色を無くしたこの世界で
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ハジマリ編
第2話 拾い物
「じゃあ皆さん、また明日ー」
「ああ」
「じゃあな」
午後五時過ぎ。
練習も終わり、天馬は他の部員達に別れを告げ部室を後にする。
帰り道。進行方向が同じな信助と葵、それにフェイと一緒に他愛も無い話をしながら歩いて行く。
「それにしても天馬に勝てなかったのは残念だったなぁ~」
フェイがそう呟く。
「でもフェイ、凄い強くなってたじゃん! 俺ちょっと焦っちゃったもん」
結局、天馬とフェイはあの後勝負をしたが、結果は引き分け。
だが天馬が言う様に、フェイの能力は前会った時と比べ格段にレベルアップしていた。
天馬の言葉にフェイは「ありがとう」と照れくさそうに笑う。
そんな時、ふと葵がフェイに問いかけた。
「そう言えばフェイはこれからどうするの?」
「未来に帰るの?」と言う葵にフェイは「ううん」と首を振る。
「今日は天馬の家に泊まらせてもらう事になったんだ」
フェイの言葉に葵は「え」と驚きの声を上げると同時に、怪訝そうな顔で天馬を見た。
「天馬、ちゃんと秋さんに許可はとったんでしょうね?」
「ちゃ、ちゃんととったよ~……」
葵の言葉に天馬は後ずさると、自分と一緒に暮らしていて親の様な存在の『木野秋』にちゃんと許可をもらった事を彼女に伝える。
「フェイともっと話したい事もあったし」と続ける天馬に、葵は納得した様子で「だったら良し」と笑って見せた。
そんな光景を見ていたフェイは「仲が良いね」なんて言って、隣で一緒に見ていた信助と顔を見合わせる。
「あ。そういえば、天馬達はあれから何があったの?」
フェイの言葉を聞いて天馬と信助は「そうそう!」と声を上げる。
「それがもう凄かったんだよ!」
「僕達、日本代表かと思ったら地球代表になっちゃって!」
「信助は密航しただけでしょ」
「え? どう言う事?」
葵に適格に痛い所を突かれ「ぅ…」と落ち込む信助を横目に、天馬は今まであった事をフェイに話してあげた。
日本代表だと言われ集められた選手が全員、初心者だった事。
なぜ、初心者ばかりが集められたのか。その理由の事。
地球の運命をかけた宇宙の大会、グランドセレスタ・ギャラクシーの事。
そしてそこで出会った色んな人の事。
他にも色々話しながら、夕暮れの街を歩いて行く。
曲がり角で信助、葵と別れ、今度は二人でお互いにあった出来事を話しながら木枯らし荘まで歩いて行く。
「へぇ……そんな事があったんだ……」
一通り、天馬の話を聞き終わったフェイはとても不思議そうな表情で呟いた。
「相変わらず天馬達は色々な事件に巻き込まれるね」
「あぁ。でも、俺楽しいんだ」
「え?」
天馬の言葉にフェイは意外そうな表情で歩みを止める。
「だって、その分だけ新しい仲間やサッカーと出会えるだろ?」
そう、天馬はフェイの前に立って笑顔で答えてみせた。
そんな彼を見てフェイはさっきの様にクスクスと笑い出して言う。
「君は本当、相変わらずだね」
「そうかなぁ?」
「うん」
少し恥ずかしくなったのか、天馬は「ところで」と話題を変えてみる。
「未来ではあれからどんな事があったの? SARUやアルファ達はどうしてる?」
「そうだなぁ…………!」
するとフェイは急に言葉を止め、眉をひそめながら天馬
正しくは天馬の背後の風景を見つめ出す。
「……どうしたの? フェイ」
「天馬。ねぇ……あれ、何かな……?」
天馬の言葉に少し低めな声でそう言うと、彼は天馬の後ろを指差す。
振り返り、フェイの指差す先を見るとそこには見慣れない……黒い塊が落ちていた。
それも道のど真ん中に。
「本当だ……なんだろ……」
二人は恐る恐る近づいてみる。
「布……?」
遠目で見たら分からなかったが、どうやら黒い塊の正体は布で
しかもその下には何かがあるみたいだった……
「捨て犬……とかかな……?」
フェイに「見てみようよ」と言われ、天馬は布をまくってその下の物体に目をやった。
瞬間、心臓がドクッと鳴り、止まる。
布の下に居たのは――――黄色い髪をした人間だった。
「え、人っ!?」
「怪我してる……あ、あの! 大丈夫ですか?!」
天馬は慌てた様子で黄色い髪の少年の体を揺する。
すると「んっ……」と言う声が聞こえた
――よかった……生きてはいるみたいだ……
ホッと胸を撫で下ろすと、フェイが困った様に天馬に尋ねる。
「天馬、どうしよう……」
フェイの言葉に天馬は悩み出す。
怪我をしてる人をこのままにしておく訳には行かない。
天馬は悩んだ末、「とりあえず」と倒れていた少年を家まで運ぶ事にした。
ここから、天馬の住む【木枯らし荘】までは歩いてすぐの距離だ。
何にしても、こんな道のど真ん中で待つよりはよっぽど良いだろう。
フェイも天馬の言葉に「分かった」と頷くと、黄色い髪の人に肩を貸して立ち上がらせる。
見た目的に彼等と同い年位の少年は「ぅぅ…」とうめき声をあげながら、二人の肩に掴まり、歩こうとする。
よく見たら顔色が悪い……
「急ごう!」
「うんっ」
そう言うと二人は木枯らし荘まで急いだ。
「………………」
途中、背後から視線を感じた気がした。
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