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真田十勇士

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巻ノ五十七 前田利家その六

「実はな」
「左様ですか」
「そうじゃ」
 笑ってだ、利家は幸村に答えた。
「だからよく食う」
「天下人、そして前田殿程の大身になられても」
「徳川殿もじゃ」
 利家は家康のことも話した。
「あの御仁は尚更じゃ」
「はい、確かに」
 家康についてはだ、彼をよく知る信之が答えた。
「あの方は大層質素です」
「そうであるな」
「あの方の質素さたるや」
「わしはあの御仁とも長い付き合いじゃが」
 それこそ織田家の家臣であった頃からだ、利家は家康もよく知っているのだ。
「しかしな」
「実際にですな」
「うむ、驚く位質素じゃ」
 こう信之に言うのだった。
「そして民にも無駄な苦労はさせぬ」
「民も大事にしておられますな」
「実にな」
「そしてそのうえで」
「あの様にじゃ」
 まさにというのだ。
「質素にされておる」
「そうした方ですな」
「あの質素さには頭が下がる」
 利家にしてもだ。
「わしなぞ到底じゃ」
「及ばぬと」
「左様じゃ、器もな」
 家康のそれについてもだ、利家は話した。
「非常に大きな方じゃ」
「まことに」
「このこともわしなぞな」
 人としての器もとだ、利家は自分から家康には及ばないというのだ。しかしその彼に奥村が言った。
「いえ、それがしが見たところです」
「わしもか」
「はい、徳川殿に及ぶまでのです」
「器があるか」
「左様です」
「御主は世辞は言わぬ」
 奥村のその気質を知ったうえでだ、利家も言う。
「ならばじゃな」
「はい、まさにです」
「その通りか」
「殿は徳川殿に対することが出来ます」
 そこまでの器だというのだ。
「ですから」
「卑下するなというのじゃな」
「左様です」
「わしは自分を卑下はせぬがな」 
 ただ自分が見たところを言ったのだ、家康には及ばないと。
「しかしじゃな」
「はい、殿もです」
「わかった、ならば堂々としていよう」
 家康、彼に対してもというのだ。
「これからもな」
「そうして頂ければ何よりです」
「それではな」
「その様に」
 こうしたことを言ってだ、そしてだった。
 利家は信之と幸村にだ、笑って言った。 
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