英雄伝説~光と闇の軌跡~(碧篇)
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
外伝~”光の剣匠”ヴィクター・S・アルゼイド~前篇
同日――――10:50
~エレボニア帝国・レグラムの町・アルゼイド子爵邸~
エレボニア帝国にある小さな町、レグラムを納める領主にしてエレボニア帝国では”ヴァンダール”家と双璧を為す武門の貴族――――”アルゼイド”家の館では執事が慌てた様子で現領主、ヴィクター・S・アルゼイドの執務室に入って来た。
「だ、旦那様!大変です!!」
「……どうした、クラウス。まさか”貴族派”の連中がついに民達に手を出したのか?」
慌てた様子で入って来た執事――――クラウスを見たアルゼイド子爵は厳しい表情で尋ねた。
「そ、それが………エベル湖にメンフィル帝国軍の艦隊並びに飛行艇の軍団が現れました………!」
「なんだと!?もうここまで侵攻して来たのか!?ここまで来たという事はハイアームズ侯爵家は………」
クラウスの報告を聞いたアルゼイド子爵を立ち上がって声を上げた後厳しい表情をし
「………対岸のサザーランド州は完全にメンフィルの手によって落ちたかと………」
クラウスは重々しい様子を纏って呟いた。
「……………ちなみに誰が軍を率いているかわかるか?」
「は、はい!艦隊の中には”漆黒の獅子”と”漆黒の薔薇”の紋章が刻み込まれてある旗が掲げられている船があったそうです!」
「……”姫君の中の姫君”を守護する男性と女性、それぞれの性別の騎士達のみで構成された騎士団――――結社の元”執行者”にして”姫君の中の姫君”の親衛隊副隊長”黒獅子”レオン=ハルト少佐率いる”黒獅子騎士団”と同じく”姫君の中の姫君”の親衛隊長の”蒼黒の薔薇”ツーヤ・ルクセンベール卿率いる”黒薔薇騎士団”がいるという事はメンフィル軍の将は恐らく”姫君の中の姫君”か………争いを嫌うと言われているかの姫が将ならまだ話し合いの余地はあるかもしれん。………何とか話し合いの場を設ける事ができればいいのだが………客室で待機しているトヴァル殿に知らせてくれ。遊撃士なら中立の立場で話し合いの場で応じてくれる可能性がまだある。」
「かしこまりました!!」
アルゼイド子爵の指示に答えたクラウスは部屋を出て行った。
「…………さて。話し合いの場を設けるにしても一番厄介なのは”貴族派”の連中が見張りとして残して行った6体の”機甲兵”どもが問題だな……………連中の目をどうかいくぐるべきか………無力化するにしても私一人ではクラウスがいたとしても3体が限度だしな………門下生達には荷が重い相手だしな……」
クラウスが部屋を出て行った後アルゼイド子爵は考え込んでいた。その時クラウスに連れられた遊撃士トヴァルが部屋に入って来た。
「話はクラウスさんから聞きました!大変な事になっちまったようですね………!」
「……ああ。トヴァル殿。中立の立場である貴方から話し合いの場を設けられないか取り計らってもらえないだろうか。」
厳しい表情をしているトヴァルの話にアルゼイド子爵は頷いた後尋ね
「……それなんですが………申し訳ありません。本部からはメンフィル、クロスベルの連合によるエレボニア帝国並びにカルバード共和国の侵攻について一切口を出さず、仲裁もするなとの命令が来ておりまして………遊撃士である俺では力にはなれません。例え本部の命令を無視して向かった所でも本部とその契約がされていますので相手にされないと思います。」
尋ねられたトヴァルは悔しそうな表情で答えた。
「なっ!?遊撃士協会がエレボニアとカルバードを見捨てたのですか……!?」
トヴァルの答えを聞いたクラウスは信じられない表情で声を上げ
「………何故そうなったのか理由を教えてもらえないだろうか?」
アルゼイド子爵は真剣な表情で尋ねた。
「はい………どうやら遊撃士協会はエレボニア帝国軍の手によって撤退したエレボニア帝国領地内の各支部の復活をメンフィル帝国と”クロスベル帝国”に持ちかけられ、その条件と引き換えに今回の件を引き受けたようです………」
「そんな………」
「……………つまりは謀略によって遊撃士協会を追い出したエレボニア帝国自身の身から出た錆ということか……………」
重々しい様子を纏って答えたトヴァルの話を聞いたクラウスは表情を青褪めさせ、アルゼイド子爵は重々しい様子を纏って呟いた。するとその時
「失礼します!子爵、大変です!!」
アルゼイド子爵が教えている武術――――”アルゼイド流”を学ぶ門下生の一人が慌てた様子で部屋に入って来た。
「今度は何だ?まさかメンフィル軍がもう攻撃を開始したのか?」
慌てた様子で入って来た門下生を見たアルゼイド子爵は真剣な表情で尋ね
「そ、それが………出入り付近で見張っていた機甲兵どもがたった一人の女性騎士によって殲滅されました!!」
「なっ!?」
「あ、ありえねえ………あんな化物をたった一人で殲滅だと……!?」
「………その女性の騎士とはどのような特徴なのだ?」
門下生の説明を聞いたクラウスは声を上げ、トヴァルは信じられない表情をし、アルゼイド子爵は真剣な表情で尋ねた。するとその時
「――――それは私ですよ。」
なんとリアンヌが転移の光と共に部屋に現れた!
「何奴!?」
リアンヌを見たクラウスは身構え
「き、騎士甲冑だと……!?まさかさっき機甲兵を殲滅した女性騎士ってのは……!」
トヴァルは驚き
「!!!ま、まさか貴女は………”槍の聖女”リアンヌ・サンドロット卿なのですか!?」
アルゼイド子爵は目を見開いた後信じられない表情で声を上げた。
「なっ!?」
「た、確かに町にある石像と瓜二つですな……」
アルゼイド子爵の言葉を聞いた門下生は声を上げ、クラウスは信じられない表情でリアンヌを見つめ
「”槍の聖女”だと!?何でそんな大昔の人間が生きているんだ!?」
トヴァルは声を上げて厳しい表情でリアンヌを見つめた。
「……………今はそのような些細な事を気にしている時ではありません。――――改めて名乗りましょう。我が名はリアンヌ・ルーハンス・サンドロット。新たなる主――――リウイ・マーシルンとイリーナ・マーシルンの刃にして盾!此度はメンフィル軍―――プリネ姫の使者として尋ねさせてもらいましたよ、”光の剣匠”。」
「!!」
「や、”槍の聖女”がメンフィル軍に………!?」
「そ、そんな!?”獅子戦役”の英雄である貴女が一体どうして……!」
そしてリアンヌが名乗り出るアルゼイド子爵は目を見開き、クラウスや門下生は信じられない表情をした。
「――――決まっています。全ては内戦によって混迷に満ちた地で権力争いに巻き込まれ、何の罪もない”民”が犠牲になっているこのエレボニアを平和へと導く為………そして混迷に満ちた西ゼムリア大陸に”民”に平和を訪れさせる為に二大国をクロスベルと共に滅ぼす”覇道”を行くリウイ陛下とどのような国の民であろうと平等に接する心を持つイリーナ皇妃の考えに賛同し………お二人の槍となっただけの事。………かつてドライケルスの槍となったのは彼もまた”民”の為に立ち上がったからです。この身が”裏切者”と言われようと”民”が平和に暮らしていける為なら、どう呼ばれても構いません。」
「……つまり今のエレボニアでは”民”は平和に暮らして行けないからこそ”エレボニア”という国を滅ぼし………その後のメンフィルとクロスベルという新たな”秩序”の元でなら”民”は平和に暮らして行けると貴女は判断されたのか?」
リアンヌの説明を聞いたアルゼイド子爵は重々しい様子を纏って尋ねた。
「逆に尋ねますが権力争いの結果………内戦へと発展し、今も民達が恐怖で怯えているエレボニアが違うと言い切れるのですか?」
「そ、それは………」
「………………………」
目を細めて言ったリアンヌの言葉を聞いたクラウスは口ごもり、トヴァルは目を伏せて黙り込んだ。
「……………………………それでご用件は一体何であろうか?プリネ姫の使者と先程仰りましたが。」
一方重々しい様子を纏って黙り込んでいたアルゼイド子爵は気を取り直して尋ねた。
「―――プリネ姫は本来は争いを嫌う心優しい姫君…………”貴族派”と”革命派”………どちらにも属していない貴方ならば互いの兵達の血を流さずに、貴方に”協力”してもらえると判断し、この地と縁深い私が使者として参ったのです。現に”貴族派”の中でも穏健派と思われるハイアームズ侯爵家は勝ち目がないと判断したのか、戦闘の最中に白旗を掲げて我々に降伏しましたので。」
「……………プリネ姫がどのような事をお望みになられているのか具体的な内容を今この場ではっきりと教えて頂きたい。」
リアンヌの説明を聞いたアルゼイド子爵は真剣な表情でリアンヌを見つめて言った。
「――――いいでしょう。こちらに具体的な内容が書かれてあります。」
アルゼイド子爵の言葉に頷いたリアンヌは懐から一枚の紙を出して近くにいるトヴァルに渡し、トヴァルはアルゼイド子爵に紙を渡して内容を読んだ。その内容を要約すると”アルゼイド子爵家が今後メンフィル帝国に所属するのならば町に侵攻せず、またレグラムの町の領主はそのままアルゼイド子爵家に任せ………戦争が終わるまではメンフィル軍の一部隊を町の防衛にあて、”貴族派”、”革命派”の襲撃に備える事。さらにアルゼイド子爵自身が忠誠の証として戦争が終わるまではプリネ達―――――メンフィル軍に従軍し、共に戦う事。”だった。
「なっ!?そ、それは………!」
「言い方は優しいが簡単に言えば降伏勧告じゃねえか……!」
アルゼイド子爵が紙に書かれてある内容を読み終えるとクラウスは驚いた後信じられない表情をし、トヴァルは厳しい表情で声を上げ
「……………………………今ならシュバルツァー男爵が無血開城した気持ちがわかるな……………」
一方紙の内容を読み終えたアルゼイド子爵は重々しい様子を纏って呟いた。
「だ、旦那様!?」
「まさか子爵ほどの武人が戦いもせずにメンフィルに降伏するのですか!?」
「…………………………」
アルゼイド子爵が呟いた言葉を聞いたクラウスや門下生は信じられない表情で声を上げてアルゼイド子爵を見つめ、トヴァルは目を伏せて黙り込んだ。
「ならばお前達はどう戦うというのだ?精鋭揃いのメンフィル兵達や達人だらけのプリネ姫達に加えて”槍の聖女”も加わったメンフィル軍に僅かな手勢しかいなく………援軍も呼べない今の状況で我がアルゼイド家に万が一でも勝ち目があると?それに戦いが起これば町に住む民達も巻き込まれる恐れがある。戦いになれば我等は蹂躙されるだけだ。」
「そ、それは……………」
「旦那様……………」
「…………………」
そして悔しそうな表情をしたアルゼイド子爵に尋ねられた門下生は口ごもり、クラウスは辛そうな表情をし、トヴァルは目を伏せて黙り込んでいたが
「………遊撃士である俺は本来この場にいるのは相応しくないが………どうしても一つだけ尋ねたい事がある。」
決意の表情になってリアンヌを見つめて尋ねた。
「どうぞ。本来でしたら中立の立場である遊撃士(貴方)にも尋ねる資格はあります。」
「………先程の条件の中にメンフィル軍が駐留する事が書いてあったが………メンフィル兵達が市民達に危害を加えず、略奪などを一切しない事を保障できるのか?」
「ええ。プリネ姫より兵達に民に絶対に危害を加えない事や略奪をしない事が厳命されています。実際先程制圧した地域――サザーランド州やここに来るまでに制圧した町でも民は”貴族派”の抵抗によって巻き込まれた民達を除けば被害は出ておりませんし、被害を受けた民達に関しても現在メンフィル軍が治療を施しています。それに既に遊撃士協会がサザーランド州を含めた我が国が制圧した地域の支部の復活を手配し、遊撃士達が各地に向かい、先程到着して状況を調べているとの事です。後で確認してはいかがですか?―――こちらが各地の遊撃士達の連絡先です。遊撃士の貴方にも後で事情を話し、渡そうと思っていたので手間が省けました。」
「……………そうさせてもらおう。」
リアンヌの答えを聞いた後、リアンヌが渡した紙を見て懐に収めた。
「それで……………答えを聞かせてもらいましょうか?」
「…………………皇帝陛下や”カレイジャス”の件で私を艦長に任命して頂いたオリヴァルド殿下には誠に申し訳ないが、これより我がアルゼイド家はメンフィル帝国に降らせてもらおう。」
リアンヌに見つめられたアルゼイド子爵は重々しい様子を纏って答え
「旦那様………」
「子爵…………」
「…………………」
アルゼイド子爵の答えを聞いたクラウスや門下生は辛そうな表情をし、トヴァルは複雑そうな表情で黙り込んだ。
「―――ですが。かつてエレボニア帝国に忠誠を誓った身としてエレボニア帝国を滅ぼす協力をするのは”騎士”として耐えがたい事。許されるのならば一つだけ頼みがあります。」
「何でしょうか?」
「私と手合わせをして頂きたい。貴女が本物の”槍の聖女”かどうかを今この場でかつて貴女と共にかけた我が先祖が扱った宝剣――――”ガランシャール”で確かめたい。貴女が真の”槍の聖女”ならばかつて先祖が貴女と戦場を駆けたように、私も貴女と共に戦場を共にさせてもらおう。」
リアンヌに見つめられたアルゼイド子爵は真剣な表情でリアンヌを見つめて呟き
「――――いいでしょう。音に聞こえし”光の剣匠”とは機会があれば手合わせをしたいと思っていた所です。」
アルゼイド子爵の言葉を聞いたリアンヌは静かな笑みを浮かべて答えた。その後アルゼイド子爵達は手合わせをする為に練武場に移動した。
~アルゼイド流・練武場~
「――――では、クラウス。号令を頼む。」
クラウスから”宝剣ガランシャール”を受け取ったアルゼイド子爵はクラウスに視線を向け
「かしこまりました……!ご武運を……!」
クラウスは頭を下げた後真ん中の位置に移動した。
「――――真の”槍の聖女”の力、見せて頂こう……!」
そしてアルゼイド子爵は膨大な闘気を全身に纏ってリアンヌに剣を向け
「リウイ・マーシルンとイリーナ・マーシルンの矛にして盾、”槍”のリアンヌ・ルーハンス・サンドロット………陛下達の望みに従い、ここに矛とならん。」
リアンヌも槍を構えて膨大な闘気を全身を纏って静かな口調で呟き
「――――”アルゼイド流”筆頭伝承者、ヴィクター・S・アルゼイド。この剣にて真なる”槍の聖女”であるかを確かめん。」
アルゼイド子爵―――ヴィクターは名乗り上げた。すると2人の闘気によって周囲は震え始めた!
「す、凄すぎる……!」
「あの女性………マジで本物の”槍の聖女”なんじゃないか……!?」
その様子に門下生達は信じられない表情をし
(………下手をしたらアインクラス……いや、奴をも超えているんじゃねえか………?)
トヴァルは厳しい表情でリアンヌを見つめた。
「「いざ――――尋常に勝負!」」
そして二人が叫んだその時
「始めっ!!」
クラウスの号令も同時にかかり、二人は戦闘を開始した!
今ここに!”槍の聖女”と”光の剣匠”の一騎打ちが始まった………!
ページ上へ戻る