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アバヤ

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第一章

                  アバヤ
 アラブ首長国連邦にあるドバイは二十一世紀になってから何かと話題になるまでの繁栄を見せている。それでだ。
 この街のある場所に代々住んでいるサルサール家も家の商売が成功して羽振りがいい、昔から
格式のある古い家だったが。
 家は新築されちょっとした街の様にさえなっている、それで末娘のサウサンもだ。
 最近はいつも絹の服を着て使用人達に囲まれる様になっていた。サウサンはこのことについて彼女に昔からつけられている執事のルクマーンに豪奢な自室で言った。
「我が家はは昔からそれなりにね」
「はい、裕福であられましたね」
「家族一人に執事がつく位には」
「預言者ムハンマドからの家でありまして」
 ルクマーンは豊かな髭を生やした初老の男だ、中背で痩せていて背筋がしっかりとしている。頭にはターバンがある。
「オスマン朝の頃もそれ以前も有力なスルタンでした」
「この辺りの」
 サウサンは自室のテーブルにコーヒーカップを置き椅子に座っている、テーブルも椅子もスウェーデンの職人に造らせた特注だ。その席に絹の青いドレスを着て座っているのだ。背は一五三位で黒目がちの目は丸く大きく肌は奇麗な褐色だ。唇は小さくピンク色で黒髪は長く伸ばしている。身体つきは幼い感じだが歳はもう十六になっている。
「確かにそうよ、けれど」
「今程は、ですね」
「ここまで豊かじゃなかったのに」
「それもこのドバイがです」
 彼女の家が代々この辺りの一部にいる街がというのだ。
「繁栄してきましたので」
「その影響で」
「我がサルサール家もです」
「ここまで裕福になったのね」
「左様です」
「そのことはわかっているにしても」 
 サウサンは眉を微妙に顰めさせて言った。
「最近特にね」
「我が家の隆盛が、ですね」
「驚く位よ」
「住んでいる場所が栄えますと」
「そこにある家もというのね」
「栄えるものです、これもアッラーの恩恵です」
 ルクマーンはサウサンに微笑みこうも話した。
「全ては」
「そうなのね」
「はい、ただしです」
「アッラーは全てを見ておられるわね」 
 このことについてはだ、サウサンは素直な微笑みで述べた。
「奢る者、怠ける者、悪事を為す者には」
「まさに瞬く間にです」
「恩恵を取り上げる」
「そうされますので」
「我がサルサール家も」
「喜捨と礼拝等を欠かさず」
 贅沢をしてもというのだ。
「ムスリムとして正しい姿を守らねばなりません」
「その通りね」
「勿論それはお嬢様もです」
「わかっているわ、これでもね」
「はい、日々ですね」
「信仰と戒律は守っているつもりよ」
「そして学問も」
 ルクマーンはサウサンに微笑みながらこちらも付け足した。
「アッラーは公平です」
「だから男女共に」
「仕事は違いますが」
 行うそれは違うがというのだ。
「人の努力を見ておられますので」
「だから私も」
「はい、学問にお励み下さい」
「今からもね」
「間もなく家庭教師の方が来られます」
 実は学校から帰ってそれで一息ついていたのだ、コーヒーを飲んで。
「そしてそのうえで」
「学問ね」
「お励み下さい」
「家庭教師も前からいたけれど」
 やはり家が前以上に裕福になってというのだ。
「ダンスや馬術にまで」
「家庭教師がついていますね」
「もう欧州の王族並ね」
「ですが日本の皇室程ではありません」
「日本の皇室は」
 この世界で最も古い国家元首の家の名前が出るとだ、サウサンは真顔になってルクマーンにこう返した。
「こんな贅沢はしていないわね」
「日本は我が国なぞ比較にならない位大国で豊かで」
「あの皇室も」
「資産もです」
「サルサール家なんて」
「おそらくそうですが」
 所有している国宝や芸術品の数が違うのだ、伊達に皇紀によれば二六〇〇年以上の歴史を持っている訳ではない。 
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