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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第29話『新たな標的』

 
前書き
今回は魔術部部長、終夜の回。つまり、部活戦争の最後のパートになります。
まぁ、1話で終わるとは言ってないですけどね。 

 
残り時間は1時間位。人数もだいぶ減り始めた。
そんな中で出会うのは、当然柔道部や剣道部といった猛者ばかり。俺は別に問題ないのだが、魔術部の他の連中が気になる。
もしあいつらがやられて、俺もやられたら部費は半減。そうなると、俺の目的が達成できなくなる。

そこで、俺にはある決断が課せられた。


『理科室に行く』
『理科室に行かない』


こういう選択肢になる経緯だが、とある部活の影響である。あの部活はかなり厄介だ。まだ生き残っているに違いない。
そこで、あの部活の殲滅に向かいたい。
しかし、俺1人ではそれは難しいだろう。それだけの手練が居るのだ。成功するかは五分五分といったところ。
だからこそ、あいつらにはまだ生き残って貰いたい。俺がある程度そこで部費を手に入れてやられた時、あいつらの誰かが生きてくれていれば、俺の分が半減するだけで済む。


『俺が一人で“捨て駒”として攻める』


これが今この状況で一番の策だろう。
潮時ってやつか。相討ちでも何でも良いから、あの部活を討ってこよう。







「…ん」


眠りから覚め、目を開ける俺。
まず目に入ったのは、誰も居ない無機質な教室の中の景色。そして遅れて、そこが理科室だということに気がつく。


「何でここに…って!」


椅子に座っていたので立ち上がろうとした瞬間、体が強制的に引っ張られ、思い切り椅子の背に背中をぶつけてしまう。理由は両手を見てわかった。


「何で手錠なんか…」


俺は今背もたれのある椅子に座っており、そして背もたれの後ろで両手が不自由になってるという状況だ。
もちろん、自分で手錠をはめるなんて器用なマネもできないので、誰かがやったのは明白。
たぶん、やったのは俺をあの時眠らせた・・・


「起きたようね」


不意にそんな声が聞こえた。
声のした方を向くと、ニッコリと笑みを浮かべる女子が居た。名札を見てみると、3年生だとわかる。


「『どうしてこんなマネを?』とでも言いたそうな顔ね」


続けて彼女が言った言葉…全くその通りだ。
俺は今、絶対にそんな表情をしている。この状況をいち早く解説してもらわないと気が済まない。


「ええ何も言わなくて結構。それよりも、まずは自己紹介をしておくわ。私は科学部部長、“茜原(あかねはら) (ひかり)”。以後お見知りおきを」


科学部? そういえばそんな部活が有った気がする。
お、そう聞いたらこの人の容姿ってピッタリな雰囲気だ。
メガネをかけ、腰まで掛かる程の長さであろう黒髪を頭の後ろで束ね、白衣を着て・・・って、完璧だろう。

──いや、今は関係ないことか。
とりあえずこの状況など諸々含め、話を聞くことにする。


「う~ん…まずは貴方を捕まえた経緯について説明しましょう。あ、その前に確認なのだけど、貴方って魔術部よね?」

「え? あ、はい」

「そう。じゃああいつとは関わりがあるのね」


茜原さんは不敵に笑うと、俺を見てそう言った。

『あいつ』というのは誰だろうか? この人が3年生という限り、きっと部長か副部長の事だ。それ以外は考えにくい。


「貴方への要件は1つ。部活戦争の間、人質になってもらうわ」

「・・・へ?」


さらっと言われた一言。だが、その中身に重大な単語が含まれている事に俺は気づいた。


「“人質”ってどういう事ですか?!」

「そのまんまの意味よ。貴方は魔術部に対しての人質になってもらうの。私達が奴らを負かすための」


人質…。これはえらい役になってしまった。これで魔術部が負けたら、完全に俺のせいじゃん。
話を聞こうだとか思っていられないな。早いとこ脱出しないと。


「逃げ出そうなんて、馬鹿なことはしない方が良いわよ。今は黙っているけど、本気を出せば貴方なんて簡単に殺れるんだから」


茜原さんの眼がメガネと共にキラッと光る。思わず、ビクッと反応してしまった。
『部長』だけでなく、『学級委員』とかいう肩書きも持ってそうだ、この人。でもってちょいと物騒…。


「わ、わかりました。大人しくしてます…」

「う~ん。その言葉が本音かは測りかねるけど…まぁ良いわ。・・・そうだ。あいつがここに来るのはまだだろうし、ちょっと質問をいいかしら?」


茜原さんがそう俺に訊く。変に抵抗するのも危険そうなので、俺は頷いて応じた。


「あいつ・・・じゃない、黒木が使う『黒い電気』が有るじゃない? 貴方、その原理ってわかるかしら?」


突発的な質問に、俺の頭は数秒間停止する。どうしてそのことを知ってるんだ。

茜原さんが訊いてきたあいつとは黒木・・・つまり部長だ。そして部長の黒い電気というと、魔術である『夜雷』の事に他ならない。

…で、その原理? 何でそんなの訊くんだ?
「魔術」と答えれば早いだろうけど・・・さすがにダメだよな。


「使っているのは見たことが有ります。でも原理とか…そういうのはイマイチ──」

「そうわかったわ。・・・部員にも秘密にしてるってことね…」


俺の言葉を最後まで聞くこと無く、茜原さんはそう言う。そしてブツブツと、何かを呟きながら考えていた。

…掴みどころがない。この人と対話してわかったことだ。
自分のことをほとんど明かさず、情報だけを訊いてくる。何かの捜査か、と疑いたくもなってしまう程だ。

…俺も、質問して良いかな。


「あの、俺からも1つ良いですか?」

「ん?…そうね。貴方が私に1つ情報をくれたのだし、私も貴方に1つ情報を与えることにしましょう。して、内容は?」


スルスルと進む会話に戸惑いながらも、俺は質問をした。


「茜原先輩はうちの部長を…その、どうしてそんなに気にしてるんですか?」


適した表現が思い付かず、随分とストレートな言葉になってしまう。違う答えが返って来ないと良いけど…。


「・・・ああ、そういうこと。まぁ確かに、端から見れば執念深い女に見えなくはないですね。良いわ、話しましょう。簡単に言うと、私とアイツは『幼馴染み』。昔からとても面識が有るから、気にせずにはいられないし…“ライバル”って言うとわかりやすいかしら。今回の部活戦争もそう。私にとっては、部費よりもあいつと戦うことを楽しみにしてるの。ライバルとしてね」


長々とした答えが返って来たため、理解に時間を有した。が、言っていることは一貫している。


『茜原先輩は部長と戦いたがっている』


物騒だというイメージを更に掻き立てるかの様な考えだが、きっとそうだ。
しかし、またも疑問が生じた。


「でも俺を人質にした意味は有るんですか? 正々堂々と戦わないと・・・」

「勝手に2つ目の質問は反則だと思うけど・・・まぁその考えは理解できるわ。簡単なことよ、あいつが私との戦闘を避けられないようにするため。せっかくの機会なのに、戦えないのは残念だもの」


茜原さんは堂々とそう言った。
あれ、この人って思ってたより何か危ない気がする…!? 異常なまでに好戦的だし・・・。
か、考え過ぎだよな…。





「・・・さて、と。もう準備は万端。いつでも来なさいよ」


その茜原さんの声につられ、周りを見渡すと、そこにはいつの間にか3人の見慣れない人らが揃っていた。
全員が白衣を着てることからして、科学部。
しかも4人居るとなると、それは科学部が誰一人として脱落してない事を示している。ずっと隠れていたのか、はたまた──


ガラッ


急に開いた扉の音によって、俺の考えは遮断される。扉が自動ドアな訳も無ければ、風に吹かれて開いた訳でもない。
つまり、開けた張本人であろう人物が、扉の向こうには立っていた。


「面倒くせぇ状況だな、おい」


最初に放たれたのはその言葉。
その一声も、全てを飲み込んだ。


「ったく、ウチの部員に手ぇ出すんじゃねぇよ、光」

「あんたが来たのなら、もう用済みかしらね?」

「なるほどな…安心しろ。そいつを解放さえすれば、俺はお前らと戦ってやる」


部長は余裕だと言わんばかりの発言をする。
しかしその中に一瞬、安堵の表情が見られた。


「あんたの覚悟は相当なモノね。良いわ、離しましょう」

「ふぇ?!」


茜原さんの言葉と同時に、俺の足元の床が開く。そう、開いたのだ。
重力に従い落ちる俺。それを見て叫ぶ部長の声までは聞き取れた。





だがそれは短い時間。
俺の体は椅子ごと1階に落とされてしまう。上を見上げると、天井は既に閉まっていた。


「どういう仕掛けだよ…」


カラクリ屋敷。そんな単語が当てはまる事態に、困惑を隠せない。
しかも部長を置いてきてしまった。これも申し訳なく思う。

科学部は4人。対して部長は1人。
いくら部長が魔術を使えるといっても、茜原さんはその電気の事を知ってたし、もしかすると対策だってされてるのかもしれない。
早く手錠を外して上に行かないと。

周りを見ると、場所は倉庫とわかった。少し埃っぽいし、使い古された椅子や机が多く置かれている。


「皆を探しに行こう」


俺はそんな結論を立てた。
俺が部長側に加わった所で『4対2』。不利な状況は変わらない。
だったら、今生き残っている魔術部部員を集めて向かうしかない。

いや・・・誰がどこに居るかなんて分からないし、そもそも時間は限られている。この際、集めるのは1人が限度だろう。
後は、それまで部長が保つかどうか・・・って、答えは決まってるか。



──部長を、信じよう。



その決意と同時に、俺は突風を起こし力ずくで手錠を破壊する。
「案外いけるものなんだな」と驚きながら、俺はすぐさま倉庫を飛び出した。

 
 

 
後書き
特に引き伸ばす要素が無いため、今回は短くしました。
え? じゃあどうして更新が遅くなったのかって?

実は、最近『リゼロ』にハマったものですから…。
つい先日までアニメを一気に見ておりました。
お陰で、時間が取れなかったという訳です。
異世界って良いですねぇ~(微笑)

さてさて、次回は部長同士が争う回です。
“奇想天外”を目標に、やれるとこまでやりたいです。 
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