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百人一首

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88部分:第八十八首


第八十八首

             第八十八首  皇嘉門院別当
 その出会いは偶然だった。
 旅先で出会った見知らぬ人。けれどとても麗しい方で。
 一目で好きになってしまった。
 普段は決してこんな女ではないのだけれど。
 そんな軽い女ではないと自分では思っているのだけれど。
 それでもその旅先ではその思いも寄らぬ麗しい人に出会って。
 それで夜を共にした。それで別れた。
 ほんの一時だけのことだった。たったそれだけだった。
 けれどあまりにも麗しい方だったので。忘れられない程の方だったので。
 今も覚えている。ほんの短い恋なのに忘れられない。どうしても忘れることができない。
 そんなあの人のことをまだ覚えている。忘れることができない。
 このまま一生思い続けることになるのだろうか。そう思う。この想いは何時しか歌になって。こうして口から出てしまった。

難波江の 葦のかりねの ひとよゆえ みをつくしてや 恋わたるべき

 この歌にした気持ち。歌に託した気持ち。決して忘れることはないだろうと思う。たった一夜のことであったのに。それだけで終わったほんのいきずりの恋だったのに。それでも忘れることはできない。今もはっきりと覚えている。あの夜のこともあの方のことも。どうして忘れることができようか。忘れることなぞできる筈もない。


第八十八首   完


                  2009・4・3
 
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