立ち上がる猛牛
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第二話 エースとの衝突その二
そして鈴木はその稲尾や秋山とは違うというのだ。そして彼がいる間は優勝できないとだ。こう言われてからだ。
鈴木は何処か監督というものを信じなくなった。そして西本が来てもだ。こう思うのだった。
「やっぱり阪急の監督やった人や」
まずはそこからだった。
「うちの敵やった人や。それにあの人も」
そのだ。西本もだというのだ。
「結局は自分の為に選手を使うだけや。わし等は駒や」
鈴木は西本は人ではなく駒としてだ。選手を扱うのではないかと見ていたのだ。
それでだ。彼はだった。
西本に対してもだ。信頼を見せずあくまで己のやり方を貫いた。元々コンディションの維持やトレーニングには気を使っている。だからそれでいけると思ったのである。
だがその鈴木にだった。西本はあくまでだ。
ランニングやピッチングに対してだ。言うのだった。
「ランニングはもう少し速く走るもんや」
「そんなピッチングではあかん。かえってな」
「そやからわしにはわしのやり方があります」
このことをだ。鈴木は意固地な顔になって西本に返すのであった。
「口出し無用ですわ」
何か言われると常にだった。西本に背を向けて己のやり方でトレーニングをしていく。しかし。
鈴木は打たれることが増えていた。特にかつて西本が率いていた阪急相手にだ。鈴木は打たれ続けた。
それを見てだ。マスコミもファンも言うのだった。
「鈴木はもうあかんのちゃうか?」
「そやな。結構打たれてるしな」
「あんなに速かったボールも勢い落ちてきてるしな」
「鈴木は速球投げての鈴木や」
そうしたイメージが強かった。鈴木と言えば速球だった。彼等はこう考えていたのである。
だが西本は違っていた。その速球派の鈴木にだった。
来る日も来る日もだ。言うのだった。
「緩いボールや。緩急を身に着けるんや」
「緩いボールなんか役に立ちますかいな」
「ボールが遅いピッチャーは幾らでもおる」
西本はわかっていた。このこともだ。伊達に長い間野球をしている訳ではないのだ。
「そやからや。それと変化球もや」
「変化球!?」
「御前は今カーブとフォーク投げてるやろ」
速球に加えてだ。鈴木はそうした変化球も持っていた。如何にストレートが速くともそれだけで勝ち抜いていけるかというとそうではないのだ。
だから鈴木はこの二つの球種も持っていた。だがその彼にだ。
西本はだ。さらに言うのだった。
「左右の揺さぶりも覚えたらどや」
「左右の!?」
「スライダーとシュートや」
具体的な球種についてもだ。西本は鈴木に話した。
「あれや。バッターのや」
「バッターの内角や外角をですか」
「スライダーやと右バッターは内角、左バッターは外角になる」
鈴木は左投手だからだ。そうなるのだ。
そしてだ。それと逆にだ。
「シュートやと右は外角、左は内角になるな」
「それを身に着けろっていうんですか」
「どや。これは武器になるで」
左右の揺さ振りはピッチャーとして大きな武器になる。実際にこれにより名投手になった者も多い。鉄腕と謳われた稲尾和久は高速スライダーにシュートが武器だった。この二つの球種を使い勝っていったのだ。
その彼の名前は西本は今は出さなかった。しかしだ。
西本は鈴木にだ。あえて言った。
「どや、覚えてみるか」
「ええですわ」
鈴木は嫌な顔をして西本にすぐに言葉を返した。
「それは」
「ええっちゅうんか」
「わしには変化球はカーブとフォークがありますし」
変化球には変化球と言わんばかりにだ、鈴木は西本にこの二つの球種を出した。
「それに何よりもストレートがあります」
「速球か」
「やっぱりこれですわ」
このボールだというのだ。
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