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Muv-Luv Alternative 士魂の征く道

作者:司遼
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朔月
序章
  第四九話 復活の剣鬼

 白と黒、二つの鋼が飛び交う。
 その機体が宙を翻るたびにその手に握られた大剣により血飛沫が吹きあがる。

「相変わらず面倒な敵だ。」

 その漆黒の体躯を返り血に濡らす機体―――EF-2000を駆るアイヒベルガーが呟く。英国(イギリス)軍から借り受けた大剣(フォートスレイヤー)による要塞級の漸減任務。
 しかし、要塞級はその巨体故、耐久力が高く如何に要塞級殺しと言われるこの大剣を以てしても上手く当てねば即死とは往かない。

 120mm砲とて一匹仕留めるために数発の直撃が必要なことからそのタフさは面倒の一言だ。
 しかも、向こうの攻撃を受ければほぼ一撃で戦闘不能へと陥る―――非常に厄介だ。

「仕方ありませんよ少佐、唯でさえこの地域は支援砲撃が届かないのですから―――しかも要塞級放置して盾に侵攻されては支援砲撃の効率も落ちてしまいます。
 あの子たちが頑張ってくれている間に少しでも数を減らさないと。」

 本来、要塞級周辺に存在するはずの個体群。それらは大隊機のMK-57ライメイタルを装備した砲戦仕様のEF-2000による遠距離砲撃で粗方掃討し終え、ほかの大隊機がこの地区に他のBETAが入らないように継続戦闘を行っているのだ。

 手早く済まさなければ如何に見込みのある衛士を揃えたとはいえ持ちこたえれる物ではない。

「そうだな、手早く済ませるとしよう。」

 自らの副官であり、幼馴染であり、戦友でもあるパートナー白き后狼の言葉に頷いて黒き狼王は背の兵装担架から新たに斧槍を抜き放ち、要塞級へと切りかかるのだった。





「どうですかな?サー・イカルガ。」
「噂にたがわぬ武勇だよ、個々の技量は元より何より連携が活きている。タイフーンの特性もあるのだろうが素晴らしいの一言だ。」

 戦術機空母のブリッジ、ツェルべルス大隊の活躍を戦域マップを見ながら艦長に言葉を返す一人の蒼い軍服に身を包んだ青年。
 右目を縦に裂く稲妻のような傷が顔面に走り、ブラウンの瞳と茶髪を短めにカットした精鍛な顔つきが印象的な青年だ。

 彼の後ろには白い軍服を着た斯衛軍軍人が二名に赤の斯衛軍人の少年が一人付き添っていた。

(サー)、我が(ドイツ)でその(タイフーン)は……」
「ああ、すまない。配慮に欠けていた。どうか許してもらえるかな?」

「分かってくださればいいのです。」

 タイフーン、第二次世界大戦中に英国で開発されたその戦闘機は当時戦闘中だったドイツに大打撃を与えた。
 その為、その名を継承したEF-2000の名称としてはドイツでは忌避されているのだ。

「さて、それは兎も角。アレだけではなくこの機体も貴国で使ってみるというのは?」
「艦長は商売がしたいのかな?だが、生憎と機体が良いのか衛士が良いのかの見分けがつかんのだ。
 無論どちらも最新鋭であるというのは疑いようのない物ではあるが、(おれ)の曇った(まなこ)では陛下に進言する言葉を持つに足らん。」

「ふむ、これはしまったな。なまじ彼らが優秀過ぎましたか。」

 順調に推移している戦局故か、多少余裕のある艦長からの熱烈なセールスをサラリと受け流す青年。
 その時だ、けたたましいアラームが鳴り響く。

「北西11時方向に敵、旅団規模BETA軍確認――」
「ゲーベンとサイドリッツに打電!AL弾に換装後に新たに出現したBETA群に艦砲射撃!」

 随伴艦に指示を飛ばす艦長、対レーザー弾頭。飛翔物を迎撃する光線級の修正を利用してレーザー攻撃を受けた場合そのままレーザーを減衰させる重金属雲を発生させる弾頭だ。
 仮に光線級が存在していない場合そのまま質量弾頭として敵の漸減を効果を発揮し、その迎撃の有無で光線級の存在を確認できる試金石にもなる弾だ。

「さて、光線級が居ない事を祈るばかりか……」
「AL弾の迎撃を確認!重金属雲が展開!」

「そう上手く事は運ばんか!通常弾頭に換装、榴弾と炸裂弾で敵を足止めしろ!!」

 矢次に飛ぶ指示、近代化改修された随伴艦の自動装填システムが素早く砲弾を交換し衛星とのデータリンクを介し砲撃を開始。
 その大砲の斉射の衝撃が海を揺らし、青年たちの乗る空母も揺らす。

「フランス軍のほうはどうなっている!?」
「A-10の防衛戦闘中です!彼らが動けば支援砲撃部隊が突撃級の標的になってしまいます!」

 A-10サンダーボルトⅡ、アメリカで開発された攻撃機だ。
 戦術機と違い、火力と重装甲を重視した機体でありその両肩に装備されたガトリングガン、アヴェンジャーは戦車級を薙ぎ払う事が可能な速射力と弾数を持つ。
 しかし、反面砲弾の軽さから突撃級や要塞級の相手を苦手とする。

 その為、欧州連合では戦車級の相当及びラインメイタルを装備しての支援砲撃を担当している。


「―――国連軍レインダンス中隊が救援に来てくれるそうです!到着まで30分!」
「……ギリギリ間に合わないか。」

 転換した戦局に歯切りする艦長、ツェルベルスと同じEF-2000を配備するレインダンサ―ズならば合流した際に連携を取りやすい。
 其れは良い、だがそれまで奇襲を受けるロート中隊が持ちこたえれるか、と言うのには疑問がある。

「―――大尉、お願いがあります。」

 緊迫した空気の中で口を開いたのは赤い軍服に身を包んだ少年だった。

「……清十郎。甲斐、今井お前たちも同意か?」

「大尉のご判断であれば。」
「必要ならばやればいい、其れだけだよ。真壁少尉の初恋を応援するのは吝かじゃないけどね。」

 少年の言わんとすることを察した青い軍服を纏う青年はほかの白を纏った二人に問う。
 その答えに右腕の感触を確かめながら戦意を高める。

「―――――実戦テストには丁度いいかもしれんな。」
(サー)!貴君は我が国の客人だ。そんな人物を戦わせるわけには……。」

 焦りつつも青年の言葉を却下する旨を口にする艦長。当然だ客賓である彼らに何かがあれば最悪外交問題に発展する。しかも相手は自国にとって公爵に近い立場の人間だからなおさらだ。


「艦長、ノブリスオブリージュはご存知だろ?我ら斯衛もその責務に関して差異はない。頼むよ、一人の武人として戦場(いくさば)に行かせてくれないか。
 この件に関して、五摂家の名において貴国と貴官に責は及ばぬと言明しよう。」
「……わかりました。其処まで言うのなら……彼らを頼みます。しかし、レインダンス中隊合流後は速やかに戦線を離脱してもらう事が条件です。」

 本心ではたとえ戦術機の一機でもいいから援軍が欲しい所、その二律背反の末に妥協点を告げる艦長。それに青年は頷くのだった。


「感謝する。」








「燃料電池ヒートアップ、セルモーター起動、エンジン始動……ジェネレーター定格、エンジンアイドリングへ移行―――ニューロコネクト!網膜投影…来た!」

 格納庫、人工の灯りに照らされだされる蒼の鋼鉄。重厚な鎧を纏った巨大な人型。
 其れは欧州連合の後方部隊に配されている人類最古の戦術機F-4と酷似した機体……F-4J改:瑞鶴の姿が其処にはあった。

『どうだい問題は無いかい?」

 視界に空間ウィンドウが展開され、そこには白い零式強化装備に身を包んだ甲斐の姿が映しだされた。

「ああ、問題ない。だが不思議な感覚だ……これが戦術機の感覚なのか、と少し戸惑うな。」
『それで戦えるのですか?』

『ま、それは如何にかなるだろう。生身での戦闘、其れこそが(おれ)の本分だ。』

 新たに映し出された甲斐と同じく白い強化装備に身を包んだ女性、今井智恵に答える。むしろ今まで乗ってきた中で一番しっくり来る。

「さて、今井。お前は例のモノを装備して支援を頼む。清十郎、お前は今井の直衛に付け。」
『了解。』

 編成を告げる青年、それに肯く智恵。しかし赤の斯衛、清十郎は了承しかねていた。

『大尉、私を前に出させてください。』
「……清十郎、お前の役目。すでに何度も聞かせたはずだが?」

『はい、ですが。あそこには小官の恩人が居るのです。叶う事なら―――』
「成るほど。男児(おとこ)の意地と言う訳か。良いだろう、ならばその意地を押し通して魅せろ。」

『ありがとうございます!!』

 喜色に破顔する真壁清十郎を見やる青年、観戦武官としてこの船の部隊に合流した際のツェルベルスの少女衛士とのやり取りを見れば、清十郎が恋心を持っているのは余りに分かりやす過ぎた。

 惚れた女を己が手で守りたい、その気持ち分からぬハズが無い。己も全く同じなのだから。
 ならば同じ男児として汲んでやらねば男が廃る。

「そう言う訳だ甲斐。」
『分かった、智恵久しぶりに二人で組もうか。』

『仕方ないわね。』

 馬鹿な男と、それを認めるバカな男たち。それに苦笑しつつポジション変更を受け入れる少女は苦笑するのだった。





 戦術機数個大隊を運用可能な巨大な艦体。その一つの町として機能出来る艦体のスクリューが回転数を上げ海原を割りながら速度を上げる。

 その甲板、昇降エレベーターが駆動し格納されていた鋼鉄が姿を現した。
 F-4J改・瑞鶴が4機、その色違いの鋼鉄が灰色の甲板にコントラストを刻み付ける。

 先頭に立つ異様な戦術機、両腕に無理やりブレードマウントを装着したその機体は腕にギロチンを縫い付けたような印象を与える。

 その蒼い鋼、F-4J改・瑞鶴タイプRの瞳に光が宿る。両足を固定していた下駄のようなカタパルト台にけん引装置のアレスティングフックが連結された。

 腰を落とす蒼の機体の背後で甲板がせり上がり戦術機の大出力バーナーから後方の機体を保護するジェット・プラストディレクターとなる。


『艦体、戦術機発進速度に到達。アサルト小隊各機は発進どうぞ。』
『了解、アサルト1斑鳩忠亮出るぞ!』

 ロケットスタート、忠亮の体に強烈なGが掛かる。電磁カタパルトから砲弾のように蒼い鋼が虚空へと撃ち出された。







『ふんぬぅう!!!』

 怒涛の気迫を伴って斧槍が乱舞する。その一撃ごとに突撃級・要塞級が千切れ跳び無意味な肉塊へと変じていく。
 その殺戮の嵐を巻き超す真紅の鋼――――紅色のパーソナルカラーに塗装されたEF-2000の姿が其処にあった。

『ほら!お前たちもっと腰を入れろ。もうじき踊り子の皆さまが応援に来てくださるのだ。無様を見せられんぞ。』

 部下を叱咤激励する女性衛士の刈るEF-2000こちらは通常カラーの機体、しかし通常機ではありえぬ精度でBETAを蜂の巣にしていく。

『各機奮起せよ、ここが正念場である!』
『『『『『『『了解』』』』』』

 紅のEF-2000を駆る音速の男爵こと、ゲルハルト・ララーシュタインの号令に部隊の応答が通信回線に響き渡る。

『せっかく清十郎にまた会えたのにかっこ悪いところは見せられないわ!』
『ええ、そうですわね。せっかくかの国の国産機を目に出来たというのに、真壁少尉とはまだ語らう時間がありませんでしたもの。』

『………いや、それは遠慮したほうがいいと思うぞルナテレジア。彼も任務中だし。』
『こら、余計な事を言うなよ!こっちに矛先が向いたらどうするんだ!!』

 真壁清十郎を知る面々の軽口が飛び交う。特にルナテレジア・ヴィッツレーベン少尉の戦術機談は日を跨いでも止まらないのは部隊員ならば既知の事であり、その生贄(スケープゴースト)に丁度いいと決して少なくはないメンバーが思っている。

 清十郎と語り合いたい“だけ“聞けば彼女の容姿や雰囲気を含めてちょっといい雰囲気を連想するが、本人が聞けば顔を青くすること間違い無しだ。

 一同が余りに鮮明過ぎるその光景をイメージしクスリと笑う。敵の猛攻は絶え間なく、刻一刻と機体の稼働時間はすり減り、装備は消耗していくというのに。
 それは空元気、誰もが口にせずとも分かっている。だが、微かな希望だろうと最後までそれにしがみ付いて戦った人間だけが0パーセントを1パーセントへと変えることが出来るのだ。

 そして、ツェルベルスは間違いなく戦い続けてきた人間たちの部隊だ。
 故に、その結末は必然だった。


『うちの青二才はどうにも人気者のようだな。』


 突如として通信回線に飛び込んでくる声、同時に二つの鋼が戦場に乱入した。
 青と赤、二色の鋼鉄の人型。F-4系統機特有の重厚なフォルムは余りに斯の戦場において異色だった。

 現在において後方任務を主任務とする第一世代戦術機がこのような攻勢任務において前線に立つという事が通常ならあり得ないことだ。

『清十郎、ついてこい。』
『了解ッ!!』


 瑞鶴の巨体が着地、その鋼鉄の脚部が火花を散らし砂塵を巻き上げながら滑ってゆく。
 そして流れる動作で背の兵装担架へと突撃砲を格納――――その右腕の長刀を抜き放つ。

『その機体で近接戦闘なんて無茶だ!!』

 誰かの叫び声、しかしそんなもの意に介さない。
 向かうは要撃級の一団、その肉の(さそり)の腕の前には戦術機の装甲など気休め程度しかない。されど人機一体の極致へと至った忠亮には恐怖は微塵もない。

『必勝と必成の極意―――見るがいいッ!!』

 長刀の水平に、柄を敵に向け構え風を切って進む。跳躍ユニットのロケットモーターが点火、瑞鶴の巨体が加速する。

『チェ――――ストオオオオオオオオッ!!!!』

 たらふく加速を載せた状態で長刀の刀身の峰を右手押しながら刃を全面に体当たりをぶちかます――――それはさながら真横に放たれるギロチン。
 一体の要撃級がその剛腕ごと上下に横一文字される。

 そして、そのまま瑞鶴の巨体が空中で身を捻りその加速をそのままにその後ろに居た要撃級へと飛び蹴りを炸裂させる。
 ひっくり返りながら吹っ飛ぶ要撃級――――その躰が地面に着くよりも前に一瞬で構えなおした瑞鶴が左から右へと唐竹割と切り上の連撃を繰り出す。

 一瞬の連撃、文字通り瞬く間に4体の要撃級が撃破された。


『ふむ、悪くはないな。』

 刃を振りBETAの体液を刀身から振り落とす瑞鶴―――極めて人間臭い動作だった。


『みなさんご無事ですか!!』

 突撃砲を連射しながら通信を繋ぐ清十郎、其の目前では蒼い瑞鶴が次々と、剣術を披露していく中で的確な援護射撃で彼に集まる敵の数を減らす紅の瑞鶴。

 其の紅の戦術機を駆る少年は彼らにとってなじみ深い存在だった。

『せ、せいじゅう……』
『ぬぅおおおおおおお!!!!真壁少尉っ!!!!』

 先ほどまで話題にしていた人間の登場、関わりの深い金の髪に青い瞳の少女イルフリーデ少尉がその名前を呼ぼうとしたが、空気を敢えて読まない音速の男爵の雄たけびにそれはかき消された。

『は、はい……』
『吾輩とおそろいなのであーーるっ!!!!』

『あ、はい、そうですね。』

 完全に振り回されている清十郎、脳裏に英雄と呼ばれる人間の顔を思い浮かべてはその中に常識人に該当しない人間の顔を隅で塗り潰していく。

 やはりというか、一人も残らない。英雄と呼ばれる人間は必ずどこかしらの螺子が飛んでいるのだな、と変な感想を抱く。

『むー……』
『あー、その、なんだ、うん……気持ちは分かるぞ。』

 ふくれっ面になった公爵家の同僚を慰めるとある侯爵家の少女がいたのだったとさ。


『何時まで遊んでいる清十郎っ!!』
『す、すいません!!』

 F-4をベースとしているとは到底思えない体捌きで次々と肉塊を量産してく忠亮。強靭な肉体を持つ要撃級がその刃金に触れるたびにまるで蝋人形であるかのように両断されていく。
 まるで、剣術の達人が戦術機にまるで憑依したかのように思わせる挙動―――コンピュータを介した入力と自立制御による通常の挙動ではあり得ざる次元の動きだ。

『本当にあれが F-4(ファントム)の動きなのか……』

 元より、この瑞鶴はF-4をベースとした改造機。とはいえ、存在するF-4を改造して瑞鶴にすることはできない。
 改造機と言う定義は幅広く、すでにある機体のパーツを交換・追加した物から、設計を参考にしただけの物まで存在している。
 この瑞鶴は後者、設計ベースはF-4ファントムの物であるが同じ場所を探すほうが困難なほどに変更が加えられている。

『BMセレクト……行きますっ!!』

 紅の瑞鶴が疾走する。二門の突撃砲の36mmマシンガンの斉射、要撃級の腕の間に見える顔面へと正確に射貫く。
 そして大地を蹴る空中に半円を描くように空転しつつ120mm滑空砲を連射、さらに二体の要撃級の胴へと大口径砲が直撃、前後に別れ飛ぶ。

 蒼の瑞鶴とは雲泥の差だが、連続しつつも複雑な三次元機動―――むしろその機動は最新鋭であるはずのEF-2000よりも細かい。
 必要最小限でさらに柔軟な挙動―――まるで柔術のそれに若干似た雰囲気だ。

『や、やった……!』
『後ろだ!』

 次の敵へと標的を移す紅の瑞鶴、しかしその背後――――先ほど胴体に120mm砲を食らった要撃級が後ろ半分を失いつつも紅の瑞鶴に殴りかかった。

 ダダダダ――――っ!!!

 連続した発射音とマズルフラッシュ。突撃砲の斉射が前半分しかない要撃級に突き刺さり絶命させた。

『敵の生命力を侮るな、シミュレーターは所詮模造。奴らの死骸一つ油断するな!』
『は、はい!!』

 両脇から突撃砲の銃口を除かせた蒼の瑞鶴。背部兵装担架に装備された突撃砲をにより清十郎を救った蒼の瑞鶴。
 経験の差が妙実に現れた形だった。


『此方ツェルベルス第二中隊、ロート1.ゲルハルト・ララーシュタインである。貴官等の救援、感謝する。』

 真紅の EF-2000(ユーロファイター)が並び立つ。兵装担架から突撃砲を再び取り出すと突進してくる戦車級に向け共に砲弾の斉射をプレゼントする。

『アサルト1、タダアキ・イカルガだ。約15分後には国連軍の救援が到着する、それまで持ちこたえるぞ。』
『了解したのである。しかし、我が隊は装備がすでに心もとない、特に砲兵の消耗が激しい。』

『少ないが補給物資を手配してある―――おっと噂をすれば何とやらだ。』
『む……!』

 長刀を左右で異なる向きで装備した純白の機体―――瑞鶴タイプCがその白い装甲を返り血に塗れさせて接近していた。
 其のすぐ後方には補給コンテナを所持した同じく白い機体。その背中には通常の突撃砲に加えて、戦術機の全長に匹敵する大筒――――MK-57ラインメイタルが装備されていた。


『補給物資を持ってきました。補給中の機体の穴は私たちが埋めます。』
『感謝する。ローテ12お前から補給を行え。』

『ローテ12了解。』

 地面に補給コンテナを設置し終えると補給に着いたEF-2000と入れ替わる。今井の駆る白い瑞鶴の背の兵装担架が稼働―――MK-57ラインメイタルを構える。

『その装備、扱うのは今回が初めてらしいが大丈夫か?』
『重機関銃とはいえ、使い方は分隊支援火器に近い―――なら使い方はこう!!』

 白の瑞鶴が大地を踏みしめる。そしてラインメイタルが火を噴く。
 このMk-57は性質的には連射できるスナイパーライフルだ。戦車の大砲などの榴弾のような使い方は出来ない。
 故に、87式支援突撃砲の威力・弾数・連射力強化版と見るのが正しい。なら、戦車級には薙ぎ払うように。要撃級・突撃級には照準を少し置く感じだ。

『ほう……ジャパン・インペリアルは近接戦闘(インファイト)だけではないという事か』

 Mk-57のマズルフラッシュ、いくつもの砲弾がBETAの群れへと向かう。そして着弾のたびにBETAの大群の動きが淀み、そして流れを変えられていく。
 まるで氾濫した河川に一石を投じその流れを変えているかのように、戦車級を薙ぎ払う合間に撃破する要撃級や突撃級の死骸の防波堤により敵の大群は否応なしにその流れを変えられる。

 今まで使用したことが無いどころか、機体とのマッチングすら調整されていないその特性を初見で見抜き、数射の合間に調整すら終えて使いこなして見せる―――紛れない精鋭の証だ。

『その隙は逃さんっ!!』

 蒼の瑞鶴が跳躍が跳躍、銃弾の雨を降らす。大型種の死骸を乗り越えようとした戦車級が次々と肉片(ミンチ)へと弾け飛ぶ。

『――――甲斐ッ!!』
『了解したッ!!!』

 続けざまに突撃砲から120mm砲を放つ、それは地面に突き刺さり爆散―――戦車級の赤一色の絨毯に穴をあけた。

『はぁああああああああああああっ!!!』

 其処へ白き鋼が突撃、長刀で地面を掃いた。枯れ葉の様に舞う戦車級、それは追撃の刃により一閃―――無害な肉の塊へと両断される。

『ぬぅう……イャアアアアアアアアアアアアアッ!!!』

 白を追う蒼、肩に担ぐように構えられた長刀が着地に合わせて墜落とも思える勢いで振り下ろされ―――そして降りきった所で90度曲がり、其処から円を描くように振るわれた。

 旋風、BETAの死肉と体液がそれが可視化させる――――元々、剣の攻撃判定は線だ。その角度を変えることにより、面の攻撃へと変わる。
 だが、口で言うほど簡単ではない。敵に近づくということは視界外範囲が増大するという事であり、視界外の部分を補える能力が無ければただの自殺だ。


『剣鬼、完全復活と言うところかな?』
『まだまださ。何せ今日が初めてだからな。』

 背を合わせる二機の瑞鶴、剣戟を極限まで極めた二人。旧式である機体を完全に手足のように操っている。
 其れもそのはず、彼らは大陸から日本での絶望的な戦況をこの機体で潜り抜けてきたのだから。

 こんなのは生ぬるいくらいだった。


 
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