つま先立ちの恋に慣れたら
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誰にでも
【怜治(高校生)×奈々(高校生)、公認で付き合っています】
タイム計測会で全国各地から代表校が集まったときのこと。陸は奈々に話しかけようとして、近づいたが、よく見たら彼女の頬になにかついていることに気がつく。
「桜井さん、ここ、なにかついてるよ?」
「え、ありがと!」
自分のほほを指さすと、奈々もそれにならい同じところを取ろうとする。しかし取れていない。
「うーん・・・取れてないなあ」
「取っていいよ!」
「!わかった、ちょっと目つぶってて」
「はい!」
まじか・・ラッキー!でもちょっと緊張するなあと思いつつ、陸は奈々の頬についているものを取った。
「ん!取れたよ」
「ありがと!今日鏡もってくるの忘れちゃったんだ~助かった!」
「どういたしまして!」
*
計測会会場に西星学園も来ており、怜治も他校の選手の走りを見て闘争心がを燃やしていたところ、ふと目を違う方にやると、奈々と陸が何か話している。すると、陸が奈々に近づきすぎているではないか。奈々の後ろ姿しか分からないのではっきりしないが、まるでキスしているような2人の姿に、怜治は少し不機嫌になった。
「・・・怜治様?」
「ちょっと外すよ」
不思議そうな静馬を横目に、奈々が一人になったのを見計らって、彼女の方へ向かうと、こちらに気づいて大きく手を振り、満面の笑みで迎える。
「怜治さん、お疲れさまです!」
「うん、おつかれさま。ちょっといいかな?」
にこにことしながら、こっち、と手を招いて、人目のつかない裏側へと連れていく途中、陸たちと目が合った。さっきのおかげで気が立っていた怜治は、陸に黒い微笑をおくった。それを見ていた方南一行は背筋が凍り、陸はひざが震えた。
「怖!なんだあの笑顔、お前見たよな?」
「・・・なにかやらかしたんじゃないのか」
「なんもしてないって!」
「自分ではそう思ってなくても、他人は違う受け取り方をするときがあるから、人間とは全く怖いものですなあ、小日向氏」
「門脇氏、拙者もそう思うでござるよ」
「同情するぜ・・・桜井」
「・・・・・だからなにもしてないですってば!」
方南メンバーの白い目を一身に受け、陸は居心地が悪くなったが、とりあえず心の中で奈々に謝った。
(何か分かんないけど・・桜井さん、ごめん!)
*
「怜治さん、どうしたんですか?」
使われていない個室のドアの鍵を閉めて、奈々の方へ向き直る。奈々は怜治の黒いオーラに気づかず、状況をよくわかっていないようだ。
「さっきの、見ちゃったんだ」
「さっき?」
「八神と何かしていたよね?」
「八神くん・・・・?」
一体何のことだろうと、奈々は首をひねる。心当たりがないので話しようがなく黙っていたら、怜治が目の前に来て、顔を覗き込まれた。
「れ、怜治さん、近いです・・・!」
「この距離で、彼とキスしてなかった?」
「キ、キス!?してません!!なにかついていたので取ってもらったんです」
「え?・・・・・・なんだ、そうだったの」
怜治は拍子抜けしてしまった。角度の問題でそう見えていただけだったのか。よかった、確かによく考えてみると、公衆の面前でキスする男女はなかなかいない。彼女のこととなると常識うんぬんを考えるのを忘れてしまうらしい。彼は安心して、誰にも見られないところで奈々を抱きしめる。
「はあ、よかった。他の男にされたのかと思って気が気じゃなかったんだ」
「そんなこと、怜治さんじゃなかったら全速力で逃げてます」
「・・・でも、君がとっていいって、言ったの?」
「はい、自分で取れなかったので」
「・・・・奈々は異性の顔に触れてもドキドキしないの?」
「・・・・・!」
ようやく自分のしたことに気づいたようで、大きく目を見開いた。半開きになった口元を、人差し指の先でそっと抑えてから優しく微笑む。
「他の男に勘違いさせるようなこと、もうしちゃだめだよ?」
「あ・・・・はいぃ・・・・」
「俺からのお願い、ね?」
「分かりましたっ・・・」
誰にでも 隙だらけ
(しばらく気を抜けそうにないな)
お題元:確かに恋だった 様
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