【WEB版】マッサージ師、魔界へ - 滅びゆく魔族へほんわかモミモミ -
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第一部
第四章 魔族の秘密
第42話 人間の進化形
「ほう……魔族は人間の進化形と申すか」
「はい。しかも魔国が建国される前は人間と混住していた――そうじゃないですか?」
国王はまた笑みを浮かべていた。
そして白いものが混じっている髭をいじりながら言った。
「面白い仮説だな。根拠を申してみよ」
ぼくは、これまで見てきたものでヒントになったことを、まとめて話すことにした。
まず、魔族が人間の進化形と考えた理由について話した。
一つ目は、体が『人間とほぼ同じ』ということ。
この世界に来てすぐ、ルーカスを施術したときに思ったことだ。
全く別から起こった生物なのであれば、もっと違っていてもよいはず。
解剖図では体内の構造も人間と同じだった。
イルカとサメのように、全く系統の違う生物だが収斂進化で外見が似ました、というのはさすがに無理がある。
両者は同一線上にある生き物だと考えるべきだろう。
二つ目は、『魔法が使える』こと。
当たり前ではあるが、人間は一切使えない。
当然、使えるほうが進化のステージとしては先となるだろう。
三つ目は、魔族は『足の小指の関節が一つ足りない』ということ。
魔族への施術を続けていく中で気づいたことであるが、解剖図上においても一つ足りないまま描かれていたので、基本的に誰もが関節不足ということでよいはず。
元の世界の人間でも、ゆるやかな速度で足の小指の関節は一つ消滅しつつあった。日本人に至っては八割が関節不足だと言われていたほどだ。
これは足の小指の重要性が低下したために起こっている〝進化〟である。
魔族の関節不足もそういうことだろう。
次に、魔国が建国される前に人間と混住していたと思った理由について説明した。
まず、『勇者の鎧が明らかに魔化されている』ことである。
人間に作ることのできないものが人間の国にあること。
また、作者が人間ではまずありえないリンドビオルという姓であり、魔族であるルーカス・クノール・リンドビオルと同一姓ということ。
勇者の鎧を作った人物は魔族であると断定してよい気がしている。
そして、歴史の本に『二千年より前の魔族に関する記述が一切ない』ということ。
全く明らかになっていないということ自体が不自然である。
民間で勝手な歴史研究が禁じられてきたことも怪しすぎる。
自然界に突然大量の新種個体が誕生し、建国をするなどありえない。
魔国の建国前からこの大陸に魔族は多数おり、人間と混住していた。
しかし人間にとってはそれを語り継がないほうが都合がよいと判断した。
よって無いことにしている――そう考えるのが自然だ。
ぼくは学者ではないので、一つ一つはしっかりとした研究結果などではない。
また、魔国側においても建国前の魔族に触れている文献が存在しなかったことなど、まだ説明がつかない点はある。
だが、材料がこれだけあれば、推定するには十分足ると思う。
魔族は人間の進化形であり、魔国が建国される前は人間と混住――その可能性が高いのではないか。
国王は話の途中から身動きがなくなり、目を瞑って聞いていた。
将軍フィリップスも厳しい表情のまま微動だにしない。勇者だけは落ち着かない様子でぼくと国王を交互に見ている。
この世界では常識外であるはずのことをしゃべっているのに、国王と将軍に慌てる素振りはまったくない。
その態度からは、ぼくの仮説は正しく、この二人はすべてを知っているような気がする。
「――以上です」
ぼくがしゃべり終えると、しばらく静寂が謁見の間を支配した。
そしてそれを破ったのは。
ハッハッハッハッという国王の笑い声だった。
やや上を向きながらのその笑いは、しばらく続いた。
「陛下……?」
ぼくの隣にいる勇者が訝しげにつぶやく。
国王は息継ぎなしの限界と思われるほどの長さで笑ったあと、視線をやや上方からぼくのほうに戻した。
「マコトとやら。そなたはなかなか頭の働く男のようだな」
ああ、どうやら正解のようだ。
「ぼくは魔族の体を直接触る仕事をしていましたので……。あとは他の世界から来たせいでこの世界の人間の常識もなく、客観的に見やすかったんだと思います」
「そうか。将軍、念のために人払いをしておいて良かったな」
「そうですな」
「へ、陛下……」
隣には再びそうつぶやく勇者。少し混乱しているか。
「勇者よ。今そなたが聞いた説は、わが国にとって、いや人間にとって、是とするものではない。よいな」
「……」
「マコトよ。お前の説、面白く聞かせてもらった」
「はあ」
「だがその内容はこの場で異端とせざるをえないものだ」
国王は「それに」と言って続けた。
「仮にそなたの説が正しいとして、だ。何か問題があるのか?」
そう言って口角を歪ませながらニヤリと笑う国王。
その表情は悪魔のようにも見えた。
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