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約1つのラベルと心臓

作者:臣杖特
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第n+10話 お祭り心のつるべ上げ

「へんでるへんでるあいでるかいど!」
「へんでるへんでるあいでるかいど!」
 二会手(にえで) 夏雄(なつお)が目を覚ますと、床が波打つ喧騒のまっただ中だった。
「いやいやこれは何だ」
「秋祭りよ」
 そう答えたのは侍乃公他(じおれた) 美都子(みつこ)
「秋祭りぃ?」
「そうそう。まぁちょっと違うけど、この世界にも季節があるのよ。六季だけど」
「ふーん、んで、」
「へんでるへんでるあいでるかいど!」
「へんでるへんでるあいでるかいど!」
「……この、下で叫んでるのは何だ?」
「彼らは神輿を担いでいるのよ。祭りなんだから、神輿担いでかまぼこみたいに歩いて大声張り上げるもんでしょ?」
「あーなるほ……ど?」
 揺れる床の上で夏雄は首を傾げた。
「じゃ、じゃあまさか下が揺れてんのって……」
「私達が神輿の上にいるからよ」
「……」
「へんでるへんでるあいでるかいど!」
「へんでるへんでるあいでるかいど!」
「はぁ!?」
 夏雄は素っ頓狂な声を上げた。
「いやーびっくりしたわよ。お客さんってことで上に載せてもらったんだけど、そしたら夏雄君が朱に交わる月のように眠っていたんだもの」
「え、俺大丈夫なのか!?なんか宗教とかそういうのって」
「落ち着いて夏雄君。私だってここに許可貰って来たのよ?」
「で、でも、」
「でもも天使も無いわ。それより立ち上がって。気分はテーマパークのマスコットよ」
「マスコットって、はぁ!?」
 美都子はさっさと立ち上がると周りに向けて笑顔で手を振った。
「お、おい」
 夏雄が慌てて立ち上がると、360°一面歓声の波が飛んできた。人の集合が下に、小さく見える。
「え、え、あの、」
「夏雄君、こればら撒いて」
 美都子は小声でそう言うと木製のかごを1つ夏雄に手渡した。
「節分みたいなもんか……」
 夏雄は無造作に中を掴むと、不意に手を引っ込めた。
「え?」
 かごの中に入っていたのは、小さな木製の球だった。だが、それの周辺にはびっしりとトゲが形作られている。
「これ撒くのか?」
 美都子の方を見やるとバンバン撒いているし、下にいる人達も少し構えが緊張しているように見える。
「うわ、マジで撒くのか」
「笑顔も忘れちゃ駄目よ」
「お、おう」
「来年のことを言うと裸の王様って言うでしょ」
「言わねぇよ」
 夏雄は躊躇っていても仕方無いので、作り笑いを浮かべながら痛そうな球をひとつかみした分だけ人に向けてばら撒いた。
 衆人はワーキャー叫びながらもどこか楽しそうに、ぶつかったら痛そうな球を拾い上げて手荷物の中に収めていく。
「こ、これでいいんだな……」
 夏雄は意を決してずっと武器足りえる球を放り投げ続けた。


 祭りは大盛況だった。突然の2人の異世界人の登場も、祭りの節目の年に丁度良かったそうだ。
「では、この世界を満喫していって下さい」
 頭を剃った男はそういうと、優しげに微笑み両手を合わせた。
 というわけで、夏雄と美都子は屋台を見て回っている。
「秋って感じするわよねー」
「ふーん、そうだな」
 言われてみれば、豊穣のお祝いやその実りの料理が多く立ち並んでいる気がする。
「実りの秋ねー」
「だな」
「スポーツの秋でもおるし」
「だな」
「芸術の秋とも言うし」
「だな」
「女心の秋とも言う」
「言わねぇな」
「又の名を、食えない嫁の秋」
「言わねぇって」
「秋雄君にとっては何の秋?」
「俺は夏雄だ」
「それはそれとして」
「え、うーん……」
 夏雄は少し考えこんだ。
「汚職事件の秋?」
「なんでだよ」
「秋は過ごしやすいでしょ。過ごしやすいと、つい色々冒険したくなっちゃうでしょ?」
「だからって犯罪は無ぇよ」
「ふふふ、でも、犯罪かそうでないかなんて千里程の差しか無いわ」
「むちゃくちゃ長ぇな」
「1日千里、悪事は万里。悪事は10日にしてなるってね」
「もう何が言いてぇか分かんねぇよ」
「さて、くじでも引きましょう」
「くじ?」
 美都子が向いた方を夏雄も向くと、法被を着た若い男とガラガラくじがあった。
「やるのか?」
「ええ、今日は過ごしやすいから」
「よく分かんねぇ」
 ガラガラ
 チリンチリンチリン!
「あら」
「うぉっ!」
 結果は3等。いかにも真新しそうな家庭用ゲーム機だ。
「塞翁の耳から水が漏れるとは言ったものね」
「言わねぇよ」
 美都子は早速近くのベンチに座って中を開いている。
「ふーん」
「どんな感じなんだ?」
「……成る程。栗より旨い物は無いとは言ったものね」
「どうした?」
「当たり前だけど、ソフトが入ってないのよ」
「……そっ、だな」
「まぁいいわ。インテリアにすればいい感じでしょう」
「え……どうなんだ?」
「インテリアの秋」
「初耳だな」
「秋を作る秋」
「言いたい放題だな」
「そうよ。言語学者は超能力者じゃないわ。私達が、もっと時代に沿った、デジタルでハイテクノロジーな秋を考える必要があるのよ」
「例えば?」
「読電子書籍の秋」
「読書の秋でいいだろ」
「食べた気分の秋」
「虚しいな」
「格闘ゲームの秋」
「お前は動かないのかよ」
「異世界移動の秋」


「それは俺達だけだ」
 といった時にはもう既に夏雄は日本に戻っていた。
 いつものように付箋を確認する。
『豚もおだてりゃ春秋(しゅんしゅう)の数が年3度に登る』 
「その豚何もんだよ」 
 

 
後書き
次回最終回予定です。
いい加減リアルをなんとかリアらないと。
第2部がある可能性はあるけど 
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