百人一首
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
81部分:第八十一首
第八十一首
第八十一首 後徳大寺左大臣
初夏の朝。まだ空には月が残っている。
朝が早くなったけれどそれでも月はまだ空に留まり続けている。その初夏の朝にまず探したのは。
今年はじめての声。それを探していた。
けれど今は見当たりはしない。何処にも聞こえはしない。折角その声を聞きたくて今探しているのに。けれど声は全く聞こえはしない。何も見えはしない。
それで残念に思っていると聞こえてきた。あの声が。
やっと不如帰の声が聞こえてきた。このことにまずは歓びを覚えた。
けれど歓んでいるだけではなくなった。声は聞こえたけれどそれでも姿は見えない。何処にいるのかはわからない。姿はどうしても見ることができなかった。
ただ空に月があるだけ。有明の月があるだけ。それだけだった。
まさか月が鳴くということがあるだろうか。そんなことがある筈がない。月は声をあげはしない。それはもう知っている。だからそれは疑いはしない。
だから姿は見えないだけ。不如帰の声だけで満足しようと気持ちを切り替えると自然にこの朝が気持ちよく思えてきた。
清々しいこの初夏の朝。この朝を楽しく思えてきた。
すると自然と歌を詠いたくなった。それでこの歌が口から出て来た。
ほととぎす 鳴きつる方を ながむれば ただ有明の 月ぞ残れる
不如帰の声はすれど姿は見えない。このことが残念ではあるけれど。それでも今はこうして声を聞いた。それと一緒に清々しい朝を感じることができた。それでもう満足だった。
第八十一首 完
2009・3・27
ページ上へ戻る