侮ると怖い
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第八章
「わかったわね」
「わかりました」
こう答えてだ。男はすごすごと引き下がった。どうやら小心な男らしい。
その彼が去ったのを見届けてだ。すぐにだ。ラターナは津田達の方に身体を向けてきた。
そしてそのうえでだ。こう言ってきたのだった。
「ボディーガード有り難うございます。ですが」
「あっ、僕達のこともなんだ」
「ストーカーと同じく」
「気付いてましたよ。最初から」
「そうだったんだ」
「本当に勘が鋭いんだね」
「勘には自信がありますから」
微笑みと共の言葉だった。ストーカーに向けた厳しい顔ではなかった。
そしてその顔でだ。ラターナは二人に言うのだった。
「ですから」
「ううん、凄いね」
「いや本当に」
二人はここで物陰から出て来た。そうしてだ。
ラターナの前にそれぞれの姿をはっきりと出してだ。こう言ったのである。
「しかし今のストーカー男とのやり取りだけれど」
「凄かったね」
「はっきり言わないと駄目ですから」
だからだとだ。ラターナはその微笑みのまま二人に返したのだった。
「こうしたことは」
「けれどはっきり言える娘ってそんなにいないよ」
「そうだよ」
「そうですね。特にメイドはですね」
そのメイドカフェの人間としての言葉も述べるラターナだった。
「そうしたことはあえて言わない仕事ですから」
「けれど君は相手に言ったね」
「はっきりと」
「そうしないと最悪の事態も起こりかねませんし」
つまり殺人事件だ。ストーカーではよくあることだ。
そのこともだ。ラターナはわかっていたのだった。そして言ったのである。
「だからですよ。私は言うんです」
「そうなんだ。それであの彼に言ったことだけれど」
「自分を指名しろって言ったね」
「はい」
まさにその通りだとだ。ラターナも答えてきた。
「そう言いました」
「また随分と気風がいいね」
「そうですよね」
津田に続いてだ。チャーンも言う。
「いや、まるで姉御だよ」
「そこまで言うんだ」
「メイドも覚悟は必要ですから。それに」
「それに?」
「それにっていうと?」
「こう言って指名してもらった方が御主人様もつきますし」
仕事の観点もここにはあった。
「それにストーカーでもなくなりますから」
「つまりいいこと尽くめ」
「そうだっていうんだ」
「はい。下手に拒絶するより」
それよりもだというのだ。
「こうした方がいいんですね」
「ううん、只のメイドじゃないね」
津田はラターナの言葉に彼女の覚悟と考えを見てだ。そうしてだった。
強く頷いてだ。こう言ったのである。
「君はどうやらそれ以上だね」
「はい、けれど皆そうですよ」
「メイドは?」
「女の子は。そしてインドネシア人は」
にこりと笑っての言葉だった。津田にその笑みを向けながら。
「侮れないですよ」
「それはわかっていたつもりだけれどね」
「これまで思われていた以上だったのですね」
「うん、いや侮れないけれど」
このことをわかっていたがだというのだ。
「それ以上にね」
「それ以上に?」
「怖いね。侮るとね」
「そうですよ。侮ると怖いですよ」
実際にそうだと返すラターナだった。そしてだ。
その笑みでだ。津田とチャーンにこうも告げたのだった。
「ではご主人様達」
「あっ、うん」
「それで?」
「これからも是非お帰り下さいませ」
頭を下げてだ。こう言ってきたのだった。
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