ユキアンのネタ倉庫 ハイスクールD×D
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ハイスクールD×D 欲と罪
力が欲しい。そう願った。守れる力が。命以外の全てを投げ打ってでも、力を得られるのならそれでいいと。そして残ったのは、命と、守りたかった者の心の傷跡だった。投げ打ったのは、狂おしいほどまでに求めて得た全て。
周りの大人に頼んで、真実は闇に葬ることにした。あの娘たちに知らせる必要はない。オレを過去の存在にして、新しい立場と役割であの娘たちの傍に。
「ルー君、また兵藤達なんだけどお願いできる」
またあの餓鬼どもか。いい加減大人しくしろと言いたいんだがな。悪魔にもなってフェニックス家との婚約をご破算にしておいてまだ除きなんかをやってるのか。呆れながら立ち上がり、匂いが濃い方向に歩いていく。後ろにはラケットや竹刀で武装した女子生徒が続く。そして体育倉庫のドアの入り口で吠える。
「ここにいるのね、ありがとう。あんた達、覚悟はできてるんでしょうね!!」
「げえっ!?どうしてここが!!」
後ろから聞こえる喧騒を無視してお気に入りの木陰に戻る。オレと言う存在を過去にした今の俺はソーナの使い魔にしてペットの大型犬だ。本来は魔狼なのだが犬と狼を見分けられる一般人などほとんどいない。首輪もしているし、傍にいるには適している本来の姿。この姿が嫌いなわけではなかった。ただ、この姿よりも憧れた姿があった。
遠くから眺めるだけだった悪魔の家族。羨ましかった。同じ姿だったらあの中に入れたのだろうかと。無茶をやって似たような姿を得ることができた。そして、運良く彼女達の輪に入ることもできた。家族というわけではなく半使用人という形でだが、それでもよかった。色々な知識や技術を身につけれたのはおまけで、一緒に笑えるだけでよかった。
それも一つの切欠で壊れてしまった。運を全部使ってしまったかのようなありえない最悪を引き、それから生き残るために全てを投げ打って最悪の結果を少しはマシに戻した。その結果が今だ。
俺はもう、あの娘たちの傍にいる以上の幸福を求めない。だが、あの娘たちのためなら、この幸福すらも投げ打とう。それが身の程を知らぬ願いを叶えてしまった俺への罰だ。
勝手に行動している兵藤と匙を連れ戻すために匂いを追う。ある程度匂いを追った所で光力を感知する。ソーナ達に着いてくるように吠えてから全力で走る。分かりやすいように魔力のマーキングを施しながら走り、聖剣を振り回している神父の腕に喰いつき、骨を噛み砕く。
「っ、てめえ!!」
聖剣を逆の手に持ち替えて振ろうとしてくるのを感じ取り、股下を潜って足首に蹴りを放つ。体制が崩れた所で更に蹴りを当てたのとは逆の足首に噛み付いて骨を砕く。倒れ切った所で足首を放し、喉へと喰いつき、引き千切る。肉はまずいので吐き捨てておく。
そのまま反応がなくなるまで油断なく聖剣を持つ腕を押さえつけておく。完全に反応がなくなったのを確認してから逃げようとしている兵藤と匙に唸り声を上げる。しばらく待っているとソーナ達が追いついてきた。
「これは、ルー、あなたがやったの?」
肯定の声を上げる。弱かったぞ、こいつ。
「さて、匙。どういうことか、全て話してもらいましょうか」
うむ、勝手に行動して主人に迷惑をかけるのは問題だからな。俺も口周りに着いた血を洗い流しておこう。押さえつけている野生が起きると面倒だからな。一度は悪魔に近づいたが、俺の本質は魔狼だ。野生の本能は眠っているだけで、それを起こせばただの畜生だ。十分に気を配る必要がある。
魔術で水球を生み出し、そこに口元を突っ込んで血を落とす。口の中の血も同時に洗い、それが終われば水球を電柱の裏に捨てておく。うむ、これで野生が目覚めることはないな。
背後で兵藤と匙の悲鳴が聞こえるが無視だ無視。神父から聖剣を咥えて奪い取り、回収に訪れている二人のエクソシスト前に置いて差し出す。戸惑いながらも青い髪のエクソシストが聖剣を拾い上げて頭を撫でてきたのでそれを受け入れてからソーナの傍に戻る。
コカビエルが宣戦布告をしてきた。それはいい。予想できたことだ。だが、そのコカビエルから特徴的な匂いを感じ取ってしまった。その瞬間、俺は駆け出した。ソーナの制止を振り切り、学園に急ぐ。隠蔽用の結界をくぐり抜けた先にいたのは、コカビエルと魔獣の中でも最強クラスの魔獣。陸の王者、キングベヒーモス。あの娘達のトラウマの一つ。出くわせば、取り乱して危険だ。だから、先に排除する。
「なんだ、シトリーの飼い犬か。時間すら守れぬ、いや、飼い犬の躾すらできていないとはな」
コカビエルが何かを言っているが気にする余裕はない。時間との勝負だ。あの娘達に見られるわけにはいかない。自分の中の野生と力を叩き起こす。銀色の毛が黒に染まり、体が3周りは大きくなり、体の作りが変化し、力を欲した結果に人の姿を捨てて得た人狼の姿となる。俺の変化に一瞬驚いたキングベヒーモスの一番太い頸動脈を爪で切り裂く。
これだけで死ぬような奴ではないが、余裕はなくなっただろう。短期決戦に持ち込むには退かせるわけにはいかない。気合いを入れ直し、キングベヒーモスの突進を飛び上がって躱し、背中に飛び乗り、爪に魔力を集中させて背中に突き刺して引裂いていく。暴れるキングベヒーモスの尻尾をつかみ、振り回してコカビエルに投げ飛ばす。
キングベヒーモスの巨体に隠れるように俺は跳躍し、コカビエルが躱した方向から飛び出し、頭を噛み砕く。俺の姿を見た者は生かして帰すわけにはいかない。それにキングベヒーモスを倒すためにはドーピングが必要だ。噛み砕いたコカビエルだった血と肉片を喰らい、野生の本能を全開にする。
今の俺はただの畜生だ。だが、畜生だからこその力がある。畜生の本能が力の効率的な扱い方を教えてくれる。その効率的な力に技を組み合わせてキングベヒーモスを相手取る。
巨体というのはそれだけで厄介だ。人狼の最大の武器である牙が必殺となりえない。むしろ隙ができるために使うべきではない。人狼の本能が選ぶ戦術は消耗戦。だが、時間という縛りがある以上それを選べない。真っ向から力づくで殺す!!
魔力を踏み込むための足と右腕、特に爪に集中させる。狙うは心臓の一点のみ。頭は恐ろしく硬い頭がい骨と突進によって鍛えられた皮膚と筋肉が存在する。対して、心臓の周りはある程度鍛えられた筋肉のみ。多少、奥まで狙う必要があるが、頭よりは楽だ。
キングベヒーモスの突進に合わせて、こちらも突っ込み、頭部の角を交わしてスライディングで巨体に潜り込む。あとは、全身を地面から生える一本の槍として心臓を貫く。さらに、強化に回していた魔力を開放して内臓を吹き飛ばす。弛緩して重くなったように感じるキングベヒーモスを投げ捨てる。これでいい、これで最低限は済んだ。あとは、魔狼の姿に、姿に……
気づけば、目の前にはミンチとなったキングベヒーモスの肉片があり、振り返るとあの娘たちが、ソーナとリアスが憎悪の目で俺を見ていた。大量の血を浴びて、理性が飛んでいたのだろう。その理性がソーナとリアスの声で呼び戻された。やってしまった。あの娘達には見られるわけにはいかなかったのに。
俺がオレを捨てなければならなかったあの事件、オレは力を望み、人の姿を捨てて人狼の姿を得た。相手はベヒーモスで、オレは辛くも勝利を得た。そして、あの娘たちは見てしまったのだ。血だらけのオレの服の端切れがぐちゃぐちゃになった肉片の側に落ちているのを。
あの娘たちはそれをやったのが俺だと思い、怒りと憎しみで魔法を魔法撃ってきた。当時のオレはなんとか誤解を解こうとしたが、人の姿を失ってしまったことが分かっただけだった。オレは咆哮に魔力を乗せてあの娘たちを気絶させ、屋敷へと引き返した。そして、オレは死んだことにして俺が産まれた。
その生活ももう終わりだな。キングベヒーモスの死体を振り返り、肉片の一部を拾って食らうと同時に使い魔のパスを切る。これでいいんだ。これで俺も死んだ。これほどまでにあの娘たちを苦しめた俺は、もう傍にいられない。
あの時と同じように咆哮に魔力を乗せて目眩ましを行っている間に逃げる。逃げて逃げて逃げて、魔狼の姿に戻る。楽しかった日々を思い出に、夜の街を駆ける。
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