夜空の武偵
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Ammo08。『最強』の壁
突然、左肩に激痛を感じ、何がなんだか、解らなくなる。なんだ? この痛みは……なんだ?
痛い、痛い……今、撃たれた、のか?
一瞬の出来事でよく解らなかったが。
解ることもある。
弾は貫通していない。
俺の感覚では弾は肩甲骨と脊柱の間を突き抜けるように、入り込み、おそらく心臓付近で停止している。
雷神モードが切れる寸前だったせいか、まだ雷神によって刺激された筋肉が膨張していたせいで、広背筋やら、三角筋とかに弾が挟まれたおかげで貫通するのは免れたのかもしれないな。それが幸か、不幸かはさておき。
『はじめまして……というべきかな?』
俺は前に……これと似たような状況を知っている気がする。
どこでだ? どこで見た? 思い出せ。
確か、そう、確か……あれは……前世で……。
確か……ラノベで、そうだ。原作で。そう、カナ。カナだ!
金次の兄であるカナ(金一)が原作で、とある人物に狙撃された時の状況に似ているんだ。
その人物の名は……。
「シャーロック・ホームズ、……なぜ『今』あらわれた?」
俺は……痛む左肩を抑えながら必死にいつものように、なんともなさそうに質問を口にした。
完全に油断していた。でなければまだ、『不可視の銃弾』を知らないはずのホームズの銃撃ならば俺の反応速度なら。ガンダールヴの速さでなら避けられたはずだ。
糞、蘭豹達はブラドとの戦闘で満身創痍、俺も左肩を撃ち抜かれて普段よりも力が出せない。
……不味いな。
状況は非常にマズイ。
と、そんな焦りを感じていた俺に。
シャーロック・ホームズが質問を質問で返してきた。
『なぜ、僕のことを知っているんだぃ?』
「それは、『推理』したからだよ。貴方のお得意の……推理を、ね」
痛みをこらえ適当な返事を返す。
(実は原作知識で知ってました~。てへっ☆ )
なんて、思いつつ、俺は今の自分の状態と戦力を把握する。おそらく、今の状況では勝ち目はないだろう。
相手は、歴史上……最高にして最強の名探偵。
武偵の祖ともいえる『偉人』なのだから。
そして相手は優れた名探偵でありながら、優れた武人でもあるので今の俺ではまず勝てない相手だ。
例え、万全の状態だろうと、原作知識があろうとも勝てる気はしない。
そのくらいの力量差がある。それが解る。解ってしまう。だけど……。
俺も武偵(見習い)として……一発もらったら一発返してやる!
武偵は義理堅い。一発貰ったら、一発返すもの……だからな。
俺は、腰に差した木刀を抜く。この木刀、刀身に洞爺湖と彫らているが、正式には『星砕き』と呼ばれ、爺ちゃん曰く、どんなに馬鹿力を入れても『折れず、曲がらず』な一品。名刀として次世代に残すべき星空家の至宝。そんな至宝の木刀を俺は構える。
左肩を撃ち抜かれたせいか、感覚が麻痺してきた俺の左手は……ガンダールヴのルーンは弱々しい光を放っている。だが俺は痛む体を引きずりながらシャーロック相手に向かっていった。
左手に持つ木刀をシャーロックの脳天目掛けて振り下ろす。
「やれやれ……そうくることは『推理』できていたよ……?」
バチィ、っとシャーロックは右手と左手の掌を合わせるようにして、刃物を受け止める達人技……真剣白羽取り。
のちにひ孫であるアリアが金次に教える素手で刃を防ぐ技を当たり前にできるかのように平然とおこなった。
流石はシャーロック。
チートの塊のような男だ。
「ちっ……やはり無駄かぁ」
俺は痛みに堪えながら一撃を入れようとしたが、世界最高の頭脳を持つこの男には通じなかった。
だが、何も俺が使う武器は木刀だけじゃないんだぜ?
俺は続けて反対の腰に差していた、日本刀を抜き放つ。
鞘から超高速で抜刀する居合い技『流星群』!
それを使い、シャーロックに斬りかかる!
しかし、『世界最高の頭脳』に、その動きは読まれていた。
バシッ!
さっきと同じように、素手でいとも容易く掴み取られた。
それも今度は片手で。
「……真剣白刃取りの片手版かぁ。このチートめっ! 少しは手加減しやがれ!」
「いきなり斬りかかってきた相手に手加減は必要ないと思うがね」
「ケッ、平然と防ぐチートが何言ってんだ?」
呆れる俺を見てシャーロックは微笑む。
まるで、ヤンチャな子供を見守るかのように。
「……何故、本気を出さない」
シャーロックはそんなことを呟く。
ああ、全てお見通しかよ。
「手の打ちを晒すはずないだろ、特にあんたみたいな危険人物の前で」
「ふむ。なるほど……今の返答で推理できたよ。どうやら、ドーピングは終わったようだね」
ん? シャーロックなら、雷神モードが切れるのも推理できたはずだよな?
「不思議そうな顔をしてるね。おそらく、君はこう思ったはずだ。何故、自分のドーピングが切れるのを僕が見抜けなかったのか、とね……答えは簡単だよ。
いつ切れるのかは推理し難いのだよ。君のその技は」
「あんたにも推理できないものがあるんだな」
「その問いには半分だけ正確と返すよ。僕にも推理し難いことはあるからね。君も含めて君の祖父や父親のようなバグキャラの行動は正確に読むのは非常に困難なのだよ。物理法則を無視した動きをする君の一族のことを推理するのは非常に困難なのだから。だけど、困難なだけで推理できないわけではない」
「だから、君が木刀を振るうのは推理できていたよ」などと笑いながら告げるシャーロック。
そうかよ。なら……この技は推理できるか?
(______不可視の銃撃‼︎)
俺は高速でデザートイーグルを抜いて発砲した。
亜音速の速さで銃弾はシャーロック目掛けて飛ぶ。
距離的にはほとんどゼロ距離だ。必ず当たる。
そう思い、放ったのだが……。
……おいおい、嘘だろ?
銃弾はシャーロックに到達するや否や、弾かれてしまう。
それが防弾製の衣服によって防がれたのなら、驚きはしない。
だが、シャーロックは今、腕を鞭のように振るうことで銃弾を弾いたのだ。
「……ふむ。なるほど、初めて使ってみたのだけどこれはかなりキツイ技だね。肉体的に。
やはり、赤ん坊みたいに柔軟性がないとやるのはキツイな……」
手の甲を出血しながらそんなことを言うシャーロック。
ポタポタ、と血を流しながらなんでそんなに楽しそうに笑えるんだ。理解できん。
っていうか、い、今のは……間違いない。昔、赤ん坊だった頃の俺が無意識にやった鞭のようにしならせた腕で銃弾を弾く技。
それをやりやがった。
手の甲で銃弾を殴るように弾き、軌道を変えたのだ。腕の関節を鞭のようにしならせることで衝撃を殺して。
だが、さすがに無傷というわけにはいかなかったようだな。
「ふむ。どうやら、僕が使うにはまだ足りないみたいだね」
「何が、だ?」
シャーロックに足りないもの?
一般常識か?
「無論、筋肉が……だよ」
お前は俺の祖父か!
脳筋は一人で充分だよ、このヤロー!
「素手で銃弾弾いといて、何言ってんだこの逸般人が⁉︎」
まったく、逸般人は最悪だぜー。
「おや、おかしいな。今の君ならこのくらいできると、そう推理できてるが……」
今すぐその推理止めろ。俺は一般人だから、そんな技できん。
俺はあくまで『普通』の人間なの。
「あんたらと一緒にするな。つうか、少しは自重してくれ」
「よかろう。では、ハンデを付けてあげよう。君が一番強いと思う技で攻めてきたまえ」
「……いいのか?」
「構わないさ。僕にそれが通じると思うなら、全力でかかってきたまえ。
僕はあえて、それを受けよう。ああ、余計な心配はいらないよ。君の全力でかかってきなさい。子供を躾けるのも英国紳士の嗜みだからね」
英国紳士って……そんなんだっけ?
なんか、子供扱いされてるな。実際子供だけどさ。
だが、そんなことを言っていいのか、シャーロック?
言質は取ったぞ?
紳士に二言はないよな?
なら、望み通り……デッカい風穴開けてやる!
「この小惑星……砕けるものなら……砕いてみやがれっ!」
俺はまず、シャーロックから距離を取る為、バックステップで後ろへ跳んだ。そして、日本刀をしまい、バタフライナイフを展開しながら距離を取る。この技はある程度の距離と技を出す為のタメが必要で、日本刀だと攻撃の瞬間邪魔になるからな。
そして、ガンダールヴの力により高速移動でシャーロックに近づきつつ、首を動かし頭を後ろに引いて、ナイフを握りしめた腕も後ろに引いて、シャーロックに体が当たる直前、肩甲骨を前に突き出す動作を行う。
(Δ・ダイナマイト!!!)
この技を出すには3つの動作が必要だ! それはシャーロックの体に触れる寸前に行わなければならない動作。
まずは……後ろに引いていた首を前に振ることによる、頭突き。次に肩甲骨を前に突き出す際に、後ろへ引いていた拳を叩き込む動作。そして、肩甲骨を前に突き出した時に肩でシャーロックの体に触れること。
たったこれだけの動作だが、これを3点同時に、同じタイミングで当てなければいけない。
そうすることで一瞬だが、爆発的な破壊力が生まれるからだ。
少しでも、一箇所でもタイミングがズレれば威力は半減してしまう。
これは某アメフト漫画に出た、相手に突っ込んだ際に体の部位を3点同時に動かし、当てることで撃力を3倍に上げる攻撃方法。
俺はそれをシャーロックに使って突っ込んだ!
隕石のように、超高速でただひたすら真っ直ぐに!
この技に名前を付けるなら……やっぱこれだな。黒き三連星!
さらに、爺ちゃんに習った『余すことなく、全体重を拳に乗せて放つ技』も同時に放つ!
シャーロックのその体に全体重を乗せた、3点同時攻撃が直撃した。
ズドオオオォォォン‼︎
シャーロックの腹に俺の体が衝突し、まるで砲弾が直撃したかのような爆音が鳴り響く。
砂塵を巻き起こしながら勢いよく、シャーロックの体が吹き飛んでいく。
シャーロックの体は城壁を突き破り、そのまま湖に落ちていった。
「……やったか?」
思わずそう、呟いてしまった。
それはフラグだと解っていながら。
だけど、そう呟きたかった。
何故なら俺はもう……限界だったからだ。
雷神モードの欠点というか、後遺症の筋肉痛が始まった影響か、全身に痛みが走っているのもあるが何より。
肩の傷がヤバイ。
肩を撃たれながら大技を放ったせいか、出血がさらに増えたからな。
血を流し過ぎたせいか、頭もクラクラして、悪寒も感じる。
もう、さすがに限界だ。
だから、これで終わりだ。
そう思っていたその時だった。
「いい攻撃だったよ。もう少し速ければ僕はやられていたかもしれないね」
シャーロックの声が真後ろから聞こえてきた。
しまった⁉︎ と思ったがすでに遅く、シャーロックが手に持つスクラマサクスを振り上げるのが視界に入る。
どうやって、防いだんだよ。というか、本当にあんた人間か?
などと思いながらシャーロックがスクラマサクスを振り下ろすのを見つめる。
ああ……やられた。
殴った瞬間、室内なのに砂塵が舞った時点でおかしいとは思ったが……まさかもうあの魔女と接触していたなんて。さっきまでのシャーロックは囮だったのか。
砂人形を作って入れ替わっていたことに気づかなかった。
解っていたはずなのに。知ってたのに……油断していた。
畜生……悔しいな。悔しい気持ちと同時にやはり、という気持ちを感じた。
『最強』の壁は簡単には破れない。
そう告げるかのように、スクラマサクスがゆっくり振り下ろされるのを呆然と見つめることしかできないなんて。
目を瞑って、襲ってくるであろう痛みと衝撃に耐えようとしたが……衝撃も痛みもこなかった。
それどころか。
バシッ、と何かを受け止めたような音が聞こえる。
何が起きたんだ? 恐る恐る閉じていた目を開けると……そこには。
「大丈夫かい。よく頑張ったね、後は任せなさい」
微笑む父さんの姿があった。
えっと……これは幻聴か? 父さんの声が聞こえるなんて。
これは幻覚か? スクラマサクスを二指真剣白刃取りした父さんの姿が見えるなんて……。
もし、幻覚じゃないのなら、一言言いたい。
来るの……遅いよ、と。
そんなことを思い。そして同時に助けに来てくれたことに感謝し、安堵する。
『ヴァンパイア・ストライク』の主力組が突入してきたのが解ったからだ。
さすがにシャーロックでも父さんを含めた主力組にはてこずるだろう。
へへ、ざまぁー見ろー、なんて思っていると。
ついに限界が訪れた。
ああ、結局……シャーロックに一撃入れられなかったな……なんて思ったのを最後に視界が真っ黒になる。
限界を迎え……俺の意識はそこで途切れたのだ。
こうして、短い俺の冒険は終わった。
吸血鬼を捕らえるという目的は果たしたものの、圧倒的な力量差による『敗北』を味わって。
そして、倒れた俺に寄り添う少女達の声を薄れゆく意識の最中に聞きながら……俺は誓うのだった。
『次は負けない』と。
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