暴れん坊な姫様と傭兵（肉盾）

(*ﾟ∀ﾟ)「暇だな～、退屈だな。　お、傭兵が来てるのか。　あれで遊ぶか」（物理）
 

　―――これはレヴァンテン・マーチンとの二度目の邂逅(かいこう)なのもつゆ知らず、初対面だと思って面接（物理）(パンチ)で殴り倒した時の事だ。





「ぎっひぃええええっ……！！？？」



　謁見(えっけん)の間に爆裂音――と、潰(つぶ)れた悲鳴も一つ――が響いた。


　衝撃(しょうげき)は城全体を地震のように揺るがし、床が陥没(かんぼつ)するようにめり込んで破片が宙を舞(ま)った。
　容赦ない威力は破壊の跡を残し、拳に感じる確かな手応えに胸の震えを感じた。


　それも当然だ。
　俺がやったのだから。

　我(われ)ながら中々の威力だ。
　デトワーズ皇国の姫であり、陛下でもあり、なおかつこんな威力の拳を持っている世界広しと言えども俺しかいないだろう。
　使い道はと言えば、当然の事だから破壊に使う事に限られる。

　その結果は無残(むざん)にも大参事(だいさんじ)だ。
　謁見(えっけん)の間のお高い床が見事に窪みが出来ている。
　金銭的損失(きんがくてきそんしつ)を考えれば、平民からすれば悲鳴を上げるほどの損害額(そんがいがく)に昇(のぼ)るだろう。

　だがいつもの事だ。

　こんなの両手の指では足りないほどにやっている事だ。
　ただ…やり過ぎたせいで、謁見(えっけん)の間の床や壁、天井に至(いた)るまで四角い鋼材を並べたような構造(こうぞう)となっている。
　それによって、俺が殴り壊したとしても多少の破損であればその部分だけを撤去(てっきょ)して、新しい鋼材の嵌(は)め込めばあっと言う間に元通りになる。
　俺が苛立(いらだ)つ度(たび)に壊すものだから、度重(たびかさ)なる修復(しゅうふく)と壊れた一面の総入れ替えに難儀(なんぎ)するものだから考えられた構造(こうぞう)だったとか。



　閑話休題(それはさておき)。


「………」

　俺は―――俺は、この衝動(しょうどう)をどう説明していいものか、言葉に…いや、表現に詰(つ)まった。

　俺の拳は一人の傭兵(ようへい)を沈めた。
　床を砕き、謁見(えっけん)の間を揺るがし、一撃の下に叩き伏(ふ)せた。

　それがどうした事か、この手応えは……この気持ちを例えるのなら、胸が踊った…いや、違う…体に稲妻が奔(はし)った…いや、これも違う…月までブっ飛ぶ衝撃……って、そういうのじゃない。
　ああっ、何と言い表せばいいのだろうか。

　初めて感じる感情。

　湧(わ)き上がる情動(じょうどう)。


　もどかしい思いで手探りのように表現を探していると、ピッタリと当てはまる言葉が頭の中に閃(ひらめ)いた。




　―――そう……運命を感じた／獲物、見～っけ。




「はぁ……」

　俺が胸にワクワクした感情を覚えている時に、静寂(せいじゃく)が戻った謁見(えっけん)の間で小さな溜め息が零(こぼ)れたのが聞こえた。

　そこにはメイドのミーア姉ちゃんがいた。
　俺の拳の下では傭兵(ようへい)が一人沈んでいるが、俺が命(めい)じてミーア姉ちゃん連れて来させた。
　俺の鬱憤(うっぷん)晴らし／暇潰しでこうなる結果がわかっていても、呆れるものは呆れるのだろう。


　ごめんなミーア姉ちゃん、仕事ばかりするの退屈なんだよ。


　だけどな、今回ばかりはいつもと違う。
　いつもの有象無象(うぞうむぞう)の類(たぐい)かと思っていたけど…意外や意外、こいつは“特別”だ。



　うん……なんか物欲しくなってきた。


「…せーの」

　下で失神(のび)ているこの傭兵をもう一回殴りたくなってきたので、俺は沈ませた拳を再度振り上げた。
　するとミーア姉ちゃんってば珍しくメイドとしての顔を崩し、慌てた表情を見せて止めてきた。


「えっ、エルザ姫様！？　何しようとしてるんですか！？」
「ん、もう一発殴りたいなぁ、って」
「な、何を言っているのですか！？　今まで一人につき一回で済ませてきたのに、エルザ姫の二回目などしたら壊れてしまいますよ！？」

　上手いな。　“死んでしまう”とかではなく“壊れる”か。　確かに俺の拳は破壊的だから、“壊れる”という表現は的(まと)を射(い)ている。
　ミーア姉ちゃん、頭良いな。

　だけど、もう一度感触を確かめたい誘惑(ゆうわく)が俺に拳を固くさせた。

「ダメですからね」

　もうメイドの顔に戻ったミーア姉ちゃんは、冷厳(れいげん)に念を押してきた。
　さすがに、意識を失っている相手に追い打ちは非道だと自覚したので、俺は殴るのを止(や)めとく事にした。



「でもさミーア姉ちゃん。　俺、こいつ欲しい」
「っ…え……！？///　ぁ、あぁ…エルザ姫様、欲しいとは…この傭兵様を……どういう意味ですか？」

　俺の言葉をどう解釈したのか、ミーア姉ちゃんは表情を二転三転(にてんさんてん)させて、努(つと)めて冷静に問(と)いかけてきた。

「そりゃもちろん、俺の手元に置いておきたいって意味に決まってるじゃないか。　だって、こいつの殴り心地が格別なんだぜ！　五体満足だしさ！」

　俺は、感情のままに喜色(きいろ)の声を出した。

　お気に入りの玩具(おもちゃ)、お気に入りのペット、そんな言葉では形容出来ない対象と巡(めぐ)り合えたのだ。
　相性がいいとか、しっくりくるとか、ウマが合うとか…まさに人生では有(あ)るか無いか言える存在だ。

　そこらの傭兵(ようへい)の一人だと判断して適当な砦に押し込むのは勿体(もったい)ない。　少なくともその価値がある、と俺は思った。


「ですよね…」

　俺の身勝手さはいつもの事だから呆れられると思ったが、その予想に反してミーア姉ちゃんはそれを落胆(らくたん)したように疲れた声を零(こぼ)した。

　溜め息まで漏らしてきた。　なぜだ。


「でしたら、話を通すべき方がいますね」

　気を取り直したミーア姉ちゃんは、話を進めた。
　面倒臭いとわかっていても、俺のワガママを通すには壁となる人物の顔が否応(いやおう)なしに頭に浮かんでくる。

「この方を姫様の付き人…の類(たぐい)にされるのでしたら、当然その根回しや段取り、その他の落としどころなどを宰相様にお伺(うかが)い立てる必要があります」
「だよなー」

　頭ごなしに否定(ひてい)する事はせず、俺の意向(いこう)に沿(そ)ってくれるミーア姉ちゃんは本当によく出来たメイドだ。
　それゆえに、面倒臭いとわかっていても逃げ場が無いのだと告(つ)げてくる。

「仕方ないな。　話通しておくか」
「はい。　では、ここ後始末と傭兵(ようへい)様の面倒に関しては“キメラ”達にお任せしましょう」

　控えるように沸いてくる気配を感じながらも、俺は一歩後ろにミーア姉ちゃんを引き連れて、宰相(さいしょう)の所へと向かう事にした。




　――――――。




　俺は宰相(さいしょう)の執務室(しつむしつ)の前に来ていた。

　そこにあるのは豪華さは無く、簡素(かんそ)で重厚(じゅうこう)な扉。
　相変わらずちょっぴり叩き甲斐のあるその扉を前にして、俺は“拳”を作った。

「姫様。　怒られますよ」
「……」

　読まれてる。

　何回かついやっちゃうから覚えられてしまっている。
　実際、全部が全部殴って壊してる。

　仕方ないため、俺は控(ひか)えめに握り手を作って、お淑(しと)やかに扉をノックした。

「―――どなたですか」
「俺だ、俺俺」
「―――姫様ですか。　どうぞ」

　心底呆れたような声で返事が返ってきて、即座に扉を開けた。

　そこには眼鏡の位置を直しつつ、机に積(つ)まれた書類と格闘をしていた宰相(さいしょう)の姿があった。

「御機嫌(ごきげん)ようエルザ姫様。　今日はどのようなご用件で」

　余計な言い回しもせず、淡々(たんたん)と短い挨拶と率直(そっちょく)に問(と)いかける彼はエドヴァルド・ロックス。
　これでも宰相(さいしょう)だ。

　控えめに言ってもこの国で“二番目”に偉い人物。
　もちろん一番は俺だ。
　だが頭がいい。

　けれど口煩(くちうるさ)い。
　だが、俺に対して苦言(くげん)が言えるくらいに向かい合ってるとも言える。
　まぁ、宰相(さいしょう)をしてるのならそれくらいがちょうどいいけどな。

「ちょっと傭兵(ようへい)が欲しいんだ」
「…生贄の部隊ですか？　それはちょっと…将軍と相談を」
「違(ちげ)ぇよ」
「なんだ、てっきり鬱憤(うっぷん)が溜まりすぎて部隊単位で殴り倒したいのかと思いました。　では、件の属国の勢力に殴り込みですか？　それは時期が来ますので今しばし…」
「だからそれも違(ちげ)ぇよ。　今回は重要な話だ」

　俺から始める重要な話とはいつやったっけ……そういうのはいつも宰相(さいしょう)のロックスのおっさんが仕切る事だから記憶に無い。


「失礼しました。　まだ書類の途中でしたので…はい、一区切(ひとくぎ)りしましたのでちゃんと話を聞きましょう」

　今の会話のしている間にも手だけは書類を処理していて、それもひとまず終わらせたようだ。
　机に積(つ)まれた書類の大半は俺が処理する事になるのだろう、と思うと面倒臭(めんどうくさ)さが込み上げてくる。

　ロックスのおっさんは気持ちを切り替えるようにして、眼鏡を指で押し上げた。

「で、傭兵(ようへい)が欲しい…と言いましたがどういう事でしょうか？」
「ああ、それがな」


　―――かくかくしかじか、と。



　俺が殴り倒した事から始まった短いあらましを語った。
　その中には、もちろん俺の要望も含まれていたのだが……。


「ダメに決まっているでしょう」

　ロックスのおっさんに一蹴(いっしゅう)された。

　俺がわざわざ事情説明――ミーア姉ちゃんが補足(ほそく)しつつ――したのに、すげなく却下された。
　わかってはいたけど、ダメ出しにしてもばっさりすぎる。

「ダメかー？」
「ダメです。　そこらの傭兵(ようへい)を、しかも縁(えん)もゆかりも無い者を召(め)し抱えるなんて周りから反対されます。　私もその一人です」

　説明が必要ですか？、とロックスのおっさんはジト目で語りかけてくる。

　何故(なぜ)かなど、俺だってその根拠(こんきょ)を知らないわけじゃあない。

　小国とはいえこの国で一番偉い俺が、なんの功績(こうせき)も持ってない存在を傍(そば)に仕(つか)えさせたら不満に思うやつがいるだろう。
　例えば、数は少ないとはいえ貴族の内の一部のプライドの高い貴族。
　例えば、下っ端(ぱ)の中で実力の伴わないくせに野心のある一部の兵士。
　例えば、生死や素行にやたらと五月蠅(うるさ)い宗教関係の人間などなど。

　いわゆる潜在的に鬱陶(うっとう)しい類(たぐい)。


　この潜在的ってのが厄介な奴で、ただ我慢強(がまんづよ)い奴とか短気な奴とはちょっと種類が違う。
　不満をため込む要素があるとそれを溜め込み、何かの拍子(ひょうし)で許容量を超えたりすると文句を零(こぼ)したり離反したり暴動を扇動(せんどう)・便乗(びんじょう)したりする。
　だから悪戯に刺激するような要素はなるべくしない方がいいって事だ。


　ん？　俺の拳？　それはそれ、これはこれ、だ。

「でもなぁ…手放すのは嫌だぞ、どうしても」

　それで納得できるわけがなく、当然俺は食い下(さ)がった。

「ですがその者は地位のある者でもなければ、デトワーズ国民ですらない」

　わかってる。

「傭兵(ようへい)は傭兵(よそもの)だからこそ、人口(じんこう)の少ないデトワーズ国民の代わりに消耗品として採用しているのです」

　わかってる。

「更に、外来者(よそもの)であるその傭兵(ようへい)に“立場”を与えるだけの理由がない」

　わかってるって。

「そういう観点(かんてん)から、周りを納得出来る理由もなしに召(め)し抱えれば反発すらありえます」
「面倒臭(めんどうくさ)いなぁ」
「何もなしに拾い上げるから、反対する理由が色々出てくるのです。　挙(あ)げれば片手の指では足りないほどに」

　つまり今言った外来者(よそもの)である以外にもたくさんあるんだな。　それも理由が五つ以上も。
　本当…面倒臭(めんどうくさ)いなぁ。


「でもミーア姉ちゃんを拾い上げたのは俺だぞ？」

　ロックスのおっさんの言う事に間違いはないものの、そこにある益(えき)というものを無視する事は出来ない。
　その例として昔馴染(むかしなじ)みであるメイドのミーア姉ちゃんを挙(あ)げた。

　何も持っていなかった持たざる者であったミーア姉ちゃん。
　路地裏(ろじうら)深くで底辺(ていへん)を這(は)い蹲(つくば)って見上げる見る事も出来なかった。
　そんなミーア姉ちゃんは俺に拾われて、こうして立派にメイドをしている。

「…確かにそうですね」

　これにはロックスのおっさんも多くは言わずに肯定(こうてい)した。

　否定(ひてい)出来る理由は出す事は出来るのだろうが、それは極端(きょくたん)な事を言えば“メイドなんかに価値なし”と言うようなものだからな。
　そんな事を言ってしまったらミーア姉ちゃん含め、城のメイド達の“腕の花(ワッペン)”の存在意義を否定(ひてい)する事になる。

「勘違いしないよう言っておきますが、エルザ姫様の人を視る目は信用しております」
「お、そうだな」
「姫様が拾って来る孤児や浮浪児などは、面倒はありましたが教育課程を経(へ)て立派にメイドになっており、その人を見る目と豪運と勘(カン)に疑いはありません」
「当然だな。　もっと褒めろ」
「ですが、それはあくまでも終着点です。　過程に問題があるのは言うまでもありません」
「そりゃそうだな。　ミーア姉ちゃんもメイドとなるのにそれなりに時間かかったしな」
「恐縮(きょうしゅく)です」

　立派なメイドには立派な教育を。
　そのためにはそれなりの投資と手間が存在する。
　その感謝を忘れていないミーア姉ちゃんは話の流れから、小さく頭(こうべ)を垂(た)れた。

「やれやれ…わかりました」
「お？　いいのか？」
「エルザ姫の人を視る目を信じるのであれば、最終的には手伝う羽目(はめ)になりますからね。　出てきた問題点に頭を抱えますが…」

　やったぜ。

　流石おっさんだ。　ただ頭が固いんじゃなくてまだ若さによる柔軟性(じゅうなんせい)があるから、妥協(だきょう)出来る点がある事を認めてもらえたようだ。
　要(よう)は“傭兵(ようへい)を引き入れてもいいのか”に尽きる。

「まずはその傭兵(ようへい)の素性を洗う事から始めなければいけませんが…これには数日の期間を要(よう)します。　場合によっては“キメラ”を監視に付ける事にもなるでしょう。　しかし―――」

　つらつらと、傭兵(ようへい)を引き入れる段取りを挙げ連ねようとしたところでロックスのおっさんは言葉を区切った。

「そうですね…。　時期が時期ですし、あれがいいですね。　最近の件の属国…との抗争(こうそう)は覚えてますよね？」
「ん？　確か、俺が殴り込んだ後の事か？」
「省略(しょうりゃく)しすぎです。　ええ、隣国にエルザ姫が独断(どくだん)で単身殴り込みをかけた時、拠点を通り過ぎて中枢(ちゅうく)にまで特攻した末(すえ)に指揮系統が頭から崩壊した件(けん)です」

　ああ、アレねアレ。
　普段からムカつく国だったけど、度(ど)が過ぎたから“つい”ヤっちゃったアレね。
　あいつらの城を滅茶苦茶にした結果、弱体化した隙に軍事国家ガレリアの傘下(さんか)にされたんだったな。

　割と最近の事だけど、そう言えばそうだった。　後悔はしていない。

「こないだ攻めてきて軍事国家ガレリアに乗っ取られた…なんて国だっけか？」
「実権失(うしな)って事実上(じじつじょう)滅んだ国に名前も何もないでしょう。　正確には軍事国家ガレリア占領地に加え元の国名が付くのですが…長いと面倒でしょうから属国でいいんじゃないですか？」

　だな。

　長い事鬱陶(うっとう)しい隣国ではあったが、その国名を不思議と覚える気にもならない。
　国名は知っているはずなんだが、もう存在が面倒くさいから記憶の片隅(かたすみ)に追いやられたのだと自覚する。

「その属国に動きについてですが…軍事国家から強要(きょうよう)されて、近い内に小規模部隊による牽制(けんせい)が行われるようですね」
「顎(あご)で使われるとは情けないな」
「自業自得です。　半分はエルザ姫も原因ですが。　それはともかく、これを機会に“言い訳”が立ちます」

　言い訳。　つまり召(め)し抱える“理由”か。
　傭兵(ようへい)なのだから、戦場となれば手柄なり何なり持ち上げる事が出来る。　それこそ捏造(ねつぞう)する事もな。

　そのついでに牽制(けんせい)部隊には痛い目を見てもらうというおっさんの魂胆(こんたん)も見えた。
　それに俺は素直に関心した。

「おー、なるほどな。　頭イイなお前」
「……これをするには、エルザ姫が直接目をかける、という前提があるのが不安材料ですけどね」
「ひどい言い草だな」

　俺がそう言うと、ロックスのおっさんに大きな溜め息を付かれた。　なぜだ。


「まぁ、それはともかく…」

　色々なお仕事をやらされるんだろうなぁ、といった疲れた顔をさせながら、ロックスのおっさんは指で押し上げた眼鏡の向こうから視線を向けてきた。
　国を導(みちび)く事に共通してそれなりの付き合いのある俺は、それが何か役割を伝える素振(そぶ)りだな、とすぐに察(さっ)して意識した。

「その傭兵(ようへい)にエルザ姫自ら接触する事を忘れないでください。　接点という材料があるといいですからね」
「おう、そんな簡単な事なら任せろ」



―――。


　『やめてー！』―――と、その当人である傭兵(ようへい)、レヴァンテン・マーチンがこの場にいるとしたら悲鳴のような悲痛な声をあげていただろう。

　だが傭兵(ようへい)人生の終焉の裏には、そんな会話があった事を彼は知る由(よし)もない。

　姫陛下と宰相の思惑(おもわく)だけが水面下で進められているなどつゆ知らず。


　レヴァンテン・マーチンが約束された転職(クビ)予定の傭兵(ようへい)となって、売られていく羊のように荷馬車に乗せられて行くのはそれから数日後の事だった。


 

■エドヴァルド・ロックス
デトワーズ皇国の鬼才(きさい)の宰相(さいしょう)。　柔軟性(じゅうなんせい)のある政治力でデトワーズ皇国を支えている。
三十代で宰相(さいしょう)になり四十代の現在でも、異例の若さでデトワーズ皇国の政治を司(つかさ)っている彼は神童(しんどう)と呼ばれていた事がある。
バッテンとは同郷(どうきょう)。


■潜在的に鬱陶しい奴。
いわゆる少数派(マイノリティ)。
思想統一されていないのであればどこの年代、どこの層にでもいるような頭がお花畑の人。
損得勘定でものを考えてるように見えて得しか考えておらず、国にとって何が重要か、自分の住む場所にとって何が一番イイのか…そういうのを考えずに、己の我を通そうとする。
もちろん自由思想の下、そういった考えはあるべくしてあるが、かといって不可欠というわけではないが、受け入れられない／不都合である場合が多く厄介の種にもなる。


■軍事国家ガレリア
ヨールビン大陸で軍事力が高い国。　デトワーズ皇国の隣にある属国は飛び地であるため、まだ関わらない。
名前の由来は王権シンボルのラテン語「regalia／レガリア」から。