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百人一首

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58部分:第五十八首


第五十八首

                 第五十八首  大弐三位
 風が吹けばそれで笹の葉がゆらゆらとまるで生きているかのように揺れ動く。
 それを見てふと思い出したのはあの人のこと。
 来ると言ったり来ないと言ったり。どうにも言うことがその時その時で変わってばかり。揺れ動く笹の葉を見てあの人のことを思い出してしまった。
 けれどそんな人のことへの想いは。
 変わることがない。変えることがない。
 決して変えることはないと自分で強く思っている。
 忘れてはいないし忘れる筈もない。心変わりはありはしない。そのことを自分の心の中で強く思い。そのうえで心にさらに刻んでいく。
 生きている限りあの人のことを想っていよう。忘れることも心変わりも決してない。そんなことは自分に限って絶対にない。どんなことがあってもあの人のことを想い続ける。何度も何度も心に言い聞かせてそうして今も笹の葉を見ている。
 笹を見ていると今度は歌が心に宿った。
 歌はいつも詠おうとしても出て来ない。自然と宿ってくるもの。
 詠おうとしてもそれは決して出て来ないのに。今も笹を見てあの人のことを想っていると出て来た。その歌を今静かに詠う。

有馬山 猪名の笹原 風吹けば いでそよ人を 忘れやはする

 歌に自分の気持ちと地名を重ね合わせた。それが自分では秘めたつもりではないけれど秘めたものになっていると世の人は言うだろう。けれど秘めてはいない、あくまで己の気持ちを率直に伝えている。どうしても伝えずにはいられないから。笹を見ながらまだあの人のことを想う。何があろうと変わらないこの想いのこともまた。


第五十八首   完


                2009・2・24
 
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