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真田十勇士

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巻ノ五十七 前田利家その九

「人の心を惑わし揺さぶるな」
「それも有名ですな」
「降ることを勧めることも得意で」
「それで戦わず相手を降したこともあります」
「相手の家を乱すことも常です」
「そうしたことも得意な方じゃからな」 
 それ故にというのだ。
「城を囲みな」
「そうして人を攻めれば」
「小田原城もですか」
「陥ちますか」
「降るしかない様にされるであろう」
 これが氏規の読みだった。
「そのままな」
「では」
「この戦負けますか」
「二十万の大軍の前に」
「そうなりますか」
「そうなる」
 氏規は言い切った。
「間違いなくな」
「では、ですな」
「北条家は滅びますか」
「この度の戦で」
「それだけは防ぐ」
 何としてもという言葉だった。
「必ずな」
「では新九郎様だけはですか」
「あの方のお命だけは」
「その様にされますか」
「うむ、あの方だけはお守りする」
 氏規は今もその誓いを言った。
「それがわしの務めじゃ」
「大殿はおわかりになってはいませんか」
「まだ」
「うむ、何もな」
 それこそというのだ。
「関白様のことも天下のこともな」
「最早天下は一つになる」
「それはそう定まっていますか」
「東国も例外ではなく」
「一つになりますか」
「既にそれは織田殿の時に決まっておった」
 信長の時にというのだ。
「あの方が武田家を滅ぼし上野から東国を統一せんとされていたな」
「はい、滝川左近殿を関東管領に任じられ」
「そのうえで東国の仕置を定められんとしていました」
「それならばですな」
「最早その時に決まっていた」
「そう考えていいですか」
「そうじゃ、それが数年遅れただけのこと」
 信長が本能寺で倒れてというのだ。
「だからな」
「それで、ですな」
「最初から従うべきだった」
「そうあるべきでしたか」
「うむ、しかしそうはならなかった」
 全く以てという言葉だった。
「今に至った、だからな」
「はい、それでは」
「新九郎様だけはお助けし」
「北条家を守る」
「そのことを考えますか」
「それは何とかなる」
 最早戦に敗れ相模及び伊豆は守れぬにしてもというのだ。
「まだな」
「ではそこに力を注ぎ」
「そうしてですな」
「戦を終わらせる」
「そのことに専念しますか」
「そうしようぞ」
 こう己の考えを言う氏規だった、そしてだった。
 氏規は己の居城の守りを固めると共にだった、北条家を何とか守ろうと決意していた。そして実際に家康にも話していた。
 家康は陣中において氏規からの文を受け取りだ、自身の家臣達に言った。 
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