信じる力
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第五章
「それはな」
「戦いはやってみなければ」
「そう言われるのですか」
「違う、スウェーデン軍はまとまっている」
リシュリューは周りにこのことから言った。
「グスタフ=アドルフ王に絶対の忠誠と信頼を寄せてな。そしてだ」
「グスタフ=アドルフ王自身も優れている」
「だからですか」
「民を兵にああした組み合わせで勝てるかどうかはわからないが」
軽い大砲が多くしかもテルシオではない薄い陣で尚且つ銃兵が異様に多いそれでだ。
「しかしだ」
「それでもですか」
「スウェーデン軍はまとまっている」
「そして王も優れている」
「だからこそですか」
「確実に負けるとは言えない」
これがリシュリューの読みだった。
「もっとも勝てるかどうかもだ」
「それもですか」
「言えませんか」
「どうにも」
「確実には言えない、ティリー将軍は強い」
このこともまた事実だというのだ。
「だからわからない、しかし勝負はだ」
「わからない」
「そうなのですね」
「スウェーデンの状況を聞くとな」
外交官から聞いた情報を思い出しての言葉だ、リシュリューはこのことから言うのだった。そしてスウェーデン軍は。
ティリー率いる皇帝軍とブライテンフェルトで衝突した、高いに三万を越える軍勢でだった。
まずは対峙した、皇帝軍は重厚なテルシオを多く編成していた。
そのテルシオを見てもだ、王は己の将兵達に言った。
「ではこれよりだ」
「はい、陛下の言われる通り戦う」
「そうすればですね」
「勝つ」
確実にという言葉だった。
「そうなる」
「はい、それでは」
「我等は陛下のご命令に従い」
「そのうえで勝ちます」
「この戦いに」
ここでもだ、スウェーデン軍の将兵達は彼等の王に絶対の忠誠と信頼を向けていた。そのうえで動こうとしていた。
そのスウェーデン軍を見てだ、ティリーはいぶかしんで副将であるパッペンハイム、彼の勇ましい顔を見つつ問うた。
「おかしいな」
「はい、スウェーデン軍は」
パッペンハイムも答える。
「やけに小さな大砲です」
「数はかなり多いな」
「最初に撃つだけのものが」
この時の戦争では大砲はそう使うだけだった、野戦では。
「それに歩兵達もです」
「テルシオではない」
ティリーは自分が組んだそのテルシオ達も見て言った。縦にも横にも重厚で四隅と周囲には銃兵達がいる。
「銃兵が多くだ」
「彼等だけで編成を組みな」
「その間に槍兵の部隊がありますが」
「随分少ない数での編成でな」
「何なのでしょうか、あれは」
「わからん、しかしだ」
ティリーはスウェーデン軍の編成が何を意図しているのかはわからなかった、だがわかっていることはあった。
それは戦いがはじまっているということだ、それでだった。
ティリーはパッペンハイムをはじめとした将帥達に馬上から告げた。
「まずは砲撃じゃ」
「そしてテルシオの前進」
「そうして押し潰しますね」
「それから然るべき時にな」
機を見てというのだ。
「騎兵隊を投入する」
「わかりました」
その騎兵隊を率いるパッペンハイムの返事だ、今か今かという顔をしている。
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