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リリカルなのは~リリカルとは真逆な転生者

作者:ソウクイ
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悪党は問答無用に痛い目にあうのがテンプレ

「………」

人の管理を離れ廃墟となった建物、壁が取り払われた吹き抜けの一室を襲う混乱。突然の出来事、困惑し何か言い掛け何も言えない誘拐犯の男達、そして目を丸くする誘拐された少女二人。被害者も加害者もどちらも混乱をしていた。

「な、なんだよ!お前はぁ!?」

最初に混乱の沈黙を破ったのは誘拐犯の黒幕、氷村が端整な顔を混乱に歪ませ叫ぶ。
強姦を指示した誘拐犯トップの情けない混乱しきった叫び。
少女の誘拐に巻き込まれた少年と少女の殺害を指示した外道の叫び。…情けないとは誰も考えなかった。この時はこの場に居る全員が思った事を代弁した叫びだからだ。

誘拐犯側、誘拐された側の目線の先に共通して居る存在。凶行が行われ掛けていた現場に突如として戦士の様に現れた紅い存在。
それは顔の下半分だけが出た赤い竜の様な兜に全身を赤い西洋風の鎧で身を包んだ長身の戦士。この現代に不似合いな赤い戦士は突如として現れた。

「ふざけた格好で脅かしやがって!」
「おい!コスプレ野郎!何が目的か知られねぇが!変な真似すんじゃねえぞ!」

特に体格のいい黒服の誘拐犯の二人はただの頭の変な奴と考え腕付くで排除しようとする。二人は動かない赤い戦士にナイフを振りかざし脅しを掛けた。

脅された赤い戦士は…嘲笑。

「なんだその笑いはああ!!」

バカにした様な嘲笑にキレてナイフを振りかざしドカドカ接近する男達!

赤い戦士はそれも鼻で嗤うと両方の手を合わせた。

そのまま赤い戦士が右腕で何かを握り腕を引くと、何もなかった左の掌から生える様に棒が出てくる。赤い戦士は棒をそのまま剣を鞘から抜くように抜く!抜かれた棒からジャキンと三方向に別れた刃先が出た。

それは棒ではなく一本の槍。掌から出た槍のサイズは長身の戦士の身長を越えていた。

「そ、そんな槍がどうだって!」

カラン!

地面に落ちる男二人のナイフの刃先。二人のナイフはナニかに切り取られていた。

「ナイフが!!そ、その槍でか!?」

二人は慌てて赤い戦士から距離を取る。

「は!はん!いい気になるなよ!槍なんて離れてりゃ!チャカには勝てねぇんだよ!!」

男二人は懐から拳銃を抜き…いきなりの発砲!

赤い戦士の額と胸目掛けて発射された弾丸。意外に正確な射的だ。

額と銃弾の距離は残り二メートル、

赤い戦士は動いていない

額と銃弾の距離は残り一メートル

赤い戦士は動いていない。

額と銃弾の距離は残り……30……15…11……7

カン!

「なっ!?弾丸を防いだ!?」

銃弾は残り数㎝の時点で槍に弾かれた。二つの弾丸は壁にめり込む!男達は唖然とする。

「お、オイオイ、このヒーロー擬き格好だけでなくてマジで人間離れした力が有るのかよ!ふざけんなよ!何でそんなのが現れるんだよ!」

誰かが思う。ヒーローが現れたなら数が多い自分達は適当に倒される雑魚戦闘員か?

ビュン、ヒュン、ヒュン、

退いた男達に構わず赤い戦士はバトンの様に槍を回す。

赤い戦士は拳銃を持った男達に取り囲まれ発砲もされた。なのにその場に自分しか存在しないと思っているのか試すように槍を振っている。槍が通った場所には炎が現れ消える。
空に向かって槍を振るう赤い戦士は隙だらけに見える。二つの弾丸は弾かれたが連射すれば!だが男達は誰も拳銃を射たない。

理由は二つ。

あんなどう見ても重たい姿で槍を振り回してたら勝手に疲れるんじゃないか?という身も蓋もない常人に則した考え。

そしてもう一つの理由

見惚れていた。

男達の心を奪ったのは赤い戦士が繰り出す危険で何処か幻想的に見える美しい赤い戦士の演武、炎の槍の舞い。
超人が繰り出す絶技。
鋭い槍の軌道に沿って現れては消える炎の軌跡。男達だけでなく誘拐された少女まで見惚れた。
目の前で繰り広げられている美しいモノをもっと見たい。場違いにもそう考えた。

回天、刺す、凪ぎ払う。

力強く、鋭く、美しい槍の軌跡。

超人たる赤い戦士の繰り出す見るものを魅了する炎と槍の舞。
男達は完成された様にも見える武と炎を纏う槍の舞の美しさにみせられた。状況を忘れるほどに魅せられた。

舞が始まってから少し経ち、槍の舞に魅了されていた男達が、突如現実に戻る!

「な、なあ早くなってないか」

最初は目視すら出来ない事でようやく槍を振る速度が上がっているのに気が付いた。

「どうなってんだよおい!?」
「あ、おい!槍が消えた!?」

次に音が聞こえるのに槍が見えなくなる。遂には……

「うわぁ!?」
「止めてくれぇ!」

部屋のコンクリートの床や壁がバン!という音と共に見えない斬撃に切り裂かれた。槍を振る速度が上がった為に発生した鎌鼬、不可視の斬撃。
室内を縦横に飛んでいる見えない斬撃。 壁の向こう側が見える程深く切り裂かれたコンクリートの壁。
コンクリートよりは柔い人の身体なんて軽く切り裂けるだろう。

男達の大半は命の危機に正常に戻ると咄嗟に身を伏せた。自分の身を優先、赤い戦士自体を誰も止めようとしない。 いや何人か伏せながら銃で反撃しようとしたが狙ったようにその男は見えない攻撃に晒された。

ヒュン、ヒュン、ヒュン、ズガン!

いつ命を刈り取るか判らない槍の舞い。抗えない理不尽な暴力の時間、普段は自分達がしている理不尽が男達を襲う。……同室の少女達もガタガタと震えていた。

「や、やんだ?」

生きた心地のしない時間は唐突に終わりを迎える。

赤い戦士が練習は終わったとばかりに槍をコンクリートの地面に突き刺し男達を見据えた。

反撃しようとしたもの以外は男達は全員無事。

勿論伏せていただけの男達の実力ではない。偶然でもない。赤い戦士が御丁寧にも当てなかっただけだ。
赤い戦士は無言。だが目は雄弁に強者が弱者に対して要求してる。降伏しろと言っている。

男達は反発しない。いや出来ない。

切り裂かれた後のあるコンクリートの壁や床。
男達は脳裏にあの槍に切り裂かれる自分の身を幻視出来る。次にあの槍の舞を見るなら対価は命。

このまま男達は脅迫に屈して…………終わる訳はない。

「何をしている!お前ら!お前らは銃を持っているだろう!一斉に射てば弾かれたりしない!早くこの赤いのを射て!」

氷村が自身は後ろに下がりながら命令を下した。

叫んだ氷村もまた赤い戦士の槍さばきに混乱し恐怖していたが、氷村は上位種の吸血鬼である自分に対して見下した様に見える目線は許されないと激怒、肥大化した自尊心は恐怖を一時的に忘れさせていた。

槍を恐れていた男達はその叫びで便りになる現代の兵器を持っている事を思い出す。二発防がれたからって構わない蜂の巣にしてやればいい。それなら防がれる事もない!男達は立ち上がり懐から拳銃を取り出し赤い戦士に向けようと……した。

瞬間夜の一族超人的な聴力があるすずかは聞いた。赤い戦士が呟やいたのを……。

遅いな。

男達は赤い戦士に銃口を向けた……が其所に赤い戦士は居ない。男達が赤い戦士に銃口を向けた思った時には既に其処は空白。赤い戦士が消えていた。

「ぐばぎゃああ!!?」

男達がどこに行ったと思うと同時にバキッと言う音が聞こえた。男達は飛んだ仲間の姿を見る。それはアリサを真っ先に犯そうとした男。男は壁にぶつかりバゴンと言う音を鳴らし落ちた。

男達は直ぐに飛ばされた男の元居た場所を恐る、恐る見ると、男達の中心……其処にはいつの間にか槍を肩に担いだ赤い戦士が存在。男達は悲鳴を上げ離れた。

「……どうした。来ないのか?」

初めて聞こえた底冷えする様な赤い戦士の声。

明らかな挑発。

男達の中では赤い戦士は瞬間移動が出来る化け物。
赤い戦士は瞬間移動はしてはいない。それどころか特別な力も使ってない。移動して軽く殴る、ただ其れだけの動作をしただけ、動作を男達の目に映らない程高速で行われただけだ。

つまり特殊な能力より質が悪いと言う事だ。


戦いは終わらない。いや火が付いた。

今男達は恐怖と同時に荒れ狂う程の怒りを感じていた。
男達に囲まれていながら一人飛ばした後は動かなかった赤い戦士。手加減どころかまるで自分の相手には成らないと言いたい様な行動。
男達は暴力で収入を得てきた人種、こんな訳の判らない奴にこれ以上舐められて堪るかと……恐怖と怒りに任せ爆発した。

「射て!この化け物を撃ち殺せ!」

一人が雄叫びをあげると男達が次々と汚い罵声を上げ戦士に対して連続して発砲。

室内で男達の中に居る赤い戦士への発砲だ。射線の先には味方も居る。男達は冷静さを失い同士討ちなど気にしない。いや同士討ち等気にしては勝てないと判断した。

赤い戦士が男達の捨て身な攻撃に示した反応は冷笑。
戦車にでも乗っていないと防げないだろう四方八方から襲ってくる銃撃の中での冷笑。赤い戦士は上に飛んで逃げる事も出来たがその場で留まった。

数十の銃弾が赤い戦士に殺到。

心臓、目、喉、足、額、腕、腹、頭、等々全てをバラバラに狙った弾丸の雨。

雨が赤い戦士の範囲数十センチに入ると甲高い金属音が連続して数十回響く。直後に壁に何かがめり込み穴を作る。壁をめり込んだそれは銃弾、赤い戦士に向かっていた銃弾。

「う、嘘だろおい」
 
「はぁ!?防がれた!?ふざけんなよおい!!」

赤い戦士は槍を振るった。槍を瞬かせ四方八方から一斉に来た数十の銃弾を槍で正確に一発、一発弾いていた。
それも男達に銃弾が跳ね返らない様に調整しながらだ。人を越えた肉体と反射神経が可能にした人外の技。

人なら確実にミンチになる程の弾幕を赤い戦士に向けた。オーバーキルになるはずだった。

「くそ!!弾が尽きるまで!うて、射てええ!!」
「死ねよ!何で死なないんだよ!!」

男達は何かの間違いだと自分に言い聞かせ更に苛烈に発砲を再開した。今度男達の引き金を引いた感情は恐怖。悲鳴を上げてガムシャラに射つ男達。

さらに激しく赤い戦士に向かう銃弾の雨。
数十から百に達するまで響く金属音。
最初の発砲から十数秒後、火薬の臭いで満たされた室内に、カチカチカチと玉切れの音が響く。

男達の何人かはガチガチと歯を震わせ泣いていた。

赤い戦士に向かい打ち出された百発を越えた銃弾。鎧を着ていても鎧は破壊され尽くして見るも無惨な姿になる筈……なのにだ。赤い戦士は生きてる。
いや、生きているどころか銃弾の雨を受けた筈の赤い戦士は鎧に傷一つない無傷。最初と同じ、余裕そうに肩に槍を担いで佇んでいる。
室内の壁には発射された弾丸の数と同じ100を超えた無数の穴が、全ての弾丸を弾いたと雄弁に語っていた。


銃を射ち尽くした男達は理不尽に騒然とする。乾いた笑みを浮かべる。泣いた。

男達には槍で防がれたと言う事実は槍の余りの早さに見えていない。ただ男達には戦士の前に見えない壁が有り銃弾を防いだ様に見えただけだ。

瞬間移動、見えない壁。超能力?魔法?一体何なんだ。だが何であれ赤い戦士に銃が効かないという事実に代わりない。赤い戦士の動きが見えない事にかわりない!

「何をしてるんだ!銃が効かないなら殴れ!人数はお前らの方がうえだ!」

更に後ろに下がって無責任に叫ぶ今回の黒幕、確かに男達には銃は防がれても最後には捨て身の接近戦という手段もある。
だが誰が殴り掛かれる。たどり着くまでに銃弾みたいに弾かれるか、バラバラにされた自分が想像できる
男達は顔を見合わせ誰も動かない。命を落とす未来しか見えない。男達が依頼人を放置して逃げようかと考えて止まる。

それが赤い戦士の反撃を呼んだ。

赤い戦士はお前達の攻撃はこれで終わりかと言わんばかりに縦横無尽に槍で旋風を巻き起こす。
男達は飛んだ。槍は直接は当たってないが、槍の風圧で吹き飛ばされコンクリートの壁に叩きつけられ!骨を折るなど重傷を負う。

室内は死屍累々。いや男達は死んではいない。何故か赤い戦士は殺さないように攻撃している。ただ数ヵ月はマトモに動けないだろう。

数秒足らずで動ける男達の残りは赤い戦士から特に離れていた四人だけ、槍の風圧だけで大の大人を飛ばす。人の形をしてるだけの人じゃない化物。

「あ、おい!そこの前!!逃げるな!!」

「ふざけんな!これ以上化物に関わってられるか!」

こんなふざけた存在とこれ以上関わるのはゴメンだと 、無事だった男達は仕事を放棄し逃げることにした。
この時点で男達相手に赤い戦士の勝利。
だが赤い戦士は男達の逃走を許さない。残敵の掃討に掛かる。こんな赤い戦士の無双を離れた所で見ていた氷村は呆然としていた。

何故こんな事に?自分を差し置き夜の一族の当主となった忍、下等種と仲良くする忍、絶対に許せない。ならば報復するしかない。だが忍本人は自分でも手を出すのは危険。だが許すことは嫌だ。なら下等種と共に生活して油断仕切った忍の妹すずかを狙えばどうだ?
そして出来たのがこの計画。上手くいくはずだった。

誘拐までは成功、すずかに、金髪のガキに思い知らせる瞬間までいった。そのまま上位種たる自分が立てた計画は簡単に成功する…………はずだ。

なら今の光景は何だ?誘拐の為に雇った下等種が飛んでいる。いや下等種はどうでもいい。

夜の一族たる自分にも見えない速度で動くあの赤いのは何だ?数十キロの肉の塊を紙切れの様に飛ばすあの力は何だ。此のままだとあの化け物のせいで計画は破綻する。

混乱した。

混乱した。

混乱した。…

怒りが湧いた。

突然現れて上位種たる自分の完璧な計画を台無しにしようとする許しがたい化物!

「人形共……奴を殺せ!!」

氷村が後ろに控えた不気味な程に無表情な集団に命令する。

「あ!」

すずかは人形と聞いて氷村の後ろに控えた集団が何か気付いて動揺する。人形それは夜の一族に作られた現代科学を越えた機械仕掛けの人形。その強さは鍛え上げた人も容易に葬れる。

複数の人形が主の命令を受け走り出す。人の何倍もの戦闘力を持つ人形が赤い戦士を狙う。赤い戦士は冷たい目線で向かってくる相手を眺めた




「は!はは、余裕とでも思っているのか!
……バカめ!其処のゴミの様にはいかないぞ!ソイツらは我ら夜の一族が誇る人の強さを遥かに越えた自動人形だからな!あの世で戦いを挑んだ事を後悔するがいい」

氷村の発言に赤い戦士は警戒する様に目を少し細めた。
発言が嘘でない証拠に自動人形は人の数倍は早く接近している。
氷村が自慢するだけあり、数は少数だが拳銃を持った黒服の男達全てを合わせたより遥かに強敵だろう。

だが、人の数倍、たかがその程度だ。赤い戦士には問題ない。

赤い戦士は人を相手にするよりは少し強めに先発した三体を吹き飛ばした。無数の銃弾を見切る赤い戦士には無数の弾丸よりは数が少なく大きくなった自動人形を迎撃するのは然して難しい事では無い。
一体の自動人形は吹き飛ばされコンクリートの壁に叩き付けられ、壁のコンクリートをぶち抜いた先で倒れる。だが氷室は笑っていた。

普通の人なら全身の骨がバラバラになるレベルで叩き付けられた筈の自動人形が……平然と立ち上がった。

「ウソ!」

アリサは驚いた。

「くはははは!!どうだ夜の一族の誇る自動人形に少しは驚いたか?ソイツらは命令を完遂する為なら腕や足が無くなっても闘うぞ?くくくく、果たして何処まで生き残れるかな?」

氷村の非道な発言に自動人形の顔には感情の色は無い。顔に出てない訳でなく彼等には感情がない。戦闘の邪魔だと感情等の機能は付けられていない。
敵は命令の通り相手を殺す為だけに動く機械。動ける限り相手を狙う殺人機械。

問題ない。寧ろ有り難い。赤い戦士的には心がないなら殺人機械なら遠慮は要らない

赤い戦士が再び動き始めた自動人形に気を取られていると、吹き飛ばされなかった自動人形が正面二、左右に一体ずつ、三方向から一斉に襲った。

赤い戦士まで残り一メートル未満まで接近。赤い戦士に攻撃しようと腕を伸ばす。

腕が落ちた。

そして腕から続いて見えないミキサーに入るように自動人形の体が…………落ちていく。

自動人形四体の体は赤い戦士に触れる事すら叶わず床にバラけて落ちていく。夜の一族が誇る秘宝は命令されてから一分も経たずに大半がただの部品となる。
赤い戦士の自動人形への対処法はある意味簡単。体の一部が無くなっても戦うなら、………全身を細切れにすればいい。本気で容赦がない。

「「キャアア!!」」

機械だが見掛けは人がバラける姿、すずか、アリサが悲鳴を上げた。

「い、イレイン!あの化物をヤれ!」
「了解しました」

氷村は此のままでは残りの自動人形も直ぐに同じ運命を辿ると理解する。あれは夜の一族より恐ろしい化け物だと理解した。

氷村は最後の盾、夜の一族の秘宝、余りの凶悪さに封印された最強の戦闘用自動人形イレインに命令を下す。
イレインは先程のふざけた様子を完全に無くし、ただ戦闘人形として命令通り赤い戦士に向かう。
イレインは戦闘用に造られた自身の頭脳で赤い戦士の戦闘力を計り最適の行動を行った。

イレインは赤い戦士のデータを元に自分の戦闘力を比較する。

「…………」

結果はスペック、戦闘力は圧倒的に自身の方が下。戦闘用に造られた彼女は慢心や現実を見ないと言う事はしない。計算機に客観的なデータを打ち込み答えを出すだけ、その答えがイレイン自らの戦闘力では勝てないと出した。

だが戦闘人形のイレインは悲観、恐怖はしない。命令を遂行するのに取れる手段を取るだけだ。

「いきなさい」

イレインは生き残った同族に突撃を命じた。
突撃した同族は先に逝った仲間と同じ様に赤い戦士に辿り着く前に鉄屑となっていく。

それで良い。イレインはその計算通りな結果に動揺しない。少しだが赤い戦士の注意を逸らしている。
イレインはその隙に赤い戦士の背後に素早く回り、自分の身を弾丸として赤い戦士に向かって飛んだ。

イレインが出した最も勝てる可能性が高いと踏んだ答えは、隙をついた瞬間での純粋な最速の一撃。

死角からの攻撃、接近は成功。

イレインは赤い戦士の首筋に刃を落とした。

この瞬間イレインが見た光景、赤い戦士の背後、赤い戦士はまだ残った人形をバラしている。イレインに気付いる様に見えない。イレインが繰り出した刃は首筋まで残り1.8 ㎝。刃は0,1秒未満で赤い戦士に辿り着く。




「な……ぜ」

(なんで……コンクリートの壁に……)

イレインは気づいた時には壁にぶつかっていた。

「……ゆる…さな…身体を……ボロにし…お前も……同じ目にあわせ……やる!」ギギギギ

イレインは錆び付いた機械の様に動き出す。
イレインが創造主の夜の一族に封印された理由、それは暴走モード、暴走モードが発動する条件はクリア、イレインは暴走モードとなる。……だが

「……あ」ドサッ

立ち上がった瞬間、イレインは崩れ落ちた。

(……うご……かない)

イレインのボディーは一瞬にして暴走モードに移行するも、活動出来ない程に身体を壊されてしまっていた。

(…………ちくしょ)

そのままイレインは火花を散らしながら眠るように機能を停止させる。
しかし自動人形でイレインだけがバラされなかった。理由が何なのかは赤い戦士の冷たい表情からは判らない。

誘拐犯は切り札が一瞬でヤられ呆然としている氷村以外は全滅。

 
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