STARDUST∮FLAMEHAZE
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第二部 WONDERING DESTINY
CHAPTER#END
DARK BLUE MOON FINAL~Ring Of Vestage~
【1】
蒼き魔狼が蹂躙の限りを尽くした廃都の街並みに、
深い緑色をした火の粉が無数の紋字と共に沁み渡る。
深謝のように。慈愛のように。
荒廃した空間を元に戻していく。
その自在法を操る老紳士が熟練の指揮者のように両腕を動かすたびに、
火の粉は意志を持ったように封絶内部を隈無く駆け巡った。
「これくらいでは、“彼等” に報いる事にはならぬがな」
若干苦さを滲ませた老紳士の眼下にて、
左回りの時計のように修復されていく街路を二つの人影が歩いている。
その背後で青年の上衣に裸身を包まれた美女が、
彼の仕える屈強な従者に抱えられていた。
やがて遠間からこちらの視線に気づいた青年が片手を挙げ、
少女は大きく手を振る。
「……」
老紳士は、ラミーは蟠りのない温かな微笑を口元に浮かべ
空間の修復を急いだ。
漆黒に染まった意識の外で、微かな声がする。
「いつのまに、あんな 『流法』 修得してたのよ? おまえ」
耳慣れた、少女の明るい声。
「ま、秘密の特訓、ってヤツかな?」
覚えのある、青年の打ち解けた声。
「ねぇ、教えてよ。やり方」
「オメーな、そうやって他人の能力すぐに欲しがるクセ、直した方がいいぞ」
煩わしいと想いながらも瞳を開いた。
戦闘の記憶は、途中から殆どない。
それでも於かれた現状を認識すれば嫌でも解る。
“負けた” のだ、自分は。
「眼が醒めたみてぇだぜ」
最初に視界へ映った青年の美貌が平静な様子でこちらを見据えていた。
気づけば自分は一糸纏わぬ姿、その上に青年の学生服が無造作に掛けられていた。
麝香の絡んだ男の芳香に軽い眩暈を覚えたが、
咄嗟に剥き出しの胸元に右手をやる。
今更裸を見られた位で狼狽えるような小娘でもないが、
ソコにある筈のモノが無い事だけは真剣に恐怖を覚えた。
冷たい金属の感触。
摩耗して鈍い光沢。
それでも自分にとっては、この世の何よりも温かく大切な存在。
「……」
意図せず安堵の呼気が口から漏れ、強張った全身が弛緩していった。
「大事な……モノみたいね……」
いつのまにか傍らに来ていた少女が、憂いを含んだ表情で自分の胸元を見つめている。
青年は己に背を向け、黄金の長鎖を巻き付けた右腕で紫煙を燻らせていた。
「……なんですって?」
何気なく告げられた言葉だが、その意味を解したマージョリーはシャナに問い返した。
しかし少女は何も答えず代わりに細い影が傍らに立った。
「テメエ……ッ!」
脇に置かれたそれまで沈黙していたグリモアから、
掠れながらも狂暴な声が漏れ出る。
解れた封絶の光にその身を照らされながら眼前に立つのは、
忌むべき宿敵 “屍拾い” ラミー。
今や完全に立場が逆転した状態だが、それでもマルコシアスは
マージョリーに指一本でも触れたら殺すという脅嚇と共に唸った。
「安心しろ。何もする気はない。
私も “アノ少女” には恨まれたくないのでな」
「ッ!」
紅潮した頬で想わず息を呑むマージョリーの眼前で、
老紳士がスーツの内側から取りだしたモノ。
緩やかでありながらその裡に烈しい渦旋を宿す、群青の炎。
「すまぬが、 “視せて” もらった」
事も無げに告げられたラミーの言葉に美女は絶句する。
「“彼等にも” ソレを伝えた。全力で君を止めた者として、
その権利も義務も在ると想ってな」
続けられた事実に驚愕するマージョリーに代わり、マルコシアスが騒ぎ出す。
「テメエ! 一体ェどーゆーつもりだッ!
オレの女に恥かかせた挙げ句晒しモンにしようとグゲオアッッ!!」
羊皮紙をガタガタ鳴らして激高する紅世の王の口が、
頭上からの強烈な踏みつけによって無理矢理閉じさせられた。
「黙ってろ……犬ッコロが……」
いつのまにか傍に来ていた無頼の貴公子が、
ブランド物の靴底で煙の上がる神器の表紙をグリグリと抉じる。
「テメーのヤった事ド忘れ決め込んで調子ン乗ってねーか?
後先考えず好き放題暴れやがって。
もし封絶がバラけて “外” と繋がっちまったら
一体ェどうするつもりだったんだ? あ?」
言いながら歴戦の不良特有の眼光で、狂猛なる王を一分の斟酌なく睨め付ける。
「テ、テメェも覚えてやがれ、オレの顔面と左脚吹き飛ばしやがって、
今度を会ったら跡形もねぇほど咬み裂いてグエェェ」
怪鳥を捻り殺した時のような濁声を漏らしながら、
マルコシアスは言動を封じられる。
「フム、話を戻すぞ」
その光景を後目に、ラミーはマージョリーに向き直った。
「私が言う台詞でもないかも知れぬが、
紅世の徒に憎しみを燃やす君の気持ちも解らぬわけではない。
愛しき者を奪われたのなら尚更、な。だが」
老紳士はそこで一度言葉を切り、鋭い視線で美女を見る。
「 “銀” は、追うな」
「――ッ!」
予期せぬ言葉にマージョリーの虹彩が細く狭まった。
承太郎の足下でも声を発しようとマルコシアスがジタバタ藻掻く。
その両者に二の言を与えず、ラミーは確乎たる口調で言った。
「アレは、追うだけ無駄なモノ。追えど付けず、探せど出でず、
近づけば近づくほどその距離は無限に拓いていく。
そしてその先に待つのは、永劫の闇だ」
悼むように瞳を閉じ、ラミーは言葉を締め括る。
「今ならば、まだ遅くはない。
このまま進めば、後で後悔してももう後戻りは出来ん。
憎しみを捨て、復讐を忘れ、一人の女として達者に暮らせ。
“彼女” もソレを、誰よりも願っているのではないか?」
「……ッ!」
軋む口中と、歪む風貌。
何度も何度も自答して、結局答えなんか出なかった問い。
自分が今までヤってきたコトは、これからしようとしていたコトは、
どう考えても “ルルゥの為” ではない。
100%、自分自身の為だけのモノ。
だから彼女を想うコトを止め、一人憎しみに焼かれるコトを選んだ。
そうでないと、辛過ぎた。
温かな光で充たされた平穏な世界でアノ娘を忘れるよりも、
凄惨な修羅の岐で血に塗れながらも、ずっと覚えていたかった。
「……だったら、何だって、いうのよ」
誰に言うでもなく、自分自身に言い聞かせるようにマージョリーは言葉を紡いだ。
「そんな言葉は、もう、聞き飽きた」
ザワめく大気の中、そこにいる全ての者に告げられる、冥府から響くような声。
「復讐なんかをして、死んだ者が生き返るわけではないと知った風な口をきくヤツもいる。
赦す事が大事なんだと、クソくだらないコトを平気でほざくヤツもいるわ」
肩を震わせながら俯いていた美女は、そこで決然と顔を上げる。
その深い菫色の瞳に宿る、昏きながらも気高き光。
「でも私は! アノ娘を目の前で殺されてッ!
その事に眼を背けて生きるなんてまっぴらごめんだったし!
スベテを失っても構わないという覚悟を決めて今日まで闘ってきたッ!」
ビリビリと空間を劈くその言葉に、周囲の者はただ黙する以外術をなくす。
創痍の躰で血を吐くように吼えるマージョリーの様相は、
酷烈な復讐者のソレではなく、ただ一人の哀しい女の姿だった。
「アイツを殺さない限り! 私はもうどこへも行けない!
そうしない限り! 未来なんてないし幸福なんてモノも存在しない!
喩えどんな結果になろうと!
私は私自身の 『運命』 に “決着” をつけなきゃいけないのよッ!」
そう、できるわけがない。
できるわけがない。できるわけがない。できるわけがない。
アノ娘の事を忘れて、全てを「過去」にして、自分だけが安息に生きる事など。
この残酷な世界の中でただ一つ、アノ娘だけが、ルルゥだけが、
自分の真実の “幸せ” だったのだから。
「そういうコトなら、仕方ないわね」
それまで押し黙っていた少女が一転、
その凛々しき気配を全身に纏わせて自分の傍へと歩み寄った。
その髪も瞳も元の黒い色彩へと戻っていたが、今の己を縊り殺すのは容易だろう。
未だ去っていない窮地を、何故か他人事のように茫然と見つめていた
マージョリーの前に長身の男も立つ。
「今回みてーに、我を忘れて暴れ回るっつーんなら、また沈めるコトになるが」
威圧するわけではないが、全身から発せられる強い気配に躰が無意識に引く。
気休めにもならないと想うが、掛けられた学生服を煙幕にするため襟元をはだけた瞬間。
「でも、眼につく “紅世の徒” 全てを討滅するっていうのじゃなく」
「その “銀” とかいうクソヤローをブッ潰すっつーんなら」
青年と少女の声が重なる。
「手伝ってもいいぜ」
「手伝ってもいいわよ」
(――ッッ!!)
想定外の言葉に、声が出ない。
今の今まで、戦っていた、殺し合いをしていた者達が、どうして?
何度も何度も、本気で殺そうとした。
だから自分だって、殺されても仕方がないと想った。
なのになんで、こんな言葉を自分にくれるのだ?
辛くて、苦しくて、哀しくてどうしようもなかった時、
一番欲しかった言葉なのに。
「……ッ!」
涙に滲む双眸と胸を締め付ける心中を覚られまいと、
美女は長い栗色の髪に顔を伏せる。
正直なんて応えればいいのか解らないし、頭の中が滅茶苦茶で何も考えられない。
だから、二人から顔を背けて取り合わない事に決めた。
否定するにしろ肯定するにしろ、どちらも嘘になってしまいそうだったし、
自分の中の大事なモノが壊れてしまいそうで怖かった。
(もういい……一人に……して……ほっといてよ……)
アノ娘と同じ存在が、他にも自分に出来るなんて信じられない。
でも目を閉じると、中性的な風貌の少年が優しく微笑みかけてくれていた。
「まぁ、すぐに解答を出せとは言わないわ。
こっちもあと最低三ヶ月は要請されても協力出来ないし。
だからその間に考えておいて。
同じフレイムヘイズで在る以上、またどこかの封絶で遭うコトになると想うから」
「ヤローの面ァ覚えた。もしかしたら先にこっちがヤっちまうかもしれねーが、
そんときゃあ恨みっこなしだぜ」
こっちの心中など意に介さず、言うだけ言うと二人の気配が遠ざかった。
瞳から温かな雫が頬を伝い、胸元に落ちるのが解った。
「さて、本当に世話になった。 “炎髪灼眼” ……イヤ、空条 シャナ」
修復されたビルの屋上中央でラミーが深謝を込めてそう言った。
「自分が、やるべきコトをやっただけよ。別に気にしなくていい」
澄んだ瞳で告げるシャナの返答は非常に坦懐としたモノ。
「フッ、本当に、良いフレイムヘイズを育てたな。アラストール」
「我だけの殊功ではあるまい。それは貴様も解っていよう」
少女の胸元で、本意と不本意が入り交じったような口調で炎の魔神がそう告げた。
ラミーは笑みを深くし、最後に承太郎へと向き直る。
「……」
しかし何かを逡巡しているのか無言のままなので、先に承太郎の方が口を開く。
「悪かったな。せっかく集めた “力” を遣わせちまってよ」
「イヤ、ここで集めたトーチは、
本来 『こうするべきだった』 のかもしれぬ。
その身は消えようとも、想いはこの地に充ち渡り、
そこに生きる者を見護っていく」
己の気持ちと同調するように、ラミーは修復の終わった香港の街を一眸した。
「何の為に力が必要なのかは解らねーが、
いつかアンタの願いが叶うといいな」
「あぁ、その時にはソレを、君にも視てもらいたい」
そう言ってラミーは名残惜しそうに瞳を細めた。
「では、さらばだ。 “天壌の劫火” 我が古き友よ。因果の交叉路でまた逢おう」
「いつか望みの花咲く日があるように “螺旋の風琴” 」
異なる真名で呼ばれたラミーにシャナが瞠目すると同時に、
老紳士は無頼の貴公子の瞳を真っ直ぐみつめる。
そし、て。
「最後、だから、ね」
不意に言葉を発した。
しかしそれは、ラミーの口からではなくその背後、否、躰の裡側から聞こえた。
件の枯れた声ではなく、純潔な少女の声。
「ッッ!!」
同時に、老紳士の姿が陽炎のように薄れて霧散し、
その中から緑色の火の粉に包まれた幻想的な美少女が姿を現した。
淡い紫色の髪と瞳、清楚な洋装、胸下に届く細いリボンが気流に揺らめく。
トーチにその身を宿すラミーの「正体」については
アラストールから説明を受けていたが、
実際に目の前で宙に浮くその懸隔に、さしも承太郎も言葉を失った。
その彼を慈しむように見つめながら、幻想の美少女は静かに口を開く。
「ありがとう。空条 承太郎。私を、護ってくれて」
星形の痣が刻まれた首筋に、白い手がそっと絡まる。
「私、貴方に逢えて、本当に良かった」
そう言ってその感謝の印が、承太郎の頬に優しく口づけられる。
「――――ッッッッ!!??」
正体を現したラミーの姿にではなくその行為に、
シャナは怒髪衝天の如く双眸を見開いた。
「私の真実の名前は、
紅世の王 “螺旋の風琴” リャナンシー。
またきっと、何処か、でね……」
微かに潤んだ瞳で小さく手を振りながら、
全身から湧き熾った緑色の火の粉と共に彼女の姿は蜃気楼のように消え去った。
後に残った静寂と脇を抜ける風。
「フッ、結局最後の最後まで、してやられたというワケか」
穏やかな微笑と共に、無頼の貴公子が柔らかな感触の残る頬に手を当てた刹那。
ドグオォォォォッッッッ!!!!
予期せぬ痛烈な打撃音が彼の背後で鳴った。
軸足の廻転でコンクリートが焦げる程の勢いで放たれた
シャナのハイキックが承太郎の腰上に直撃していた。
「……ぐ……おぉ……テメー、いきなりなにしやが」
脊髄を電流のように駆け抜ける激痛で片膝が抜ける承太郎に対し、
「うるさいうるさいうるさい!! ヘラヘラしてるんじゃないッッ!!」
真っ赤になったシャナが叫ぶ。
「アァ!? 誰がだッ! テメー!!」
「うるさいうるさいうるさい!!
うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさァァァァァいッッッッ!!!!」
香港全土を震撼させる程の勢いで、少女の怒声が轟いた。
【2】
自分の返答は聞かず言うだけ言った青年と少女が去った後
(何やらケンカしていたようだが別にどうでもいい)
しばし放心していたマージョリーはやがて、
鉛を含んだような躰を引き起こし香港の街路を歩いた。
ラミーが自分に気を使ってか、まだ封絶が解けていなかったので
眼に付いたブティックで服を物色し、外套代わりの学ランはそこに置いてきた。
肩にかけたグリモアが異様に重く感じ、運ぶ足も我ながら頼りない。
どこをどう歩いたのかも解らぬまま、
やがて封絶を抜けていたのか異国の喧噪の中に自分はいた。
「……」
アレからどれだけ時が経っていたのか、
周囲は夕陽に包まれ彼方の水面も黄金色に輝いている。
吹き抜ける海風が、解けた髪を静かに揺らした。
「に、してもよ。まさかあのクソヤローの正体が “螺旋の風琴” だったとはよ。
アノ “頂の座” と双璧を成す紅世至宝の “自在師” とか云われてたが、
ここ数百年ばかり噂聞かねーからとっくの昔にくたばったのかと想ってたぜ」
今の心中が解っているのか、わざと軽快な口調でマルコシアスが言う。
「何にしてもそうだと解ってりゃあコッチも油断はしねー。
“次” はもっと念入りに歓待してヤるとしようぜ。
なァ? 我が反逆の麗女、マージョリー・ドー」
「そう、ね……」
でも、口から出たのは自分でも驚くほど弱々しい言葉。
今までなら、強敵相手に戦略上撤退を余儀なくされた時も、
その心中は狂暴な復讐心で燃え盛った。
逃げる事は負けじゃない、死ぬ事こそが本当の敗北なのだと頑なに信じてきた。
だから今回も、ソレと同じコト。
傷を癒し、力を戻し、 “アイツ等” に自分を殺し損ねた事を死ぬほど
後悔させてやればいい。
(……)
でも、どうしてだろう?
『全然そんな気が湧いて来ないのは』
「マルコ……」
「アン?」
雑踏の中で立ち止まり、消え去るような声で自分の被契約者に言った。
「私、戦いだけじゃなく、何かもっと大きなモノに負けちゃった気がする。
一体何の為に今まで戦ってきたのか、それさえも解らなくなっちゃった」
言うべきか黙するべきか、躊躇うよりも早く言葉は出ていた。
自省というよりは自暴、自暴というよりは逃避に近い。
自分でも、何でそんな泣き言めいた事を口にしているのか解らなかった。
今まで敵と相対した時、当たり前のように在った “憎しみ”
ソレが無くなったコトにより、その心の空隙には恐ろしいほどの虚無が拡がっていた。
「……」
美女の独白を聞いたマルコシアスはしばらく黙っていたがやがて、
「疲れてンだよ。オメーは」
短くそう言った。
「ズタボロん時何言おうがやろうが、ロクなコトにゃあならねー。
食って飲んで寝て、そっから先の事ァ眼が醒めてから考えろ。
何が在ろうが、時間は元に戻んねーだからよ」
ぶっきらぼうにそう言い帰館をマージョリーを促す。
言われるままに彼女もそれに従った。
異国の雑踏を力無い歩調で進む儚げな印象の美女。
普段の傲然とした覇気は見る影もなく、
今はただ戦いに傷ついた一人の女がそこに在るのみ。
普通の人間でも、今の彼女を籠絡するのは容易と想わせるほどに。
適当に見繕ったシャツとジーンズ、履き慣れないカジュアルシューズの
靴音が断続的に耳元で響いた。
(逢いたい、な……)
歩きながらワケもなく、そう想った。
ソレが余りにも身勝手で自己中心的な願望だと充分承知していながら。
自分で勝手に捨てたくせに、その結果 “彼” がどんなに傷つくか解っていたくせに。
そんな事を考える自分の浅ましさに、もう溜息も出なかった。
やがて眼に入る、一脚のベンチ。
(そう言えば、ここで逢ったんだっけ……)
直接眼を合わせたわけではなく、自在法の生み出す想像の世界の中でだが、
確かに此処で自分は彼と邂逅した。
今想えば、普通の出逢いというには余りにも奇妙な最初の接触。
その後反対するマルコシアスを無理矢理黙らせ、
舗道を隔てたガードレールの方へ。
「……」
ソコ、に。
「……」
肩からグリモアが落ち、アスファルトの上に大きな音を立てて転がった。
背後で誰かの叫声がしたが、聞こえない。
激しく高鳴る胸の鼓動と震える口唇。
全身を劈く恍然した痺れの中抗いようのない引力に惹かれるように、
自分の躰は勝手に動いた。
いるはずがない。
そんな事、在るはずがない。
「約束」 の時から、もう何時間?
周囲も既に黄昏で染まっているのに、こんな、自分なんかの為に。
ずっと……?
やがて、最初の時をトレースするように、前へ立つ自分。
斜陽にその身を照らされながら、微睡みに耽る中性的な風貌の少年。
気配を覚ったのか、そっと開く琥珀色の瞳。
そし、て。
「こんにちは。ミス・マージョリー。
今日は、何から始めますか?」
まるで何もなかったかのように、彼はいつもの表情で、
優しく自分に微笑みかけてくれた。
「……」
躰から、スベテの力が抜けていく。
心が、光り輝くナニカで充たされていく。
もう、無理だった。限界だった。
でも、それでもいいと想った。
たった一人だけでも。
ずっと自分を待ってくれている人がいたから。
自分の全てを受け止めてくれる人がいるから。
消えないから。
温かいから。
哀しみも弱さも何もかも、この人にならさらけ出す事が出来るから。
「どうしたんですか? 何かあったんですか? ミス・マージョリー」
細い躰に両腕を廻し、胸元で嗚咽を漏らす自分の傍で声が聞こえる。
もっと言って、名前を呼んで、力いっぱい抱き締めて。
他にはもう、何も要らないから。
スベテを失った、一人のフレイムヘイズ。
しかしソレは、終わりではなく始まり。
“敢えて『全て』を差し出した者が、最後には真の『全て』を得る”
それが確かなる 『真実』 で在るという事を、
彼女を優しく抱きとめる存在が顕していた。
ザワめく群衆の中、周囲の注目を一身に受ける二人を、
一人の少女が優しく見つめている。
風に揺れる、柔らかな栗色の髪と澄んだアイスグリ-ンの瞳、
その傍らに立つ、七色の光で彩られた神聖の守護者。
『よかったね……マー姉サマ……もう……大丈夫だね……』
誰にも聴こえない声で少女はそう呟き、満面の笑顔をいっぱいに浮かべた。
←To Be Continued……
後書き
はいどうもこんにちは。
昔、とある知識人が
「人間は、生きている事にのみ「価値」があり、
死んだらもう「無価値」になる。
だから葬式や墓参りなど愚の骨頂」という意見を宣い。
「じゃあ貴方は自分の奥さんや子供が死んだら、
もう「無価値」だから生ゴミの日にでも出すんですか?」
と反論され「はい、そうです」と即答して袋叩きにあってましたが、
ソレと似たようなことをドヤ顔で言ってる○○な人が此処にもいましたネ・・・・('A`)
少なくとも、ジョセフや承太郎は絶対にそんなコトは考えないので、
だから『この世界の』ラミーはもう「トーチ」を集める事はしないと想います。
(“屍拾い”卒業!)
まぁ昔の思い出を復元する事は自分の存在力高めるか、
無機物から力取りだすか、何らかの方法を模索するのでしょう。
(そんぐれぇ出来ンだろ……“螺旋の風琴”なんだから……('A`))
ユダヤの経典「タルムード」に、
“たった一人を救う者こそが全人類を救う”という言葉がありますが、
コレは裏を返せば“一つの生命を蔑ろにする者は全人類の生命を蔑ろにする”
と言い換えるコトが出来ると想います。
まぁコレはシャナ原作の「人間蔑視」の考えを如実に表していて
言い得て妙だと想うのですが、時間が立てば
ナチス・ドイツやオ○ム真理教等を「神聖視」して美化したがる
大莫迦者というのは一定数○○○ラのように沸いてくるので
さもありなんと言った所でしょう……('A`)
今更ワタシが言うまでも無く『ジョジョの世界』では
「死んだら無価値」ではなく『死んだから大切』なのであり、
ソレが『受け継がれる』という精神の根幹を成しているので、
その部分ををマージョリーやラミーを使って表現してみたかったのだと想います。
「消えるから無価値」「人々の記憶に残らないから無価値」
だから見捨てられても消耗品にされても仕方がない。
コレはジョジョでは『敵(相当ゲスで○れ脳みその)』が考えるコトであって、
そんなコトを決めつける「権利」はこの世界のどこの誰にも在りません。
自分で考えた「設定」を使いこなせていないどころか、
その「責任」すらも考えていない。
ソレ以前に勝手に人を「無価値」と決めつける者こそが
本当の意味で「無価値」な人間でしょう。
だから主人公のアレが「無価値」で『最低最悪』なのは、
作者アレだからしょうがないのかなぁ~と想った次第です。
ソレでは。ノシ
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