衛宮士郎の新たなる道
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第11話 闇の使者
翌日。
朝から百代は相変わらず苛立っていた。
原因は勿論、件の2人に対する士郎の反応である。
(朝からデレデレしやがってっ~~~~~!!?)
昨日と同じ位置での朝食の席なので、百代の席も昨日と同じく士郎の目の前なのだが、まるで見せつけられているようで腹が立っている様だ。
だがそれは百代視点での話で、実際には士郎はデレデレとしてはいない。
真横の2人は昨日とは違って迫っていないのと、昨日の昼間に藤村の使いの者が年齢やサイズに合った女性ものの服を購入してもらった物を着ているので、胸元はあまり露出していないので目のやり場に困る事も昨日よりは軽微になった。
その当人である士郎は、一瞬何かに反応する。
士郎が感じたのは、冬木・七浜・川神という三つの市を覆うようにスカサハが張った結界からの感知だ。
例の謎のサーヴァントの襲撃日から何故かスカサハの制限が幾つか解呪され、その恩恵により士郎も結界の感知感覚を共有できるようにしてもらえたのだ。
しかも以前とは比べ物にならない位に早く、これまでだいぶ後手に回ってきた危機的状況も改善するだろう。
しかし、この結界に反応する該当者が結界内に留まっていれば位置情報も士郎に伝わっていくのだが、一瞬だけ反応したかのように感知してもその後の情報が士郎に送られてくる事は無かった。
(・・・・・・・・・気のせいか?まだ結界から送られる情報が完全じゃないと、師匠も言ってたしな)
とは言え、何時ガイアの使徒が再びこの地に出現するとも限らないので、パトロールを強化する事に決めるのだった。
その為に、ついぞ百代の不機嫌さに今日も気づかないまま朝が終わった。
-Interlude-
衛宮邸から川神院に一旦戻り、登校中の風間ファミリーと合流した百代だったが露骨とはいかないまでも不機嫌のままだった。
しかし周囲は幼馴染だらけなので、結果として直に気づかれる。
「昨日に引き続き、姉さん不機嫌そうだね?」
「何で判るんだ!?」
「俺様達と何年の付き合いだと思ってるんですか?その程度分かりますよ!」
ナンパと筋肉馬鹿と言うキーワードだけであらかた説明のつくガクトにまで見破られれば、もうそれは筒抜けだと言う事だろう。
しかし理由について気づいていないのは、青春発情期方面に鈍い一子とクリスと翔一の3人だけで、他の5人は原因についてもある程度推測(京は確信)出来ていた。
(チィィっ!?ヘマをこいて、何自らフラグを何本も無意識に叩き折っているんだ!ヘタレ女誑し!!)
心の中で京は、割りと酷い事をこの場に居ない士郎に向けて罵った。
ちなみに、まゆっちも気づいているが気づいていないフリをしている。
気づいていることがばれると、何故気づいたのか?とか、何所でその手の情報を入手したのかとか、根掘り葉掘り尋問される恐れが在るからだ。
まあ、既に上記の気づいていない組の3人以外からはばれており、『意外とムッツリ』という認識を持たれているなど、本人は知る由も無いだろう。
話が逸れたので戻すが、原因自体は気付いているが、口にした結果火に油を注ぎそうなので敢えて言わずにいた。ある1人を除いて指摘したそうに居たが。
百代は仕方なく、プライバシーに関わる一部の情報を伏せて話した。
それを聞いた上で上記の3人組は矢張り原因に心当たりを持てずにいたが、ある1人と先に挙げたガクトが後先考えなしに言う。
「そりゃ、仕方ないってもんでしょう?モモ先輩は絶世の美少女なんだろうけど、たまにオッサン入るのも結構な人数で知られてる事実だからっしょ。それなら衛宮先輩も、れっきとした美人に走るのはしょうがないぜ!」
うはははと最後に笑うガクトは気付かない。
そしてマスタークラスであるまゆっち以外の他のメンバーも気づかない。
以前の百代のままなら侮辱された時の憤激時に全身からオーラが噴き出るのだが、精神鍛錬の成果がこんな時に早くも発揮されたようで、無闇に周囲に発することなく中でより大きくなりながら循環していく。
しかしそのせいで、より濃密な気が自動で練られて行く。
その当たりは感情と連動しても行くので、精神鍛錬と合わせて感情のコントロールも必要になりそうだ。
だがそんな自覚がない百代は不敵な笑みを浮かべて嗤っていた。
「ほぉ・・・?面白いこと言うじゃない・・・・・・かっ!!」
「ぐぼぉおおおおおおおおおぉおおおおおおーーーーーーー・・・・・・・・・・・・・・・」
百代のスクリュー・アッパーを顎に受けたガクトは、そのまま川の直前まで吹き飛ばされた。
ガクトは空気を読める時と読めない時がある。そして今回は読めなかった様だ。
川の中でにまで到達させなかったのは、せめてもの情けであろう。
それを優しいまゆっちは、すぐさまガクトに駆け寄り、何時もの事とはいえ大和と京は学習能力の低い幼馴染の惨状に呆れる。
(南無阿弥陀仏)
(言わなければいいのに・・・・・・・・?モロ?如何かした?」
そこで京があたかも自然に大和に寄り添いながらモロに問いかける。
モロは風間ファミリー内で特にガクトと一緒に居る時間が長い。暴れ犬の手綱を取る飼い主、やり過ぎないように見張る保護者みたいなものだった。
その為――――と言う事でもないが、彼が何かを起こせば何かしらのリアクションがあるのだが、今はガラにもなく、ぼうっとしていた。
「喧嘩でもしたのか?」
「えっ、あ、いや、何でもないよ!ちょっとした僕の勝手な杞憂だから・・・」
それだけでも言えば何かあると言ってるようなものだが、モロ自身も詮索されたくなさそうな顔をしている上、そこまで深刻そうでもないので、大和はくっ付いている京を引き剥がしながら幼馴染を気に掛けておくだけに留めるのだった。
-Interlude-
昼休み。
士郎はシーマを加えたい葵ファミリー+京極彦一のメンバーで、学園のとある一角で昼食を取っていた。
そこでふと思い出したかのように、京極が士郎に言う。
「そう言えば川神(無論、姉の方)から聞いたのだが、また(女性を)誑し込んだ挙句に同棲生活をしているらしいな」
「ぶはっ!?」
突如投下された爆弾に、士郎はおかずの一品を咀嚼中だったので激しく咽る。
だからと言うワケでは無いが、京極の言葉の誤りを修正するべく返答したのは第三者だった。
「違いますよ京極先輩。今回は藤村組の人が保護したのであって、士郎さんが誑し込んだんじゃありません」
まだ一目も見た事は無いが、事前に説明を受けていた三人の内の1人である冬馬が説明する。
ただし、ある程度の含みはあったが。
それを聞いた京極も納得した。
「成程。昨日川神から聞いた事は半分ほどでまかせで、私は愚痴を聞かされたわけか・・・」
「・・・・・・・・・・・・んん、半分じゃなくて全部だろ!それに如何して百代が愚痴る必要があるんだ?」
漸く咽りから復帰した士郎が、京極の抗議する。
しかし何故か非難――――と言うか、呆れた言葉で返される。
「そんな事だから愚痴られるんだ。相変わらず罪作りだな、衛宮」
「訳が分からないんだが・・・」
この会話自体が予定調和である事は京極自身が既に理解出来ていた為、例え士郎が理解できなくともこれ以上の言葉を重ねる気は失せていた。
それを準が詰まら無さそうに聞いていることにユキが気付く。
「このハゲなんか元気ないね~」
「変な意味じゃないが、俺達よりも年下こそが女としての全盛期みたいなもんじゃん?それ以上は腐っていると言うか終わっているから・・・・・・・・・何というかバイバイだな~と思ってよ」
「腐ってるのは準の頭だよ~」
「酷いわ!」
「・・・・・・・・・・・・成程!」
「ん?如何したんですかシーマ君?」
「ジュンの頭がつるつるした不毛地帯を、腐っていると言う言葉に置き換えたのだな!上手いなコユキ!!」
「そんな事ないよ~」
「そんな、真面目に、反応・・・するなッ!」
川神学園は今日も平和だった。
-Interlude-
放課後。
モロは葵紋病院に来ていた。
目的は勿論天谷ヒカルの見舞いだ。
(昨日は元気無かったけど、メジャーなのは読み尽してそうなんだよね。けどマイナーだけど面白そうな本を結構持ってきたし、これで少しは気力を取り戻してくれるといいんだけど・・・)
大きな紙袋にヒカルを喜ばせる為にいてた本を入れてきたモロは、無意識に速度が早歩きになる。
彼女の笑顔がモロの最近の一番の楽しみで、自分の選択した本を見て喜ぶ姿を想像するだけで胸が高鳴った。
今自分のこの感情が何なのかと向き合う気は無い。
とにかく今は彼女を元気づけたいのだと。
しかし彼女のいる特別な病室前に着たモロは愕然とした。
「面会・・・謝・・絶・・?」
扉の前に掛けてある札の文字を見て、数秒固まっている時に1人の看護婦が近くを通った。
「す、すいません。天谷ヒカルさんのお見舞いできたんですけど、これは・・・・?」
「それは病状が悪化したと言う事では無く、ヒカルさんが頼んできたんですよ。暫くの間誰にも会いたくないと」
「それは・・・・・・」
「納得できないかもしれませんが、少しの間だけ彼女をそっとしてあげてください」
言い終えた後に看護師はその場を去って行った。
モロは看護師を見送ると言うより、立ち尽くすしかなかった。
-Interlude-
深夜。
天谷ヒカルはぼーっとしていた。
先日自殺した親友の件以来、見舞客に対して笑顔を取り繕う余裕すらも保てなくなってきた為に面会謝絶をお願いしたのだが、1人の時は基本的に落ち込むか泣いているかのどちらかで、今は泣き疲れてぼーっとしていたのたのだ。
だがまた自然と涙が込み上げて来る。
悔しさからくる怒りが湧き上がってくる。
しかし今の自分はこの部屋から出る事も叶わない。
自分の無力さに腹が立って仕方がない。
「私に・・・もっと・・・」
「――――力を望むか?」
「誰ッ!?」
声が聞こえてくる方に体を向けると、そこには黒と見間違えるほどの緑色のスーツに緑色のジャケット、そして緑色のハットをかぶる銀髪の男性がいた。
そしてその男性の貌は、一般人の1人でしかないヒカルにも理解できるほどのヤバさが滲み出ていた。
故に思わずナースコールのスイッチに手を掛けようとするが――――。
「いいのか?それを押して」
「あ、当たり前です。こんな時間に――――」
「娘よ。お前は力を欲しているのだろう?その小さな体には収まりきらない憎悪を抱えているのではないか?」
「な、なんで――――」
その事をは、言葉に成らずに終わった。
何故ならば彼女は自然に理解してしまった。原因は不明だが、この男性は自分を害するために現れたのではないと。
そうなると自然にナースコールを鳴らそうとしていた腕も下がる。
「懸命だな。ところで娘よ」
「ヒ、ヒカルです。天谷ヒカル」
「ふむ?ではヒカル。言うまでも無く今のお前は無力なれど、お前はこの魔導書に宿る7つの力の内の1つと必然的に適合できる。つまり選ばれたのだ」
「――――それを使えば私に力が手に入ると・・・・・・?」
マドウショなどと、よく解らない単語が出てきたが、今のヒカルは力が手に入るのであればそんな事は如何でもいい様で、恐る恐るだが確実に言葉を紡いでいく。
「ああ。だがこの力は適合性とは別に、ある特別な才能が必要なのだがお前にはそれが無い。故に相応のリスクが求められる。それは――――」
男性の説明にヒカルは黙って聞いている。そして――――。
「私やります。美奈の無念も・・・私自身の怒りを晴らす為なら、なんだってやります!」
「ク、クハハハハハハハッ!!よくぞ決意したヒカル、よくぞ覚悟したヒカル!世界に弾きだされたこの俺だけが、お前の命の原初の権利を褒め称えようっ!」
目の前の少女の迷いのなさが余程気に入ったのか、呵呵大笑の如く笑う。
水を差すようで悪いが、こんな深夜のしかも病院で、そんな大声で笑って大丈夫かと心配になる。
しかし防音防振認識阻害の結界が彼女の病室だけに既に掛けられていた。
意外と用意周到の様だ。
そう言う事で何の心配も無いようで、男は褒めることを終えると最後にはヒカルの背を押すように最後に告げる。
「仮初の寝床を涙で濡らし、絶望するのも飽きたろう。――――さあ、この醜くも素晴らしい世界に跋扈する装い隠す下種共に、反撃を始めるぞ・・・・・・!!」
百代の居ない所で、士郎の与り知らぬところで、別種の謎の勢力がこの平和な世界の裏側で、蠢く様にこの地に新たな騒乱を巻き起こしていくのだった。
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