平成ライダーの世界
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第三章
人間とは何か。それは姿形でなるものではありません。心でなるものです。平成ライダーの重要なテーマでありこのことについてどう考えるかということでそれぞれのキャラクター達が動いているのが平成ライダーです。
それを考えると真魚は正しい選択をしたと言えますし正しい考えを持っていました。津上は彼女によってその心をどれだけ救われたでしょうか。
その真魚と対立する考えにあると言っていいのが北條ではないでしょうか。彼は小沢遼子と対立することが多く実際に彼女とはその考えはかなり食い違っています。何かあればその都度北條が嫌味を言い小沢が睨み返します。アギトの警察においてはこの二人、小沢が率いるG3チームとそれに嫉妬し嫌がらせ等をする北條の対立が軸になっていました。
それだけを見ますと北條はただ嫌な奴であり最低の人間に見えます。しかし彼は己の責務には忠実であり過ちを犯したかつて世話になった先輩を断腸の思いで告発したりもしています。よく断腸の思いでした、と何かをした時に言う人がいますがその中には己の保身の為に許されないことをしてそのうえで居直る輩もいます。そうした輩は常にその都度他者を呆れさせ激怒させたうえで信頼を完全になくします。そしてそのことを自覚することもありません。こうした輩を待っているのは確実な破滅ですが北條はそうした輩ではありませんでした。この告発には私はなく警官としての正義がありました。ここが大きな違いでありました。彼はいざという時は私を捨てることができます。己のことしか考えず自己弁護を繰り返し破廉恥な行動をしてそれを恥じない様な輩とは違います。
その彼は真魚に真面目に捜査の協力を要請し彼の立場からアンノウンから市民を護ろうとしその中でアギトを知っていきます。その結果アギトこそが人類にとって敵なのではないのか、と考えるようにもなりました。
これは北條の正義であり人間の側から見た正義であることは事実です。ただ人間についての認識が違うだけです。人間を姿形や能力で見ると自然にそうなります。
そのうえでG3システムを掌握しアギトを追い詰めようとしますが彼は内心自分のしていることは間違っていると認識していました。だからこそ彼は小沢や氷川に自分の行動を止められた時ほっとした顔になったのでしょう。彼は彼なりの正義がありそのうえで戦っていました。そうした意味で考えていくと北條は非常に味のあるキャラクターです。
この世界での三人の主なライダーのうち津上と葦原は姿形はアギトでありギルスになることができます。そして氷川はG3、G3エックスを装着するようになります。結局のところ能力を得ています。結果として津上が三人を補欠なりにしても木野薫を交えてもアギトの会を結成しようと提案したのはそうしたこともわかっていたからでしょう。人は姿形ではなく心で人になるからこそです。
今木野薫の名前を出しましたが彼はストーリーの終盤をさらにドラマチックに動かした非常に印象的なキャラクターでした。
ブラックジャックをモデルにしていると思わせるその設定だけでなく冬の山で弟を失いその左腕を自身が凍傷でなくした左腕を移植させています。そのせいで医師免許を剥奪され医学会からも追放されています。完全にアウトローの存在です。
その彼に対して葦原が近付くことになります。彷徨い続ける彼は木野に自分の進むべき道を見つけようとしたからです。一見するとそれは正解でした。しかし木野は一見して高潔な人物でしたがその中には邪悪と言っていいものも持っている人物でした。アギトは自分一人だけでいいとしてそのうえで葦原、そして津上を消そうとします。怪我をした葦原が手術台に来た時に殺そうとさえしますがそれは弟の左腕が止めました。おそらく兄に邪悪な行い、人として許されないことをしそれによって人でなくなることを止めたのでしょう。その結果木野は人間のままでいることができました。そして彼の最後の戦いにつながることもできました。
木野が人間のままでいたことは非常に大きなことでした。黒衣の青年が遂にその行動を開始しアギトを消そうとしてきました。津上も葦原もその力を奪われ津上は瀕死の重傷を負います。木野はその津上を己の怪我も厭わずに救います。この時の彼は完全に人間として動きそのうえで津上を救いました。彼が人間として動き、人間とは何かということを完全に理解した瞬間でした。
やがて白衣の青年の助けにより三人はアギトの力を取り戻しそのうえでG3エックスこと氷川と協力し四人で父と言ってもいい存在である黒衣の青年を退けます。石ノ森ワールドにおいてはよく神と人、父と子の戦いがあります。石ノ森章太郎先生の作品の特徴は傲慢な神や乗り越えるべき父親がよく出てきます。そしてそれと共に主人公に対して無限の慈悲を見せあくまでその主人公を包み込む姉の存在があります。姉の存在については石ノ森先生のお姉さんの影響があると言われています。この方のことは藤子不二雄先生のまんが道においても描かれています。石ノ森章太郎という漫画界の巨人を産んだ方と言ってもいい存在です。
その神、そして父との戦いでした。木野はそれを終え葦原達の前で座ったまま静かに息を引き取ります。この時の死に顔は非常に穏やかなものでした。人として為すべきことをした人の顔でした。
黒衣の青年ですが彼はあくまで人を愛していました。しかしアギトについては前述通り何としても許そうとしませんでした。ですがその彼にアギトのことを話し理解するように求める人物がいました。沢木哲也こと本当の津上翔一です。この文章においては沢木と表現させて頂きます。
彼はアギトもまた人間であり人間の可能性として見ていました。そのうえで黒衣の青年の前にいました。彼は戦いません。ですが黒衣の青年にその可能性を理解してもらおうという戦いを行っていました。そうしていたのです。
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