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真田十勇士

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巻ノ五十七 前田利家その十四

「落ち着いていくのじゃ」
「わかりました」
「桂松、御主はいざとなればじゃ」
「はい、佐吉をですな」
「抑えよ、わかったな」
「わかり申した」
「では桂松」
 石田は己の前で自分のことを言われたがそれには何も思うことなくだ、その大谷に対して確かな声で言った。
「わしが過つと思った時はな」
「止めるぞ」
「そうしてくれ」
 こう毅然と言うのだった。
「是非な」
「わかった、ではな」
「殴ってでも止めよ」
 こうまで言った、大谷に。
「そうせよ」
「遠慮なくか」
「勝つ為には遠慮なぞ無用じゃ」
 公を立てての言葉だった、明らかに。
「殴ってでも止めよ、わかったな」
「よし、言われた通りにする」
 大谷もこう石田に答える。
「容赦はせぬぞ」
「それではな」
「それでは行くのじゃ」
 秀吉は二人にあらためて告げた。
「忍城にな」
「はっ、それでは」
「その様に」
「わしは小竹を連れて小田原に行く」
 秀長に顔を向けての言葉だ。
「そして北条家を降す」
「さすれば」
 秀長が秀吉に応えた、そしてだった。
 秀吉は軍勢を東に東に向けていた、箱根を越えてだった。
 東国に入り小田原にも着いた、だがその大軍を見てもだった。氏政は悠然として家臣達にこう言ったのだった。
「あの者達もやがてはじゃ」
「帰る」
「そうなりますな」
「これまでもそうであった」 
 それならばというのだ。
「上杉謙信、武田信玄」
「ならば関白殿も」
「同じですな」
「小田原城は何があっても陥ちぬ」 
 確信している言葉だった。
「何をしてもな」
「では敵が帰るのを待つだけ」
「我等はそれだけですな」
「それまで城に篭っていればよいのじゃ、ではじゃ」
 ここまで言ってだ、そして。
 氏政は櫓にいる家臣達にだ、あらためて言った。
「城の中に戻るぞ、してじゃ」
「酒ですな」
「そちらを楽しまれますな」
「うむ」
 その通りという言葉だった。
「ではよいな」
「はい、では」
「その様に」
 周りにいる家臣達も太鼓持ちの様に応える、そして櫓を去りそうしてだった。氏政の言う通り酒を楽しむのだった。秀吉の考えなぞ察するどころか何も思うところはなく。


巻ノ五十七   完


                         2016・5・14 
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