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ウルキオラの転生物語 inゼロの使い魔

作者:銭亀
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第6部 贖罪の炎宝石
  第1章 帰省

「旅ってわくわくしますわね!」

シエスタは、そう叫んでウルキオラの腕に大きめの胸を押しつけた。

「くっつくな」

そんな状況でもウルキオラは冷静に答えた。

さて、ここは馬車の中。

小さな座席にウルキオラとシエスタが並んで座っている。

シエスタの格好は草色のワンピースに編み上げのブーツ。

そして小さな麦わら帽子といった、ちょっとしたよそいきの格好である。

黒色清楚のシエスタがそんな格好でいると、とても可愛らしい。

しかも、そんな可愛いシエスタは、清楚な雰囲気をまき散らしてくるくせに妙に大胆なのである。

並んで座れば、腕を絡ませて激しく胸を押し付けてくる。

そこら辺の男ならイチコロである。

胸があたる、とウルキオラが言えば、

「あ、わざとですから」

とまったく屈託のない笑顔で言うのだ。

「ならやめろ」

ウルキオラは無駄だとは思いつつ、形ばかりの抗議をした。

「御者さんなら大丈夫です。あれ、ゴーレムですって」

御者台に腰かけている若い男は、どうやら魔法の力で動くゴーレムであった。

目がガラス玉のような光を放っている。

従ってシエスタはさらに大胆さを加速させた。

ウルキオラの肩に頬をのせて耳に口を近づけ、吐息交じりに声をおくる。

「……こうやって二人っきりになるのなんて、久しぶりですね」

「そうだな」

「いつか聞こうと思ってたんですけど、夏休みの間、ミス・ヴァリエールと何をしていたんですの?」

それは言えない。

アンリエッタに頼まれたお忍びの任務であった。

「極秘任務だ」

「まあ!極秘任務?また、どうして…」

「さあな」

ウルキオラは端的に答えた。

シエスタはそんなウルキオラの態度を見て、勘違いをしてしまった。

「ウルキオラさんは私のことがお嫌いなのですね」

俯きになった。

「なぜそうなる」

「だって、最近ウルキオラさん冷たいんですもの」

「俺はこんなものだ」

ウルキオラは嘘偽りなく答えた。

別にシエスタが嫌いなわけではない。

そもそも、好きとか嫌いとかを理解していないのだ。

ウルキオラにとっては、興味のある人間と興味のない人間が存在する程度である。

しかし、シエスタにとってみればそれがどうにも冷たいと感じてしまうのである。

「嘘ですわ…だって、隣にいるのに、何もしてこないんだもの」

そういうと、シエスタは、ん……、とつぶやき首筋に唇を押し付けてきた。

柔らかいとろけてしまいそうな感触であるが、ウルキオラはなんとも思わなかった。

それどころか、少しうざいと思ってしまった。

シエスタにやめるように言おうとしたその瞬間、

馬車の屋根が吹き飛んだ。

吹き飛んだというより、中に爆薬を仕込まれて粉々に爆発した、といった感じであった。

とにかくウルキオラ達の馬車は屋根付きから、オープントップへ変貌した。

ウルキオラは落ち着き払った様子で後ろを振り返る。

そこには、ウルキオラたちが乗ったものより一回り大きい、二頭立ての立派なブルームスタイルの馬車が走っていた。

その馬車から何かどす黒いオーラが立ち上っているようにウルキオラは感じた。

そして、軽くため息をつく。

おそらく、目的地に達したら、グチグチと小言をいわれるだろう、と思った。

わあわあ!天井がぁ~!とシエスタが絶叫しながら抱き着いてきた。

「シエスタ」

「なな、なんでしょう?」

「離れろ。猛獣が暴れそうだ」

ウルキオラは引きはがす口実ができたと思ったが、それが裏目に出てしまった。

がばっと抱き着いてきて、

「ウルキオラさんが守ってくれますよね?」

と、上目遣いで言ったあと、ウルキオラを押し倒した。

ウルキオラはシエスタの押し倒されながら、

「面倒なことだ」

とつぶやいた。




さて、ウルキオラたちの後ろを走る、そんな立派な馬車の窓からは……。

ルイズが首を突き出して茶色の年代物の杖を構え、呼吸を荒くしてわなわなと震えている。

ウルキオラ達の乗った馬車の屋根は、ルイズの虚無魔法『エクスプロージョン』で吹き飛ばしたのであった。

後ろの窓から、中の様子は丸見えであった。

シエスタとウルキオラが中で抱き合ったり顔を近づけあったり、首筋にキスをしたりしている間、ルイズは馬車の中で震えながら見守っていたのである。

でもってついに、ウルキオラの耳たぶにメイドの唇が及ぶにあたって、怒りが爆発したのである。

ウルキオラにキスなんか許せないのである。

屋根を吹き飛ばしてなお、シエスタが抱き着いていることに気づき、ルイズの目が吊り上がる。

さらに呪文を詠唱しようとすると、足を引っ張られた。

「きゃん!」

と叫んだ後に、ルイズは頬をつねりあげられた。

「いだい!やん!あう!ふにゃ!じゃ!ふぁいだっ!」

あの高慢の塊のようなルイズが、文句も言えずに頬をつねりあげられている。

そんな風にルイズの頬をつねりあげたのは……、見事なブロンドの女性であった。

歳の頃は二十代後半だろうか。

どことなく、顔立ちがルイズに似ていた。

ルイズの気の強い部分を煮詰めて、成長させたらこんな顔になるのではないのか?といったような、割ときつめの美人であった。

「ちびルイズ。私の話は終わってなくてよ?」

「あびぃ~~~~~~、づびばぜん~~~~、あでざばづびばぜん~~~」

頬をつねられたまま、半泣きでルイズが喚く。

ルイズには絶対に頭の上がらない存在が四人いた。

アンリエッタと、両親と、この長姉のエレオノールであった。

ルイズより11歳年上の、このラ・ヴァリエール家の長女は、男勝りの気性と王立魔法研究所『アカデミー』の優秀な研究員として知られていた。

「私の質問に答えずに、きょろきょろとよそ見をするのはどういうわけ?あまつさえ、その使い魔が乗る馬車の屋根を吹き飛ばして……」

「そ、それはその……使い魔とメイドがくっついたりしてるから……」

とすごく言いにくそうにもじもじとしながら、ルイズは姉に告げた。

エレオノールは髪をぶわっと逆巻かせると、ルイズを睨み付ける。

蛇ににらまれたカエルのようにルイズは縮こまった。

「使い魔のすることなんか、放っておきなさい。相変わらず落ち着きのない子ね!あなたはラ・ヴァリエール家の娘なのよ!もっと自覚を持ちなさい!」

「は、はい」

しょぼんとして、ルイズはうなだれた。

「で、でも……、なにも学院のメイドまで連れてこなくても……」

「おちび。いいこと?ラ・ヴァリエール家は、トリステインでも名門中の名門のお家よ。あなただってそれはわかっているでしょう?」

「はい、姉様」

「いくら奇妙な力を使うからと言って、従者があなたの使い魔だけでは示しがつかないでしょう?ルイズ、貴婦人というものはね、どんな時でも身の回りの世話をさせる侍女を最低一人は連れて歩くものよ」

トリスタニアのアカデミーに勤めるエレオノールが、ルイズを連れて帰省するために魔法学院にやってきたのは今朝のことである。

洗濯物の籠を抱えて通りかかったシエスタを捕まえ、「道中の侍女はこの子でいいわ」とつぶやき、その場にいた貴族の教師にうむも言わせずに承諾させ、世話をさせるため連れてきたのである。

そして、ルイズと共に帰省しようとした。

しかし、ルイズをまるで誘拐のごとく連れ去ろうとするエレオノールにウルキオラが黙っているわけもなく、制止の意を表した。

ウルキオラにとっては、どうでもいい人間。

エレオノールにとっては、ただの平民。

お互いが険悪なムードに包まれたのはいうまでもない。

しかし、ウルキオラが霊圧を解放したことにより、畏怖をを覚えたエレオノールは、自身のことと、今の状況を伝えた。

当初、ウルキオラは「そんなもの知ったことではない」と言っていたが、ルイズが一緒に来いというので、仕方なくシエスタと共に、エレオノールが学院の者に無理やり用意させた従者用の馬車に乗り込んだ。

そして、ルイズと共にエレオノールは学院まで乗ってきた自分の馬車に乗り込んだ。

道中の世話といってもほとんどさせることはない。

そんなことよりも、エレオノールはルイズの使い魔であるウルキオラのことが気になって仕方がなかった。




さて、そんなルイズの内心は穏やかではなかった。

この帰省が一筋縄ではいかないものであったからである。

アルビオンへの侵攻作戦が魔法学院に発布されたのは、夏休みが終わって二か月が過ぎたころ……、先月のケンの月のこと。

何十年かぶりに遠征軍が編成されることになったため、王軍は士官不足を喫したのである。

そのため、貴族学生を士官として登用することになった。

一部の教師や、学院長オスマン氏はこれに反対したが、アンリエッタに枢機卿、王軍の将軍たちはこの反対を抑えた。

勉学は戦争が終わってからだ、とまで言い切った。

しかし……、ルイズが実家に「祖国のため、王軍の一員として強き使い魔とともにアルビオン侵攻に加わります」と報告したら大騒ぎになってしまった。

従軍はまかりならぬ。また、使い魔の力など底が知れる。信用ならぬ。と手紙が届き、無視したら、エレオノールがやってきた。

当然、ルイズは機嫌を損ねた。

従軍まかりならぬとは何事であろうか?

今や国中の練兵所や駐屯地では、即席の士官教育を受けている学生たちでいっぱいなのである。

ほとんどの男子学生は戦争に行くことを選んだのである。

さらに、それをウルキオラに愚痴ったら、「わざわざ報告するとは、馬鹿を通り越してゴミだな」と言われてしまったため、更に機嫌が悪くなった。

自分は女子であるが、女王陛下の名誉ある女官である。

しかも今回の侵攻作戦では、ウルキオラを引っ下げて任官するのである(ウルキオラは承諾していない)。

ルイズの『虚無』、そして、ウルキオラの『圧倒的な力』にかける期待が高いことがわかる。

枢機卿であるマザリーニは、ウルキオラの了承の基、アンリエッタから内密であることを条件にウルキオラの話を聴いていた。

つまり、トリステインの女王と枢機卿という二大権威は、自分とウルキオラの力を王軍の切り札と考えているのだ。

トリステイン貴族として、これ以上の名誉はない。

そりゃあ、戦は確かに好きではない。

でも、自分の祖国と姫様のために微力を尽くしたいのだ。

ウルキオラはともかく、『虚無』の力を与えられた自分には、祖国に忠勤を励む義務があるのだ。

祖国への忠義は、名門ラ・ヴァリエール家が誇るべきところではなかったか?

それなのに実家は自分の従軍に断固反対のようであった。

「まったくあなたは勝手なことをして!戦争?あなたがいってどうするの!いいこと?しっかりお母様とお父様に叱ってもらいますからね!」

「で、でも……」

言い返そうとして、ほっぺをつねられる。

エレオノールは昔のように、完全にルイズを子ども扱いであった。

昔そう呼び習わしたように、おちび、と連発する。

「でも?はいでしょ!それに、あなたの使い魔についてもきちんと説明してもらいますからね!」

さすがは姉妹。

いつもルイズがウルキオラに取っているような口調そのものであった。

ルイズはまったく逆らうことができずにいた。

「ふぇ、うぇ、あだ、あねさま、ほっぺあいだだ……。あう……」

と情けない声をあげるのであった。

いつになっても呪文が飛んでこないので、ウルキオラは警戒を緩めた。

どうやら、後ろの馬車の中で、エレオノールとかいう女にしごかれているのだろう。

因果応報という言葉がよく似合う。

ウルキオラにくっついているうちに、楽しくなってきてしまったらしいシエスタは、屋根がないことも忘れて、再び嬉しそうにウルキオラの腕に身体を摺り寄せた。

「ねえねえ、ウルキオラさん」

「何だ?」

「旅行って楽しいですわね!」

「離れろ」

ウルキオラは再度交渉を試みた。

しかし、ウルキオラは裏腹にこれからのことを考えていた。

アンリエッタは戦争を計画している。

トリステイン側からアルビオンへ仕掛けるつもりらしい。

ルイズと共に参加するように言われた。

人間の戦争などに興味はないが、ルイズが参加するのであれば、参加を考えていた。

正直どっちでもよかった。

ウルキオラがそんな風に上の空で考え事をしているのを見て、シエスタが曇った顔になった。

「いやだわ」

「何がだ?」

「ウルキオラさんも、アルビオンに行くんでしょう?」

「ルイズが行けばな」

どうやら、今までのシエスタの明るい態度は、ウルキオラを元気づけようとしての事だったらしい。

まあ、ウルキオラはそこまで思いつめてはいないのだが……。

「わたし、貴族の人たちが嫌いです」

「なぜ?」

「自分たちだけで殺し合いをすればいいのに……。私たち平民も巻き込んで……」

「アンリエッタ曰く、戦争を終わらせるためだと言っていたがな」

アンリエッタの言葉を思い出し、ウルキオラは呟いた。

「終わらせるためだろうが始めるためだろうが、戦は戦です」

「確かにな。だが、話し合いでどうこうなる状況でもないのは事実だ」

シエスタは黙ってしまった。

それについでウルキオラもだんまりを決め込んだ。

この前のタルブの戦は、戦う理由があった。

『元の世界への手がかりがあった、村を守る』という、そんな理由だ。

しかし、今度のアルビオン侵攻には理由がなかった。

俺が戦う理由が見当たらない。

ルイズはアホみたいに張り切っているが、俺は乗り気ではない。

ただ、ルイズが行くのであれば、行くしかないというだけである。

それだけが、ウルキオラを後押ししていた。

「なんでウルキオラさんがい行かなきゃならないんですか?関係ないじゃないですか」

「そうだな」

といい、鼻息を漏らす。

シエスタが、胸に顔を埋めてきた。

「死んじゃいやです……。絶対に、死んじゃいやですからね……」

そんなシエスタに、ウルキオラは答えた。

「俺がアルビオンのカスごときに殺されるとでも?」

「確かに、ウルキオラさんはお強いです。でも、何があるか分かりません…私はただただ心配なの」

シエスタは泣きながら言った。

ウルキオラにしてみれば、泣いている意味が全く分からなかった。

そんなシエスタの様子を見守りながら、ルイズの実家に向かっていることが不意に頭の中へ飛び込んできた、

先ほどあったルイズの姉は、なかなかにルイズにそっくりであった。

言われるまで気が付かなかったが……。

俺を警戒しているようであった。

まあ、エレオノールから見れば、ただの平民が貴族を圧するほどの威圧感を持っていたのだから当たり前ではあるが……。

ルイズ以上にお高くとまった態度であった。

ルイズも成長の果てはああなるのだろうな、と考えた。

なにより、ルイズの様子からも、雲行きが怪しいようであった。

実家の奴らと亀裂が生じているように感じた。

今回は、そんなルイズの実家への帰郷である。

ウルキオラは空を見上げて、「面倒なことだ」と呟いた。




その頃、魔法学院。

キュルケとタバサは、がらんとしてしまったアウストリの広場を歩いていた。

今は休み時間である。

いつもなら生徒たちで賑わっているはずなのだが……。

いるのは女子生徒ばかりであった。

下品に上品に、ぎゃあぎゃあ騒いでいる男子生徒の姿が見えない。

「いやいや、ほんとに戦争って感じねえ」

キュルケは両手を広げて首を振った。

男子生徒のほとんどは、士官不足に悩む王軍へと志願したのである。

ギーシュに、あの臆病者のマリコルヌも志願したというから驚きである。

彼らは今頃トリステイン各地の練兵場で、即席の士官教育を受けている真っ最中だろう。

学院が閑散としてしまうのも無理はない。

もちろんタバサも居残り組である。

表向きはガリアの伯父王に忠誠を誓ったように振る舞うタバサが、他所の国の戦争に首を突っ込むわけもない。

キュルケは祖国の軍に志願したが、女子ということで認められなかった。

生々暴れようと思ったのに……、残念であった。

さて、男性教諭出征したために、授業は半減であった。

暇を持て余した女子生徒たちは、寂しげにかたまり、恋人や友人たちが無事でやっているのか噂しあっている。

ベンチに座って物憂けに肘をついていたモンモランシーの姿を見つけ、キュルケは近づいた。

「あらら、恋人がいなくなって退屈なようね」

モンモランシーはまっすぐ前を見たまま、人事のように呟いた。

「いなくなってせいせいするわ。やきもちしなくていいもの」

「でも、寂しそうじゃない?」

「あのお調子者ってば、臆病なくせに無理しちゃってさ。はーあ、あんなのでもいないとちょっとは寂しいものね」

キュルケはモンモランシーの肩を叩いた。

「ま、始祖ブリミルの降臨祭までには帰ってくるわよ。親愛なるあなたのお国の女王陛下や偉大なる我が国の皇帝陛下は、簡単な勝ち戦だって言ってたじゃない」

『親愛』と『偉大』に皮肉な調子を籠めて、キュルケが呟く。

もとよりゲルマニア貴族は、忠誠心に薄い。

所詮は諸侯が利害で寄り集まってできた国だからだ。

「だといいんだけどね」

モンモランシーはそしてため息。

なんだかそんなモンモランシーを見ていると、キュルケまで切ない気分になってきてしまう。

嫌ねぇ、戦争って本当にいやぁねぇ、といっつも自分が繰り広げている暴れっぷりを棚に上げて、呟いた。




キュルケとタバサはぶらぶらと歩き、火の塔の隣にあるコルベールの研究室前までやってきた。

そこではコルベールが、一生懸命にゼロ戦に取り付いて整備を行っている。

男の教諭はほとんど出征したというのに……、このコルベールと来たらマイペースもいいところである。

戦争などどこ吹く風といった具合に、研究に没頭しているようであった。

「お忙しそうですわね」

キュルケは、そんなコルベールに嫌みの混じった声で言った。

「ん?」とコルベールは顔を上げ、にっこりと笑った。

「おお、ミス・ツエルプストー。実はウルキオラくんにゼロ戦の燃費を向上させてほしいといわれていてね」

「そうですの」

キュルケは不快感を顔に浮かべ、相槌を打った。

「どうしたのかね?ミス……」

「ミスタ。あなたは王軍に志願なさいませんでしたの?」

学院の男たちのほとんどは、戦に赴くというのに……。

「ん?ああ……、戦は嫌いでね」

コルベールはキュルケから顔を背けた。

キュルケは軽蔑の色を顔に浮かべて、鼻を鳴らす。

男らしくない、と思う。

目の前の戦方逃げ出しているようにしか見えない。

どの系統より戦に向く『火』の使い手でありながら、『炎蛇』の二つ名を持ちながら、この教師は戦が嫌いだと言い放つ。

「同じ『火』の使い手として、恥ずかしいですわ』

コルベールはしばらく顔を伏せていたが、そのうちに持ち上げた。

「ミス……、いいかね?日の見せ所は……」

「戦いだけではない、とおっしゃりたいのでしょう?もう聞き飽きましたわ」

「そうだ。使い方次第だ。現にこの『ゼロ戦』というウルキオラ君の世界の……」

「臆病者の戯言にしか聞こえませんわ」

ぷいっと顔をそらし、キュルケはタバサを促すと、歩き去っていく。

コルベールはその背を見守りながら、寂しそうなため息を漏らした。




研究室に戻り、椅子に座る。

コルベールはしばらく考え事をしていたが……、いろんなものが雑多に積み上げられた机の引き出しを、首に下げた鍵を使って開けた。

その引き出しの中には小さな箱があった。

それを取り上げ、ふたを開いた。

炎のように赤く光るルビーの指輪があった。

目を凝らすと、揺らめく炎がルビーの中に見える。

その炎を見ていると、二十年前の出来事がありありと蘇ってくる。

脳裏に映る光景は、未だ色あせることなく鮮やかだった。

その鮮やかに光る炎が……、コルベールを責めさいなむ。

一瞬たりとも、忘れることのなかった光景……。

それからコルベールは、研究室内を見回した。

外観はみすぼらしい掘っ立て小屋だが、ここには彼が先祖伝来の屋敷や財産を売り払って手に入れた、様々な道具や秘薬で溢れている。

それらを眺めながら、コルベールは苦しそうに呟いた。

「破壊だけが火の見せ場ではないのだ……そうだろう?…ウルキオラ君…」
 
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