幻想交響曲
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第三章
「今度はサバトに出ているんだ、ファウストみたいな」
「ああ、ゲーテの」
「あの世界に行っているんだ」
「それであの悪魔の饗宴に参加しているの」
「そうみたいなんだ」
「変な夢ね」
ここまで聞いてだ、マリーも首を傾げさせた。
そしてだ、こう兄に言ったのだった。
「夢はまとまりがないものだけれど」
「それでもだね」
「ええ、その夢はね」
特にというのだ。
「まとまりがないわね」
「混沌としているね」
「幸せから処刑、そしてね」
「悪魔の宴だよ」
「極彩色って感じね」
「色で表すとそうかな」
「そうした夢を毎日見ているとしたら」
それこそとだ、マリーは兄に言った。
「確かにうなされるわね」
「そう思うね、マリーも」
「変な夢ね」
「覚えている限りではそうだよ」
「何でそんな夢を見るのかしら」
「僕にもわからないよ、最近モーツァルトの曲をよく勉強しているけれど」
しかしというのだ。
「これはね」
「モーツァルトじゃないのね」
「違う世界だよ、レクイエムでもね」
「モーツァルトのね」
「そうした感じじゃないから」
「ええ、あの曲は私も知ってるけれど」
有名な曲だからだ、文学を学んでいるマリーでも聴く位の。
「劇的で怖い感じがしても」
「混沌としたものじゃないね」
「また違うわね」
「ベートーベンでもシューベルトでもリストでもない」
「兄さん色々な音楽を勉強しているけれどね」
大学でも勉強家で知られている、演奏の見事さだけでなくそちらでの評価も高いので周囲からも認められているのだ。
「どの音楽家のものでもないのね」
「僕が学んで演奏してきたね」
「クラシック以外の音楽とか?」
「ジャズとかロックとか」
「そうしたのかしら」
「ジャズでこんな変わった世界の曲はね」
セインは考える顔でまたマリーに言った。
「聴いたことがないよ、ロックでも」
「賛美歌でも」
「賛美歌だったらそれこそ」
「出ないわね」
「最初は熱い想い、舞踏会や農園でだよ」
「ギロチン台、サバトに移る」
「こんな混沌とした音楽なんて」
それこそというのだ。
「果たしてあるかな」
「私はね」
「リヒャルト=シュトラウスの初期の作品でも」
セインは彼のその頃の作品にも言及した。
「違うね、サロメやエレクトラも」
「その夢とは」
「とにかくそれもわからないから」
「私も聞いてわからないわ」
仕草でもだ、マリーはお手上げといった顔になった。
「ちょっとね」
「そうだね、マリーも」
「私はメグレ警部でもジョゼフ=ルールタビーユでもないから」
どちらもフランスを舞台とした推理小説の主人公である。
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