...かはっ....!」
「...ふふ...。」
「どう...して....?」
大きく吹き飛ばされた先では、レイピアを抜かれた椿が血を吐きながら膝をついていた。
「椿!....くっ、ユーノ!」
「“チェーンバインド”!!」
椿に駆け付けようとして、偽物に阻まれる。なので、ユーノに椿を頼む。
ユーノはチェーンバインドを葵に巻き付け、思いっきり投げ飛ばそうとする。
「(非力...!)」
しかし、力が強くないユーノでは逆に葵を自身に引き寄せるだけとなってしまう。
...いや、待てよ...あれで計算通り...!?
「“プロテクション”!」
「っ、なっ...!?」
引き寄せられるのを利用して攻撃しようとした葵に、防御魔法が迫る。
まるで大きな板を叩きつけるように、今度こそ葵が吹き飛んだ。
「(なんつー防御魔法の使い方...。)..っと!」
ユーノは攻撃魔法がほとんど使えない。使えたとしても滅茶苦茶弱い。
だから、ユーノは防御魔法でも攻撃できる手段を編み出していたようだ。
...と、考えている暇もなく、僕は偽物の攻撃を捌く。
さっきと違って椿の援護がないため、どうしても僕が押されてしまう。
「っ...どうして葵が...!」
「教えてやろうか...?」
例え偽物がどんな目的を持っていたとしても、葵が協力するはずがない。
協力するなんて、それこそ洗脳かなに...か....。
「....洗脳か....!」
「さすがオリジナル。この程度なら簡単に答えに辿り着けるか。」
そう、洗脳魔法だ。別に、何もおかしくはない。
そういった魔法は普通にあるし、例えレジストされやすくても、それがされない程弱らせる...または相手の抵抗を上回る洗脳をすれば可能だ。
...ましてや、僕程の術者になると、強力な洗脳魔法も組み立てられてしまう。
「くそ...がぁあああ!!」
「っ....!」
ギギギギギギギギ、バギィイン!ギィン!ギギギィイン!
怒りを力に変え、一気に攻める。
創造魔法による剣群の攻撃をも全て弾き、受け流して剣を振るう。
導王流によって剣の攻撃は捌かれ、さらにそこへ剣群の雨が襲い掛かり、剣は折れる。
しかし、それでも素手で剣群と偽物の剣を受け流し、懐に入り込む。
「なにっ...!?」
「“霊掌”!」
もちろん、ごり押しな部分もあり、いくつも掠り傷が付く。
しかし、それでも肉迫し、霊力を込めた掌底を放つ。
「がっ...!?」
「っ......!」
ようやく。といった一撃が入り、偽物は吹き飛ぶ。
しかし、置き土産に剣群を僕に向けて飛ばしていたようだ。
無理矢理接近して体勢は立て直せない。防護服もない今、喰らえば即死...!
「っ、ぁああああああ!!」
ギギギギィイン!!
〈ま、マスター!?〉
張り裂けるような声を上げ、無理矢理リンカーコアを霊力で活性化。
限界を無視した創造魔法を行使し、剣群を剣群で相殺する。
「ぐ、ぅ....!?」
〈なんて無茶を...!〉
当然、無理矢理リンカーコアを行使したため、体に激痛が走る。
しかし、この場で痛み悶える暇はない...!
「っ....!」
パ、ギィイン!
「ぐぁっ...!?」
地面から殺気を感じ、咄嗟に御札を防御に使う。
その瞬間、地面から黒い剣が生え、御札を四散させる。
僕自身は御札が四散した際に弾かれるように横に転がったため、何とか回避できた。
「葵か...!」
「っ....!」
―――“弓技・閃矢”
ユーノが吹き飛ばした方向から葵の気配がし、そちらへ椿が矢を連射する。
ギギギギィイン!
「っ....くっ....!」
「くそっ...!」
しかし、それは上から降り注ぐ剣に防がれる。
「椿!その傷じゃあ...。」
「...式姫の耐久力...舐めちゃ困るわね...!」
ユーノに傷を心配される椿だが、霊力を傷に当て、回復する事で立ち上がる。
...尤も、それは応急処置程度なので戦闘するには回復が足りないが。
「あはは、じゃあ、これなら....どうかな?」
「っ、ぁ...!?」
「っ...!させない!!」
そこへ葵が肉迫してユーノに斬りかかる。
それを椿が咄嗟に短刀で庇うように防ぐ。
「くっ...!」
「おっと、行かせないよ。」
僕も助けに行きたい所だが、降ってきた剣に阻まれる。
「(...この、状況は....!)」
瞬時に今の状況が完全に劣勢だと悟る。
逆転の目処も立たないし、頭の片隅に撤退を考える。
「リヒト....カノーネフォルムで待機だ。」
〈...わかりました。〉
リヒトをカノーネフォルムに変形させ、腰に差して待機させておく。
カートリッジによる弾丸は今ではすぐに放てる最も高威力な攻撃だ。
逃げるにしても、使う事になるだろう。
「(...何とかして偽物を突破。椿とユーノを連れて戦線を離脱。....結界を突き破るにしても、ユーノに転移してもらうにせよ、結界を穿つしかない...!)」
今偽物に勝つにはあまりにも劣勢だ。葵が敵に回った事で動揺も大きい。
だから、今はこいつを突破する事を考える....!
=out side=
ギィイン!ギギギィイン!
「っ...ぐ...!」
「あはっ、ほらほらほらほら!」
防ぐ防ぐ防ぐ。高速で次々と繰り出される突きを、椿は短刀で凌ぐ。
しかし、短刀とレイピア、遠距離向きと近距離向きという、武器と戦法による差から、徐々に椿が押されていく。
当然だ。元々、椿は近接戦において葵に勝てた事は少ない。
「っ、ぁ...っ!」
「椿!」
しかも、今の椿は一度腹を貫かれて怪我を負っている。
傷こそ表面上は塞いでいるが、ここまで激しい戦闘となるとまた開いてしまう。
「(くそ...!僕も援護を...!)」
そこで庇われているユーノが行動を起こす。
椿の前面に防御魔法を張り、さらにチェーンバインドで葵の動きを阻害する。
「っ、邪魔だなぁ...。」
「くっ...助かったわ...!」
ちょうどギリギリ椿が少し仰け反った所でそれを行ったため、結果的に椿を救う。
既に椿の状態は腹の傷が開き、葵の攻撃によって掠り傷が大量にできていた。
「(焼石に水程度....だけど、ないよりマシね。)」
チェーンバインドで葵が拘束されている間に椿は懐から出した御札を体に押し当てる。
すると椿は淡い光に包まれ、掠り傷が癒されていく。
...尤も、完治させた訳ではないので、椿の言う通り焼石に水である。
「これで....っ....!」
「....ふふ....。」
未だにユーノによってバインドが解けずにいる葵へ、椿は弓を向ける。
しかし、矢はなかなか放たれない。
「射れないよね?...あたしが死ぬから。」
「っ....いいえ、少し躊躇っただけよ!あんたはこの程度では死なない!」
―――“弓技・氷血の矢”
その言葉と共に、氷の力を纏った矢が放たれる。
それは葵の胸を穿つ所で....彼女を通り過ぎた。
「―――!しまっ....!」
そして、大量の蝙蝠が飛び立つ。...そう、葵は体を蝙蝠に変えたのだ。
デバイスの身になっても吸血鬼としての能力はほとんどそのままだったので、その力によって椿の矢とユーノのバインドを回避したのだ。
「残念だったね。」
「っ、させない!!」
ドシュッ!
後ろに回り込まれ、ユーノを狙って繰り出されたレイピアを、椿は身を挺して防ぐ。
霊力を手に流し、左手首を犠牲にレイピアを防ぐ。
「っづ....!」
「終わりだよ!」
「“プロテクション”!!」
キィイイン!!
レイピアを引き抜き、そのまま椿にトドメを刺そうとして...ユーノに防がれる。
「甘い。甘いよそれだけじゃあ!」
「っ、ぐ...!?」
しかし、それでは足りずに防御魔法を回り込むように葵は椿に肉迫する。
そのままレイピアを繰り出し、対処しきれない椿の脇腹などを抉る。
「.....っ、だったら!!」
すぐさまユーノはどうすればいいのか思考し、再び庇いに出る。
「(一回だけの防御魔法だとダメ。けど、連続で使用するには消費が多い。なら...!)」
キキキキキキキィイン!
「なっ...!?」
マルチタスクをフル活用し、葵が突きを放つ大体の場所に小さく防御魔法を張る。
小さいため魔力消費が少なく、さらに突きが逸れるように弾かれる。
「っ、下がるわよ!」
―――“霊撃”
攻撃を凌ぎ、一瞬できた隙をついて椿が御札を複数枚投げつける。
そこから霊力の衝撃波が迸り、葵は弾かれる。
ユーノと椿も範囲内だったが、椿がユーノを引っ張って逆に衝撃波を利用して大きく間合いを取る事に成功する。
「わっ!?っと、ととぉっ!?」
「っ、どうにかして撤退しないと...!」
地面を擦るように着地し、すぐさま行動を起こそうとする。
...と、そこへ一つの影が飛び込んでくる。
「っ、ぁああっ...!」
「優輝!?」
何かに吹き飛ばされたように優輝がそこへ着地する。
「ナイスタイミング...!撤退するぞ...!」
「.....分かったわ。」
撤退を宣言した優輝に、椿も状況を考えて賛成する。
「優輝、体が...!」
「こんなもの、まだマシな方だ...!」
ユーノが優輝の体の状態...切り傷でボロボロになっている事に気づく。
...そう、優輝が吹き飛んできた理由は、撤退するために偽物の攻撃を利用したからだ。...その代償として、既にボロボロになってしまっている。
「(剣群による攻撃をほぼ無視してさらに同等の戦闘技術を相手に、攻撃を利用して間合いを取る...か。我ながら無茶したものだ...。)」
剣群を利用するだけではすぐに追撃が来てしまう。
よって、優輝はボロボロになりながらも直接偽物の攻撃を受け、それを利用したのだ。
「ユーノ!転移魔法の準備を!」
「っ、わ、わかった!二人は...!?」
「...少しぐらい、時間を稼ぐさ!」
―――“扇技・護法障壁”
飛んできた武器群を、扇と御札を使って障壁を張り、防ぐ。
「(とは言ったものの、転移魔法の事は絶対に予想されている。普通に発動させるだけでは逃げられないだろう。....というか、“逃げ”に回っている時点で何もかもがそう上手くいかないんだよな...。我ながら厄介だ...!)」
魔法に強い霊力の障壁も度重なる剣に破られる。
その瞬間に、二人を庇うように優輝が前に出て二刀で防ぐ。
「(私たちがやる事は結界に穴を開け、そこからユーノの転移魔法によって逃げる事。...その間、私たちは偽物の妨害を防げればいい。なら...!)」
一際大きい剣を弾いた際に、優輝が大きく後退する。
それをカバーするように御札で傷を塞いだ椿が矢と短刀を駆使して剣群を防ぐ。
「(っ、来た...!)」
「(チャンスは一度きり...!偽物たちの予想を上回る!)」
剣群を放ちながら偽物と葵が接近してくる。
それを認識した瞬間に優輝と椿は阿吽の呼吸のように動き出す。
椿はユーノの前に立ち弓を構え、優輝は二振りの刀を地面に刺し、二刀を構える。
「(劣勢?力不足?そんな事知った事じゃない。)」
「(私たちはただ、目的へと事を導く!!)」
優輝が葵と偽物の突きを二刀で外側へ逸らす。
そこへ椿の矢が迫り、二人がそれを躱した所で優輝が足払いをする。
それによって、刺さっていた刀が弾かれ、円を描くように一回転し、その刃が避けた二人に襲い掛かる。。
「っ...!?」
「くっ...。」
さすがにそれは予想していなかったのか、咄嗟に葵と偽物が後ろへと飛び退く。
「シッ!」
「っと。」
そこへ追撃するかのように優輝が御札を投げつける。
...が、それは剣群によって相殺される。
「甘いよ!」
「っ....。」
ならば、と放たれた椿の矢も葵によって全て弾かれる。
「(一つ一つの動きが命を左右する。ミスは許されない。ユーノに攻撃を届かせず、いかに二人の隙を突くか....!)」
再び接近してくる二人に、気を引き締めて集中力を極限まで高める優輝。
「(両サイドからの突破は椿が防ぐ。...なら、僕がすべきことは...!)」
ギギギギギギィイイン!!
弾き、防ぎ、受け流し、凌ぐ。
圧倒的さの手数を必死に防ぎ、剣では防げないのは瞬時に素手で側面を弾く。
素手で弾いた後は、先程一回転してまた刺さっていた刀を流れるように引き抜き、また攻撃を弾いて凌ぐ。
一手一手の防御が命を左右する中、優輝は剣と素手を使い分け、葵と偽物を止める。
「(考えろ!この二人が予想しない一手...!僕自身が普段はしない行動を...!)」
攻撃を防ぎながらも、優輝は思考を加速させる。
そして、一つの手に行き当たる。
「こ、れ...だぁっ!!」
瞬間、手に持っていた剣と刀を投げ、剣群を撃ち落とすのを支援する。
そして、素手となった優輝は手に霊力を流し...!
「なっ....!?」
「っっ....!これ、なら...!」
...レイピアと剣を、無理矢理掴み取った。
霊力で強化したとはいえ、刃が食い込み、血が流れる。
「(予想だにしない一手...つまり、悪手を狙えばいいんだよ...!)」
受け流した方が隙も作りやすく、常に最善手を掴むのが優輝の戦い方。
それなのに無理矢理相手の武器を掴むなど、本来はするはずがないのだ。
「椿っ!」
「今回ばかりは無茶は見逃すわ。....受け取りなさい。」
―――“弓技・矢の雨”
矢の雨が降り注ぎ、武器を掴まれていた二人は咄嗟に手放して避ける。
「っ...!これでっ!!」
―――“封魔陣”
陣のように広がった霊力が、偽物と葵を吹き飛ばす。
「ユーノ、行けるわね!」
「う、うん!」
「舌、噛まないようにね!」
―――術式“速鳥”
すかさず椿が速度上昇の術式を自身にかけ、優輝とユーノを連れて逃げる。
「おまけだ...!受け取れ!」
〈“Cartridge Revolver”〉
そして優輝がカートリッジを偽物と葵の足元に着弾させ、砂塵を巻き起こす。
「もう一発!」
〈“Cartridge Revolver”〉
さらにもう一発が結界の壁に向けて放たれ...結界に穴を穿つ。
「行け!ユーノ!」
「っ....転移!!」
最後にユーノが準備していた転移魔法が発動する。
穿たれた結界の穴から脱出し、三人は偽物と葵から逃げおおせる事が出来た。
後書き
流貫…攻撃に向けた導王流弐ノ型の技。相手の攻撃や防御をすり抜けるように躱し、突きを放つ。御神流の貫を参考にしている。(実質同じ性質)
霊撃…霊力を御札に込め、衝撃波を発する技。御札を介さずとも放つ事は可能。攻撃を弾いたりと色々利便性がある。イメージとしては東方緋想天などの霊撃。
霊掌…霊力を掌に込めて掌底を放つ技。単純であり、それ故に結構重い一撃。
弓技・瞬矢…霊力の矢を三連射する弓の技。一射に集中すれば三連射の時の三倍以上の速さが出せる。かくりよの門では“突”属性の三回攻撃。(筋力による防御無視ダメージあり)
弓技・閃矢…閃光のような霊力の矢を連続で放つ。お手軽で強力な連続攻撃。
かくりよの門では“突”属性の三回攻撃。(器用さによる防御無視ダメージあり)
弓技・氷血の矢…氷の力を纏った矢を放つ。当たった対象を凍らせる事が可能。
かくりよの門では“水+突”属性の攻撃。
弓技・矢の雨…文字通り矢の雨を降らす技。かくりよの門では“突”属性の全体技。
封魔陣…どこぞの博麗の巫女が使うスペカ....を模倣した霊術。
霊撃の上位互換のようなもので、主に隙を作るのに使う。
速鳥…速度が上がる術式を自身に施す霊術。かくりよの門でも速度が上がる。
休む暇のない怒涛の戦いの連続。...優輝の偽物だからね。しょうがないね。
今回のサブタイトル通り、本当に休む暇はありません。
ですが、少しずつ巻き返すようになっていきます。
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